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103号 AUTUMN 目次を見る

CLINICAL REPORT

新たな総義歯臨床コンセント”フィジオロジックデンチャー”

村田 比呂司/楢崎 泰史/田口 則宏/濱田 泰三

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目 次

フィジオロジックデンチャーとは

顎堤が高度に吸収し粘膜が菲薄化した症例では、義歯床粘膜面の適合性、咬合関係などが良好な義歯を装着しても、咀嚼時疼痛を引き起こし患者の満足を得られないケースも少なくない。このような症例に対処するため、これまで種々の軟質義歯裏装材が開発され、臨床に応用されており、補綴臨床では必須の材料と考えられる。
軟質義歯裏装材は短期的に使用されるティッシュコンディショナーと比較的長期にわたり使用される弾性裏装材に分類される。ティッシュコンディショナーは主として粘膜調整、動的印象の目的に、一方弾性裏装材は咀嚼圧を分散、緩和させ、咀嚼機能を向上させる目的に応用される。実際の臨床では、ティッシュコンディショナーと弾性裏装材を単独で用いるよりも、システマティックに一連の術式としてこれら2種類の材料を適用する症例が多い。つまりティッシュコンディショナーにより、床下粘膜をできるだけ健康な状態にし、同時に動的印象を行い、最終的には弾性裏装材を使用することが有効であると考えられる1)。しかしながらこのようなコンセプトで製品が開発されたことは少なく、一つのシステムとしてティッシュコンディショナーおよび弾性裏装材を開発していく必要があると考えられる。
今回、ニッシンより新しい義歯作製コンセプト“フィジオロジック”が提案された。本コンセプトでは生体との調和に重点をおき、新たに開発された3種類の軟質義歯裏装材(フィクショナー、バイオライナー、フィジオライナー)と、硬質材料である耐衝撃性義歯床用レジン(フィジオレジン)、硬質レジン歯(デュラクロス)を組み合わせた義歯、すなわち“フィジオロジックデンチャー”を作製するものである(図1)。本システムの最大の特徴は、義歯床下粘膜の粘弾性に着目し、粘弾性的性質を有するアクリル系軟質義歯裏装材を応用した点である。そのため“フィジオロジックデンチャー”は従来型の硬質のレジン床義歯に比べ、総義歯難症例患者の咀嚼機能の向上に寄与するものと考えられる。
本講座ではこれまで軟質義歯裏装材の粘弾性的性質と義歯装着者の咀嚼機能との関係について研究してきた。さらに上述した材料のうち軟質義歯裏装材をニッシンと共同開発してきた。本稿では新規に開発したこれら軟質義歯裏装材の性質を述べ、症例を示していく。

  • [図] フィジオロジックコンセプト
    図1 フィジオロジックコンセプト。

フィクショナー - ノンアルコール

従来のティッシュコンディショナーの粉末には、主としてポリエチルメタクリレートおよびその共重合体が使用されている。液は芳香族エステルの可塑剤とエチルアルコールの混合物である。本材はポリエチルメタクリレートポリマーへ可塑剤が浸透することによりゲルが形成される。その際、エチルアルコールを含有しない可塑剤溶液ではゲル化が非常に長くなり、臨床で使用することができない。そこでゲル化を促進し、臨床的に使用可能なゲル化時間に調節するため、エチルアルコールが添加されている。しかしながらアルコールの溶出により劣化、および患者の感じる不快感も、臨床上ポリエチルメタクリレートを主成分とするティッシュコンディショナーの欠点であった。
そこで筆者らは従来の製品に使用されていないタイプの粉末を用いることにより、劣化の原因となるエチルアルコールを含有しないティッシュコンディショナー“フィクショナー”(図2)の開発を行った2)、3)。このアルコールを含有しないティッシュコンディショナーの実用化は国内外を通じてはじめての試みで、粉末には主としてポリブチルメタクリレートの共重合体を用いた。ブチル系の粉末を応用するに際し、本粉末のガラス転移点が常温あるいはそれ以下であるため、粉末が互いに付着し保管しにくいことが問題点であった。この問題を解決するため、粉末の表面に特殊な処理を施すことにより長期にわたる粉末の保管を可能にし、ブチル系粉末を実用化させることができた。
図3にフィクショナーと他社製品の粘弾性値の経時的変化を示す。フィクショナーの粘弾性値は、試料作製後1日で初期の値の約5%ほどしか変化しておらず、その後1週間後までほとんど変化していない。一方、他社のアルコールを含有しているティッシュコンディショナーの粘弾性値の経時的変化率は、1週間後で約10%~16%である。このことよりフィクショナーはアルコールを含有していないため、比較的長期間初期の粘弾性が維持され、粘膜調整、動的印象の効果が持続するものと考えられる。
さらに動的印象としてティッシュコンディショナーを使用する際、粘弾性的性質とともに石膏との適合性も重要な因子の一つである。図4に示すように、フィクショナーから得られる石膏の表面性状は良好であることがわかる。本材は動的印象材としての機能を十分に果たすことができる。

  • [写真] フィクショナー
    図2 フィクショナー。
  • [グラフ] フィクショナーの粘弾性的性質の経時的安定性
    図3 フィクショナーの粘弾性的性質の経時的安定性。各製品の動的粘弾性値(損失正接)を算出し、試料作製直後の粘弾性値に対する変化率を示している。この値が小さいほど初期の粘弾性的性質が維持され、安定した物性を有していることを示す。
  • [グラフ] フィクショナーから得られる石膏の表面性状
    図4 フィクショナーから得られる石膏の表面性状。水中浸漬2日後の材料から得られた石膏の中心線平均あらさの一例。

バイオライナー フィジオライナー - 粘弾性レジン

バイオライナーは常温重合型アクリル系弾性裏装材である(図5)。以前、ニッシンより同じ常温重合型アクリル系であるソフトリバースが開発されていたが、バイオライナーはさらに操作性および耐久性を向上させた製品である。一方、フィジオライナーは加熱重合型アクリル系弾性裏装材であり、バイオライナーよりもさらに高い耐久性を有している(図6)。現在、弾性裏装材は主としてアクリル系とシリコーン系の製品が開発され、臨床において使用されている。それぞれ直接法として使用する常温重合型と間接法として使用する加熱重合型がある。軟質義歯裏装材の機能的効果はとくにその柔軟性、すなわち粘弾性的性質に依存する。この粘弾性的性質は各裏装材を構成する材質によりほぼ決定される。著者らが行った軟質義歯裏装材の動的粘弾性解析の結果、アクリル系弾性裏装材は粘弾性的性質を示し、高い緩圧効果が認められた4)。一方シリコーン系弾性裏装材は弾性的な性質を示した4)
さらにわれわれは総義歯患者の咀嚼機能と粘弾性的性質との関係について検討した。図710に結果の一例を示す(71歳女性)。ティッシュコンディショナーおよびすべての弾性裏装材において、レジン床義歯に比べ、最大咬合力は高くなり、食品の咀嚼時間が短くなる傾向である。さらに他の軟質義歯裏装材に比べ、アクリル系弾性裏装材がもっとも咀嚼機能を回復し、患者の満足度も高くなる傾向である。弾性裏装材では咀嚼機能向上の観点より、咬合力に対して高い緩圧効果を有するアクリル系弾性裏装材がもっとも臨床的に有効であると考えられる。
バイオライナーおよびフィジオライナーもアクリル系であるため粘弾性的性質を有している(図11)。バイオライナーを裏装した総義歯患者の機能試験の結果の一例を示す(74歳男性)(図1213)。これらの材料はレジン床義歯およびシリコーン系弾性裏装材に比べ、高い咬合力を示し、患者の満足度も高い傾向である。
バイオライナーおよびフィジオライナーは、材料自体の耐久性、義歯床との接着耐久性も良好である(図1415)。

  • [写真] バイオライナー
    図5 バイオライナー。
  • [写真] フィジオライナー
    図6 フィジオライナー。
  • [グラフ] 最大咬合力と軟質義歯裏装材との関係
    図7 最大咬合力と軟質義歯裏装材との関係。
  • [グラフ] 食品の咀嚼時間と軟質義歯裏装材との関係
    図8 食品の咀嚼時間と軟質義歯裏装材との関係。
  • [グラフ] 食品の咀嚼回数と軟質義歯裏装材との関係
    図9 食品の咀嚼回数と軟質義歯裏装材との関係。
  • [グラフ] 患者の満足度と軟質義歯裏装材との関係
    図10 患者の満足度と軟質義歯裏装材との関係。
  • [グラフ] バイオライナーおよびフィジオライナーの粘弾性的性質
    図11 バイオライナーおよびフィジオライナーの粘弾性的性質。
  • [グラフ] 最大咬合力に及ぼすバイオライナーの効果
    図12 最大咬合力に及ぼすバイオライナーの効果。
  • [グラフ] 患者の満足度に及ぼすバイオライナーの効果
    図13 患者の満足度に及ぼすバイオライナーの効果。
  • [グラフ] バイオライナーおよびフィジオライナーの引張強度
    図14 バイオライナーおよびフィジオライナーの引張強度。
  • [グラフ] バイオライナーおよびフィジオライナーの義歯床との接着強度
    図15 バイオライナーおよびフィジオライナーの義歯床との接着強度。

症例1 フィクショナーによる動的印象とフィジオライナーによる間接リライニング

患者は74歳の女性。主訴は下顎総義歯(図16)の咀嚼時の疼痛である。患者の下顎顎堤は低く、粘膜の被圧縮性も低い(図17)。
まずカーバイドバーで義歯床粘膜面を一層削除し、接着性を向上させるためレジンの新鮮面を出す(図18)。フィクショナーを付属の粉計量容器とスポイトで正確に計量し、気泡を混入しないように練和する。本製品は粉液比を重量比で約2:1に設定してある。練和直後は粉末ポリマーに液が浸透中であるため、パサパサしているが(図19)、時間の経過とともに粘度の高いクリーム状になる(図20)。一方、従来のティッシュコンディショナーでは練和直後はさらさらした液体状で次第にゲル状になる。本製品はさきほど述べたように、練和直後は液体状にならないので、従来の製品をイメージして液を多くしないように、つまり指定された粉液比を守ることが重要である。
フィクショナーが粘度の高いクリーム状になった時点で、義歯床に塗布する(図21)。本ペーストはたれにくく、そのため義歯床への盛り上げが容易で材料の厚さを確保しやすく、操作性が良好である(図22)。ティッシュコンディショナーの治療効果は材料自体の性質、とくに粘弾性的性質にも影響されるが、適切な厚さ(約1~2mm)を確保することも重要である。フィクショナーを塗布した義歯を口腔内へ挿入する際、軽く咬合してもらい材料が義歯床より流れ出ないようにする(図23)。通法に従い、筋形成を行う。不足している部分がある場合、新しくフィクショナーを追加することができる(図24)。追加部分の段差は1日後には消失する。
ゲル化後、熱した器具などで余剰のフィクショナーを除去する(図25)。なおティッシュコンディショナーは一般的に手、指に付着し取り扱いにくい面がある。その場合、本材の粉末を手、指にふりかけて取り扱えば、付着を防ぐことができ能率をあげることができる。トリミングの後、フィクショナートップコート(表面処理材)を全面に塗布する(図26)。この表面処理材は裏装中の汚れを防ぎ、良好な動的印象を得るため、必ず使用しなければならない。
フィクショナーにより2日間粘膜調整とともに動的印象を行った(図2728)。その間、患者は咀嚼時の疼痛を自覚せず、食事も満足にできるようになり、動的印象が完了したと判断した。またフィクショナーの表面性状も非常に良好で、光沢も認められる。フィクショナーは高い流動性を示すので、動的印象の期間は1~2日が適切であると考えられる。
動的印象の完了した下顎総義歯をフラスク下部に埋没する(図29)。ついで印象面に超硬石膏を流し(図30)、フラスク上部にも埋没材を流す。埋没材が硬化後、約70℃の湯槽に約15分浸漬しフラスクを開輪する。フィクショナーの表面は滑沢で、本材から得られる石膏の表面性状も良好である(図31 )。フィクショナーを除去した後(図32)、カーバイドバーで義歯床粘膜面のレジンを削除する(図33)。軟質義歯裏装材の咀嚼圧に対するクッション効果を得るには、1~2mmの厚さが必要である。厚さを確実に確保するため、ラウンドバーなどで深さ1~2mmのガイドホールを形成するとよい。適合試験材などで削除量を確認すると確実である(図3435)。
削除した義歯床粘膜面の新鮮面に、フィジオライナーサーフィスライナー(表面処理材)を塗布する(図36)。接着力をあげるため、裏装面をサンドブラスト処理すると効果的である。なお裏装面は洗浄、乾燥を十分に行っておく必要がある。フィジオライナーの粉と液を付属の粉計量容器およびスポイトで計量後、付属の混和容器に入れる。粉液比は重量比で2.4:1.0である。粉と液を混和した直後はパサパサしているが(図37)、30秒位すると粉末に液が浸透し、なじんでくる。この時点で混和容器のふたをしめ(図38)、約4~5分位経過すると填入可能な餅状になる(図3940)。通法に従い、フィジオライナーの填入(図41)、フラスクの圧接および余剰の材料の除去を行う(図42)。重合は水から徐々に温度を上げ30分位で沸騰させるようにする。ついで1時間沸騰させ、その後自然放冷させる(図43)。カーバイドバーで形態修正をした後、シリコーンポイントおよびルージユをつけたバフホイールで研磨を行う。口腔内に装着後、咬合調整を行い完了とする。
食事中の疼痛もなく、患者の満足が得られた(図4445)。

症例1
  • [写真] 下顎総義歯(粘膜面観)
    図16 下顎総義歯(粘膜面観)。
  • [写真] 下顎顎堤は低く、被圧縮性も低い
    図17 下顎顎堤は低く、被圧縮性も低い。
  • [写真] カーバイドバーで義歯床粘膜面を一層削除する
    図18 カーバイドバーで義歯床粘膜面を一層削除する。
  • [写真] 粉と液を混和した直後はパサパサしている
    図19 粉と液を混和した直後はパサパサしている。
  • [写真] しだいに(約1分前後)クリーム状になる
    図20 しだいに(約1分前後)クリーム状になる。
  • [写真] クリーム状になった時点で、義歯床粘膜面に塗布する
    図21 クリーム状になった時点で、義歯床粘膜面に塗布する。ペーストの粘度が高いので、たれにくい。
  • [写真] 従来のティッシュコンディショナーに比べ、たれにくく操作性が向上した
    図22 従来のティッシュコンディショナーに比べ、たれにくく操作性が向上した。
  • [写真] フィクショナーを塗布した義歯を口腔内に挿入し、筋形成を行う
    図23 フィクショナーを塗布した義歯を口腔内に挿入し、筋形成を行う。
  • [写真] 不足部分があればフィクショナーを追加することができる
    図24 不足部分があればフィクショナーを追加することができる。
  • [写真] ゲル化後、余剰のフィクショナーを熱した器具で除去する
    図25 ゲル化後、余剰のフィクショナーを熱した器具で除去する。
  • [写真] 付属の筆でフィクショナートップコート(表面処理材)を塗布する
    図26 付属の筆でフィクショナートップコート(表面処理材)を塗布する。
  • [写真] 裏装直後のフィクショナー
    図27 裏装直後のフィクショナー。
  • [写真] 裏装後2日のフィクショナー
    図28 裏装後2日のフィクショナー。印象面は非常に滑沢で、艶がある。なお左側臼歯部においてフィクショナーが一部薄くなっているが、印象終了前に同部をラウンドバーで削除し、材料を追加した。
  • [写真] 動的印象の完了した義歯の咬合面側をフラスク下部に埋没する
    図29 動的印象の完了した義歯の咬合面側をフラスク下部に埋没する。
  • [写真] 埋没材に分離材を塗布した後、印象面に超硬石膏を流す
    図30 埋没材に分離材を塗布した後、印象面に超硬石膏を流す。超硬石膏の流動性が減少した時点で、フラスク上部に埋没材を流す。
  • [写真] フラスクを開輪する
    図31 フラスクを開輪する。印象面が精密に再現され、石膏の表面性状は良好である。
  • [写真] フィクショナーを除去する
    図32 フィクショナーを除去する。
  • [写真] カーバイドバーで義歯床粘膜面のフィクショナーおよびレジンを削除する
    図33 フィジオライナーの厚さ(1~2mm)を確保するため、カーバイドバーで義歯床粘膜面のフィクショナーおよびレジンを削除する。
  • [写真] 適合試験材で削除量を調べると確実である
    図34 適合試験材で削除量を調べると確実である。
  • [写真]0約1~2mmの削除量が確認できる
    図35 約1~2mmの削除量が確認できる。
  • [写真] 付属の筆でフィジオライナーサーフィスライナー(表面処理材)を塗布する
    図36 付属の筆でフィジオライナーサーフィスライナー(表面処理材)を塗布する。
  • [写真] 粉と液を混和した直後はなじみにくく、パサパサしている
    図37 粉と液を混和した直後はなじみにくく、パサパサしている。
  • [写真] 粉と液を30秒位混和すると、粉末に液が浸透しなじんでくる。混和容器のふたをしめる
    図38 粉と液を30秒位混和すると、粉末に液が浸透しなじんでくる。混和容器のふたをしめる。
  • [写真] ふたをしめ約4~5分位で餅状になり填入可能となる
    図39 ふたをしめ約4~5分位で餅状になり填入可能となる。
  • [写真] 填入に適した状態
    図40 填入に適した状態。約10分位持続する。
  • [写真] 通法に従い、フィジオライナーを填入し、フラスクの圧接を行う
    図41 通法に従い、フィジオライナーを填入し、フラスクの圧接を行う。
  • [写真] 余剰の材料をエバンスなどで取り除く
    図42 余剰の材料をエバンスなどで取り除く。
  • [写真] 重合は水から徐々に温度を上げ30分位で沸騰させる
    図43 重合は水から徐々に温度を上げ30分位で沸騰させる。ついで1時間沸騰させ、その後自然放冷させる。
  • [写真] フィジオライナーで裏装した義歯
    図44 フィジオライナーで裏装した義歯。
  • [写真] 口腔内装着
    図45 口腔内装着。

症例2 バイオライナーによる直接リライニング

患者は85歳の女性。主訴は下顎総義歯(図46)の咀嚼時の疼痛である。下顎顎堤の骨吸収は高度で、顎堤粘膜は菲薄である(図47)。動的印象後、間接法により弾性義歯裏装材をリライニングする術式が理想的である。しかしながら、スペアの義歯をもっていないとのことで、直接法による裏装を行うこととした。
まずカーバイドバーで義歯床粘膜面を一層削除し、レジンの新鮮面を出す。洗浄、乾燥後、同部にサーフィスライナー(表面処理材)を塗布する(図48)。本材の効果は塗布後約10分である。なお揮発しやすいので、使用後はすぐにふたをしめておかなければならない。バイオライナーの粉と液を付属の粉計量容器およびスポイトで計量後、付属の混和容器に入れる。粉液比は重量比で1.2:1.0である。練和時、気泡を入れないようにする。
粉と液を練和してある程度粘度が増した時点で(約1~2分後)、義歯床粘膜面に盛る(図49)。口腔内に挿入し、咬合させ、種々の機能運動を行う(図50)。バイオライナーの厚さ(約1~2mm)を確保するため、強く咬合させないようにする。直接法によるリライニングでは、軟質裏装材の厚さを適切に確保できるか否かが重要で、このステップが本術式のキーポイントといえる。約10分位経過すると硬化する。
硬化後、義歯を口腔内より取り出し、熱した器具などで余剰部分をトリミングする(図51)。なお未重合層を少なくするため、約60℃の温湯に5分間浸けておくとよい。通法に従い形態修正、研磨を行う(図52)。冷水に浸け裏装材表面を硬くしておくと、形態修正および研磨が行いやすい。なお硬化直後、本裏装材は少し粘着性があるので、研磨中裏装面に細かい削片が付着することがある。表面処理材を塗布するので必ず取り除いておく(図53)。バイオライナーサーフィスライナー(表面処理材)を全面に塗布する(図54)。塗布後、十分に乾燥させる(約15分位)。乾燥が不十分な場合、患者が苦味を感じることがあるので注意を要する。弱圧によるエアーで乾燥させると時間を短くできる。
現在、患者は咀嚼時の疼痛もなく、満足してバイオライナーを裏装した義歯を使用している(図55)。

症例2
  • [写真] 下顎総義歯(粘膜面観)
    図46 下顎総義歯(粘膜面観)。
  • [写真] 下顎顎堤は低く、骨吸収も高度である
    図47 下顎顎堤は低く、骨吸収も高度である。
  • [写真] サーフィスライナー(表面処理材)を均一に塗布する
    図48 サーフィスライナー(表面処理材)を均一に塗布する。
  • [写真] バイオライナーの粘度が上昇し、たれなくなった時点で、義歯に盛る
    図49 バイオライナーの粘度が上昇し、たれなくなった時点で、義歯に盛る。
  • [写真] バイオライナーを塗布した義歯を口腔内に挿入し、口唇突出、舌の運動や開口などの機能運動を行う
    図50 バイオライナーを塗布した義歯を口腔内に挿入し、口唇突出、舌の運動や開口などの機能運動を行う。
  • [写真] 熱した器具で余剰の材料をカットし、トリミングする
    図51 熱した器具で余剰の材料をカットし、トリミングする。
  • [写真] カーバイドバーで形態修正を行い、シリコンポイントなどで研磨する
    図52 カーバイドバーで形態修正を行い、シリコンポイントなどで研磨する。
  • [写真] 形態修正および研磨中に付着した削片はガーゼなどで取り除いておく
    図53 形態修正および研磨中に付着した削片はガーゼなどで取り除いておく。
  • [写真] 付属の筆でバイオライナーサーフィスライナー(表面処理材)を塗布する
    図54 付属の筆でバイオライナーサーフィスライナー(表面処理材)を塗布する。
  • [写真] バイオライナーで裏装した義歯
    図55 バイオライナーで裏装した義歯。

まとめ

新規に開発した軟質義歯裏装材を中心に“フィジオロジックデンチャー”について述べてきた。本システムは義歯患者のQOLの向上に寄与するものと考えられる。本稿が“フィジオロジックデンチャー”の臨床応用への手助けとなれば幸いである。

参考文献
  • 1) 濱田泰三、村田比呂司:デンチャーライニング. デンタルダイヤモンド社、2001.
  • 2) 村田比呂司、楢崎泰史、濱田泰三 他:アルコールを含有しないティッシュコンディショナーのゲル化中の動的粘弾性. 補綴誌43・102回特別号:46、1999.
  • 3) 村田比呂司、濱田泰三:アルコールを含有しないティッシュコンディショナーのゲル化直後の動的粘弾性. Dental Diamond, 26(8): 92-93, 2001.
  • 4) Murata H, Taguchi N, Hamada T, McCabe JF: Dynamic viscoelastic properties and the age changes of long-term soft denture liners. Biomaterials, 21:1421-1427, 2000.

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