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102号 SUMMER 目次を見る

ドクター招待席

津軽の人情もりんごの甘さも、岩木山も“春湖庭”もすべてが心の糧、私のユートピア

清藤 勇也

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ドクター招待席津軽の人情も林檎の甘さも、
岩木山も“春湖庭”も
すべてが心の糧、私のユートピア。

目 次

清藤勇也先生故郷・津軽を軽妙に語られる清藤勇也先生。 林檎の白い花が野山を埋めつくし、シダレザクラが咲き競う春。ねぷたまつりの熱気にむせかえる夏。真っ赤な林檎の香りが漂い、山紅葉が旅情を誘う秋。津軽富士・岩木山が雪化粧する冬…。四季折々の風情を残す青森県尾上町に生まれ育たれた清藤勇也先生は、清藤家の庭園“春湖庭”を広く公開され、ドイツとの国際交流やアマチュアボクシングの振興にも尽くされています。野鳥が飛来し、岩木山が間近に望める“春湖庭”の閑静な庭内で、故郷・津軽とともに歩まれてきた半生を振り返っていただきました。
清藤歯科医院(青森県尾上町)清藤勇也先生

先生は故郷・津軽にどのような想いをお持ちですか。

[写真] 春湖庭
せせらぎが流れ、春夏秋冬の情趣をしみじみと伝える“春湖庭”の佇まい。
津軽の名が地名として初めて登場するのは、7世紀半ば頃の日本書紀と言われています。昔は“津刈”とか“都加留”の漢字を当てたようです。よく津軽の人は情が深く、親切すぎるという声を耳にしますね。確かに人の良さは全国一じゃないかと思っています。町が戦災を受けていないので、風情や景観だけでなく、人情も戦前のまま残っているのでしょうか。
今でも弘前の町中を歩いてみると、あちこちに400年の歴史・文化を培ってきた城下町らしい気品と香りがあります。岩木山の深い緑、岩木川の潤い、四季の花々の華やかさ。まさに自然と一体になった暮らしがあるといった感じがするのです。
私と同級で“津軽よされ節”の直木賞作家・長部日出雄も「津軽は一斉に春になる」と絶賛していますし、あの太宰治は「津軽は自然も女も美しい」と書いています。
私も岩木山を見ながら育ったものですから、中学生の頃や弘前高校時代は、岩木山を仰ぎみながら、燃えんばかりの大志を抱いて勉強したものです。津軽富士は、夢、希望、勇気を次から次へと沸き立たせてくれる、文字どおり“母なる山”ですね。津軽はお袋のような有り難い存在です。

尾上町は造園が盛んな町ですが“春湖庭”はどのような庭園ですか。

津軽地方には、江戸末期の庭師・大石武学が始めた造園の一派“大石武学流”という独自の作庭様式があります。“大石武学流”は、簡単に言えば、独特な石組みの枯山水と凹字型の池を配した様式美を特徴としています。
その典型が有名な名勝“盛美園”の池泉式庭園ですが、この“春湖庭”は起伏と動きをふんだんに取り入れた庭で、巨石からは滝が落ち、飛び石を配した園内はいつも清冽なせせらぎの音と輝きに満ちています。石、花木、水が混然一体となった修景を見せる武学流庭園、それが“春湖庭”です。
敷地約1,000坪のうち、およそ500坪が庭園になっています。花木の種類は多彩ですが、町木のクロマツが20種以上、樹齢200年の糸杉のほか、シャクナゲ、ツツジ、マルメロなどの花木も植えていますし、セキレイやヤマバトなどもよく休みに来ていますね。春夏秋冬、一年を通じてしっとりとした情趣にひたれる庭園だと思います。
庭をデザインしたのは、町内の駒井東山という練達の庭師です。完成までおよそ5年の歳月を要しました。ただ、どんな庭になるのかは、できあがるまで、私にすら分かりませんでした。

庭を作ろうと思われたのは何か特別な理由がおありですか。

実は父・勇吉は、長年にわたって、さまざまな要職に就きつつ診療を続けておりましたが、満80歳を迎えていよいよ歯科医師を引退することになりました。父はかねがね「横になりながら、ゆっくり眺められる庭を作りたい」という夢を抱いておりましたので、私もせめてもの親孝行のつもりで、父の願いをかなえられる庭を作ろうと思ったのです。幸い、父もこの庭のできばえに感動し、大変喜んでくれました。
“春湖庭”というネーミングは、春の十和田湖で遊覧船に揺られながら、うららかな気分に浸っていたときに、“春湖庭”という名前が陽炎のようににわかに浮かんできたのです。この庭にぴったりのネーミングだと、我ながら悦に入っています。
“春湖庭”はいつでも開放しています。農業学校造園科の生徒たちも見学に見えますし、観光の方もたくさん来園されています。毎年5 月下旬には、尾上町商店会の主催で“庭園・旧家めぐり”が開催されますが、それはそれは大勢の方が来られるので驚きです。やはり庭園は日本人の精神の源流であり、とくにストレスに疲れた現代人は花と緑に癒しを求めているのでしょうね。私にとっても“春湖庭”は桃源郷でもあり、心の故郷でもあるのです。

ご尊父はどのような方でどのような影響を受けられましたか。

私は姉3人、妹3人にはさまれた中の黒一点、貴重な男の子でしたから、自分で言うのはなんですが、それはそれは可愛がられて育ちました。しかし、父だけは厳しかったので、子供心ながらも父の言動には敬服するところがありましたね。
高校2年生のときでしたが、父とともに上京して東京歯科大学の奥村鶴吉学長にお会いした時、「君の年のころは、僕はアメリカにいたよ。君も夢をもって生きなさい」と励まされました。奥村学長は“野口英雄伝”で著名な方ですが、今思えばこの一言が、私を歯科医師の道へと導くきっかけになったことは確かです。
県会議員の経験もある父は、私を政治家か歯科医師のどちらかにしたかったようです。「みんなのために働け」。それが父の口癖でしたし、それを自ら有言実行していたのも父でした。引力のような強さと、日だまりのような優しさを併せ持った人でもありました。
父は交友関係も幅広く、私が中学生のころ、太宰治がわが家に遊びに来ていました。彼は胸元から古びたバイブルを取り出すと、「眠れないときは、このバイブルを読むんだ」と話していたことが忘れられません。あれ以来、バイブルは私の愛読書になってしまいましたから。父が務めた長勝寺(弘前市)の総代を私が引き継いでいるのも、父子の因縁かも知れません。
また、父は“尾上まるめろ句会”の同人でもありました。この会を指導していたのは、山口誓子の実妹で高浜虚子門下の女流俳人・下田実花です。実花は大阪で生まれ、上京して新橋の芸妓になりましたが、俳誌“ホトトギス”の編集委員もつとめました。昭和32年に発足した“尾上まるめろ句会”を77歳で亡くなるまで見守った情熱の俳人です。
父もその作風の影響を受けて句作を楽しんでいましたね。実花の有名な一句“見得きりて 迥りまわれる ねぶたかな”は、猿賀公園の見晴池沿いにある句碑に刻まれており、その傍らには、マルメロの白い花が風に揺れています。

青森県歯科医師会会長の重責を果たされながら、アマチュアボクシングの振興や日独国際交流にもご尽力ですが。

[写真] ドイツでの和気藹々の交流風景
ドイツでの和気藹々の交流風景。
高校時代はボクシング部に属し、のちに監督もつとめました。青森県からは、WBAライト級チャンピオンの畑山隆則選手など、多くのボクサーが巣立っています。私の名を冠した“勇也杯”も、若きボクサーたちの成長に一役かってくれているのは嬉しい限りですね。
また、ドイツとの国際交流がスタートしたのは26年前のことです。当時は、まだ国際交流がめずらしかったですが、世話役の会長に推された時、条件つきで引き受けることにしました。国際親善する以上は、尾上町の歴史・文化をよく勉強してからドイツへ行こう!と提案したのです。
あすなろ国体でボクシングが優勝した時は、選手を引き連れてドイツへ渡り、地元で交流試合をしましたし、ワンダー・ユーゲントクラブの青少年たちとは、“清藤山荘”で定期的に交流・交歓を重ねてきました。3年前には世界的に有名なハープ奏者のアルフレッド・ロランド・オルティスさんを招きました。その素晴らしい演奏が橋渡しになって、さらに親交が深まったようですね。
ドイツへ行って感じたのですが、市長も市民も子供たちと一緒になって、みんな家族のような気分で、楽しそうにハイキングに出かけます。歩きながら、国や町の歴史や文化を子供たちに伝えているのですね。長年続けていると、ゴールインするカップルも誕生したり、生き方や考え方が変わった方がいたり、あれもこれもドイツとの交流の賜物と、今では感謝の気持ちでいっぱいです。

人生や生きがいについてはどのようにお考えですか。

[写真] ハープ奏者のアルフレッド・ロランド・オルティスさんを囲んで
ハープ奏者のアルフレッド・ロランド・オルティスさんを囲んで。
人生はまだら模様です。たくさんの友人たちとの甘辛とり合わせた想い出、弁論大会で初優勝した時の感動、ハワイアンバンドの時代に、淡谷のり子からその日のギャラを全部いただいた時の感激、銀座そごうのホールでフランク永井に代わって“有楽町で逢いましょう”を熱唱できた幸運、熱を入れていたハワイアンバンドの活動が家族にばれて、やむなくバンドを断念した悔しさ…。
あれこれと走馬灯のように記憶は巡りますが、目的がはっきりしていれば、人生って楽しいものですね。そして、少しでも迷いが出たら、あの岩木山に目をやります。そうすれば、自ずと行くべき道を教えられるような気持ちになるのです。
清藤家は津軽地方の旧家ですが、私の祖先は、近江から来て造り酒屋を営んだ清藤半十郎という人物と聞いています。一族にはさまざまな人がいます。しかし、父も私も家系とか一族とかには、まったくこだわっていません。地縁や血縁でなく、むしろ社会や世界とのつながりを広げたいと思っています。目上の人を敬いつつ、誠心誠意尽くせば、人は集まり、友人にも恵まれるものと信じているからです。

撮影:永野一晃

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