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123号 WINTER 目次を見る

CLINICAL REPORT

MIダイヤバーの使い方

猪越重久

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■目 次

■はじめに

エナメル質を穿通して象牙質に達したう蝕は、切削治療の対象となる。それは、感染歯質を削除してそのう蝕の進行を止め、清掃器具の届かない実質欠損部を補填してプラークコントロールを容易にする。
接着性コンポジットレジン修復は、機械的保持を主体としたインレー修復と異なり、その窩洞形態を決めるのはう蝕の広がりであり、大きなう蝕では大きく、小さなう蝕では小さな窩洞形態となる。ただ、このう蝕の広がりは、象牙質う蝕が穿下性に進むため、あらかじめ把握することは難しく、う窩を開拡して感染象牙質を削除する過程で最終形態が決定される。
接着性コンポジットレジン修復では、感染象牙質のみを削除して極力健全象牙質に切り込まないのが原則である。したがって、う窩の開拡に際して、不必要にう窩周囲のエナメル質を削除したくない。また、隣接面窩洞の形成に際して、切削器具で隣在歯を傷つけたくない。

■1. MIダイヤバー図1

ここに紹介するMIダイヤバーは、接着性コンポジットレジン修復の窩洞形成を容易にするために開発されたものである。ファイン粒子のダイヤモンドポイント4形態から構成されている。もともとは小児歯科用の窩洞形成用バーの中から、隣接面窩洞形成時に隣在歯を傷つけ難い小さく細いバーを選択し、シャンク長を通常の長さとし、さらにネックを細くして作業時の視野を確保できるように改良した。

1)MI-45F

直径1.0mmの球形バーである。球形バーはアクセスする方向の自由度が高く、様々な状況に使用できる汎用バーである。主な用途は、5級窩洞や歯頸部窩洞のような平滑面の窩洞や前歯部隣接面窩洞の形成である。

2)MI-53F

小さい尖頭形バーで、隣在歯を傷つけやすいような隣接面う蝕のう窩の開拡に使用する。また、小窩裂溝部を形成するときに狭い幅で形成できる。主な用途は、小窩裂溝う蝕(1級窩洞)や前臼歯部隣接面う蝕(2・3・4級窩洞)の開拡、窩縁部の整理(3・4級窩洞窩縁部、2級窩洞頬舌側窩縁部)、そしてベベル付与である。

3)MI-61F

先端が丸い直径0.7mmの円柱形バーで、咬合面部・隣接面部の形成に使用する。

4)MI-62F

直径0.9mmの円柱形バーで、咬合面や隣接面の大きめの窩洞で使用する。

  • [写真]MIダイヤバー4形態
    図1 MIダイヤバー4形態
    バーの大きさの目安として、上顎中切歯、上下顎第一大臼歯の歯冠部の大きさをブルーの影で示した。
  • [写真]クリアフィルメガボンドFA、クリアフィルマジェスティ、クリアフィルマジェスティLV
    今回の臨床例で使用するクリアフィルメガボンドFA、クリアフィルマジェスティ、クリアフィルマジェスティLV。

■2. 使用方法

1)小窩裂溝う蝕(1級窩洞)図2

小窩裂溝部のう窩の開拡には、う蝕の範囲が狭く、その広がりが事前に把握できないときには、MI-53Fを使用し、溝に沿ってう窩を開拡していく。開拡に伴い象牙質内の広がりが確認できた時点で、MI-61Fでう窩上部を覆う遊離エナメル質を削除していく。
X線写真であらかじめう窩の大きさが予測できる場合は、はじめからMI-61FやMI-62Fを使用してもよい。う窩に連接する裂溝部を形成する場合は、象牙質に達していないう蝕であれば、MI-53FかMI-61Fを使用する。

2)臼歯隣接面う蝕(2級窩洞)図3

臼歯部隣接面のう窩の開拡を咬合面方向から行う場合、象牙質う蝕が象牙質内表層1/3に達していれば、コンタクトから少し離れた辺縁隆線部からMI-61Fでう窩に穿通する。
その後、う窩に沿って弧を描きながら咬合面部の遊離エナメル質を削除する。う窩が大きい場合は、MI-62Fを使用する。頬舌側エナメル質マージン部に鋭縁が残る場合は、MI-53Fで整理する。
象牙質に達したばかりの小さな象牙質う蝕を充填の対象とする場合は、まずMI-53Fの腹の部分で辺縁隆線外斜面から少しずつ削除し、象牙質内のう蝕が目視できるようになってから、MI-61Fで窩洞の整形をする。

3) 前歯隣接面う蝕(3・4級窩洞)図46

3級窩洞では、隣在歯隣接面を傷つけないために、まずMI-53Fで線角部から削除を開始し、う窩に到達するまでエナメル質を削除していく。その後、う窩の大きさに応じてMI-61Fや球形のMI-45Fで窩洞形態を整える。あらかじめう窩が大きく、開拡の範囲が想定できる場合は、はじめからMI-61FやMI-45F、非常に大きい場合はMI-62Fを使用してもよい。隣在歯に近い歯肉側マージン部の形態を整える場合や、ベベルを付与する場合は、MI-53Fを使用する。
広めのベベルを付与する場合は、MI-61Fでもよい。

4)歯頸部や唇面などの平滑面のう蝕図7

う窩の開拡しやすい唇面・頬面の平滑面う蝕では、MI-45Fを使用する。

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  • [写真]小窩裂溝部う蝕使用例
    図2 小窩裂溝部う蝕使用例 (本文参照)
  • [写真]臼歯隣接面う蝕使用例
    図3 臼歯隣接面う蝕使用例 (本文参照)
  • [写真]前歯隣接面う蝕使用例
    図4 前歯隣接面う蝕使用例 唇側からアクセス (本文参照)
  • [写真]前歯隣接面う蝕使用例
    図5 前歯隣接面う蝕使用例 舌側からアクセス (本文参照)
  • [写真]前歯隣接面窩洞のマージン部の整理とベベル付与
    図6 前歯隣接面窩洞のマージン部の整理とベベル付与 (本文参照)
  • [写真]平滑面う蝕使用例
    図7 平滑面う蝕使用例 (本文参照)

■3. 臨床例

1)症例1

・20歳女性
・下顎右側第二大臼歯咬合面中心小窩の象牙質う蝕
健診を希望して来院された。視診では、中心小窩とそれに連接する裂溝部に着色が見られる。本人に虫歯という自覚はない。バイトウイングX線写真で咬合面小窩エナメル質直下象牙質内に透過像(矢印)が見られたため、充填処置を行った。MI-53F、MI-61F使用、メガボンドFA、マジェスティ(A2)

2)症例2

・11歳男性
・下顎左側第一大臼歯咬合面中心小窩から
遠心小窩にかけての象牙質う蝕
学校健診でCOの判定を受け、母親が精査を希望して来院された。本人に虫歯という自覚はない。中心小窩から遠心小窩にかけて裂溝部の着色が見られる。バイトウイングX線写真で咬合面小窩エナメル質直下象牙質内に大きな透過像(矢印)が見られたため、充填処置を行った。いわゆる「Hidden Caries 不顕性う蝕」である。MI-61F、MI-62F使用、メガボンドFA、マジェスティLV(A2)、マジェスティ(A2)。

3)症例3

・20歳女性
・上顎右側第一小臼歯部遠心隣接面象牙質う蝕
健診を希望して来院された。自覚症状は皆無。バイトウイングX線写真で象牙質内1/2に達する透過像(矢印)が見られたため、緊急性を説明し、充填処置を行った。MI-61F使用、メガボンドFA、マジェスティLV(A2)、マジェスティ(A2)。

4)症例4

・28歳女性
・下顎右側中切歯遠心隣接面象牙質う蝕
遠心隣接面エナメル質直下象牙質内に黒い影が透けて見えていたが、小さいので年一回経過を観察していた。4年間ほど経過して表面から目視でき、充填可能な大きさになったので介入した。MI-53F、MI-61F使用、メガボンドFA、マジェスティ(A3)。

5)症例5

・13歳女性
・上顎右側中切歯近心隣接面象牙質う蝕
学校健診では虫歯を指摘され、母親が精査を希望して来院。本人に自覚症状はない。近心隣接面に唇面から白濁が確認され、X線写真で象牙質表層部の透過像(矢印)が確認されたので、充填処置を行った。MI-53F、MI-61F使用、メガボンドFA、マジェスティ(A3)。

6)症例6

・35歳男性
・上顎左側中切歯近心隣接面象牙質う蝕
主訴は臼歯部の充填物脱落。前歯部に関して本人には自覚はない。近心隣接面の充填物下に取り残しによると思われる象牙質う蝕が視診で明らかなので充填処置を行った。MI-45F、MI-62F使用、メガボンドFA、マジェスティ(A3)。

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  • [写真]症例1
  • [写真]症例2
  • [写真]症例3
  • [写真]症例4
  • [写真]症例5
  • [写真]症例6

■おわりに

ここに提示した6症例は、すべて無麻酔下で行った。注意深くう窩を開拡し、不必要に健全象牙質内に切り込まなければ、さほど痛みは伴わないものである。充填修復は外科処置であり、そのためには処置を容易にする道具立てが必要である。
MIダイヤバーは隣在歯を傷つけにくく、最小限の歯質削除を可能とする。ぜひ、使いこなしていただきたい。

参考文献
  • 1) 猪越重久:猪越重久のMI臨床. デンタルダイヤモンド社. 東京, 2005.
  • 2) Fejerskov O. & Kidd E. ed. Dental Caries. The Disease and its Clinical Management, Blackwell Munkusgard, Oxford, 2003.

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