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104号 WINTER 目次を見る

WORKING GUIDE SERIES

よりよいモノを -What’s a EPRICORD-

山田 和伸

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目 次

はじめに

現在、歯科臨床において使用される前装材は一般的にポーセレンとレジンである。歯科用硬質レジンは、ポーセレンに比べて審美性、耐久性の面で課題を残しているものの、市場の要求に応えるべく改良・開発が進み、現在に至っている。物性の面では、丈夫な網目構造をつくりあげる多官能モノマーの採用、またフィラーを混入する複合化技術の向上によりレジン材である利点を最大限に引き出している。そしてポーセレンよりも高い操作性により磨きをかけ、高い作業効率を確立しつつある。
今回、クラレ社により開発されたニュータイプの歯冠修復用レジン・エプリコード(図1)は、前述したレジン材の流れのなかで、付加価値性の拡張をその特徴とした光重合型レジンである。

  • [写真] 新硬質レジン・エプリコードの全容
    図1 新硬質レジン・エプリコードの全容。

拡張された付加価値―性能とは何か?

1. 審美性

物性の改良による強度・耐摩耗性の向上で切端やコンタクト部の金属裏装が不要になった。
表面性状の安定性が増し、プラークの付着が低下し、カラーレス修復が可能となった。これらの利点は光をより多く取り込むことにつながり、高い審美性を発揮する。
そして、この特性に合わせ、基本色調再現性に大幅な改良が加えられ、天然歯の色調によりマッチングした修復が行えるようになった。
具体的には、
・薄い層での色調再現性に優れること。
今までの歯冠修復用硬質レジンは、オペークの色調設定とデンチンの透明性の設定が不適切であり、特に前装スペースが十分確保できない場合、指定のシェードより白っぽくなることが多かった。エプリコードは、これら硬質レジン特有の問題点を改善するため、オペークの色調とデンチンの透明性の最適化をはかり、一般的に築盛スペースが確保しづらい症例においても白っぽく、または黄色っぽく見えることが少ない(図2)。
・ポーセレンに近い質感をもつこと。
これまでの経験から、硬質レジンはポーセレンに比べて天然歯の色調に合わせることが難しいと感じている。これは、材料自体の屈折率や透明性などが影響していると考えられるが、エプリコードはフィラーの微細化などにより、従来の硬質レジンに比べてポーセレンに近い質感を有している。したがってポーセレンや周りの歯牙と調和しやすく口腔内で落ち着いた色調に見える。
・新しいシェードを追加したこと。
天然歯にはシェードガイドではカバーしきれない色調のものがあるが、その中でも比較的多く見られるものがピンク、オレンジ系の歯牙である。エプリコードでは、これらの色調の歯牙に対応できるようNPシェードを新たに加えている。
また、今後の審美修復でひとつの分野を築くであろうブリーチングに対応するため、NWシェードを用意した。
エプリコードは、これらビタシェードにない全く新しいシェードを加えることにより、色調再現の幅を大幅に拡大させている(図3)。

2. 操作性

ペーストの形態保持性が向上した。例えば、デンチン築盛時の指状構造がシャープに付与できるため、切端部のクリアーな透明感が容易に再現できるようになった。
このほか、予備重合時間の短縮が図られたこと、研磨性が見直されたことにより、作業効率が向上した。

3. 耐久性

デンチン・エナメルペーストにベースモノマーとして多官能モノマー(UTMA)を採用し、3元素フィラー(微粉砕無機フィラー、無機マイクロフィラー、有機質複合フィラー)を高い割合で配合したハイブリットタイプの光重合型コンポジットレジンであり、優れた機械的強度をもつ。
また、システム中の金属接着プライマー(オペークプライマー)と貴金属用にアロイプライマーを併用することにより、高い金属接着性を実現した。すなわち、割れにくく剥がれにくい前装冠の製作が可能となった。これら拡張された性能により、エプリコードは従来の硬質レジンとは一線を画し、新しい審美修復レジン材料として誕生した。
本稿では、アトラス形式によるエプリコードの基本的な技工術式と臨床への応用としてオペーシャスデンチンを使用したカラーレス前装冠の製作を紹介してみる。

  • [写真] 従来型硬質レジンとの比較
    図2 従来型硬質レジンとの比較。左がエプリコード。
  • [写真] NPおよびNWシェードガイド
    図3 NPおよびNWシェードガイド。

Ⅰ. 基本技工術式

最も一般的な前装鋳造ブリッジの例を用いて、製作手順を示してみる。
ここではサービカル、デンチン、エナメル、トランスルーセントを使った4層築盛法を採用した。

  • [写真] ワックスフレームの製作
    図4 ワックスフレームの製作。ワックスで歯冠形態を整えた後、前装する部分の窓あけを行う。エプリコードは、強度、耐摩耗性、金属接着性に優れるため、切縁・隣接部はレジンで回復する形態でよい。
  • [写真] メタルフレームの完成
    図5 メタルフレームの完成。維持には、リテンションビーズ150(松風社)を使用した。鋳造後、ビーズ球面の反面を削除した。この後、サンドブラスト処理、続いてスチーマー等で洗浄する。
  • [写真] アロイプライマー
    図6 アロイプライマー。チオン系接着モノマーとリン酸エステル系の接着モノマーを配合した金属接着性プライマー。貴金属合金のメタルフレームに用いる。
  • [写真] アロイプライマーの塗布と乾燥
    図7 アロイプライマーの塗布と乾燥。使用金属が貴金属合金の場合には、小筆で前装面に塗布後、自然乾燥する。
  • [写真] オペークプライマー
    図8 オペークプライマー。金属接着性を有するリン酸エステル系モノマーを含有し、オペークと接触すると化学重合してオペークの硬化を確実なものとする。
  • [写真] オペークプライマーの塗布・乾燥
    図9 オペークプライマーの塗布・乾燥。小筆で塗布後、エアーを軽く吹き付けるか、30秒放置して揮発成分を蒸散させる。
  • [写真] オペークの塗布(第一層目)
    図10 オペークの塗布(第一層目)。希望するシェードのオペークをごく薄く、フレームに押しつける感じで塗布する。塗布後、90秒間(αライトⅡN)光重合する。
  • [写真] ベースマテリアルによるポンティック部の穴埋め
    図11 ベースマテリアルによるポンティック部の穴埋め。ポンティックの前装スペースを揃える目的でベースマテリアルを築盛・重合する。
  • [写真] オペークの塗布(第二層目)
    図12 オペークの塗布(第二層目)。再度オペークを塗布し、メタル色を完全に遮蔽するとともに、色調のベースとして仕上げる。90秒間重合。
  • [写真] サービカルの築盛と重合
    図13 サービカルの築盛と重合。マージン部から想定される歯間長の歯頸部寄り4分の1に向かって薄くなるよう築盛し、20秒間予備重合する。
  • [写真] デンチンの築盛と重合
    図14 デンチンの築盛と重合。歯冠の基本的な色調を再現する部分、すなわち想定した歯冠長の3分の2は、形態修正分を見込んで多めに築盛し、20秒間予備重合する。
  • [写真] エナメルの築盛と重合
    図15 エナメルの築盛と重合。症例により多少異なるが、切端寄り3分の1から4分の1に薄く築盛し、20秒間予備重合する。エプリコードでは、エナメルの透明性と蛍光色に改良を加え、不自然な色調にならないよう調整してある。
  • [写真] トランスペアレントの築盛と重合
    図16 トランスペアレントの築盛と重合。これも症例によって異なるが、一般的には切端寄り4分の1から2分の1に築盛して表面を覆う。本ケースでは中切歯は4分の1、側切歯は2分の1の被覆量である。
  • [写真] 最終重合
    図17 最終重合。コンタクト部分にトランスペアレントを築盛した後、3分間(αライトⅡN)最終重合を行う。
  • [写真] カーバイドバー、カーボランダムポイント、シリコンポイント等で歯冠の外形と表面性状を調整する
    図18 カーバイドバー、カーボランダムポイント、シリコンポイント等で歯冠の外形と表面性状を調整する。
  • [写真] ミニサンドペーパーコーンやシリコン等で表面の状態をスムーズに仕上げる
    図19 ミニサンドペーパーコーンやシリコン等で表面の状態をスムーズに仕上げる。
  • [写真] 1列ブラシにて表面性状を調整しているところ
    図20 1列ブラシにて表面性状を調整しているところ。
  • [写真] 研磨材(P-マルチソフト/モリタ東京製作所)を使用し、ロビンソンブラシにて艶だし研磨を行っているところ
    図21 研磨材(P-マルチソフト/モリタ東京製作所)を使用し、ロビンソンブラシにて艶だし研磨を行っているところ。
  • [写真] 布バフ等で艶だしをしているところ
    図22 布バフ等で艶だしをしているところ。
  • [写真] 完成
    図23 完成。
  • [写真] 完成したエプリコード前装ブリッジとノリタケシェードガイドの比較(色調A3)
    図24 完成したエプリコード前装ブリッジとノリタケシェードガイドの比較(色調A3)。

Ⅱ. 臨床への応用

エプリコードでは、物性の改良により表面性状の安定性が増し、カラーレス修復が可能となった。
本症例はいずれもカラーレス修復法を採用し、またメタルバッキングの位置を後退させて最新の審美に対する高度な要求に応えようとしたたものである。

症例1 上顎右側中切歯および側切歯をエプリコードにて修復する症例

  • [写真] 術前の状態
    図25 術前の状態。中切歯部にはセラモメタルクラウンが、側切歯部に硬質レジン前装冠が装着されていた。
  • [写真] クラウン撤去後、再度支台歯形成を見直し、唇側歯頸部にはショルダーを付与
    図26 クラウン撤去後、再度支台歯形成を見直し、唇側歯頸部にはショルダーを付与した。
  • [写真] オペークの塗布・重合
    図27 オペークの塗布・重合。フレームのマージンを少し越えてオペークを塗布する。このとき、作業前にマージンセップを塗布しておく。
  • [写真] サービカルの築盛・重合
    図28 サービカルの築盛・重合。本ケースではCE1を石膏模型のマージンから、想定される歯冠長の3分の1に向けて築盛した。
  • [写真] デンチンの築盛・重合
    図29 デンチンの築盛・重合。指状構造を付与し、クロマゾーンステインにてキャラクタライズした。
  • [写真] トランスペアレント・エナメルの築盛
    図30 トランスペアレント・エナメルの築盛。トランスペアレントは指状構造の周囲にのみ築盛し、その後全体をエナメルで覆った。
  • [写真] 形態修正・完成
    図31 形態修正・完成。
  • [写真] 術後の状態
    図32 術後の状態。周囲の天然歯とよく調和した修復が行えた。

症例2 上顎中切歯2本の症例を用いてセラモメタルクラウンとの色調の調和をみたケース

  • [写真] オペーク・サービカルの築盛・重合
    図33 オペーク・サービカルの築盛・重合。右側中切歯はポーセレン(ノリタケAAA)、左側中切歯はエプリコード。ここまでのエプリコードの築盛は症例1の図2526に準じた。
  • [写真] デンチンの築盛・重合
    図34 デンチンの築盛・重合。ポーセレン側はA2B、E2を使用、エプリコード側はデンチンDA2のみ使用した。キャラクタライズにはそれぞれインターナルライブステイン、クロマゾーンステインを内部ステインとして用いた。ごく僅かなマメロンの着色と隣接部のホワイテイッシュなエリアを表現するにとどめた。
  • [写真] 形態修正・完成
    図35 形態修正・完成。
  • [写真] ビタシェードガイドとの比色
    図36 ビタシェードガイドとの比色。写真右がエプリコードによる前装冠、左がAAAによるセラモメタルクラウン。
  • [写真] 術後の状態
    図37 術後の状態。上顎右側中切歯がAAAによるセラモメタルクラウン、上顎左側中切歯はエプリコードによるレジン前装冠。口腔内においてセラモメタルクラウンとも色調のマッチングがはかれた。

おわりに

人工材料による優れた審美性の回復は、補綴治療の大きな目的のひとつである。従来の硬質レジンでは色調再現に限界があり、口腔内において天然歯の明るく、透明感のある歯を再現することが難しかった。エプリコードでは理解しやすいシステムとその性能を誰でも引き出すことができる簡便性により、高度な色調再現を可能にした。この拡張された性能は、日々の臨床をあらゆる意味で楽しくするのではないかと思う。

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