スマートフォン版サイト

DENTAL MAGAZINE デンタルマガジン

CLINICAL REPORT
シミュレーションソフトSimPlantを用いた身近で安心・安全なインプラント臨床
倉嶋敏明

歯科臨床における安全管理は、ここ数年の間に従来にも増して高いレベルまでを遵守しなければならない状況に至っている。それに伴い正確な診断と安全な治療を行うために様々な手段が導入されているが、その中でもコンピュータ断層撮影(CT)の利用は、日常歯科臨床において極めて身近で有用な検査になりつつある。本稿ではシミュレーションソフトSimPlantを用いた、身近で安心・安全なインプラント臨床についてご紹介する。CT(Computed Tomography)の原理は検査対象がCT撮影装置内でX線を全方位から照射され、一部のX線が吸収されて減衰した後、線源の反対側に位置するX線検出装置に到達する。そのデータをコンピュータが再構成することで断面画像を得るものである。旧来、歯科でのCT撮影というと口腔外科領域の疾患に対しての診断に利用される特別な検査とのイメージであったが、実はインプラント治療にCT再構成画像を応用する試みは10年以上前より行われている。近年、インプラント治療に特化したシミュレーションソフトに様々な改良、機能拡充がなされることにより、その普及度は急速に進み、我々開業歯科医にとっても安心・安全なインプラント治療を行う上でなくてはならない診査のひとつとなっている。そしてSimPlantはインプラント用シミュレーションソフトの先駆けとして広く応用されており、株式会社モリタからも提供されている。日常の臨床で従来の診査法のみでの粘膜下骨形態、解剖学的構造の三次元的把握は、たとえ詳細に診査したとしても想像、予測の域を出ることはない。また、充分な骨幅、骨高径が見込まれることが予測されたとしても、骨密度の把握までは困難であった。このように様々な条件の症例に対してSimPlantを用いた診断は極めて有効であり、さらに後述するサージガイドの応用も安全性を担保するには効果が高い。シミュレーションソフトSimPlantを用いた身近で安心・安全なインプラント臨床倉嶋歯科クリニック(新潟市) 倉嶋 敏明はじめに臨床の実際Computed Tomography(コンピュータ断層撮影)症例1-1 初診時の上顎前歯正面観。 症例1-2 同時期のデンタルX-P。歯根端切除術の既往あり。症例1-3 抜去歯牙。症例1-4 抜歯創。唇側歯槽骨は極めて薄く、低位であった。症例1-5症例1-5、1-6 二期的に埋入を行うためGBRを行い、完全閉創とした。これにより骨幅、軟組織の確保ができる。症例1-626<症例1>前歯部の動揺を主訴に、審美性回復を同時に希望して受診した44歳女性である。デンタルX-Pで上顎左右中切歯は吸収した根尖(過去に歯根端切除術の既往あり)、二次縁下カリエス、太いメタルコアが認められる。動揺度2度ではあるが保存的治療による長期予後が見込めないこと、審美的要求が強いことなどからインプラント修復を術者、患者両者の共通見解として選択した。本例では抜歯即時埋入とはせず、軟組織ボリューム確保と根尖部の浄化(若干の透過像を認める)を目的に、抜歯時にGBRを併用した待時埋入とした。両側中切歯抜歯およびGBR後4ヵ月の待時期間をおき、二期的に埋入手術を予定した。埋入に先立ちCT撮影、SimPlantによる分析を行った。下歯槽神経描記機能を応用して切歯管を描記し、バーチャルティースを用いた上部構造の形態的シミュレーションを試み、GBRでの骨補の評価とステントの位置、埋入方向の適否を確認した。ステントの方向と埋入予定方向が3次元でビジュアル的に把握できることは術中のイメージを確立することになる。さらにステントが描出されることにより埋入方向の微妙な調整にも有用である。GBRにより抜歯窩の骨幅は十分維持され、高径も確保されていたため埋入は通法に従い簡便に施術することができ、SimPlant上のシミュレーションに沿った結果となった。インプラント体はSPIコンタクトφ4.5mm、L11mmを使用し、骨頂埋入とした。二次手術は約4ヵ月の免荷期間の後、施術した。この際、可及的に粘膜の高径を確保し歯間乳頭を形成させるように配慮した。(Mシェイプインシジョンと歯間乳頭保存)続いて二次手術後の粘膜の治癒を待ちプロビジョナルレストレーションを作製するが、プロビジョナルのサブジンジバルカントゥアーの与え方で歯頸線、歯間乳頭部の形態が変化するため注意を要する。上部構造はジルコニア製ArtAbuttmennt(日本国内未承認)およびジルコニアオールセラミックスとし、審美的要求に応えることができた。SimPlantによるシミュレーションと審美性を得るために必要な骨、軟組織の条件、解剖学的構造の三次元的情報が正確に把握できたことが大きな要素になっていると思う。<症例2>歯根破折後の感染で歯槽骨に欠損を生じた59歳男性である。右側第一大臼歯の歯根破折後感染した状態で来院された。左側は義歯の使用がないまま数年来欠損の状態で放置されていたが、右側が歯根破折により抜歯となり両側大臼歯欠損となった。機能回復に際しては、はじめから義歯選択の意志はなく固定性の補綴を強く希望された。本症例は抜歯後早期埋入を予定し、SimPlantでのシミュレーションにより粘膜下の骨欠損形態を3次元的に正確に把症例1-7症例1-7、1-8 SimPlantによる分析、バーチャルティースを用いた上部構造の形態的シミュレーションを試み、GBRでの骨補の評価とステントの位置、埋入方向の適否を確認。症例1-8 症例1-9症例1-10症例1-9~1-14 一次(埋入)手術所見。硬軟組織の確保ができており、SimPlantでのシミュレーションに沿った手術が可能。症例1-11 症例1-1227握した上でGBRを併用して埋入手術を行った。パントモによっても2次元的に明らかな骨欠損が見て取れるが、X-Pでの情報だけでは3次元的な骨欠損範囲を把握することは難しく、特に骨補材、メンブレン等の生体材料を用いる場合、用意すべき量や大きさを選択しなければならない。SimPlantに用意されているフィクスチャー画像を利用したバーチャルオペレーションにより、より詳細なイメージングができ、生体材料の選択も容易となる。本症例においても、SimPlantからの情報と実際の欠損とは、ほとんど差異のないことがわかる。そのため骨補材、メンブレンを適切に設置することができた。インプラント体はSPIコンタクトφ6.0mm、L14mmを使用した。この後左側にもSPIコンタクトφ6.0mm、L14mmを骨頂埋入し、右側GBR側は約9ヵ月後二次手術を施行した。骨造成はX-P像および二次手術時の所見で十分な効果が確認された。以後、通法に従いプロビジョナルレストレーションを装着し歯肉の成熟を待ちつつ現在に至っている。本例のように骨欠損がありGBRを予定している場合、欠損範囲・形態により生体材料の分量はもとより、切開線のデザイン、手術野の展開も変わってくる。そのような場合にもSimPlantは有用な判断材料を与えてくれる。<症例3> 骨密度の問題から埋入を見合わせた例SimPlantではCT値による骨密度の診断も可能である。骨粗鬆症は、それ自体はインプラントの絶対的禁忌とはならないが、その程度、および全身的、局所的条件によっては代替治療を考慮することも必要となる。症例1-16症例1-15~1-18 二次手術は可及的に粘膜の高径を確保し歯間乳頭を形成させるようMシェイプインシジョンと歯間乳頭保存法で行う。症例1-17 症例1-18症例1-19 二次手術後の粘膜の治癒。 症例1-20 SPIプロビジョナル専用パーツを用いたプロビジョナル。症例1-21 サブジンジバルカントゥアーの与え方で歯肉形状が変わる。症例1-13 症例1-14 症例1-1528本症例は、上顎は多数歯欠損であったが、患者の要求は義歯の安定化と咀嚼機能改善であったこと、また下顎はすべての歯牙が存在することから受圧加圧条件の改善を目的に、オーバーデンチャーのサポートとして補助的にインプラントを応用する計画とした。従来のX-P診査からもSimPlantからも上顎結節部の形態的診断では骨幅も充分であり、埋入深度も確保できることがわかった。しかしCT値がマイナス値を示し、ほとんどが脂肪髄であることが判明、またSimPlant診断直後、医科主治医より骨粗鬆症の診断のもとにビスホスホネート系薬剤の投与が開始されたこともあり埋入を見合わせた。(経口ビスホスホネート系薬剤投与患者の顎骨壊死の可能性は、注射薬投与患者に比較し極めて低率といわれるが、代替治療の選択肢がある場合は、リスク回避を第一に考えるべきである)本症例のようなケースは、高齢化の進む現在、決して稀ではない。従来であれば、術前の診断のみで骨密度を正確に読み取ることは難しく、術中の骨の脆弱感、初期固定が得られない、オッセオインテグレーションが得られないなどで失敗例となり、患者に負担をかけることも考えられる。骨密度の術前診断は術式選択の重要な判断材料となる。サージガイド(SurgiGuide)は、SimPlantのシミュレーションデータより光造型によって作製されるサージカルガイドである。治療計画通りの安全・安心な手術の実現を目的に、3型式サージガイドについて症例1-25症例1-25、1-26 ジルコニアオールセラミックス。症例1-26症例2-1 右側下顎第一大臼歯抜歯後、歯根破折後の感染により骨欠損が大きい。症例1-22 ジルコニア製ArtAbuttmennt(日本国内未承認)。症例1-23 プロビジョナルで得られた歯肉形態。 症例1-24 ArtAbuttmenntはカスタマイズされ歯肉縁下から立ち上がる。症例2-2 SimPlantによる3次元的精査とシミュレーション。骨補の範囲が把握できる。症例2-329のガイドがラインナップされている。粘膜支持型はフラップレスのために、少数歯欠損症例では歯牙支持型、広く粘膜を開き複数本の埋入には骨支持型が用いられる。骨支持型には、光造型で作製された骨モデルも一緒に提供され、実際の骨形態を確認できる。<症例4> 上顎洞挙上術後、サージガイドを用いた埋入患者は53歳男性、上顎左側臼歯部欠損の補綴および咀嚼機能回復を希望し来院した。患者は強く固定性の補綴を望んでいたが、SimPlantでの診断では欠損部は広範囲に上顎洞が近接し骨はほとんどないため、インプラント治療に際しては上顎洞挙上術および二期的な埋入となることが明らかであった。また、かなり挙上量が多く、多量の骨移植を必要とするため大学病院依頼とし、全身麻酔下でPRP、培養骨膜細胞および左右下顎枝からの自家骨移植を行った。大学でもSimPlantが使用されているため、依頼にあたりデータの共有が可能である。上顎洞挙上術後のインプラント埋入計画も大学側で得られたSimPlantデータを持参していただき、それを元に進めることができた。本症例は骨支持型サージガイドとしたため、光造型骨モデルが提供された。サージガイドは極めて正確に光造型骨モデルと適合する。サージガイドの基本セットは3種類で、オーダー時指定した3種類のドリル径にあわせて作製されている。(3種類以上追加のオーダーも可能)SPIシステムは最大径6.0mmでも4本のドリルで済むため、症例2-8症例2-8~2-10 二次手術時とプロビジョナル装着時。GBRによる骨造成が確認できる。プロビジョナルも適正な歯冠幅径を保つことができた。パノラマX-Pでも周囲と透過性の差は認められない。症例2-9症例2-10症例3-1 SimPlantから上顎結節部の形態的診断では骨幅、骨高径は充分であるものの、CT値がマイナス値を示す。骨密度の診断は我々にとっても患者にとっても極めて有意義な情報である。症例2-5 症例2-6症例2-7症例2-4症例2-3~2-7 一次(埋入)手術およびGBR時の所見。SimPlantでのシミュレーションと差異のないことがわかる。適切な生体材料の用意、切開線のデザイン、術野の展開ができる。30サージガイドの利用はしやすいシステムといえる。実際の埋入手術は作製されたガイドに沿って行うだけである。本症例は位置、角度をコントロールするスタンダードシステムを用いたが、さらにドリリング深度・インプラント埋入深度までコントロールできるセーフシステム(SAFESystem)も用意されている。これはストッパー付のセーフドリルを使用して埋入窩の形成を行う。SimPlantデータから作製したサージガイドを適切に選択すれば埋入手術の安全性はさらに向上すると考える。シミュレーションソフトSimPlantを用いた身近で安心・安全なインプラント臨床について、症例を交えてご紹介した。SimPlantはマテリアライズデンタルジャパンが日本における代理販売を請け負っているが、モリタもその取り扱いを開始した。またSPIインプラントは非常にシンプルなシステム構成にも関わらず、症例によって通常埋入、骨頂埋入の二通りの使い分けが可能であり、補綴パーツも豊富に用意されている。さらに、昨年末より短期間で確実なオッセオインテグレーションが得られるよう表面性状に改良が加えられ、より進化したシステムに変わっている。SimPlantとSPI両者の併用は、文字通り身近で安心・安全なインプラント臨床を提供してくれるだろう。症例4-1症例4-1、4-2 上顎洞挙上術予定患者では施術前後をSimPlant上でシミュレートできる。症例4-2症例4-5症例4-5、4-6 骨支持型サージガイド。指定した三種類のドリル径で作製される。症例4-6症例4-7症例4-7、4-8 埋入手術時の所見。骨への適合は極めて正確であり、予定された手順に沿って進めるだけである。症例4-3 上顎洞挙上術後、紹介先施設からのSimPlantデータ。このデータ上で埋入計画、サージガイドの作製を行った。症例4-4 SimPlantデータに基づいた光造型上顎骨モデル。症例4-8症例4-9 埋入後のパントモX-P シミュレーション通りの結果となる。終わりに31