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第9回 (122号)

隙のない経営体質づくり

デンタル・マネジメント・コンサルティング 稲岡 勲/門田 亮

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THE DENTAL BUSINESS MANAGEMENT

歯科医院経営講座122

21世紀の歯科医院経営~隙のない経営体質づくり~

デンタル・マネジメント・コンサルティング
稲岡 勲/門田 亮

新聞紙上やTV報道において、上場企業の業績の好調さがクローズアップされることが多い中で、安全管理の不備の問題や、保険金の不払い問題といった業界全体のしくみを揺るがすような問題が頻繁に起こっている。
歯科においても保険の不正請求はもってのほかとはいえ、いまだに不正請求がもとで保険医療機関の指定および保険医登録の取り消しが報道される。政府が進めてきた領収証の発行義務付けやレセプトの開示によって、患者の目が厳しくなっているのは確かであるが、歯科医院経営を永続的に行っていく上で、コンプライアンス(法令遵守)を視野に入れながら経営を進めていくことは、今後無視できない問題ではないか。

コンプライアンス(法令遵守)

そこでまず、コンプライアンスという問題を考えてみたいが、これは資格の問題や業務範囲に関することが問題となって苦情が起こるケースがある。
よく耳にするのが、女性スタッフが歯を削ったことに対し、そのことが違法だといって騒いでくるものである。ただ、これは一方的な内容の場合が多く、その女性スタッフがどのような資格を持っていたのか、また具体的な業務範囲を確認しないままクレームに発展する場合が多く、結局はうやむやになることが多いようだが、これに似たようなケースは時々聞かれるようになってきたように思う。
ある歯科医院のことだが、補綴を中心に行っている診療所で、歯科衛生士がその医院には二人いた。そこでは、ドクターは院長一人で、患者は一日に40~50人ほどくる。
そこで、院長がインレーのセットをやっていたのでは効率が非常に悪くなるということで、その作業を衛生士にやってもらっていた。本来、厳密に言えば、その業務は違反になる。しかしセットをするにあたって様子を見るにとどめており、最終的には院長が調整して装着も院長が行っていた。
ところが、その様子を見る段階において、その日に限って患者の歯をがりっと欠けさせてしまった。そうすると、その患者はどうしてそうなったのかと聞いてくると同時に、歯科医師の資格の有無を聞いてきた。もちろん資格はないため、それは違反行為なのではないかと畳み掛けてきた。
院長も、それはセットするにあたって様子をみていただけであり、最終的な調整および装着は院長がする旨を説明すればよかったが、その勢いに負けて問われた内容のことを認めてしまった。
いったんは収まったと思われたが、数日して、県の医務課から歯科医院に電話がかかってきた。医務課は形ばかりの調査をして帰り、医務課の方から患者さんと厚生労働省の本省の方とそれぞれに報告をして、それで収まったと一安心をしていた。すると、まだそれでも収まらなかったのか、今度は精神的・肉体的にも苦痛を与えられたから、金銭的な補償をしろといって裁判にかけてきたという。最後には警察にも駆け込み、傷害罪だといって騒ぐ始末だったという。
これは大変稀なケースであると思うが、中にはこういった患者もいて、大きな問題に発展してしまうことがある。こちらに落ち度がなければ、毅然とした態度を取ってさえいれば何も騒ぎ立てられることはなかったのだが、結局、法令順守すなわちコンプライアンスには十分に注意をしておかないとこういったことになる。
法律をしっかりと守った上での経営を行っていかないと、これからの歯科医院経営は成り立っていかないということではないか。

患者のクレームの先にあるもの

このように、法的な問題を取り上げて起こるトラブルのほかに、突発的にクレームを投げつけてくる患者も存在する。スタッフの電話対応が悪く怒鳴り込んでくる患者、自分が思っていたような治療結果にならず、それが不満だといって治療代の返還を求めてくる患者、治療をしてもらった歯がいつまでも痛くて治りが悪い、技術的に何か問題があるのではないかと不信感をぶつけてくる患者など、いつ、どこで不満が爆発し、トラブルに発展するか分からないものである。
中には、理屈から言えば明らかにおかしく、理不尽なことばかりを言ってくる患者もいるが、いずれにしても、そうしたトラブルが生じたときには、まず患者の話に耳を傾けることである。それも、患者の言いたいことが終わるまで、一切こちらから異論を挟まず徹底して聞き続けること、そうすることで問題が解決するケースが多い。
このような患者は歯科医院に何を求めているのだろうか。患者にとっては、医学的なことに関して専門的な知識がないわけであるから、治療技術の良し悪しについて判断できるものではない。したがって、患者は技術が悪かったことについてクレームを言ってくるのではなく、自分が歯科医院に大切にしてもらえなかったと感じたことに文句を言ってくるのである。
患者は、自分を大切に扱ってくれているかどうかが大切なのであり、先生から見ると100人の患者の中の一人であっても、患者からすれば自分対先生あるいは、自分対スタッフという1対1の関係でしかない。そういった大切にして欲しいという気持が満たされなかったときに、クレームとして表れてくるのである。

患者の話を聞く技術

前回の121号において、患者への治療説明について複数の方法を提示することをご提案申し上げた。しかし、さらに一歩踏み込んで患者とコミュニケーションをとろうとすれば、先生方の治療説明を聞いて患者がどのように思っているのかを聞くことが必要になる。
患者はよく先生のことを見ており、どういった考えで話をしているのかといって一生懸命に先生の話に耳を傾ける。そうしたときに、先生の方は一通りの説明が終わったからといって、ぷつんと会話を途切れさせてしまうと、患者からの印象はどういうものかといえば、不安を残したまま治療に入ってしまうことになる。先生の説明がクライマッdクスを迎え終息に向かう頃になって初めて、患者は、もう少し聞きたいと思い始める、いわば熱心になり始めてくるのである。
なぜかといえば、先生が患者に対して分かりやすくと思って説明しても、初めて聞く内容や専門的内容に対して、すぐに理解できるものではない。いろいろな話が頭に入ってきて、それが整理されるまでには少し時間がかかるのである。
したがって、話すべきことが終わる、説明するべきことが終わったあとに、意識してもうひと会話続けると患者の不安の解消にもつながるのである。
それは、「ここまでの説明で何か分からないことはありますか?」もしくは、「今何か不安に感じることはありますか?」と聞いてみるとよい。そうすると、今度は患者が話をする時間を作ることができる。
このように「はい」「いいえ」で答えられる質問形式を、クローズドクエスチョンという。患者の思っていること、感じたことを、患者の言葉で聞こうとすれば、本来は「はい」「いいえ」では答えられないオープンクエスチョンというものを使う。
これは例えば、「どういった点がわかりませんでしたか?」「どのような不安を感じていますか?」といった質問方法であり、患者は自分で考えて答えを話さなければならない。しかし、専門的な治療方法の説明や、自分の歯の状態について初めて説明を受けるような場合には、的確に意見を言える状態になく、なかなか思ったとおりのことを話せるものではない。そこで、最初のうちはクローズドクエスチョンによってある程度答えを導きながら、慣れてきた頃にオープンクエスチョンによって患者の思いを引き出していくことの方が効果的である。
こういうふうに聞いていくと徐々に会話のリズムができてきて、いろいろと質問を投げかけてきたり、根堀り歯掘り聞いてきたりする患者が現れてくる。いつまでも質問をし続けて終わらないような患者さんも出てくることがあるが、そんなときに徹底して付き合うことによって患者との親密な関係が築かれていく。
例えば自費治療において何十万円、何百万円と投資をしようとするときに、じっくりと話を聞きたいと思うのは当然のことであると思うし、患者が不安に思っていること、心に引っかかっていることをすべて出し切ってあげてこそ、よい治療というのが生まれるのである。
患者のことを大切に思い、患者が話したいと思うことを聞いていれば、患者とのトラブルは本来起こりえないはずである。きちんと説明したから理解しているだろう、きちんと伝えたのだから責任を果たしているだろうというのは大きな間違いであり、患者は聞くことによって納得したいし、またそれをじっくり聞いてもらいたいとも思っている。
自費診療のみを行う歯科医院で、初診時には2時間、その後の再診のときでも一人1時間を取って診療を進める歯科医院がある。開業してからここまで変わることなく一貫した診療方針を続けているが、特に初診時の2時間枠の必要性について聞いてみると、それぐらいの時間をかけてお互いが話し合わないと、どういう治療をしていいか分からないという。大きな金額をいただくわけであり、患者の趣味、嗜好、生活環境からすべて、それぐらいの時間をかけてお互いが理解していかないと、とても怖くて手をつけられないということである。
そのため、一日の患者数は平均5人、多くても7~8人がせいぜいであるが、1ヵ月先まで予約でいっぱいであり、実に安定した経営を行っている。患者とも非常によい関係を築いているために、トラブルとは無縁の経営を行っている。

コンプライアンスの経営は体質の強化につながる

さて、コンプライアンスに気を配り、隙なく経営を行おうとすれば、院長自身がああしようこうしようと一人走り回ってもどうにもならない。
医院全体、スタッフ全体で取り組むことが大切である。特にスタッフの人数が増えてくればくるほど、それは顕著に表れてくる。
ある大きな医療法人の例を挙げると、スタッフは全部で25名ほどいるが、そこでは、患者への接し方や治療体系、あるいは器具の取扱方法にいたるまで、あらゆる場面での仕組みづくりが徹底されている。
当然保険請求に対する考え方も医院全体で浸透しており、少しでもグレーな部分があれば請求はしないということを第一に掲げている。
そうした考え方も、月に一回はドクターミーティングを開いて症例研究会で確認をし、全員が集まってのミーティングも月に一回行い、考えを浸透させている。当然そうするとスタッフそれぞれが、何をしていけばよいのかを各自の立場で考えて行動できるようになり、お互いの横の連携というのも自然に取れるようになってくる。
医院内部での法令遵守体制というものが定着してくると、それが患者の間で評判になる。安心できる歯科医院として口コミで広がり、歯科医院のブランドとして確固たる信頼を得ることになる。
これは単に法令遵守ということにとどまらず、仕事の意味の理解というものに焦点を合わせて体制を作っているために、ブランド力のある歯科医院へとつながっているのである。歯科医院を強くしていこうとするなら、単に仕事をするという姿勢から、なぜその仕事をしているのか、その仕事がどういった意味をもっているのかを教えていくことが大切ではないか。
ますます患者の目が厳しくなってきているのは事実であり、何か問題が起こってから対処しようとするのでは遅い。明日からすぐにでも院内での体制作りを徹底し、トラブルを未然に防ぐ取り組みが大切である。
これぐらいなら大丈夫だろう、時間ができたら考えようという姿勢では、近い将来必ず大きな問題が起こってくる。

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