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130号 AUTUMN 目次を見る

CLINICAL REPORT

Er:YAGレーザーの再考 -程度大切-

篠木 毅

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■目 次

■はじめに

最近、私の診療室で面白い現象が起きています。
新患の受診希望の理由の8割以上が、レーザー治療の希望です。過去、レーザー治療希望の患者さんは数多くいらっしゃいましたが、最近、患者さんの方から、どういった波長のレーザーでどういった治療をして欲しいか具体的に話されることが多くなりました。
私がレーザー治療を始めた1990年代では、なんとなく「最新治療機であるレーザーを使用して欲しい」でした。私の診療室には歯科医院のホームページはありません。唯一外に向けての情報は、Er:YAGレーザー臨床研究会に出しているものだけです。
しかし、患者さんからの話を伺いますと、どうもホームページからではないようで、口コミと治療に対する評価のようでした。
評価とは、「1本1本の歯を大切にしてくれる」、「今までの歯周治療は衛生士さんが主流で先生は最後に見るだけであったが、ここでは多くの時間先生が治療してくれる」、「歯周治療では、ポケット内照射が気持ち良い」、「硬組織処置では、痛みがなく、音がしない」、「軟組織治療においては、処置後の痛みとブラッシングしても痛みがなくて、食事の時にしみない」等々です。
こういった患者さんからの声を聞くと、“効率”だけのレーザー治療ではなく、Er:YAGレーザーが発売された時の、患者さんと先生のストレスの少ない治療法をもう一度考えなければならない時期に来たように思います。
患者さんに確実にアピールができ、今までのレーザー治療とは違う硬組織・歯周処置に対しての照射法を再考しようと考えました。
このような治療に行くのがつらい患者さんを減らしていこうではありませんか。

■硬組織

私たちは、硬組織(エナメル質)の切削に対して限りなく高出力で挑んできました。なぜそこまでに、切削効率を追い求めていったのでしょうか。斯くいう私もその一人です(図1)。
Keyレーザー、YSGGと時代を駆け抜けていった多くの高出力レーザーがありますが、今まだどのくらい使用されているのでしょうか?
私も高出力レーザーを使用して分かったのは、350mJから400mJぐらいまでの出力なら、無麻酔でコントロールできますが、それ以上の出力になると痛みが必ず出るということでした。
今回は、エナメル質と象牙質の混在した症例に関して考えたいと思います。なかでも臨床で多く遭遇する5級、3級窩洞のエナメル質と象牙質の混在した症例に関して、痛みの少ない効果的な照射法について考えたいと思います。
患者さんにレーザーを使用する際には、今でも非常に緊張感があります。痛みが少ないといわれる斜め照射・ディフォーカス照射でも痛みが出ることがあります。患者さんは、たった一度でも、その痛みを決して忘れません。
最近では、症例にもよりますが、痛みの出ない照射条件を選択しています。
出力150mJ~40mJ、繰り返し速度10pps~20ppsぐらいの条件で、照射面に確実に触れるコンタクト照射です(図2)。
チップは、C400F・C600F・C800Fを使用しますが、パネル表示が同一出力でも、チップ口径により先端出力密度が異なるので、その結果、切削量は変化してきます。先端出力密度が高くなれば、当然痛みが出やすくなります。したがって、チップの使い分けによって痛みをコントロールしながら、できるだけたくさん削れるような照射条件、照射方法で、レーザーを扱うことになります。
図3の症例は、レーザー治療を行うのが初めての患者さんです。まず 40mJ 20pps 注水下で照射をはじめ、しばらく照射をしてから緊張が抜けたところを見計らい 60mJ 20pps と少し出力を上げ、切削効率を高めています。患者さんの状態を見ながらレーザー照射します。また、患者さんのレーザー治療経験の有無によっても出力・pps に変化をつけます。
照射中における痛みのコントロールは、患者さんの目を注意深く観察し、少しでも表情に変化を感じたときは、患者さんが痛みを発する前に、照射方向かチップの口径を大きいものに変化させるように心がけています。
エナメル質照射に限り、出力250mJ~350mJ、繰り返し速度 10pps という高い出力で使用しますが、照射エナメル質表面に白濁(図4)ができる前に、出力を下げるかチップの口径を大きいものに変えて照射します。
チップの操作方法は、低い出力ではエネルギーの無駄をなくすように、できる限りチップ面と歯質に接触させ、軽く滑らせてゆきます。高出力照射中には、注水が痛みに関しても大きなファクターになります。注水量は多めにバキュームで水をコントロールし、照射面に白濁ができないように注意することが肝心です。

低出力と高出力のエナメル質においての蒸散の相違は
①凹凸 高出力>低出力
高出力がより白くみえる

②脆さ(粒子が小さくなる) 高出力>低出力
高出力がより白くみえる

③白色層の幅(変性層) 高出力>低出力
高出力がより白くみえる

最近では、接着(コンポジットレジン修復)に関しても多くの文献が出てきています。レーザーによる窩洞と回転切削器具による窩洞との接着力を比較すると、レーザー窩洞は、エナメル質の場合はほぼ同等、象牙質の場合は低いと言われています。したがって、接着力が落ちる象牙質では窩洞の処理が必要といわれていますが、実際の臨床では、接着システムの発展により、現状のボンディング材の使用説明書に則り正確に使うことが大切です。

  • 海外から来た高出力レーザーの機械の写真
    図1 海外から来た高出力レーザーの機械、ここからEr:YAGレーザーでの高出力の長所・欠点を学びました。
  • 術前・術中・術後の写真
    図2 全く初めてのレーザー治療の患者さんで、痛みを感じさせたくなかったので、20pps 40mJ 注水下で行いましたが、充分に蒸散できましたので、注水には注意して、コンタクトで軽く動かしながら照射しました。
  • 照射中の写真
    図3 照射中、患者さんの状態に注意し、適時出力を上げていきます。チップは歯面に対してコンタクトで使用します。
  • 深く広い白濁の層ができた写真
    図4 4W以上の高出力で照射した時は、通常の出力時の白濁と異なり、深く広い白濁の層ができます。

■歯周治療

図5~7(宮田 隆先生提供)は、私が最近一番衝撃を受けた写真です。写真をご覧ください。当たり前のことですが、目視しにくい場所でも確実に目視してレーザー照射する、これが今後ペリオで使用する際には一番大事なことです。
Er:YAGレーザーは、他の波長のレーザーでは不可能な除石ができます。除石には、ハンドスケーラー・超音波スケーラーを使いますが、患者さんがちょっと嫌だなと感じる治療の一つです。レーザーによる除石・ポケット内照射が不快感なく効率よくできるならば、患者さんのストレスは低減できます(図89)。
さて、除石・ポケット内照射でも、硬組織切削と同様チップの動かし方でチップの損耗が大きく異なります。スケーラーの感覚でチップの先端で仕事をするのではなく、先端から出ているレーザー光で治療します。これを間違えるとチップ先端を歯牙に強く当て破損の原因になります。チップの挿入は根面にほぼ平行に、すなわちポケットに沿って入れていきます。根面にダメージを与えるような挿入角度にはなりません(図10~12)。
ポケット内に挿入後、チップは軽く横に動かします。決して縦方向に押し付けて動かさないでください。この動きを実践するには、歯石の付いた抜去歯に対して、チップをいろいろな方向に動かし照射しながら、チップの照射角度を試してみてください。自分が思っていたような、歯石にゴツンとあたるようなチップの角度ではなく、チップ先端に力がかからない角度での照射が効率よく歯石除去できることが実感できると思います。抜去歯やウズラの卵の表面で簡単に体験できますのでぜひ体験してみてください(図13)。
今春、P600T新型チップが販売されました(図14)。このチップは先生方の希望から生まれました。P400Tとの比較写真で見れば一回り太くなり、照射パターンを見れば、P400Tより広がりの大きなことが確認できます(図15)。この照射面の広くなったのが特長で、分岐部や幅のあるポケットなど重症症例に重宝されます。P400Tに比べますと、太さがあることにより折れにくくはなっていますが、チップ先端で仕事をするとチップが折れることがあります。やはりチップ先端から出ているレーザーで治療しているというイメージが必要です。
肉芽組織の除去が、今までの治療器具よりEr:YAGレーザーを使用すると効率よくできます。現在、症例によっては、歯肉剥離をレーザーで行う場合がありますが、どうしても既存のチップではうまくいかない所がありました。
C400Fを使用すると、チップ先端の幅が狭いため、歯肉剥離中、肉芽組織をうまくそぎ落とすにはテクニックが要ります。S600Tは側方からのレーザー照射ができますが、チップ先端が切除用のため先端が尖っていますので、注意しないと先端を折ることがあります。
今回のPS600T(仮名称)はイメージとしてC400F・P400T・S600Tの長所を集めたものと考えていただければいいかと思います。症例としては、ノンフラップとフラップをしたケースの両方に使えますが、ノンフラップでのケースでは使用が簡単で結果の出しやすいチップに仕上がったと思います。発売は今年の夏の臨床研究会後の予定をしています。

  • アクセスフラップ作る写真
    図5 ポケットからの照射効果が出ない症例には、積極的にアクセスフラップを作ります。
  • 照射部位の確認する写真
    図6 剥離鉗子を用いて、照射部位の確認をします。
  • ポケット照射の写真
    図7 確実に照射を行います。図5と図6の2枚のスライドがなければ、通常のポケット照射に見えます。図5~7は、宮田先生提供のスライドです。
  • 前歯部歯肉の腫れと疼痛のある患者の写真
    図8 54歳女性。前歯部歯肉の腫れと疼痛で来院。希望として超音波スケーラーは嫌。術中術後の痛みもなく、振動もなかったので患者さんは満足された。
  • 主訴である腫れと痛みは取れました時の写真
    図9 3回目の照射から、主訴である腫れと痛みは取れましたが、患者さんの希望で継続して照射。主訴を早い時期の取り除くことは大切ですが、治療の継続を希望したのは痛みと振動のないことだとおっしゃっていました。
  • ポケット照射で効果が出ていない写真
    図10 ポケット照射で効果が出ないのは、チップと歯面との角度・チップの操作方向に問題があります。 
  • 少しの角度をつけて軽く横に動かす様子
    図11 ポケット内に滑らせるように入れて、少しの角度をつけて軽く横に動かします。
  • 大きな角度をつけて歯石に擦り付ける様子
    図12 大きな角度をつけて歯石に擦り付けるようにチップを動かすと、チップの破損も大きく、除去効率も悪くなります。
  • ウズラの卵の表面で、効率よい歯石除去のためのチップの照射角度を試した写真
    図13 ウズラの卵の表面で、効率よい歯石除去のためのチップの照射角度を試してみてください。
  • P600T(下)はP400T(上)の写真
    図14 P600T(下)はP400T(上)に比べ、太いので摩耗性とチップ強度が高くなっています。しかし、無理な動かし方をすると先端が破損することがあります。
  • 照射パターン
    図15 照射パターンは、明らかにP400Tよりも広く先端から出ている出力も大きいので、P400Tと併せて用いれば多くの症例での照射が可能になりました。

■おわりに

今回はページの都合で、軟組織疾患とインプラントにまつわるレーザー使用については話が及びませんでした。
Er:YAGレーザーの治癒の速さ・使用時の疼痛が少ないという特長を生かした使用が常識となってきており、インプラント周囲への応用も、現在販売されている4波長のレーザーでは、最も安全に使用できる波長であることは間違いありません。
Er:YAGレーザーは、歯科用レーザーの中では一番、基礎的・臨床的に研究がされており、絶えず新しい情報が得られます。過去の情報・方法に固執せずに、柔軟に対応、応用していくことが肝要かと思います。
現在、多くの講習会には、ユーザー会が併催されているケースがあります。新しい情報を得るために講習会に出席されたらいかがでしょうか?いつでもお待ちしています。

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