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1ステップボンドの特徴と臨床応用 -クリアフィルトライエスボンドによる最新の接着修復-

佐野 英彦/田上 順次/宮崎 真至

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■目 次

[写真] 佐野英彦 北海道大学大学院教授 / 田上順次 東京医科歯科大学大学院教授 / 宮崎真至 日本大学歯学部講師

近年、我が国の接着技術の進歩は目覚ましいものがあり、最近では、操作が簡便化されたいわゆる1ステップボンドが注目を集めている。各社が競って1ステップボンドを市場に送り出している中、世界の接着をリードするクラレメディカル社から、待望の1ステップボンド「クリアフィルトライエスボンド」が発売された。従来の1ステップボンドは操作性のみが重視され、接着性の面において2ステップに匹敵する信頼性はなかった。この度登場した「クリアフィルトライエスボンド」は、操作の簡便さを追求するとともに、MDテクノロジーによるボンドの均一性の向上と優れた接着耐久性を実現している。今回は、長年にわたり接着修復に積極的に取り組んでこられた田上順次先生、佐野英彦先生、宮崎真至先生をお迎えし、その特徴と臨床応用について、貴重なお話をお伺いした。

■世界の接着をリードするクラレの技術

田上この度、クラレメディカル社から発売された「クリアフィルトライエスボンド」という新しい1ステップボンドについて、佐野先生と宮崎先生のご意見を伺うということで今日は楽しみにしております。
さて、接着材の歴史を見ますと、いろいろ変遷がありましたが、私自身はクリアフィルボンドシステムFの頃から評価と開発に関わっているものですから、クラレの接着材の開発の歴史を振り返りながら、話を進めさせていただきたいと思います。
当初からエナメル質の接着に関しては特に問題はなく、象牙質接着の歴史が接着材開発の流れだったといえるでしょう。
クラレ社では、まず最初のステップとして、象牙質のリン酸エッチングと「フェニールP」という接着性レジンモノマーの導入ということがありました。
その後、次のステップとして、より接着性に優れる接着性レジンモノマー「MDP」の開発や光重合の採用により、接着強さがそのたびに倍増するという画期的な進展がありました。
さらに、プライマーが開発され、それがクリアフィルライナーボンドの商品化につながりました。プライマーの開発は大きな転換点だったと思います。
その時点では、象牙質の接着はこれ以上は不可能ではないか、というようにさえ思えたのですが、今度はセルフエッチングプライマーというものが開発されました。これも非常に大きな変革点だったと思います。
そういった流れの中で、接着性レジンモノマーがエッチングもできるということであれば、セルフエッチングのボンドをつくりたいというのは誰もが考えることです。
今、オールインワンあるいはセルフエッチングアドヒーシブといわれる1ステップボンドが各社から発売されています。ただ、製品の特徴として、操作性などが重視され、肝心な接着の点では従来の2ステップのような信頼性は得られていません。
臨床の場でどれぐらい使われているかということになると、現状ではそれほど多く使われているわけではないようです。
佐野私が接着に興味を持ったのは90年代の半ばなのですが、ちょうどそのころ、最初のクラレ社のセルフエッチング接着システムが世に出て、もう一方ではウエットボンドの流れがありました。
90年代後半は日本のセルフとアメリカのウエットがどう展開していくのかに興味がありましたが、各種試験法で初期の接着強さは差がないという評価でした。
ところで、私は縁があって北海道に移ったのですが、東京のように情報が多く入らないので、じゃあ、とりあえず市販の製品で接着させて1年ぐらい放っておいたらどうなるかを見てみようと…。そうすると、ウエットとセルフで随分違う挙動が出てきました。
特にウエットボンドでは試料によっては接着界面が全部なくなってしまうという結果が出ました。これはセルフエッチングの方向に走らなきゃいけないということを確信したのが2000年頃です。
そうこうしているうちにセルフという言葉が広がりましたが、現在、セルフと言っても、何をもってセルフと言うのか、非常に曖昧になっています。
論文を書く場合においても、その混乱があると思います。アカデミックの世界でも混乱しているということは、一般の臨床の方々はもう訳が分からないんじゃないでしょうか。
1ステップボンドも含めて、セルフって何物だ? ということをもう一度見直すべき時期に来ていると思います。
田上そうですね。セルフというだけで、アメリカの名前の通った研究者でさえも1ステップと2ステップを混同しているようなところもありますし、さらに、セルフという言葉で括ってしまうために、むしろ本当にいいセルフエッチングの製品が悪く誤解されているという面もありますね。
耐久性に関しては、リン酸エッチングやウエットボンディングにはまず戻らないだろうというのが我々の一致した考えだと思うのですが、それでもヨーロッパの一部の国では、またリン酸エッチングに戻ろうという動きもあるそうです。
宮崎確かに、接着の歴史というのをしっかりとまたここで捉え直す必要があると思います。それはどういうことかというと、1ステップ、2ステップ、3ステップと多くの材料が市場にあふれかえって、ややもすれば臨床家の先生たちの混乱を招いているのが現状だと思うのです。
そういった臨床的な混乱の背景を考える時、世界の接着をリードしてきたクラレの技術と製品を当初から振り返ることによって、接着の歴史、開発の方向性というものがより良く理解できると思います。
また、そういったことを臨床家の先生たちにも提示していくことが、セルフエッチングとは何なのか、あるいはリン酸を使うということはどういうことなのかを理解していただける早道ではないでしょうか。
田上そうですね。そこで、最近の傾向として接着システムの操作がどんどん簡単になって、1ステップを謳う製品が各社から出ています。操作が簡便化されるということで、当然臨床上の利点が出てきますが、一方では欠点が…。
宮崎1ステップというのは臨床家の先生方にとって耳障りがとてもいいと思います。やはり忙しい臨床をされている先生にとっては、1ステップの接着材は当然あってしかるべき製品であり、また、患者さんのためを思っても待ち望まれていたんだとは思います。
その一方で、やはり使い方が難しいのかもしれないということを実験等を通して感じることもあります。

■材料の特性を引き出すためのテクニック・センシティブ

田上順次
田上宮崎先生はテクニック・センシティビティーという視点でいろいろ検討していらっしゃいますが、1ステップのトライエスボンドと従来のものとの違いはどんなところにあるのでしょうか。
宮崎もちろん、処理時間等々の基本事項を守っていけばいいわけですが、一番問題なのがアドヒーシブ(ボンド)を塗布した後のエアーブローをどういうふうにするのかということですね。今までの製品はボンド層を大事にするためにエアーをスーとかけていたのですが、トライエスボンドではエタノールと水を確実に蒸散させるために、比較的強めのエアーをかけていく必要があります。
臨床家の先生方には今までとは発想を変えていただかなければいけません。そういった材料の特性を引き出すための操作法のコツを臨床家の先生方に正しく伝える必要があると思います。
ただ、トライエスボンドは確かにエアーブローという条件は必要ですが、他社の1ステップの製品のように、塗布の間、歯の表面をこするようにしなさいとか、製品によっては2回塗布しなさいという、1ステップであるにもかかわらず副次的な操作を要求している製品に比べると、テクニック・センシティブな要素は比較的少ないのではないかと思います。
田上強めのエアーブローがトライエスボンドの特性を引き出す重要なポイントだということですね。また、そのエアーブローの際、バキュームでしっかり吸引しながら行うというようなことも、患者さんにやさしい治療を提供することにつながるようです。
ところで、佐野先生は接着耐久性の面から見て、今の1ステップボンドの問題点というのはどんなところにあると思いますか。
佐野1ステップボンドは、宮崎先生のおっしゃるような2回塗りとか、強いエアーブローが実は接着耐久性に大きく関係してくるのです。それぞれの製品の良さを出すというテクニックが案外難しいのです。
それと、現時点で何種類かの1ステップの製品を調べていますが、製品間にけっこう接着力の差が出ているというのは事実です。
田上そうすると、1ステップということで製品を分類して括るというのはかなり無理があるということですね。やはり組成の問題というところですか。
佐野一つに組成の問題、もう一つはスメア層の性質によって、そこにある水分がボンドの中に入って相分離を起こし、その部分はよく硬化しないので、長期には劣化しやすくなると考えています。
宮崎1ステップの製品自体がもともと水を含んでいなければいけない、酸性モノマーも含んでいなければいけないという、レジンとして硬化するためには悪い環境ではあるかと思います。トライエスボンドでは、ある程度水の影響を受けながらも、また酸性の環境でも薄膜でしっかりと硬化するという技術、親水性モノマーと疎水性モノマーとを分離させないMDテクノロジーという技術が開発、導入できたことによって、新しい1ステップの接着材として発売にこぎつけたわけですね。

■マイクロフィラーを高配合薄膜で高強度のボンド層を形成

佐野英彦
田上今回のトライエスボンドは、1液タイプの利点が本当に生かされているのでしょうか。
宮崎今までの接着材とは違った捉え方として、やはり薄膜をつくらなければいけないということが肝要であると思うのです。
実際の臨床を考えると、ボンド層が薄いということは、審美的な面で利点が大きいことだとは思います。また逆に、薄膜にするということで、接着材がちゃんと塗布されているかどうか、エアーで接着材が飛ばされるんじゃないかという不安も出てきます。でも、トライエスボンドの場合はマイクロフィラーを高配合することによって、しっかりとエアーブローした面でも確実にボンド層が残ります。
田上セルフエッチングだと流れがよすぎて、塗布しても必要な量が十分エッチングに必要な時間とどまってくれないというようなこともありましたので、どうしても何度か追加しながら大量に塗布するということが必要でした。
今回のはフィラーも高配合されて、塗布もしやすいのでしょうね。
宮崎そうです。もう一つは、アセトンを溶媒に使っているタイプの接着材は、塗布できているのかな? という不安がありますけれども、トライエスボンドの場合はエタノールを使うことによって、実際に塗布された面を確認できるという、臨床上の不安も払拭している製品だと思います。
田上そうですね。アセトンは容器から出して置いておくだけでもう既に成分が変わってくるという問題もありますし、口の中で塗布して、指示されている処理時間の間にどんどん揮発してきて、飛ばそうとしても、もうほとんど乾いてしまっているということもあります。そういう意味では、エタノールのほうが臨床で使いやすいということですね。
佐野最近、レジンもコンポジットも随分発達してきまして、学生にやらせてもきれいな修復ができるんですね。
ところが、薄くできない接着材の場合、例えば4級修復できれいに切縁ができても、ボンディングのカラーが出てマージンがめだってしまうことがあります。
トライエスボンドなら、そういうことはまずないであろうというところで、学生実習等に向くんじゃないかと思っています。
田上学生実習に向くということは、臨床家にとって使いやすいということですね。
宮崎メガボンドとの比較で思ったのですが、補綴の先生にメガボンドを薦めたところ、その先生が「あのボンドの厚さは許せないんだ」と。それを考えると、トライエスボンドは非常に薄いボンド層で、しかも、耐久性が高い。
これから補綴の先生も今までのように削って被せるという治療から、レジン充填をもう一度見直してもらう一つのきっかけとして、こういった薄いボンド層の製品を活用していただきたいですね。
田上私もレジンセメントの接着にはまだまだ改良の余地があると思っています。例えばクラパール、あるいはパナビアなどにうまく応用していけば、レジンセメントのもっと信頼性の高い接着が生み出せる可能性があると思います。
薄膜に関連するのですが、従来ですと、X線写真にボンド層のラインが入るということがあります。分かっていればいいのですが、他の診療室で撮った写真の場合、気になるとおっしゃる先生もいらっしゃるようですが…。
宮崎特に小児領域の先生で、乳歯を大切にしたいという先生は、こういった薄膜ボンドというのはX線にラインが入りませんから、大きい利点になるのではないかと思います。
田上利点といえば、今回の製品開発にあたってはいろいろな種類の照射器に対応できるような配慮がなされています。
宮崎照射器市場を見ると、2、3年前のプラズマ照射器のブームから、今はLED照射器のブームです。ハンディでコードレスで使えて、臨床家の要望にマッチした照射器だと思うのですが、残念ながら波長域の幅が狭い。ある種のボンディング材は硬化しないという問題があったのですが、トライエスボンドはLEDはもちろん、ハロゲンでもキセノン系の照射器にも対応しています。やはり臨床家の要求に応えながら技術をステップアップさせるということは大切ですね。

■2ステップボンドに迫る初期接着性と優れた接着界面による長期接着耐久性

宮崎真至
田上ところで、肝心の接着のほうはどうかということになるのですが、学会発表等では基本的な性能はある程度評価されていますが…。
佐野世界のゴールデン・スタンダードと言われているクリアフィルAP-Xやクリアフィルメガボンドという製品がクラレ社にあるのですが、世界中の製品はその接着強さにどれだけ近づくかという形で開発されています。
今までの多くの1ステップボンドの接着強さは、私共のデータではメガボンドの半分から6割ぐらい、最近の製品で7割弱のデータしか出ていません。一方、トライエスボンドは8割から9割ぐらいの接着強さが出ています。これは、ほかのメガボンド以外の2ステップ、あるいは4-META系の製品と比べても、より高い値が出ているということで、相当なところまで基本的な接着強さは初期の段階で出ていると言えると思います。
田上そうですね。私も「2ステップのセルフエッチングがいま一番信頼性が高いんだよ」という話をしますが、実は2ステップのセルフエッチングでもかなりの差があります。製品によってモノマーが違うし、触媒も違うし、成分もみんな違うわけです。だから、そういうものの総合的な結果として接着性能というのがあるわけです。あまり分類してしまうと研究者も臨床家も混乱するんじゃないかと思うのです。宮崎先生のところの接着性能の評価は、あえて従来型の接着試験で、とても分かりやすい結果が得られていましたが…。
宮崎最初に出始めのころの接着材は2~3メガパスカル、プライマーが出てきて7~8メガパスカル。次にセルフエッチングプライマーが出てきて15~20メガパスカルとどんどん高くなって、本当にいいことだと思っていた時期もありました。もちろんトライエスボンドもトップクラスに入る接着強さを示しています。
しかし、ほかの製品と比べて数字が高いことがすべてではないと、最近思い始めてきたんです。というのは、例えば中程度の接着強さであっても、口腔内で何年間かもつという臨床的接着強さというものを考えた時、まあ、十分であると。そういったことを考えると、接着強さというものに対しても、もう一度見直すことも必要なのかな、というのは感じています。
田上そうですね。そうすると、メガボンドの8~9割の初期接着が得られるのであれば、一般的な臨床例でそれほど問題はないんじゃないか、という予測は大体つきますね。例えばクリアフィルライナーボンドⅡと比較して、ほぼそれに匹敵するぐらいというふうに理解してもいいかなと思いますね。耐久性はどうでしょうか。
宮崎今まだ実験の途中ですが、温熱負荷試験をすると、ほとんどの製品が劣化傾向を示すようです。温熱負荷試験自体は歯が劣化しているのか、ボンディング材層が劣化しているのか、という問題はありますが、このトライエスボンドに関しては接着強さが向上していくという結果が出ています。
田上メガボンドは初期接着で最高ですが、トライエスボンドは接着耐久性の点で優れているということですか。
佐野私たちはいわゆる樹脂含浸層みたいなものがあり、時として、そこが接着の弱点になるという立場にあります。樹脂含浸層を脱灰して、そこにアパタイトの代わりにレジンを流し込もうと思っているのですが、そこのレジンはどうもよく固まらなかったりして、抜けてしまうと。その全てが齲蝕になるわけではないんですが、そういう欠点が歯の中にあるとまずいんじゃないかということで、脱灰を極力しないほうがいいと考えています。
トライエスボンドの接着性モノマーMDPは、in vitro の実験によりますと、歯のカルシウムと非常に速いスピードで水に溶けにくい結合をするということなので、もしそういうものが歯の界面にできれば、それが歯を守るであろうと思われます。ですから、アパタイトを残す、歯をあんまり脱灰しないほうがよいというのは、そこの発想から出てくるわけです。
トライエスボンドは、現時点のTEM写真ではコラーゲンが見えないような界面をつくりますので、かなり強い界面じゃないかと思います。似たような界面を出す製品が他にもあるのですが、界面はいいが、ボンドが水泡状の構造物を形成するということでダメなのです。トライエスのボンドは相分離を起こしませんから、長期接着耐久性は期待できると思います。
田上中林宣男先生が樹脂含浸層という概念を打ち出されたとことは、本当に我々日本の歯科界が誇る素晴らしい業績です。
樹脂含浸層というのは脱灰された象牙質、つまり、コラーゲン線維とレジンとのハイブリッドだということで、従来もその層の中にアパタイトの残っている部分も多少あったのでしょうが、その部分の役割は十分には理解されていなかったということですね。
材料も変わり、接着界面も違ってきているということからすると、中林先生の理論を基盤にして、我々や次の世代が新しい接着の機序解明をしていかなければなりませんね。
佐野先生がおっしゃった、MDPモノマーの性能がほかのものとかなり違うということ、それから、MDテクノロジーという疎水性の部分と親水性の部分との混合技術ということがあって、うまく歯質にしみ込みながら、しかも、硬化したものが丈夫なので、より安定な樹脂含浸層になるというわけですね。
宮崎私も実験をしていて、MDPというのはやはりすごいなというのを改めて感じました。MDPを入れたプライマーと歯質とを混ぜると、象牙質と反応して沈殿物をつくるのです。
田上以前からMDPの性能がいいことは分かっていましたが、接着界面に関する分野が進んで、いろんなことが分かってきたのですね。
もう一つ、スメアは取らないと接着しないということになっていましたが、本来の接着が優れていれば、スメアがあろうがなかろうが、そんなことはどうでもいいことです。
そういう意味でどんどん接着の理論というのは材料とともに変わっていかなきゃいけないし、我々も勇気を持って、そういうことを言っていかなきゃいけないと思います。
佐野それに付随して、エナメル質の接着に対してリン酸エッチングしろ、という先生がいらっしゃいますが、それも使うモノマーによってかなと。
MDPを使っているボンドなら、その必要はなさそうです。ボンドの種類、成分によって、エナメルに対する対処も違ってくると思うのです。
田上そこでまたエナメルの接着についての理論というのも変わってくるわけですね。
今のところ、エナメルの接着は蜂の巣状のエッチングパターンがないといけないということになっているのですが、メガボンドの接着では、そういった蜂の巣状のパターンができなくても、よく接着しています。むしろ強いエッチングのほうがかえって歯質が弱くなって簡単に壊れてしまいます。
宮崎エナメル接着というのは、例えば私が学生時代に教科書に書かれていたのは、40%の正リン酸で60秒間エッチング。それが30秒になって、いつの間にか15秒になりました。
臨床家の先生はリン酸でエッチングをして、水洗、乾燥した白いものを見るというのがやはり金科玉条に大切なんだとおっしゃいますけれども、実際のところ、そんなにデコボコしたエッチング・パターンをつくらなくても、歯にくっつく組成物があれば、特にセルフエッチングプライマーでも問題ないのではないかということですね。
田上そうすると、エナメルの接着というのも、削っていないエナメル質面だけにはリン酸エッチングが必要という状況ですね。
宮崎そうですね。必要最小限のエッチングで済むセルフエッチング・タイプというもので臨床的にも問題はないですし、逆に研究室の結果を見ると、そのほうが耐久性もいいのではないかと、最近は感じるようになってきました。
田上ただ、いいぞ、簡単だぞとあまり言うと、臨床の場ではつい誤解されてしまって、これをただ塗って固めればいいんだというふうに伝わることがあります。
1ステップになっても、それぞれの操作が接着のどういう役割を果たしているかという基本的な部分というのはきちんと押さえないと、ひどい結果になるということもありますね。
宮崎1ステップを使う臨床的な環境は、小児や高齢者など短時間で治療を終えたい患者さんに適しているといえます。
今後、こういった患者さんに対しては、薄膜ボンド+フロアブルレジンという充填方法がスタンダードになるのではないでしょうか。
佐野そして、ボンド層が厚いのが好きな方や臨床家として万全を期したい方は2ステップを選択していただく。要は2種類の接着材を用意して用途に応じて使い分けていただくのがいいのではないでしょうか。

■患者さんの問題解決という視点で新しい接着技術を開発する

田上最後に、今回こういう信頼性の高い新しい接着材が開発されたことで、今までの修復治療の質も良くなるわけですが、従来の方法とは違った新しい治療法が出てこないものでしょうか。患者さんの問題解決という視点で見れば、もっといろいろな使い方が出てくるような気もするのですが…。
宮崎近い将来にもう少し積極的にかかわっていかなければいけないのは、根面露出に対する何らかのプロテクトだと思います。
高齢の患者さんがより健康な口腔内状況を維持するために、こういった接着技術と何らかの生物学的な活性を持ったものがミックスされた1ステップの根面被覆材のようなものは恐らく近い将来必要になってくると思われます。
さらに、根面露出に伴って歯周初期治療を行うと、セメント質が除去されて、象牙質が出て、かなりリスクが高くなります。それを考えると、根面被覆材というよりも、もっと積極的に人工セメント質のようなものを接着技術によってつくっていくというのも、将来の目標になってくるんじゃないかと思います。
佐野私が欲しいなと思うものは、歯周病などによる歯肉の退縮に対応できるものですね。今、歯に接着する技術は随分進歩してきましたので、その技術の上に何か生物学的なものを付加して、歯肉と付着するようなものができたら、今のフラップ手術とかも随分違ってくるんじゃないかと思います。
田上齲蝕にしても歯周病にしても、初期の段階で我々にできることがもっとあると思います。一見、健康に見えるけども疾患の予備軍という人を対象に我々が提供できる医療を考える時代でしょうね。
最新の接着技術や先生方の要望を実現するために新たに開発されるであろう新技術を駆使すれば、かなり違った歯科医療の展開というのが見えてくるという気がします。
本日はありがとうございました。

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