スマートフォン版サイト

DENTAL MAGAZINE デンタルマガジン

歯科医院経営講座 -21世紀の歯科医院経営-

第8回 (121号)
経営方針・理念の再構築を
デンタル・マネジメント・コンサルティング 稲岡 勲/門田 亮

Download (PDF, 271KB)

58-121-ある先生から聞いた話だが、講演で参加した先生方にラバーダムを装着して診療をする先生の割合をたずねたところ、約2割の先生が手を上げたという。その一方で、自分が治療してもらうときにラバーダムを装着して欲しいかどうかを訪ねると、実に9割の先生がそれを希望したという。感染予防の面からもラバーダムについて必要と感じていながらも、実際の臨床現場において対応ができずにいる実態が垣間見える話であった。ラバーダムに限った話ではないが、インターネットの普及による情報収集の容易さにより、歯科医院における診療情報が広まることや、また、歯科医院では実際にどのようなことが行われているのかという情報への欲求の高まりに対応するためにも、診療体制について今一度見直しをしておく必要があるのではないか。歯科医師と患者の意識の違い1月31日に中央社会保険医療協議会が、平成18年度診療報酬改定の結果の検証についてと題し、歯科診療における文書提供に対する患者意識調査の結果概要(速報)を発表している。調査対象の患者は、ある健康保険組合での歯科医院を受診した被保険者本人5,000人を対象としたものであるという。調査は、患者満足度・理解度の変化を、施設側の認識すなわち歯科医師の立場から捉えたものと、一方患者側の意識調査として、文書提供の満足度やわかりやすさはどうだったかという患者自身の意見を集めて集計したものである。まず、歯科医師の立場から見た患者の反応という調査の中で、文書提供を行ったことで患者の治療に対する満足度および、理解度がどの程度向上したかという内容がある。「満足度が向上した」「満足度は少し向上した」とする回答が9.7%、また「理解度は向上した」「理解度は少し向上した」とする回答は16.2%であり、どちらも7割近くは変わらないという回答を行っている。一方で、患者自身はどう思っているのかという患者調査の結果を見ると、文書についての満足度では「大変満足している」「満足している」合わせて69.7%、理解度については「大変わかりやすかった」「わかりやすかった」とする回答が85.5%と非常に高い比率となっている。そして今後も文書をもらいたいかどうかについての意識については、「2回目からは大きな変化時でよい」「もっと簡単でわかりやすく」といった要望もあるが、今後ももらいたいとする意見が81.2%もの高い比率であらわれている。患者調査は郵送回答によるものであり、有効回答数が2,200件、そのうちの約4割において文書提供があったとすることから、上記比率がすべての患者に当てはまるわけではないとはいえ、しかしそれでも回答した多くの患者が、情報提供について大きな意味を感じているといえるのではないか。調査は上記以外にも、「保険医療機関等における医療費の内容が分かる明細書の発行状況調査」等を行っており、ここで示される結果を加味しながら次回の診療報酬が協議されるであろう。患者調査においては総じて高い満足度を得られる形となっていることから、ある一定の結果が出せたと評価されるとすると、文書提供等は今までより積極的に行うよう方向付けされる可能性もあるのではないか。他分野との新たな連携の必要性歯科の取り組みが成果を上げているという視点から、厚生労働省医政局歯科保健課がまとめた「今後の歯科保健医療と歯科医師の資質向上に関する検討会の中間報告」が、平成18年12月に出されている。その中では、歯科疾患の予防と歯の保存治療への取り組みに対して成果が出ていることが述べられ、今後はセルフケアとプロフェッショナルケアを基本にして行政や学校、地域活動等との連携とともに十分な情報提供を求めている。また、食育、育児支援、生活習慣病予防、介護予防等の活動と連携した形での展開も求められている。21世紀の歯科医院経営~経営方針・理念の再構築を~デンタル・マネジメント・コンサルティング稲岡 勲/門田 亮歯科と関わる他分野との連携を促しながら歯科の新たな役割を見出そうとするところに、将来歯科が保険から外れる可能性を示唆するものなのか、あるいは歯科保険の広がりを期待できるものなのかは今の段階ではわからない。したがって臨床の現場レベルで考えれば、今後の行政の動きに注目しながら、保険にすべて頼らなくても済む経営体質を今から作り始めることが課題となる。思いを伝えることが信頼につながるある歯科医院が行っていることであるが、患者さんへの治療方法を説明する際に、ごくごく簡単な症例を除いてできるだけ複数の処置方法を患者さんに提案するという。たとえば、抜髄をした歯が再び虫歯となった場合など、一つは、保険診療の範囲内でもっとも簡単に、そして患者さんの負担もできるだけ少なくて済む方法を提示する。ただし、この場合には最終的に今ある歯を抜かなければならないことも告げることになる。そして二つ目には歯を残す方法を取りながらも、その中で最低限可能な処置方法として提案するもの。患者負担が重くならないようにするためには、歯を残すことを第一に考えると、そのための最低限度の方法しかとることができない。そして三つ目には費用と時間は多少かかるけれども、歯を残しながらそれがしっかりと長持ちするような処置を施す方法。このように複数の方法を提示するということは、患者さんへ説明する時間がかかることに加え、先生自身も大きな労力を要するものである。しかしながら、こうした患者さんへの働きかけを続けるのも、5年10年経過したあとに患者さんにどうなっていて欲しいのか、どのような生活を送って欲しいのかといった先生の考え方が支えになっているようである。先生の考え方が伝わることで、多くの患者さんは自分の歯から健康を意識するようになり、絶大な信頼を寄せることにつながる。また、自分の歯はもう抜いてしまわないとダメかもしれないと思っていたところに、まだ残すことができるという可能性を知ることで大きな喜びにつながる。結果的には多少費用と時間はかかっても、そのときに採りうる最良の治療方法でお願いしたいと申し出る患者さんが多いという。基本となる方針・理念に集中する一般の会社でも言えることだが、売上の増加を目指して業種を拡大するケースがある。しかし、拡大する際に基幹となる事業に関連したものから派生したケースだと、その後の展開もうまくいく場合が多いのだが、売上の拡大のみを目指して一貫性を持たないままに業容を拡大すると、かえって失敗してしまうケースがある。いわば迷いながら新たな分野に挑戦するという場合であるが、こういうときはうまくいかないことが多い。そのような場合、本来持っていた幹となる事業に選択・集中し、進むべき方向をしっかりと定めなければならない。一概に歯科医院に当てはめることはできないと思うが、しかし、患者数が減り、収入が減少してきた場合に、今後に向けた何の方針も持たずにあれもこれもと手を広げていくことは避けるべきではないか。自費の好調な先生の間ではインプラントが盛んに行われている。スタッフとともに楽しい雰囲気を作って歯周・予防のメンテナンスを中心とした歯科医院作りに成功している歯科医院もある。あるいは、専門分野を強化して矯正治療に力を入れて患者獲得に成功している歯科医院もある。これらうまくいって華やかに見える歯科医院を参考にして、自医院に取り入れられることを積極的に行うことは必要であるが、すべてを同時に行っていくことはできない。とすれば、自医院はどの分野から改革を始めていくのか、将来どのような歯科医院にしたいと思って新たな技術を取り入れようとするのか、そうした基本となる経営方針・理念といったものを改めて見直すべきではないだろうか。59どういった方針を取るかチェアをたくさん設置し、スタッフを何人も雇い、診療収入も大変大きな歯科医院がすべて成功しているのかといえば、実際はそうした院長先生でも悩みは尽きないものである。大きな歯科医院を経営する院長に話を聞くと、どの先生も共通して抱えておられる悩みは大所帯のスタッフをどのように活用していくかということである。ドクターが5名6名と増えてくると、当然歯科衛生士や歯科助手、受付・事務担当者の人数は増加し、さらに技工部門を院内に設け歯科技工士を雇用しているところでは、ますますスタッフ数は増えてくる。そうすると、スタッフ総勢20名~25名を院長一人で完全に管理しようとするとどうしても無理が生じてしまう。規模が大きいだけに、院長が期待するとおりの働きをするスタッフばかりではないし、勤務体系や勤務時間、報酬体系を少し変更することによっても、スタッフからの不満や意見というものが噴出してくるものである。思うままにスタッフを活用できず悩んでいるのである。一方で、歯科医師は院長一人か勤務医を一人採用して二人体制を敷き、歯科衛生士を2名、歯科助手と受付事務等を合わせて2~3名の合計5~7人規模の比較的小規模で診療を行っているところでは、院長一人で管理することは比較的可能かもしれない。もちろん少人数であるがゆえに、スタッフが退職するというときの影響の大きさ、人間関係のこじれからくる精神的なストレスの大きさは、また別の形で生じてくるものである。しかし、歯科医院は治療の正確な技術を患者さんに提供するという視点に立てば、院長自身が技術レベルの向上に向けて日々研究を重ねていくことが、直接その歯科医院の技術レベル向上につながることであるし、技術に対する患者の評価というものは院長一人に向けられるものである。それが勤務歯科医師を5人も6人も抱えるような大規模の歯科医院では、歯科医院の根幹となる技術水準をどう維持するかということがとても大きな問題として生じてくるのである。総勢20~25名の大規模歯科医院を率いる院長先生が、ふとしたときに落ち着いた環境で歯科治療を行うことを想像することは、人としての自然な感情であると思うし、また、もっともっと規模を大きくしていきたいと願う先生が、患者さんが増えたこと、収入が増えることに対して一喜一憂することもまた、人の気持として自然なことであると思う。そうした振り返りや、時には立ち止まって現在の状況を再確認することが、また新たな意欲を掻き立てる源にもなるし、「やはり自分はこの方針を貫いていきたい」という自分の中にある強い意思を再発見することにもなるのである。規模の大小に関わらず、最終的には、歯科医院は患者さんとの信頼関係をどれだけ強くすることができるか、歯科医療という媒介によって何を提供しようとするのかという強い信念こそが、厳しい経営環境を生き残るための最大のポイントになるのではないか。有名な寓話に、教会の建設現場で働く石切り職人の話がある。ある旅人が、その建設現場を通りかかった際に石切り職人にあなたはそこで何をしているのかと聞いた。すると、職人のうちの一人は「この腹立たしい石を切るために、ずっと悪戦苦闘しているのだ」ととても不愉快そうに答えたという。しかしもう一人の職人は「ここに住む多くの人たちが心から安らげるような、そんな素晴らしい教会を造っているのですよ」と答えたという。同じ教会を建設するという仕事に携わりながら、それぞれが仕事の先に何を見ているかによって働き方が大きく変わることを伝えているものである。たとえ保険制度が今よりもますます厳しくなったとしても、患者さんとの強固な関係が構築できていれば、経営の根幹が揺らぐことはないと思う。先の政策が不透明な今こそ、明確な診療方針を立てるべきときである。60