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123号 WINTER 目次を見る

TECHNICAL REPORT

エステニアC&Bを用いたインプラント上部構造

溝口 悟

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■目 次

■はじめに

インプラントの埋入術の成功率が非常に高い今、咬合機能の回復は当たり前であり、「審美」を求め理想的な埋入ポジションを確保するためには骨造成や軟組織のコンディショニングは必要不可欠であり、組織の再生はその後補綴していく中で重要なカギとなってくる。
本来に近い状態まで組織を再生することは理想ではあるのだが、そこには手術に対する不安・経済的負担・治療日数などの面から、全ての患者さんがそこまでの治療を望むとは限らないときもある。それでも患者さんからは「より自然に」という審美的要求を求められてしまう現実がある。
そこで組織の再生がチェアサイドだけではどうにもならないときには、ラボサイドで失われた組織を人工的に補綴し、サポートしていかなければならない。それにはドクターをはじめ、その補綴にかかわるスタッフと密にコミュニケーションをとり、いかに患者さんが最も望んでいるイメージを形に変えていくことが大切だと思っている。
今回はいろいろな条件の制限から十分な外科処置をおこなうことができなかった中で、チェアサイドとディスカッションを繰り返し仕上げたケースを紹介したい。

■初診時

・主訴は上顎デンチャーの吸着に不満
・下顎インプラントオーバーデンチャーの舌感に不満
・上下顎ともに見た目の審美性に不満
ドクターによるコンサルの結果、上顎はインプラントでのリジットな修復物とし、下顎は人工歯のみの交換で今までの金属床は使用(排列試摘時に舌保確保の問題からラボサイドからもコンサルを行い金属床からの作り直しとする)。上顎にインプラント9本を埋入し4ヵ月後、ここからさらに細かい口腔内設計の打ち合わせとなった。
まずこのケースにおいては、これだけの本数のインプラントが埋入されたということで、固定式のポーセレンの上部構造も考えられるが、患者さんの状況から増骨をし、長いインプラントを埋入することはできなかったこと(植立位置・深度の問題)(図5)、そして前歯部歯槽堤は吸収が大きく理想の状態までは再生できなかった(図6)。
そして患者さんからは、チェアサイドのメンテナンスをできるだけ少なく、患者自身が簡単に清掃ができるもの、口唇のへこみの改善を強く希望された。
結果、ハイブリッドセラミックスを使用した患者可撤式フルブリッジの設計となった。
理由としては、
・チェアサイドでのメンテナンスの少なさ
・患者自身での清掃の容易さ
・人工ガムによる広範囲での歯肉の修復
・ポーセレンと比較してリペアが容易なハイブリッドセラミックスでの修復
・口腔内の生理的な変化に対応しやすい
特に今回のケースのように、患者さんにメンテナンスをある程度任せるということは、予後のトラブルの確率は大きく上がってしまう。その中で患者さんの希望を最優先に考えつつ、今後起こる「かも」しれないトラブルにいかにフレキシブルに対応しやすい補綴物を選択するかが非常に重要である。
その後、患者・ドクターサイド・ラボサイドでの話をまとめ、どのような可撤構造処理でいくつかのディスカッションを行うために、
1. 長期で使用しても維持の変化がないリーゲルタイプ
2. 内冠をブロックに分け、マグネットまたはアタッチメントを取り付けたミリングデンチャー
3. ミリング内冠にガルバノを絡めたテレスコープタイプ
の3つの設計を立案した。
それぞれの長所・短所をドクターと話し合い、患者の希望に一番近く「取り扱いの面・清掃の容易さ・機構のシンプルさ・補綴物の比重」からガルバノを絡めたテレスコープに決定した。
垂直的顎位・水平的顎位の決定をし、TEKを使用してもらい、問題点(上下正中のズレ・床のふくらみの改善・発音障害からの舌側面の調整(図78)を改善し、本来であればもう一度、より最終補綴物に近い、プロビジョナルレストレーションを製作するところなのだが、患者さんの希望のセット日を変更することはできないという理由から最終補綴物の製作に入る。

  • [写真]初診時のパノラマレントゲン写真
    図1 初診時のパノラマレントゲン写真。
  • [写真]7
    図2 7 は患者さんの希望により、どうしても抜歯することはゆるされなかった。
  • [写真]インプラントバー
    図3 インプラントバーは今までのものを使用したいという要望があった。
  • [写真]骨診断を行うステントを使用したパノラマレントゲン
    図4 骨診断を行うステントを使用したパノラマレントゲン。造影剤のあるバリュウム人工歯(ivoclarvivadent)使用。
  • [写真]上顎インプラント埋入
    図5 上顎インプラント埋入。下顎は現状のバーを使用。
  • [写真]2 のインプラント
    図6 顎提の吸収が大きく、2のインプラントが舌側よりに植立されているため、最終補綴物の処理が困難になることが予測された。
  • [写真]ミッドラインのズレ
    図7 ミッドラインのズレがあった。
  • [写真]舌感と発音の問題があり何度か調整を繰り返した舌側面
    図8 舌感と発音の問題があり何度か調整を繰り返した舌側面。2は予測以上に薄く調整されている。

■最終補綴物の製作

模型からの情報(口蓋縫線・ハミュラーノッチ・粘膜の吸収など)を読み取り、正確な咬合器装着をし、TEKからの情報(歯の大きさ・正中・咬合平面・スマイルラインなど)を参考に、仮排列、ワックスアップを行った(図9)。
患者さんの希望をできる限り多く取り入れ、予後に起こりえるトラブルについても十分に話し合いが終わっているため、ここまでで50%は今回のケースは終了したといえるのではないだろうか。
筆者はこのような複雑なケースにおいては、ここまでくるための下準備がもっとも大切な仕事だと考えている。
ここから大きく分けて3つの条件をもっとも重要とし、5つの工程での作業となる。
〈条件〉
1. 長期で使用しても維持力の変化が少ないもの
2. 機構のシンプルさ
3. 壊れにくく安定度の高い設計であるもの
〈工程〉
1. 一時固定となる内冠
2. 二次固定となるエレクトロフォーミングによる外冠
3. 外冠相互を一体化するためのメタルフレーム
4. 補助アタッチメントの取り付け
5. ハイブリッドセラミックスの築盛~完成

1:内冠製作図10
着脱方向を決定し、長期使用していく中での維持の低下を少しでも防ぐために、パラレルコーヌスの考えから拮抗面をつけ、できるだけ内冠の高さを確保し、カスタムアバットメントを製作した。
ミリングは2度。可能であれば、ショルダーまたはディープシャンファーの形態とした。
2:エレクトロフォーミング(以下AGC)製作
Weland社AGCmicroを使用(厚み0.3mm)。
AGCは2つのブロックに分けて製作した(図1113)。
〈理由〉
・粘膜の吸収が大きく、広く床で覆わなければならなかったこと
・インプラントの植立が数ヵ所歯肉縁上にあり、アンダーカットの処理が部分的に複雑な構造になると予測したこと
(不潔域)
・粘膜に対する生体親和性がよいこと
・患者さんのクリーニングの容易さ
・今後の技工操作のシンプルさ
理想としては1つのブロックでAGCでの粘膜封鎖を考えていたのだが、AGCの厚みが0.3mmであり、距離と幅から考えると変形のリスクが予想され、厚みを増やすには専用液を使用する=コスト高になる、という理由から1ブロックでの処理ができなかったことが心残りである。
3:コバルトクロム合金によるフレーム製作
耐火複模型から、部分的にフレームの厚みを調整し、3次元的な外力が加わっても変形しない、AGCとメタルフレームの接着が容易なデザインとした(図14)。
4:補助アタッチメントの取り付け(セクラロック)
左右小臼歯遠心部(図111516)。
このアタッチメントの特長としては歯頸部よりにディンプル加工した内冠の軸面をルビーボールが転がり、スプリングの力で補助的な維持が目的なのだが、著者はこれを補綴物が正しい位置へ装着される「手助け」的な目的として使用した。
これにより口腔内に装着する際に、装着時から抵抗がありながらも補綴物は誘導され、沈みきった位置にアタッチメントがあることで、ルビーボールがディンプルに『カチッ』とはまった振動が骨に伝わることで正確な装着の目安になると考えている。
これによって沈み込まないまま噛みこんで起こる変形や破折の危険を回避し、患者さんに対して言葉での説明よりも自然に伝わる装着感は、壊れにくく安定度の高い補綴物に繋がると考えている。
5:エステニアC&B製作
インプラントの上部構造を覆う非常に優れているマテリアルの1つだと考えている。特に、インプラントでは天然歯の歯根膜のクッションのサポートがないため、硬さに対して、圧縮強さ、曲げ強さに問題があるポーセレンではどうしても破折というトラブルを心配しなければならない。
それに対してハイブリッドセラミックスには咬み具合や咬合力を緩衝するメリットがあり、ワンピースでのインプラントの上部構造でその長所を発揮してくれている。
その中でもエステニアC&Bは、築盛や研磨に時間がかかるというデメリットもあると思うが、口腔内での長期安定性(耐摩耗性・着色の少なさ)、物性から見ても非常に優れており、「信頼」に繋がっているのではないだろうか(図1724)。

  • [写真]内冠を製作するための仮排列
    図9 内冠を製作するための仮排列。正中平面のズレを修正。
  • [写真]内冠完成
    図10 内冠完成。ミリングは2°でおこなった。
  • [写真]インプラントが歯肉縁上にありアンダーカットとなっている
    図11 インプラントが歯肉縁上にありアンダーカットとなっている。
  • [写真]ガルバノで粘膜をふさぐ
    図12 ガルバノで粘膜をふさぐことと同時に露出しているインプラントのアンダーカットも封鎖している。
  • [写真]ガルバノで粘膜をふさぐ
    図13 今後の技工操作をシンプルにおこなうメリットもあるのではないだろうか。
  • [写真]コバルトクロム合金使用
    図14 コバルトクロム合金使用。
  • [写真]遠心部にディンプル加工をし、アタッチメントを取りつける
    図15 遠心部にディンプル加工をし、アタッチメントを取りつける。
  • [写真]セクラロックアタッチメント
    図16 セクラロックアタッチメント。左右小臼歯遠心部に使用。
  • [写真]ハイブリッドセラミックス(歯冠部)の完成
    図17 ハイブリッドセラミックス(歯冠部)の完成。
  • [写真]アバットメント装着
    図18 アバットメント装着。
  • [写真]最終補綴物装着
    図19 最終補綴物装着。
  • [写真]咬合面観
    図20 咬合面観。
  • [写真]咬合面観
    図21 下顎義歯担当技工士:土屋憲司。
  • [写真]右側側方面観
    図22 右側側方面観。
  • [写真]左側側方面観
    図23 左側側方面観。
  • [写真]正面
    図24 すべてが完璧とはいえないのだが、患者さんには十分満足していただくことができた。

■おわりに

患者さんの希望を最優先し、変わることのない理想のトゥースポジションに状況に応じたマテリアルを選択し、形にしていくには数々の「制限」が生じてきてしまう。
筆者はその中で、技工操作は複雑になってしまっても仕上がりはシンプルになるよう心がけている。
理想の中にはいつも現実があるのだが、その現実の中で最終補綴物をイメージし「計画と設計」を考える時間は非常に重要であり、患者さんの笑顔をとりもどすためにも理想と現実との差をどこまで近づけていけるかを今後も日常臨床の課題としていきたい。
本稿で紹介した症例以外にもhttp://www.dental-labo.net/に掲載しているので、参考にしていただけたら幸いである。

参考文献
  • 1) ハイブリットセラミックス・エステニアを使いこなす. インプラント上部構造体の材料としての側面から. QDT Vol.30/2005.
  • 2) 木村健二、伊藤裕也、勝俣浩一:エレクトロフォーミングの臨床応用. 内冠にセラミックスを応用したダブルクラウンとより適合精度を高めたAGCキャップ. QDT Vol.29/2004.
  • 3) 山本尚吾、小峰太、五十嵐孝義:Gammatシステムの臨床応用エレクトロフォーミングの可能性から臨床技工を考える( ORO E NERO).QDT Vol.26/2001.
  • 4) 余田圭司:エレクトロフォーミングによる維持装置を応用したコンビネーションデンチャーの臨床(エレクトロフォーミングフレームとコバルトクロムフレームのジョイント). QDT Vol.29/2004.
  • 5) Rainer Semsch:インプラント支持型可撤性バーデンチャー(維持装置に応用する電鋳とリーゲル装置). QDT Vol.28/2003.

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