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123号 WINTER 目次を見る

CLINICAL REPORT

歯面コーティング材「ハイブリッドコート」の臨床応用

安田 登/秋本尚武/吉田恵一

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■目 次

■1. はじめに

歯は上皮と同じ外胚葉由来のエナメル質によって内部環境である象牙質、歯髄などが守られている。したがって、象牙質まで達したう蝕は創傷と同じと考えられている。しかし、周知のように歯は再生力に乏しいため、う蝕や切削によって露出した象牙質をエナメル質、あるいは上皮に変わる何かで被覆する必要がある。その機能を果たすものとして開発されたのがサンメディカルより発売された歯科用シーリング・コーティング材「ハイブリッドコート」である(図1)。
すなわち、樹脂含浸層の確実な生成に加えて、表面硬さに優れ、露出した象牙質を確実に保護し、術後疼痛、2次う蝕の抑制が期待できる。以下に、ハイブリッドコートの概要と内側性窩洞、外側性窩洞への臨床応用について述べる。

  • [写真]歯科用シーリング・コーティング材「ハイブリッドコート」
    図1 サンメディカルより発売された歯科用シーリング・コーティング材「ハイブリッドコート」

■2. ハイブリッドコートの概

ハイブリッドコートは基本的には、コンポジットレジン修復時に使用する1液性ボンディング材の概念を発展させたものである。組成は表1に示すようにリキッドとコートスポンジからなる。リキッドは機能性モノマーとして高い評価を得ている4-METAを中心に、ボンディング成分、2種類の光重合開始剤、安定剤、アセトン、水からなる。コートスポンジには2種類の重合開始剤が含まれている。
リキッドをコートスポンジで攪拌することにより、混合液のpHは2.5となり、象牙質表面のスメアー層の除去と脱灰が進行する。ハイブリッドコート塗布面の被膜厚さは約5μm(そのうち樹脂含浸層は約1μm)と極めて薄い層であり、臨床上、形成後の窩洞面、支台歯面の形態を変化させることはない。また、硬化後のハイブリッドコート表面は既存のコーティング材、コンポジットレジンに比べて約2倍、健全象牙質に近い硬さをもつのが特長であり、まさに人工エナメル質と呼ぶのにふさわしい(表2)。

  • [表]ハイブリッドコートの組成
    表1 ハイブリッドコートの組成
  • [表]ハイブリッドコートの表面硬さ(HV)
    表2 ハイブリッドコートの表面硬さ(HV)

■3. ハイブリッドコートの内側性窩洞への応用

接着性レジンとコンポジットレジンの材料学的進歩により、広範囲にわたるう蝕でもコンポジットレジン充填で治療することが可能になった。しかしながら、大型のメタルインレーやアンレーが装着されている歯を、患者の審美的要求により歯冠色修復材に変更する場合には、充填よりも間接修復に頼る場合が少なくない。
最近のう蝕治療は、自然の防御層と呼ばれる透明層を残すようにう蝕罹患象牙質を削除していくことから、健全な象牙質が窩底部に露出することはない。ところが、従来型の窩洞形成が施された場合、窩底部には何の防御層も持たない健全象牙質が露出することになる。そのため、ここでも樹脂含浸層の形成、すなわち象牙質を保護することが必要になってくる1~3)
ハイブリッドコートは象牙質に樹脂含浸層を形成すると同時に、形成面に薄くて均一な硬い被膜を形成する4、5)。この特性によりハイブリッドコートは、内側性窩洞のみならず、象牙質知覚過敏症にも応用可能である。

症例1:上顎右側第二小臼歯MODメタルインレーの再修復

①術前(図2
上顎右側第二小臼歯にMODメタルインレーが装着されている。口を開けたときに近心のメタル部分が見えるため歯冠色修復物への変更を希望。
②ハイブリッドコートの塗布(図3
第一大臼歯にクランプを装着した4歯露出のラバーダム防湿後、MODインレーを除去。遠心部の裏装部分は除去せずそのまま保存。セメントを丁寧に除去していく。その後、リキッドをコートスポンジで攪拌後、窩洞に塗布する。20秒間放置後、エアブローを5~10秒行う。
③光照射(図4
どのタイプの照射器を用いてもよいが、今回はハロゲン照射器を用い20秒間の光照射を行った。光照射後ハイブリッドコートをもう一度塗布し(2層塗布法)、光照射を行う。1回だけの塗布では、象牙細管が封鎖されていない部分が電子顕微鏡で確認できるので、その上にもう一度塗布するとよい。この2層塗布法ではすべての象牙細管が封鎖されることが確認できる。
④歯面コーティング後処理(図5
コーティング直後は、窩洞内に光沢感が見られる。アルコール綿球で表層の未重合層を丁寧に除去する。
⑤印象採得(図6
ラバーダム除去後、歯肉圧排を施し、通法に従い印象採得を行う。
⑥仮封(図7
仮封材には水硬性セメントが推奨されているが、今回窩洞がMODと大型であったことから光重合型レジン系仮封材を使用した。窩洞表層にコーティング材の未重合層が存在するとレジン系仮封材と反応してしまうので、重合後のコーティング表面をアルコールで丁寧にふき未重合層を除去してから仮封することが大切である。なお粉液タイプのレジン系仮封材は使用しない。必要であれば水溶性の分離材を使用するのがよい。
⑦仮封材除去(図8
仮封材を除去したところ。窩洞表面には光沢感が見られ、コーティングされているのがわかる。患者は仮封材除去時の疼痛、あるいはエアーによる冷痛を訴えることはない。
⑧コンポジットレジンインレー接着(図9)レジンセメントによりコンポジットレジンMODインレーを接着。

症例2:上顎右側犬歯の象牙質知覚過敏処置への応用

①術前
上顎右側犬歯歯頸部付近の知覚過敏を主訴としていた。
②歯肉圧排(図10
歯肉圧排後、歯面の乾燥はエアー痛がひどいので綿球で行った。
③ハイブリッドコートの塗布(図11
ハイブリッドコート塗布時に、冷痛を訴えたがすぐに消退した。エアーによる乾燥時には、すでに疼痛を訴えなかった。
④術後(図12
術前にあったエアーによる疼痛は完全に消退した。

  • [写真]5のMODメタルインレーを審美的要求のため歯冠色修復物へ変更する
    図2 5のMODメタルインレーを審美的要求のため歯冠色修復物へ変更する。
  • [写真]メタルインレー除去後、ハイブリッドコートを塗布
    図3 メタルインレー除去後、ハイブリッドコートを塗布。2層塗布法を行うと封鎖が完全である。
  • [写真]20秒間光照射を行う
    図4 20秒間光照射を行う。
  • [写真]コーティング後、表面の未重合層をアルコール綿球で除去する
    図5 コーティング後、表面の未重合層をアルコール綿球で除去する。
  • [写真]歯肉圧排後、印象採得を行う
    図6 歯肉圧排後、印象採得を行う。
  • [写真]光重合型レジン系仮封材を使用
    図7 光重合型レジン系仮封材を使用。水硬性セメントもよい。
  • [写真]仮封材を除去
    図8 仮封材を除去。表面にコーティング面の光沢が認められる。
  • [写真]CRインレーを装着
    図9 CRインレーを装着。
  • [写真]3の象牙質知覚過敏症
    図10 3の象牙質知覚過敏症。
  • [写真]ハイブリッドコートを塗布
    図11 ハイブリッドコートを塗布。塗布時は疼痛を訴えたが、乾燥後には消失した。
  • [写真]象牙質知覚過敏症がハイブリッドコートにより治癒
    図12 象牙質知覚過敏症がハイブリッドコートにより治癒。

■4. ハイブリッドコートの外側性窩洞への応用

象牙質コーティング法は、当初はインレーなどの内側性窩洞に主に用いられていたが、外来刺激遮断による術後疼痛の防止、レジンセメントの接着性の向上などから外側性のクラウンの支台歯形成後にも応用が試みられてきた。しかし、外側性窩洞の場合、コーティング材が厚すぎると形成した支台歯の外形が変化してしまうことや、歯肉縁下のコーティング材の処理などの問題点も指摘されていた6)。今回、開発されたハイブリッドコートは皮膜厚さが5~10μmと非常に薄くクラウンの支台歯にも使用しやすい材料である。

症例3:4321 123メタルボンドクラウン修復症例

①術前(図13
60歳女性、20年前に装着した前歯部クラウンの審美不良を訴え来院し、4321 123の7本をメタルボンドクラウンで再修復することにした。患者の希望で形態修正したテンポラリークラウンの外形にあわせて支台歯形態を修正した。
②支台歯形成(図14
有髄歯は3の一本のみでその他は無髄歯である。既存のメタルコアはそのまま利用した。
象牙質コーティングは基本的には有髄歯が対象となるが、無髄歯に対しても露出している歯質を保護し二次う蝕を防止する意味がある。
③ハイブリッドコートの歯面塗布(図15)付属のダッペンにリキッドを1~3滴とりコートスポンジで撹拌し歯面に塗布する。リキッド塗布10~20秒後に、弱いエアブローを行う(5~10秒)。歯肉縁下のマージン部など、液だまりの生じやすい部位はさらに強いエアブローを行う(5~10秒)(図16)。このときバキュームで飛散するリキッドをしっかり吸引する。
④光照射(図17
光照射時間は10秒程度である(照射器の種類により照射時間が異なる)。
⑤マージン部の仕上げ(図18
ハイブリッドコートの皮膜厚さは基本的には5~10μmと非常にうすいが、歯肉縁下のマージン部には液だまりやバリのような厚い部分が生じる可能性がある(表3)。このような部分をエキスカなどで除去することは困難であり、最終的にマージン部を研磨用ポイントで仕上げる必要がある。
⑥印象採得(図19
本症例では付加型シリコーン印象材と個歯トレー法を用いて印象採得を行った。レジンコーティング後の印象採得には寒天アルジネート連合印象が適しているとされている2)。付加型シリコーン印象材を用いる場合は印象材がコーティング面に付着し、模型が面荒れをおこすことがある。これを防ぐためにコーティング面を硬く絞ったアルコール小綿球でぬぐい未重合層を除去し(図20)、さらにマクロゴールやスーパーボンドセップなどの水溶性の分離剤を薄く塗布するとよい。これらの分離剤は水洗により簡単に除去できる。
⑦仮封セメント
仮封セメントにはコーティング面とセメントの接着を阻害しないような仮封材を選択する必要がある。したがって、ユージノール系の仮封材は使用できない。ここではハイボンド系の仮封材を用いている。
⑧完成(図21
メタルボンドクラウン装着時。

  • [写真]前歯部の審美性回復のため再製作を決定
    図13 前歯部の審美性回復のため再製作を決定。
  • [写真]有髄、無髄を問わず露出した象牙質にはコーティングを行う
    図14 有髄、無髄を問わず露出した象牙質にはコーティングを行う。
  • [写真]ハイブリッドコートの塗布
    図15 ハイブリッドコートの塗布。
  • [写真]エアーブローを行うが、液だまりの生じやすい部位は強いブローで厚みを均一にする
    図16 エアーブローを行うが、液だまりの生じやすい部位は強いブローで厚みを均一にする。
  • [写真]光照射を行う
    図17 光照射を行う。
  • [写真]マージン部を、研磨用ポイントを用いて露出する
    図18 マージン部を、研磨用ポイントを用いて露出する。
  • [表]
    表3
  • [写真]付加型シリコーン印象材で印象採得
    図19 付加型シリコーン印象材で印象採得。未重合層の処理には十分気をつける。
  • [写真]
    図20
  • [写真]

■5. おわりに

う蝕は削って詰めれば治ると考えてきた時代は終わった。う蝕は治らないし、治せない病気である。ならばう蝕にならないようにするのが最善の方法であろうが、不幸にしてう蝕になってしまった場合、少しでも生体の治癒像に近づけるのも私たち歯科医師の役目でもある。象牙質が露出したら傷口と同じと考え、必ず人工エナメル質で被覆する。このような理想的な治療法に、今回開発されたハイブリッドコートが少しでもその役割を果たしてくれることを期待している。

参考文献
  • 1) 安田 登、鯉渕秀明:接着の予防的視点に基づく臨床応用のすすめ 生物学的封鎖のための象牙質コーティング.ザ・クインテッセンスYear Book, 96:27~38, 1996.
  • 2) 秋本尚武、河野 篤:象牙質コーティングの効果.補綴臨床 別冊, 97-100, 1995.
  • 3) Y. Momoi, N. Akimoto, K. Kida, K.H. Yip, A. Kohno. Sealing ability of dentin coating using adhesive resin systems. Am J Dent 16, 105-111, 2003.
  • 4) 大槻晴香、荒田正三、山本隆司、田中卓男、伊藤聡美、三浦宏之、吉田恵一、安田 登:象牙質コーティング材の被膜厚さ.接着歯学, 21:360~361, 2003.
  • 5) 秋本尚武、横山 元、木田香奈子、桃井保子、高水正明:新規象牙質コーティング材の機械的特性.接着歯学, 21:17-23, 2003.
  • 6) 高野由佳、二階堂 徹、田上順次:印象採得後のレジンコーティング面の肉眼的およびSEM観察.接着歯学, 19:117-124, 2001.

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