会員登録

103号 AUTUMN 目次を見る

CLINICAL REPORT

Post Modern Dentistry 6 デンタル・ドック(Ⅱ) マルチメディア・デンタル・ドック(その3)

川村 泰雄

PDFダウンロード

目 次

マルチメディア・デンタル・ドック

ステップ2

デンタル・ドック・ステップ2は、以下の6セクションに分かれます。
セクション1
 ・スタディ・モデルによる共同検査
セクション2
 ・レントゲン画像による共同検査
セクション3
 ・咀嚼系咬合検査
 ・咬合系の筋肉触診検査
 ・咬合器による咬合分析
 ・下顎関節の検査
セクション4
  ・唾液腺・リンパ腺の検査、口腔粘膜の検査(口腔癌の検査含む)
セクション5
・歯周病の検査
セクション6
・歯牙及び審美の検査と分析
・唾液検査
今号では、セクション3「咀嚼系咬合検査」「咬合系の筋肉触診検査」について解説します。


  • 写真1

セクション3
咀嚼系・咬合検査

~かみ合わせについて~
口腔の健康とは、歯や歯周組織だけではありません。食物を咀嚼するのに必要なすべての組織・・・筋肉、T.M.J.、神経、骨、人体等々が健全に働いてくれなければなりません。この咀嚼系のある部分に何らかの原因で悪影響が及ぶと、歯や歯周組織のみならず、すべての組織の変形や機能異常に波及してきます。
☆口腔の健康を悪化させる原因の一つはカリエスや歯周病を起こす細菌ですが、もう一つの原因は、咬合ストレスなのです。
☆歯に過剰なかみ合わせの力がかかると、
①歯の動揺   ②歯の摩耗
③歯の知覚過敏 ④咀嚼筋の緊張
⑤T.M.J.の異常 ⑥歯根膜の破壊
⑦歯の破折   ⑧口の悪習慣
等が引き起こされます。
☆このように、歯や歯周組織、また全咀嚼系が過剰な咬合ストレスによって異常な影響を受けることになります。
したがって、組織の破壊が起こらない程度にまで咬合ストレスを軽減させる必要があります。歯列にかかる咬合ストレスと、下顎が咀嚼時に上下に動く運動をどのように調和させていくかが問題となります。
歯と筋肉とT.M.J.との生理的な調和を乱すようになると、咬合ストレスが生じます。もし、歯と関節及び筋肉との調和が乱れると、歯にストレスがかかり、咬耗してきます。もし、歯周組織の炎症があると、歯に動揺が起こります。歯周組織の破壊が進みます。
咬合ストレスがかかった歯は、支えている歯根の周りの大変鋭敏な固有受容神経がセンサーになり、脳の中枢に求心的に伝達され、脳より遠心的に下顎を動かす筋肉に指令されて、その歯に咬合ストレスがかからないように下顎の位置を変えるよう筋肉に働きかけ、そのストレスを回避するのです。
そのことにより、無理に下顎の変位を強いたその筋肉は疲労し、乳酸の代謝が悪くなり、筋肉の強直が起こることになります。
<M.M.D.D.(マルチメディア・デンタル・ドック)では、クライアントに咬合についての解説を行うためのアニメーションが用意されており、これをモニター画面で見ながら説明することができます>
特に下顎を前方に動かす度に位置を決める外側翼突筋が緊張します。その筋肉の緊張が他の閉口筋(内側翼突筋、咬筋、側頭筋)まで波及し、ついには口を開けることができなくなることもあります。強直が波及して、肩凝り、背中の痛みになり、また筋肉からの頭痛にも関連してくるのです。
☆また、下顎関節の円板と下顎関節頭との排列がずれることによって関節痛が起こり、関節が下顎を動かすごとに「クリック音」がすることになります。
このように、一本の歯による小さな咬合ストレスでも筋肉の機能は変化を起こします。
歯根膜にある神経筋機構は、もともと本来的には咬合ストレスのかかった歯を防護するためにあるわけです。
しかしながら、ストレスのかかった歯を守った結果として、他の正常に働いている筋肉などに悪い影響を与えることになるのです。頭痛、ついには肩などの姿勢を維持する筋肉まで悪影響を及ぼします。
このストレスは、破壊的なので、歯を摩耗させたり、耳痛、歯痛が起こります。特に一番よく起こる問題として、頭痛があります。
☆咬合ストレスによって歯の動揺があるとき、歯周組織に炎症がなければ、そのストレスを軽減させることにより動揺はなくなります。しかし、プラックによって歯周組織に炎症があるときは、咬合ストレスがかかることによって歯周組織が破壊され、歯牙の喪失につながる場合が多いようです。
☆歯の表面のエナメル質は身体で最も硬い組織です。一生涯咀嚼できるようにできているわけです。たとえ、加齢的に咬耗しても、下顎を動かす3つの筋肉(内側翼突筋・側頭筋・咬筋)は、働きをコントロールして、歯の上に食物が乗ったときの筋肉の収縮を最少にして歯の摩耗や破折の防止に働くのです。この機能が上手く働いている限りは、老人であっても歯列が整っていれば、そのエナメル質の咬合面は下顎運動に調和して摩耗していることが分かります。
上下の歯がかっちりかみ合っている状態、安定してかみ合っている状態、上下の歯が最大面積接触している状態を、中心咬合といいますが、その中心咬合接触と顎関節の生理的な働きとが調和しているときは、ほとんどの場合、歯の摩耗も少なく、動揺も起こらないのです。
☆身体のどの組織もそうですが、その解剖的な正しい位置にない限り、上手く機能しないものです。咀嚼系でも同じことで、咀嚼系のある部分に歪みが起こった場合でも機能して働かなければならないため、その結果無理が生じて咬合ストレスが発生し、異常な歯の摩耗が起こります。
☆咀嚼に関係する咀嚼器官は、咀嚼のほかに、飲む・吸う・嚥下する・呼吸する・微笑む・キスをする・唾を吐く・舐めるなどの働きをします。それと同時に重要な発声器官でもあります。
このように、顎口腔系(咀嚼系)全体というのは、その働きが本当に満足に行えるように、口・口唇・舌・頬・関節・筋肉・神経がお互いにその歯に対して高度に組織化された関係を持たなければならないわけです。それが充分な調和(シンフォニー)を演奏しなければならないわけです。機能がそのシンフォニーを演ずるには、筋肉や神経が緊張することなくリラックスしていなければならないのです。
・人間の身体というのは、全て力と力のバランスの上にあるといえます。細胞膜は細胞内液の浸透圧と細胞外液の浸透圧とのバランスにあるといえます。交感神経系は副交感神経系と平衡を保っています。体の中の全ての機能はその反対方向に働く力と平衡を保っているのです。これは、基本的な自然の法則であるのです。咀嚼系においても、それぞれの部分が緊張のないリラックスした状態にすることが重要な課題なのです。
ある歯に異常なストレスがかかった状態のまま咀嚼をすると、ちょうど靴の中に小石が入って困ったときと同じようなことが起こります。普通に歩くと痛いですが、しかし、つま先や踵だけを使って変な格好で歩くと、かろうじて歩くことができるでしょう。しかし、無理をして歩いていると、踝や脹脛、膝、腰、さらに背中の方まで筋肉が凝ってきて痛んできます。靴の場合は靴の中の小石を取れば解決しますが、かみ合せの場合、夜となく昼となく、苦しめられることになります。
その異常な咬合とは、
・歯が早く失われた場合
・歯の位置が変わった場合
・かみ合わせが低くなった場合
・義歯や充填物、金冠等のかみ合わせが悪い場合
・常にパイプを咬んでいる人
・ペンや鉛筆、爪等を咬む癖がある人
・片側だけで食事をする人
・下顎関節自体に病気のある人
・姿勢の悪い人
・職業以上の習慣
以上のような事柄が連鎖反応的に筋肉の緊張や痛みなどに波及してくるのです。
上顎の臼歯にかみ合わせの高い歯を入れたとします。すると、次々と以下のようなことが起こってくる可能性があります。
①歯が冷たい物、暖かい物に感じやすくなり、しみてきます。
  ↓
②歯が触れられると痛みを感じます。
  ↓
③歯が動いてきます
  ↓
④歯がすり減ってきます。
  ↓
⑤対合している下顎の歯がその高い部分を避けるように変位をします。そうして、他の歯にも摩耗が起こります。   ↓
⑥下顎が変位しますから、他の歯にも力がかかって動いてきます。
  ↓
⑦下顎が変位しますから、咀嚼筋が過度に活動し、緊張・痙攣が起こります。
  ↓
⑧筋が痙攣して口が開けにくくなります。
  ↓
⑨筋が緊張して、頭痛が起こります。
  ↓
⑩歯痛・筋肉痛・頭痛が加わります。
  ↓
⑪精神的な「うつ」状態になります。
  ↓
⑫下顎変位と筋の痙攣が加わって、下顎関節にずれが起こってきます。
  ↓
⑬下顎関節の円板障害と筋の痙攣が合わさって、顎関節が変性関節炎を起こすことになります。

T.M.D.検査についての見解( P. Dowson 及びPankey Instituteによる)

デンタルドックにおいて、T.M.D.(下顎関節症)についての検査も重要なポイントです。
T.M.D.は、
①咀嚼筋および関連構造体を含む筋の筋膜痛と機能障害。
②疼痛と機能障害の訴えを生じる顎関節内障。
③顎関節炎あるいは疼痛と機能障害で訴えを起こしている退行性変性。
が、挙げられます。
T.M.D.は、1つの原因を持つ単独の障害であるという単一病因ではなく、T.M.D.が咀嚼系の口腔機能システムに影響を及ぼしている障害の集合体であるということを理解する必要があります。
咀嚼系というのは、
・歯
・歯周組織
・頭蓋下顎関節
・下顎位置付筋肉など付属する筋肉
・舌
・口唇
・頬
・口腔粘膜
・関連する神経複合体
が、属します。
これらの問題について、歯科医は口腔科医(Oral Physician)として、咀嚼系の異常や疼痛がどのように相関関係があるかという検査診断を的確に行うことが重要であり、その検査診断の規格基準が重要になります。
近頃、T.M.D.と咬合の関係が否定される論議がありますが、その中では、顎関節の包内組織を包括的に評価もせず、また、正しい咬合分析も検査の手順に含まれず、社会精神的ストレスモデル(biopsychosial)として顔面痛を説明しています。
このような見地から、T.M.D.の患者さんの咬合との関係を否定する傾向があります。
しかしT.M.D.が、咀嚼筋痛を含むのであれば、偏位性咬合干渉が大いなる関係があるということは自明の事実です。このような意味からT.M.D.の検査の中で最大嵌合位と中心位の関係を観察することは大変重要なことなのです。
また、顎関節と歯の関係は切り離すことはできません。T.M.J.の構造的変化を考慮せずにT.M.D.の鑑別診断は不可能です。
咀嚼筋の異常、T.M.J.を含めた鑑別診断をすることは、歯科医の責任と言えます。
☆T.M.D.の問題を論じるには、
①その適切な顎関係の位置の定義。
②咬合と顎関節の構造的変化の定義。
が、必要な問題となります。
そして、咀嚼筋痛だけの問題とT.M.J.の急性退行性病変とを一緒にしないこと、また、円板偏位も完全偏位であるか部分偏位であるか、あるいは、関節そのものの変形なのか、を知る必要があります。
☆そのことのために、検査の重点は、
①正しい上下顎関係を検査すること。
②T.M.J.の包内組織の状態を検査すること。
③咬合干渉を精密に検査すること。
ということになります。
M.M.D.D.(マルチメディア・デンタル・ドック)では、以上の点を考慮し、アメリカフロリダのパンキー研究所の咬合検査法に従い、咬合検査を組み立てました。
歯科医は、全咀嚼系の内科医なのです。

咬合検査は、以下の順序で行います。
①インタビュー
②筋肉触診
③T.M.J.の検査
④咬合接触の検査
⑤アンテリアガイダンスの検査
⑥その他咬合

①インタビュー

「20の健康の質問」の中にも同じ質問が含まれていますが、再度確かめる必要があります。
その他に模型の共同検査時にも指摘した歯の咬耗の問題も、かみ合わせの不調和が原因であることを話さなければなりません。
咬合についてのアニメーションを見せ、その説明を行います(写真211)。

②筋肉触診写真1223

筋肉触診の順序
1. 頸板状筋
2. 僧帽筋
歯科医は立位でクライアントの背部より行います。
3. 胸鎖乳突筋
4. 咬筋
5. 側頭筋
6. 顎二腹筋
各々、左右側の筋肉を触診してその比較をし、圧痛の有無を入力します。
7. 外側翼突筋
8. 内側翼突筋
これらの筋は、口腔内より触診し、左右比較し、圧痛の有無を入力します。
このように、口腔内から遠い部位より触診を始め、だんだんと焦点を絞って口腔の方に移動していき、各部位の痛みが咬合の不調和に関係していることを患者にボディーイメージ(自分自身の身体に対する概念)として理解してもらいます。
そのためにも、口腔周囲にどのような筋があるか、患者に自覚してもらうことが大切です。例えば、咬筋や側頭筋の触診の際には、患者に顎を動かしてもらい、各咀嚼筋が動くのを自覚できるようにします。
(次回は、セクション3 T.M.J.検査)

  • [図] 咬合についての説明用アニメーション
    写真2 咬合についての説明用アニメーション。

  • 写真3

  • 写真4

  • 写真5

  • 写真6

  • 写真7

  • 写真8

  • 写真9

  • 写真10

  • 写真11
  • [図] 咬合と咀嚼関連筋との関係説明イラスト
    写真12 咬合と咀嚼関連筋との関係説明イラスト。

  • 写真13

  • 写真14
  • [写真] インタビュー時入力画面
    写真15 インタビュー時入力画面。
  • [写真] 筋肉触診時入力画面
    写真16 筋肉触診時入力画面(触診により圧痛がある部分に赤色のマークがつく)。
  • [写真] 頸板状筋・僧帽筋の触診
    写真17 頸板状筋・僧帽筋の触診。
  • [写真] 胸鎖乳突筋の触診
    写真18 胸鎖乳突筋の触診。
  • [写真] 咬筋の触診
    写真19 咬筋の触診。
  • [写真] 側頭筋の触診
    写真20 側頭筋の触診。
  • [写真] 顎二腹筋の触診
    写真21 顎二腹筋の触診。
  • [写真] 外側翼突筋の触診
    写真22 外側翼突筋の触診。
  • [写真] 内側翼突筋の触診
    写真23 内側翼突筋の触診。
  • [写真] 筋肉触診時の、ドクターとアシスタントの位置関係
    写真24 筋肉触診時の、ドクターとアシスタントの位置関係。

歯科共同検査システム:特願2000-272899
株式会社ホリス
有限会社デネットシステム 信田政義

参考文献
  • 1) Dowson.P.E. : Evaluation, diagnosis and treatment of occlusal problems, 2nd ed. St Louis : C. V. Mosby Co, 1989:28-39.
  • 2) Dowson. P. E.・Piper M. A. : Temporomandibular disorders and orofacial pain seminar manual. St Petersburg : Center for Advanced Dental Study, 1993.
  • 3) Dowson.P.E. : New definitions for relating Occlusion to varying conditions of the temporomandibular joint. J. Prosthet Dent, 1995.
  • 4) Dowson. P. E. : A classification system for Occusion that relates maximal intercuspation to the position and condition of temporomandibular joint. J. Prosthet Dent, 1996.
  • 5) Becker I. M., Tarantola G. J. : Parament of care: Temporomandibular Disorder. The Pankey Institute Level Ⅱ manual.
  • 6) Dowson. P. E. : Centric Relation. Continuum '80 Journal of the Pankey Institute.
  • 7) Mahan P. : Pathologic Manifestations of Occlusal Disharmony. “ContinuumⅡ”Journal of the Pankey Institute.
  • 8) The Pankey Institute : Introduction to the Pankey Philosophy & Techniques the Examination. Level Ⅰmanual.
  • 9) 川村泰雄:ホリスティックデンティストリーの実践,(株)クインテッセンス出版株式会社.
  • 10) Greene CS, Mohl ND, McNeli C, Clark GT, Truelove EL. Temporomamdibular disorders and science : a response to the critics, J. Prosthet Dent, 1998:80:214-5.

他の記事を探す

モリタ友の会

セミナー情報

セミナー検索はこちら

会員登録した方のみ、
限定コンテンツ・サービスが無料で利用可能

  • digitalDO internet ONLINE CATALOG
  • Dental Life Design
  • One To One Club
  • pd style

オンラインカタログでの製品の価格チェックやすべての記事の閲覧、臨床や経営に役立つメールマガジンを受け取ることができます。

商品のモニター参加や、新製品・優良品のご提供、セミナー優待割引のある、もっとお得な有料会員サービスもあります。