100号 AUTUMN 目次を見る
目 次
- ≫ はじめに
- ≫ 1. クリアフィルSTの基本的性能
- ≫ 2. クリアフィルSTのシェード構成
- ≫ 3. クリアフィルSTのペースト性状
- ≫ 4. クリアフィルSTの易研磨性について
- ≫ 5. クリアフィルSTとクリアフィルメガボンドによる接着性審美修復の実際
はじめに
約40年前にNBS(現在はNIST)のボーエンによりBis-GMAが開発され、その後このレジンオリゴマーをマトリックスレジンとして用いるコンポジットレジンが開発され、世界各国の歯科材料メーカーにより製品化され主として前歯部に応用されてきた。
本邦においても約20年前、クラレ社により、クリアフィルボンドシステムFという名称で、クリアフィルFレジンのみならず、リン酸によるトータルエッチング法を応用したクリアフィルボンドとともに製品化され、当時の歯科臨床に接着性レジン修復という概念を認識させ、広く臨床応用が始まったことは記憶に新しい。
さて以来20年間に、レジンボンディング材は、より簡便かつ確実、さらに生体に対して安全性の高いセルフエッチングレジンボンディングシステムへと改良進化し、新鮮抜去牛歯を用いた接着試験によれば、エナメル質、象牙質のいずれに対しても20MPaを越える接着強さを示すようになっている。
また最近では、ポーセレンや金属などに接着するプライマーなどを併用することにより、日常の歯科臨床で往々にして遭遇する多種の接着補修修復に対応したライナーボンドⅡΣ、さらにこれをよりシンプルなプライマー、ボンディング材のいずれもワンボトルにしたクリアフィルメガボンドへと改良されている。
これに対し、クラレ社の初期のコンポジットレジンはペースト・ペーストタイプの練和の必要な化学重合のものであった。
その後レジンボンディング材と同様、光重合の機構が導入され、まず前歯部用のフォトクリアフィルブライト、さらに臼歯部用のクリアフィルフォトポステリア、前歯部用のクリアフィルフォトアンテリア、さらに最近では前歯・臼歯部共用の高いX線不透過性を有するクリアフィルAP-Xへと改良され、日本の歯科臨床の中で大きな比重を占めている。
このような状況のもと、今回新たにより高い審美修復を可能にした前歯部用コンポジットレジン“クリアフィルST”がクラレ社により開発され、モリタ社により販売されることとなった。
本稿では、このクリアフィルSTについて、その基礎的ならびに臨床的特徴を概説しようと思う。
クリアフィルST
クリアフィルSTオペーカー
1. クリアフィルSTの基本的性能
本レジンは、81%の重量フィラー含有量を示し、圧縮強度は約400MPa、曲げ強度は100MPa、曲げ弾性率は約9.2GPaと、臼歯部咬合面用のレジンに比較しても遜色ない高い機械的性能を有している。用いられているフィラーは、高い易研磨性を付与するため、有機質複合フィラー、粉砕型の細かい無機質フィラー、シリカのマイクロフィラーの3種が緻密に充填されている。図1および図2に、このクリアフィルST硬化物研磨面の走査電子顕微鏡像(SEM像)を示す。
図1は、500倍の反射電子組成像であり、比較的大きな有機質複合フィラーとその周りに細かな粉砕型の無機質フィラー(ガラスフィラー)が観察される。この像に認められる一番大きな特徴は、研磨面が一様に平坦であるということであろう。
図2は、この研磨面の2000倍に拡大した組成像である。この像から認められる特徴は、有機質フィラーとマイクロフィラーにより強化されたマトリックスレジンの境界部分が非常に不明瞭であるという事実である。言い換えれば、有機質フィラーとマイクロフィラー密度が非常に近いものになっているということであり、これが、本レジンが示す高い易研磨性、すなわち均質性を生み出すもととなっている。
図1 クリアフィルST硬化物研磨面の走査電子顕微鏡像(SEM像)。500倍の反射電子組成像であり、比較的大きな有機質複合フィラーとその周りに細かな粉砕型の無機質フィラー(ガラスフィラー)が観察される。研磨面は一様に平坦である。-
図2 2000倍に拡大した組成像である。有機質フィラーとマイクロフィラーにより強化されたマトリックスレジンの境界部分が非常に不明瞭であり、有機質フィラーとマイクロフィラーにより強化されたマトリックスレジンの相対的マイクロフィラー密度が非常に近いものになっている。
2. クリアフィルSTのシェード構成
本レジンのシェード構成は、ビタシェードに準拠し、基本色はA系においている。スタンダードシェードとして、A1、A2、A3、A3.5、A4の5シェードを有し、1から3までが主に前歯歯冠中央部分から切端部分までの窩洞に、A3.5およびA4は、前歯歯冠中央部分から歯頸部、および根面までの窩洞に用いられる。
これに加えるにB3およびC3のシェードがバリエーションとして用意されている。また、OA1、OA2、OA3のオペーク系のシェードは、メタルボンド冠などの歯頸部補修修復、さらにはポーセレンの破折症例の補修修復およびダイレクトレジンベニア修復にと応用範囲が広い。これらのシェードに加え、よりキャラクタライゼーションを可能にして審美修復を行うため、エナメルとハリウッドオペーク(HO)の2種のアシストシェードが供給され、エナメルシェードは歯冠中央および切縁部分の修復や透明感の付与を必要とする時に用いられる。またHOシェードは、ブリーチング処置歯に対応可能となっている。
さらに今回、これらのシェードによる審美修復をより完璧にするため、塗布性などの臨床操作性を飛躍的に向上させたライトとユニバーサルの2シェードのクリアフィルSTオペーカーも開発された。
3. クリアフィルSTのペースト性状
本レジンのペーストは、基本的に前歯部窩洞を対象としているため比較的柔らかく、伸びのあるペースト性状を示している。
しかしながら、充填器などへのベタつきはなく、付形性は著しく良好である。また、隣接面窩洞である3級、4級のマトリックス圧接に対してもスムーズな対応が可能である。ついでながら、シリンジからのレジンペーストの捻り出しも極めて容易である。さらに本ペーストは、メガボンドなどのボンディング光硬化面に対する粘着も著しく良好である。
4. クリアフィルSTの易研磨性について
本レジンは、その特徴あるフィラー構成よりして単純な研磨操作で容易に平滑な研磨面を得ることが可能である。
すなわち、光硬化の後、スーパーファインのダイヤモンドポイントにより注水下で仕上げをし、そのままコンポマスター(松風社)のようなポイント類のみの研磨により、短時間のうちに十分な研磨面を得ることができ、ホワイトポイントの使用は不必要である。
5. クリアフィルSTとクリアフィルメガボンドによる接着性審美修復の実際
このクリアフィルSTにより、接着システムとしてクリアフィルメガボンドを併用した
場合の、接着性審美修復の実際を図3以降に示す。
図3~15までは、右上顎犬歯歯頸部のクサビ状欠損の症例を、図16~26までに、上顎中切歯のメタルボンド修復歯の歯頸部金属カラー部露出の補修修復の症例を示す。
図3 右上顎犬歯歯頸部のクサビ状欠損の術前。-
図4 齲蝕検知液を用いて感染歯質を検知する。 -
図5 通法にしたがって窩洞形成を行う。 -
図6 窩洞完成。
図7 メガボンドのプライマーを塗布し、20秒放置する。-
図8 軽くエアー乾燥する。 -
図9 メガボンドのボンドを塗布する。 -
図10 従来の光照射器であれば10秒、アークライトであれば3秒光照射する。
図11 クリアフィルSTのペーストを填入する(シェードはA3.5)。-
図12 従来の光照射器であれば40秒、アークライトであれば3秒+3秒光照射する。 -
図13 スーパーファインのダイヤモンドポイントを用いて仕上げする。 -
図14 ポイント類による研磨を行う(コンポマスター)。 -
図15 極めて審美的な修復が完了し、患者さんの満足度も大きい。 -
図16 上顎両中切歯のメタルボンド修復歯の歯頸部金属カラー部露出の補修修復の症例の術前。 -
図17 ラウンドのダイヤモンドポイントを用いて形成。 -
図18 金属部分を越え、ポーセレンの部分まで1mmほど窩洞を延長する。 -
図19 K-エッチャントGELにより、切削面を清掃(5秒)。 -
図20 メタル部分はアロイプライマーを塗布した後、メガボンドのプライマーとポーセレンアクティベーターの混和液にて処理(20秒)。 -
図21 メガボンドのボンドを塗布。 -
図22 光硬化、従来の光照射器であれば10秒、アークライトであれば3秒光照射する。 -
図23 クリアフィルSTオペーカーを塗布。歯質、金属、ポーセレン部分まで塗布する。 -
図24 オペーカーの光硬化、従来の光照射器であれば40秒、アークライトであれば3秒+3秒光照射する。 -
図25 クリアフィルSTペーストの填入(シェードはOA3)。光硬化の後、仕上げ研磨を行う。 -
図26 クリアフィルメガボンドとクリアフィルSTによる審美的補修修復が完了し、患者さんの満足度も大きい。
6. まとめ
20数年前に、クラレ社によるクリアフィルボンディング材とコンポジットレジンの開発が始まり、その後、実際に製品がモリタ社により販売され、日本における接着性レジン修復を過去20年に亘ってリードしてきた。
重合方式も化学重合から光・化学重合に移行し、最近では世界で初めて、セルフエッチングレジンボンディングシステムであるライナーボンドⅡを世に送り出し、歯質接着性に関してもエナメル質、象牙質のいずれに対しても極めて高く安定した性能を示し、さらに生体安全性の良好なシステムへと改良を遂げている。
また、ポーセレンや金属などに接着するプライマーなどを併用することにより、日常の歯科臨床で往々にして遭遇する多種の接着補修修復に対応したものとなっている。
このように信頼性の高い接着システムの臨床使用が可能になり、これにあうような現代のニーズに適った審美修復を可能にするコンポジットレジンが待たれていた。
今回、このような臨床のニーズを請けて発売されることになったクリアフィルSTは、現在要求される前歯用のコンポジットレジンの全ての要件を満たしているといえる。
クリアフィルSTがメガボンド、ライナーボンドⅡΣなどと併用され、これまでにも増して、より審美的性能の高いレジン修復が行われ、日本の歯科臨床のレベル向上と、国民の口腔健康の増進を願って稿を閉じたい。
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