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118号 SUMMER 目次を見る

CLINICAL REPORT

歯槽骨再生のための新GTRテクニック

児玉 利朗/岩崎 由美

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■目 次

■はじめに

歯周疾患により高度な歯周組織の破壊を伴う歯牙に再生療法を実施する場合少なくとも骨再生量70~80%ぐらいを目標に実施したいが、広範な骨欠損になれば予知性は低下し臨床での応用が疑問視されている。その根拠として骨欠損の性状と予知性からコンセンサスを考慮すると、骨内欠損では①骨欠損の幅が3mm以内、②骨欠損の深さ4mm以上、③骨欠損形態2~3壁性、④歯肉の厚さ1mm以上、根分岐部病変では①FⅡ(水平的貫通3mm以内)、②fornixから骨欠損縁まで2~3mm以内、③骨欠損形態は骨内欠損、④十分なルートトランク、⑤歯肉の厚さ1mm以上とされている。
さらに、骨内欠損におけるePTFE膜によるGTR法の治癒パターンを見ると、良好例15%(骨再生率70~80%)、典型例75%(骨再生率50~60%)、不良例10%(骨再生率0~30%)と報告されており、付着獲得量はある程度認められるものの骨再生率は十分とは言いがたいのが現状である1)
ところが実際の臨床においては、上記コンセンサスで記載したような限局した骨欠損よりは、むしろ広範な骨欠損の対応を実施しなければならないケースが多い。
結論として、再生療法において支持骨量を積極的に増大させるとともに広範な骨欠損をも対応できるような適応症拡大が最も望まれていると考えられる。
適応症拡大には膜単独のGTR法の術式に、複合的な術式やテクニックの付加が必要となる。すなわち、そのためには膜自体の改良開発、有効な分化成長因子の開発、スペース確保のための新素材の開発等が考えられるが、今後の迅速な研究開発が望まれるところである。
現時点で確実な適応症の拡大ならびに骨再生量の増大には、自家骨を応用したGTR法が最も有用と考えられる。これまでの私の研究報告では、自家骨移植もしくは有茎骨移植を併用したGTR法では70~80%の骨再生とそれに伴う歯肉退縮の防止を認めている2)
この結果の背景には、適応症の検討以外に再生療法を確実にするために再生環境の整備として、術部の角化歯肉が十分あることは当然のことながら、咬合性外傷が除去された適正な咬合状態の確保、さらには術前術後の歯周病関連性細菌量の抑制も非常に重要な要因として捉えなければならない。
そこで、本稿では私の開発したアテロコラーゲン吸収性GTR膜(ティッシュガイド:株式会社高研社製)を応用した歯槽骨再生のための新GTRテクニックを紹介することにする。

  • [写真] コーケンティッシュガイド
    コーケンティッシュガイド

■症例1

患者は24歳女性で、臼歯部の歯周病を主訴として来院した。診査診断の結果、臼歯部に限局した咬合性外傷を伴った侵襲性歯周病と診断した。特に45番歯においては、根尖レベルまでの歯周組織の破壊進行が認められた。基本治療終了後、同部の自家骨移植を併用したGTR法を実施することにした。プロービングデプスは遠心部で8mm、動揺度1度であり、X線所見では高度の垂直性骨欠損が認められる(図1a1b)。
術中の所見では、根尖レベルで3壁性成分を含んだ広範な2壁性骨欠損であり、頬側の骨レベルはCEJから10mm根尖の位置に認められた。骨欠損の最深値は舌側残存骨より8mm、幅は5mmであった(図1c)。このような広範な骨欠損は、GTR法のみの対応では予知性が低く、さらには骨の再生量も十分得られないため自家骨移植の併用法とした。自家骨は、同手術部のレーマス部よりトレフィンバーにて採取したものを細片にして骨欠損部に移植した(図1d)。
その後、ティッシュガイド(ファンラージタイプ)をトリミングして骨欠損部が完全に被覆されるように根面に結索固定し(図1e)、歯肉弁の復位縫合を行った(図1f)。術直後のX線所見では、移植された自家骨がX線不透過性に観察された(図1g)。
術後は良好な治癒経過を示し、術後3年の口腔内所見では45番歯遠心部の歯肉退縮量は1mm、プロービングデプスは3mm、アタッチゲインは4mm認められた(図1j)。同部X線所見では、垂直的に約4mm程度の骨の再生が認められ、歯槽骨頂外形は水平性に観察される(図1i)。

  • [写真] 基本治療終了後の口腔内所見
    図1a 基本治療終了後の口腔内所見で、45番歯遠心部でプロービングデプスは8mm、動揺度1度であった。
  • [写真] X線所見
    図1b X線所見では根尖レベルまで高度の垂直性骨欠損が認められた。
  • [写真] 術中の所見
    図1c 術中の所見では、根尖レベルで3壁性成分を含んだ広範な2壁性骨欠損であり、頬側の骨レベルはCEJから根尖側10mmの位置に認められた。骨欠損の最深値は舌側残存骨より8mm、幅は5mmであった。
  • [写真] 自家骨移植の併用のGTR法を実施
    図1d 自家骨移植の併用のGTR法を実施した。自家骨は、同手術部の頬側レーマス部よりトレフィンバーにて採取したものを細片にして骨欠損部に移植した。
  • [写真] ティッシュガイド(ファンラージタイプ)を骨欠損部が完全に被覆されるようにトリミングして根面に結索固定
    図1e ティッシュガイド(ファンラージタイプ)を骨欠損部が完全に被覆されるようにトリミングして根面に結索固定した。
  • [写真] 手術終了後の口腔内所見
    図1f 手術終了後の口腔内所見。
  • [写真] 術直後のX線所見
    図1g 術直後のX線所見では、移植された自家骨がX線不透過性に観察された。
  • [写真] 術後3ヵ月後のX線写真
    図1h 術後3ヵ月後のX線写真では、術前(図1b)に比較して骨欠損底部において明らかな骨再生が認められた。
  • [写真] 術後3年のX線所見
    図1i 術後3年のX線所見では、垂直的に約4mm程度の骨の再生が認められ、歯槽骨頂外形は水平性に観察される。
  • [写真] 術後
    図1j 術後は良好な治癒経過を示し、術後3年の口腔内所見では45番歯遠心部の歯肉退縮量は1mm、プロービングデプス3mm、アタッチゲイン4mm認められた。

■症例2

53歳男性、主訴は23番歯の動揺を訴えて来院した。診査診断の結果、重度慢性歯周病であり、基本治療から開始することとした。基本治療終了後、再評価の結果から23番歯は有茎骨移植を併用したGTR法を実施する計画を立案した(図2a2b)。同部のプロービングデプス7mmで、動揺度は1度であった。術前のX線所見では、広範な垂直性骨欠損が認められる(図2c)。
術中の所見では、遠心部から口蓋にかけて広範な骨欠損が認められ、頬側壁と遠心壁からなる2壁性骨欠損であった。骨欠損の深さは、最深部で6mm、幅は6mmであった(図2d)。
次に有茎骨移植を実施するために、ボーンチゼルにより骨を移動するための裂溝を、フィシャーバーを使用して頬側骨から口蓋にかけて形成した(図2e
図2fは、ボーンチゼルにて有茎骨を形成し23番歯遠心根面に移動させた所見であり、その結果骨欠損の幅が縮小して観察される。このテクニックの利点は、遊離移植骨と異なり生体適合性に優れた単なる理想的なスペースメーキング材ではなく、有茎であることから常に血液と細胞の供給が、通常のGTR法では最も血液と細胞の供給されにくい根面と膜直下に行えることにある(図2g)。
図2hは術直後のX線写真を示し、スエジングされた骨が骨欠損内に観察される。術後は良好な治癒経過を示し、同部のプロービングデプスは2mm、歯肉退縮量は1mm、アタッチメントゲインは4mm観察された(図2i2j)。
図2lは術後2年のX線所見を示し、術前に認められた垂直性骨欠損部は水平的な歯槽骨外形であり、4mmの骨の垂直的再生が認められた。

  • [写真] 基本治療終了後口腔内所見
    図2a 基本治療終了後口腔内所見。
  • [写真] 23番歯のプロービングデプス
    図2b 再評価の結果から23番歯のプロービングデプスは遠心口蓋部7mm、動揺度は1度であった。
  • [写真] 術前のX線所見
    図2c 術前のX線所見では、広範な垂直性骨欠損が認められる。
  • [写真] 術中の所見
    図2d 術中の所見では、遠心部から口蓋にかけて広範な骨欠損が認められ、頬側壁と遠心壁からなる2壁性骨欠損であった。骨欠損の深さは、最深部で6mm、幅は6mmであった。
  • [写真] 有茎骨移植を実施するために頬側骨から口蓋にかけて、ボーンチゼルにより骨を移動するための裂溝を、フィッシャーバーを使用して形成した(矢印
    図2e 有茎骨移植を併用したGTR法を実施する計画を立案した。はじめに、有茎骨移植を実施するために頬側骨から口蓋にかけて、ボーンチゼルにより骨を移動するための裂溝を、フィッシャーバーを使用して形成した(矢印)。
  • [写真] ボーンチゼルにて有茎骨を形成し23番歯遠心根面に移動させた所見
    図2f ボーンチゼルにて有茎骨を形成し23番歯遠心根面に移動させた所見であり、その結果骨欠損の幅が縮小して観察される。
  • [写真] ティッシュガイド(ファンラージタイプ)を骨欠損部が完全に被覆されるようにトリミングして根面に結索固定
    図2g ティッシュガイド(ファンラージタイプ)を骨欠損部が完全に被覆されるようにトリミングして根面に結索固定した。
  • [写真] 術前(図2c)と比較して術直後のX線写真
    図2h 術前(図2c)と比較して術直後のX線写真ではスエジングされた骨が骨欠損内に観察される。
  • [写真] 術後
    図2i 術後は良好な治癒経過を示し、最終補綴後にメンテナンスに移行した。
  • [写真] 術後2年メンテナンス時の口腔内所見
    図2j 術後2年メンテナンス時の口腔内所見では、同部のプロービングデプスは2mm、歯肉退縮量は1mm、アタッチメントゲインは4mm観察された。
  • [写真] 初診時のX線所見
    図2k 初診時のX線所見。
  • [写真] 術後2年のX線所見
    図2l 術後2年のX線所見を示し、初診時(図2k)、術前(図2c)に認められた垂直性骨欠損部は、水平的な歯槽骨外形に観察される。4mmの骨の垂直的再生が認められた。

■症例3

患者は58歳女性、欠損部34、35、45番歯のインプラント治療を希望されて来院された。特に、35番部はパノラマX線写真において広範なX線透過性が観察された。術前診査の結果、頬側から歯槽堤中心部にかけて骨欠損が存在することから、インプラント同時GBR法を併用した術式を計画した(図3a)。術前の口腔内所見では十分な歯槽堤の幅が観察され、舌側骨隆起も認められた(図3b)。歯肉弁の剥離後、骨欠損部軟組織を除去すると頬側から抜歯創中心部にかけて骨再生が生じず、骨欠損の状態を呈していた(図3c)。
その後インプラント床を形成し、インプラントを植立した。インプラント体と周囲骨との欠損幅は約2~3mm、頬側残存骨縁から深さ4mmの骨内欠損状態が認められた(図3d)。あらかじめ、舌側の骨隆起から採取した自家骨を細片にし骨欠損部を満たすように移植を行った(図3e3f)。
最後に、ティッシュガイドプレーンタイプを応用して歯肉弁の復位縫合を行った(図3g3h)。術後は創のし開や治癒不全等の異常所見は観察されず、良好な治癒経過が認められた(図3i)。術後2ヵ月後の同部インプラント2次手術時の所見では、骨欠損部は成熟した歯槽骨の再生が観察された(図3j)。

  • [写真] パノラマX線写真
    図3a パノラマX線写真において35番部は広範なX線透過性が観察された。
  • [写真] 術前の口腔内所見
    図3b 術前の口腔内所見では十分な歯槽堤の幅が観察され、舌側骨隆起(矢印)も認められた。
  • [写真] 骨欠損部軟組織を除去すると頬側から抜歯創中心部にかけて骨再生が生じず、骨欠損の状態を呈していた
    図3c 歯肉弁の剥離後、骨欠損部軟組織を除去すると頬側から抜歯創中心部にかけて骨再生が生じず、骨欠損の状態を呈していた。
  • [写真] インプラント植立後の所見
    図3d インプラント植立後の所見ではインプラント体と周囲骨との欠損は約2~3mm、深さは頬側残存骨縁から4mmの骨内欠損状態が認められた。
  • [写真] 舌側の骨隆起から採取した自家骨を細片にし骨欠損部を満たすように移植を行った
    図3e 舌側の骨隆起から採取した自家骨を細片にし骨欠損部を満たすように移植を行った。
  • [写真] 舌側の骨隆起から採取した自家骨
    図3f 舌側の骨隆起から採取した自家骨。
  • [写真] ティッシュガイドプレーンタイプを応用
    図3g ティッシュガイドプレーンタイプを応用。
  • [写真] 歯肉弁の復位縫合
    図3h 歯肉弁の復位縫合。
  • [写真] 術後は創のし開や治癒不全等の異常所見
    図3i 術後は創のし開や治癒不全等の異常所見は観察されず、良好な治癒経過が認められた。
  • [写真] 術後2ヵ月後の同部インプラント2次手術時の所見
    図3j 術後2ヵ月後の同部インプラント2次手術時の所見では、骨欠損部は成熟した歯槽骨の再生が観察された。

■まとめ

再生治療の基本は、生体本来の持つ自己再生能力を最大限に引き出すための環境創りが最も重要であり、そのためには生体材料を適材適所に使いこなすことが課題となる。生体材料使用の基本原則は、口腔内で使用する際に感染もしくは汚染を防止する環境下で、初めてその材料の能力が発揮されるということである。
本稿で紹介した自家骨移植のテクニックは、GTR法単独では対応困難な広範な骨欠損に対し付着獲得量のみならず、支持歯槽骨の再生に有用であることがご理解いただけたものと考えられる。
理想的な治癒様式としては、有茎骨移植による骨欠損幅縮小化による予知性の向上である。その根拠としては従来のGTR法では骨再生の最も生じにくい根面と膜直下に血液と細胞の供給がなされ、骨欠損部の周囲残存骨レベルに達するまで骨再生が生じ、その結果歯槽頂骨外形が水平的になることにある。しかしながら、有茎骨移植には多くの症例検討の結果、適応症の限界があることも明らかになってきた。歯槽骨の移動に適した弾性許容の点からは上顎に適していること、さらに移動するために周囲にある程度の歯槽骨壁の存在していることなどである。
今後、詳細な適応症について検討を加える予定である。
最後に、生体材料は適応症を度外視した困ったときの神頼み的存在になってはいけない。あくまでも、骨欠損形態の正確な術前診断に加え、歯周組織の治癒様式や材料の特性を理解してはじめてその有効性が得られるものと考えられる。

参考文献
  • 1) 歯周病治療のストラテジー、医歯薬出版、東京、281~294,2002.
  • 2) 児玉利朗、三辺正人、杉山貴志ほか、Bone swagingを併用したGTR法の臨床評価。日歯周誌、43巻秋季特別号、111,2001.
  • 3) 1回GTR法、児玉利朗、医学情報社、東京、1995.

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