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DENTAL MAGAZINE デンタルマガジン

歯科医院経営講座 -21世紀の歯科医院経営-

第14回 (127号)
これからの人材確保はどうなるか
デンタル・マネジメント・コンサルティング 稲岡 勲/門田 亮

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歯科医院の現場は、スタッフの入れ替わりが比較的頻繁に行われる場所であり、短期、長期を問わず退職、採用が繰り返されることはそれほど珍しいことではない。人と人とが直接関わる労働集約的な職場のため、退職したスタッフの穴を効率化によって補うことが難しく、そのため、求人誌等を見ても、歯科医院の求人広告は比較的多く掲載されている。しかし、新たな採用活動がすぐに実を結ぶかというと、なかなか簡単なものではないようである。募集職種や、経験の有無、採用人数によっても違いはあると思うが、意外と、歯科医院での勤務経験がある人材の確保が難しい。歯科医院の業務内容は、一般企業の事務と比較するとやはり特殊である。取り扱う商品は異なっても、パソコンソフトのオペレーションに長けていれば、ある程度どの職種に移ってもつぶしがきくという共通性があるものではない。そのため、即戦力としての期待をかけて経験者の採用をしたいと考えることは当然の考えであると思うが、その経験者がなかなか集まってきてくれないのである。企業における女性の職場環境の変化少子高齢化が進み、労働力人口の減少が顕著になってきている現在、企業は人材の確保に向けてその体制を大きく変えつつある。労働者の確保という観点から、働く女性、特に結婚をして出産を経験し、子育てを行おうとする女性に関しての施策が整えられてきていることが大きい。女性の労働力人口というものを見ると、日本は「M字カーブ」とよばれる独特の曲線を示す(図1)。高校、大学を卒業して就職を果たすが、20歳代後半から30歳代で結婚、出産により一旦職場を離れる。その後、子どもが大きくなり手を離れるようになる40歳代から再び職に就くという行動を取る。これをグラフにするとアルファベットのMになることから「M字カーブ」と呼ぶ。このグラフの10年前との比較を見ると、「25~29歳」「30~34歳」の層において大きく上昇していることがわかる。これには、女性が働く環境づくりに力を入れてきた企業努力が、大きく影響していることもあるだろう。育児期間中の勤務時間を短縮したり、前後にずらしたりするなどフレキシブルに対応するようになってきたほか、社内に託児所等の保育施設を設けるなどして、子育て期間も職場に残ることが可能な施策が拡がってきたことが一因であろう。長期的な職場環境づくりそうした中で、歯科医院はどこまで女性の労働環境を高めることができるだろうか。歯科医院は個人経営だから、小規模だから、スタッフに対してそこまでの待遇は不可能であるというスタンスだけでは、今後の人材確保という点から考えると問題があるのではないか。若い労働力人口が減少する一方で、従業員への待遇が改善され、働きやすい職場とそうでない職場との格差が拡がれば拡がるほど、スタッフを確保する難しさが増してくる。やはり、少しでも待遇のよい職場で働こうとすることは当12721世紀の歯科医院経営~これからの人材確保はどうなるか~デンタル・マネジメント・コンサルティング稲岡 勲/門田 亮図1 女性の年齢階級別労働力率<資料出所:総務省統計局「労働力調査(平成8、18年)>66然の行動であろうと思うし、給料がよいだけでは人材は集まらないとはいえ、現実問題として給料水準の高低は気になるものである。整った環境でそれなりの収入が得られるとなれば、人はそちらに流れていくのが自然であろう。しかし、歯科医院の現場を見る限り、子育て期間における勤務時間の短縮や、時間差出勤を取り入れることは難しいことであろう。また、よほど規模の大きな歯科医院でもなければ、託児所等の保育施設を準備することはできないだろう。子が1歳に達するまでの間に取得できる育児休業に関しても、社員という立場で1年間籍を残したまま休暇を与えることができるかというと、非現実的なことのようでもある。今後、歯科医院が人材の確保という問題を考えるとき、明日からすぐにこれらすべてに対応するということではなく、少しずつの改善でもよいから長期的な視点に立ち、女性スタッフを長期にわたって確保するというスタンスが大切であろう。そのためには、どういったことを考えていけばよいだろうか。やりがいの持てる仕組み一つは、歯科医院で働くスタッフとして、やりがいを持てる職場であるかどうか。さらに、本人のやる気を引き出すことができる環境であるかを考える必要がある。ある歯科医院では、受付担当者が3ヵ月ともたず退職してしまう。そのたびごとに求人し、採用しては退職していくということを繰り返している。来院する患者さんが非常に多く、いつも待合室も診療室も患者さんで溢れているが、その結果、受付スタッフは電話対応に追われ、会計待ちの患者さんにせっつかれ、アポイントミスを度々引き起こしてしまい、やりがいを持てぬまま医院を去ることになる。医院の対応能力以上の患者さんが来院するようになると、医院の拡張やシステムの再構築等、大きな対策を施さない限り、そのままの体制では医院全体が破綻をきたす。そうならないために、ある歯科医院では、受付スタッフから勤務歯科医師にいたるまで共通した診療システムを構築している。一日に対応できる来院患者数、アポイントの仕組みから、一人にかける診療時間までをしっかりとコントロールしている。そのことによって、スタッフも流れを読みながら仕事をすることができ、非常に落ち着いた雰囲気の診療所となっている。目指す診療体系に向けて徹底した仕組み作りを施すことで、スタッフそれぞれの役割が明確になる。役割が明確になれば自らの存在意義も感じられるため、スタッフの定着率も高くなるといえる。法令にどう準じていくか次に労働基準法に準じる体制をどう整えていくかということである。残業の支給基準に関しても、まだまだ曖昧なところが多く残っているし、1日8時間、1週40時間以内の労働時間に関しても、診療時間の長い歯科医院にとっては頭の痛い問題である。しかし、段々と監督署の目が厳しくなってきている現状においては、少しずつでも労働基準法に準じた労働環境の整備が必要である。最近では、スタッフからの労働条件に関する要求や問い合わせが、以前に比べ多くなってきている感覚がある。車通勤をしている場合の休日出勤についての交通費はどうなるのか、短時間勤務のため通常は残業代がないが、院長から指示された延長勤務にはやはり残業代はつかないのか、そもそも私に退職金はあるのか等々、実はスタッフは労働条件に関して聞きたいことがたくさんあるということがわかる。それらをうやむやにすると、ある日突然監督署に飛び込67まれるというケースがこれまでもあった。そうなる前に少しずつでも法律に準じた体制を整えていくことである。残業代については、診療終了時における残業代のみならず、昼休みに食い込んだ診療時間の分まできっちりと残業代を支給するという歯科医院が出てきている。有給休暇の取得にしても、これまでは一人が抜けることの影響の大きさから、暗黙のうちに取得を控える傾向が少なからずあった。しかし、休暇でぬけた穴を全員でカバーし合う風土を作ることで、休暇は休暇としてしっかりと取得させる医院もある。真に法律に準じた体制を作り、スタッフのモチベーション維持を図っているのである。そうした医院では、単にスタッフの権利ばかりを受け入れるのではなく、その分、時間管理には徹底して取り組む姿勢があり、またスタッフ間の協調性を重視できないスタッフの評価は最低ランクに落とすなど、職場での規律を厳しく守らせる体制を敷いている。スタッフとの距離感をどう保つかスタッフとの間に起こる問題に対しても管理できる体制を整えなければならない。ある歯科医院での出来事だが、あるとき院長がお疲れ様という気持ちを込めてスタッフの肩に手を置いた。非常に忙しい時間帯を、少ない人数にもかかわらず滞りなく診療補助を行ってくれたのでそのような行動をとったのだ。しかし、スタッフにはその気持ちは通じず、体に触れたことのみを捉え「セクハラで訴える」と言い出してきたのである。すったもんだの協議の末、結局そのスタッフは退職を申し出てきたが、挙句の果てには退職金まで要求してきた。結局、家族的経営を目指す院長の、自分のスタッフという意識が強すぎたことが裏目に出てしまったというわけだ。院長の親しみを持って接したいという気持ちが分からない訳ではないが、やるべきこと(例えば有給休暇をきちんと与える等)をやらないで、感情面だけを突出させても、それは院長のご都合主義としか受け取られない。感情がこじれると、それが内部告発や訴訟になるケースもある。ここまで大きな問題に発展してしまうことはまれである。しかし、何がきっかけとなるかはわからない。たとえ、身内意識の強い医院作りを目指したとしても、院長とスタッフとの間では、しっかりと一線を画すことが必要である。と同時に、やれる範囲で待遇面の改善に努力することが必要である。院長もわれわれのために待遇面で頑張ってくれているなと分かれば、問題が先鋭化することはない。大きな問題に発展しないように、スタッフとの日頃からのかかわり方についても考えておかなければならない。スタッフに長く勤めてもらう職場作りの秘訣は、院長とスタッフが理解しあいながらも、程よい距離感を保ち続けることである。効率的な人材確保に向けて若者人口の減少や、企業の女性従業員に対する待遇の改善がはかられるようになればなるほど、歯科医院における人材の確保は困難を極めてくるだろう。歯科医院の勤務を経験した人材が、よりよい待遇を求めて歯科医院を敬遠する傾向も出てくる。そうした状況に対応するためには、優れた人材が長期間にわたって勤務できる状況を作り上げることである。業務内容の見直し、法律への対応、スタッフとの距離感等、あらゆる側面からスタッフが心地よく働ける空間作りが求められる。新たな人材を確保するためのコストや労力を考えれば、少しの改善によってスタッフに気持ちよく、長く働いてもらえることの方が、長期的に見れば効率がよいことではないだろうか。68