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131号 WINTER 目次を見る

TRENDS

新しいスーパーボンド接着セットについて

逸見浩史

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■目 次

■はじめに

歯科臨床に接着技術が取り入れられて久しいが、その存在はなくてはならないものとして、新しい臨床技術が増えてゆくに従い、さらにその重要性は増している。
しかし、現在に至るまで、接着にとって最もシビアな環境の一つである口腔内への適用は困難を伴い、優秀な接着材料とそれを的確に用いる手法が必要である。
これまで安定した接着性能と使いやすさを目指して多くの材料・手法が研究され、様々な接着材料が歯科臨床の広い範囲で用いられており、さらなる改良が加えられている。
そんな中、1982年に登場して以来、30年近くに亘り接着材料の草分けとして、大きな構成の変更もなく臨床で実績を高く評価されながら使用され続けている材料がある。
それがサンメディカル社のスーパーボンドである。拡散促進モノマーである4‑METAとホウ素系重合開始剤(TBB)を配合したMMA系の接着性レジンセメントで、その基本組成は登場以来変わっていない。
特性としては、エナメル質・象牙質への歯質接着はもちろん、レジン、歯科用金属・陶材にも高い接着力があり、特に象牙質との接着では良質な樹脂含浸層を生成し高い辺縁封鎖性を持つ。
そして、接着力のみならず、衝撃を吸収する粘り強さ、生体親和性の良さと樹脂含浸層による外来刺激の遮断作用により、補綴物や支台築造体の接着だけにとどまらず、その応用範囲は動揺歯の固定、矯正のブラケット装着、覆睾、破折歯根接着再植、根管充塡など多数の臨床分野に及んでおり、汎用性でも他の接着材料と比較して飛びぬけている。
今回、そのスーパーボンドが大きくリニューアルされた。まず最大の変革点としては、混和用ポリマー粉末(混和ティースカラー・混和ラジオペーク)と筆積用ポリマー粉末(筆積クリア)の開発である。
従来スーパーボンドの混和法においては、活性化液(キャタリストとモノマー液)とポリマー粉末の混和にはダッペンディッシュの冷却が必要であったが、混和用ポリマー粉末は表面性状と粒径のコントロールにより常温(25℃以下)での混和操作が可能となった。
また、従来スーパーボンドのポリマー粉末は筆積し難かったが、筆積用ポリマー粉末は表面性状と粒径をコントロールすることでポリマー玉の採取が容易にできるように改良されている。
優れた歯科材料とは、良好な性質を持つことが第一の条件であるが、操作性の良さもその条件として挙げられる。操作ステップが簡単明瞭になるほどヒューマンエラーも減少する。
これは、初心者にも扱い易く、また接着材料の応用の裾野をさらに拡げる改良といえる。
その他、今回は付属品に対しても臨床の現場における使いやすさを主眼とした大きな改良が加えられている。

■新しいスーパーボンドセットの構成について

新しいスーパーボンドは今までと同様にセット構成となっており、使用法により大きく3つに分けられる。
補綴物・支台築造体等のセット用途に特化した混和セット、矯正・動揺歯固定用途に特化した筆積セット、そして従来の構成品をそのまま継承したC&Bセットである(図1)。
それぞれのセットは、ポリマー粉材とモノマー液、キャタリストと改良を加えられた付属品からなる。
混和セットは従来のLタイプポリマー粉末に代わって新たに開発された混和用ポリマー粉末によって常温(25℃以下)での混和操作が可能になった。化学重合型の材料としては驚くべきことである。
室温が25℃を超える場合やさらに操作時間を延長したい場合は、従来品同様に冷却環境下で操作することが可能である(図2)。
筆積セットも新しい筆積用ポリマー粉末によって格段に筆積み操作がし易くなっている。
この2つのセットはセットケースの中仕切りが改良され、単品を追加して混和・筆積両方の構成品を1つのセット箱に収納できるようになっている(図3)。
また、混和セット、筆積セットに組み込まれている表面処理材のエナメル質用のレッド、象牙質用のグリーンは高粘度化され、従来のボトル式からシリンジタイプに変更された。
シリンジ容器も人指し指と中指を添える部分が大きく安定して押し出すことができ、尚且つ転がりにくく、手になじむデザインになっている。
シリンジ型にすることにより、片手で簡単に思った場所に好みの量を用いることが可能である(図4)。
そして特筆すべきは意外に目が行き届かない付属品の改良である。
まずはダッペンディッシュの改良である。新開発のものはダッペンディッシュの混和部分とその土台部分を分離し、それぞれディスポダッペンカップとダッペンスタンドと呼称されるパーツの組み合わせで用いる方式になった(図5)。これらは、ポリプロピレンでできており、オートクレーブの滅菌(乾燥工程は不可)にも対応している。
ダッペンスタンドには3つのディスポダッペンカップが装着でき、その他にプライマー溶液等を滴下できるユーティリティーのくぼみが2つと、筆置きまでついている(図6)。
色は共にグレー系で統一され、カップ内の接着材料が判別し易い仕様である。
従来の陶器製のものは、使用後の清掃をしっかり行う必要があり、混和部分が傷つくとこびりついた接着材が落ちにくい点もあったが、新しいものはダッペンカップを交換すれば問題解決である。また取り外して清掃すれば再使用が材質的に可能であり、院内でのメンテナンスが格段に楽になっている。
さらに筆も改良され、筆積用としてディスポーザブルな筆先(ディスポチップ)がS、L、LLと用意され、判別し易いように、それぞれ緑、ピンク、紫に色分けされている(図7)。
特に一度に大きなポリマー玉を採取したいユーザーには、ディスポチップ筆積用LLの登場は朗報であろう。
また、混和用に従来のディスポチップ混和用(青)も用意されている。
これらのディスポチップを収納する容器も天板をスライドさせ、手で触れることなく直接筆柄を差し込んで一本ずつ取り出せるように改良されている(図8)。
計量スプーンStandardは一見、従来のものと変わらないが、スプーンの内側のカーブがより滑らかにデザインされていて、粉材の付着を防いでより正確な計量が手軽にできるようになっている(図9)。
また様々な計量のニーズに応えるために、Standard、Small、Largeの3つのサイズが用意されているのは従来通りである。
このようにすべての付属品がより使い易く、確実な操作ができるように改良されている。
混和セット図10
混和法に特化したもので、常温(25℃以下)においての使用が容易となった。新型のポリプロピレン製ダッペンスタンドとそこへ装着して用いるディスポダッペンカップ、ポリマー粉末(混和ティースカラー、混和ラジオペーク)、クイックモノマー液、キャタリスト、計量スプーン Standard、ディスポ用筆柄(曲)とそれに装着して用いるディスポチップ混和(青)、表面処理材高粘度グリーン(シリンジタイプ)およびそれに装着するニードルチップ、ニードルキャップからなる。
筆積セット図11
筆積法に特化したもので、特徴として筆積専用の粉材(図12)により、ポリマー玉の採取がより簡単になっており、矯正や動揺歯固定に最適である。
新型のポリプロピレン製ダッペンスタンドとそこへ装着して用いるディスポダッペンカップ、ポリマー粉末(筆積クリア)、クイックモノマー液、キャタリスト、ディスポ用筆柄(曲)とそれに装着して用いるディスポチップ筆積L(ピンク)とLL(紫)、表面処理材高粘度レッド(シリンジタイプ)およびそれに装着するニードルチップ、ニードルキャップからなる。
C&Bセット図13
従来品のセット構成をそのまま継承したセットであり、ダッペンディッシュも今までと同じ陶器製のものが入っている。今まで愛用している臨床家で今後も同様に使いたい場合に対応したもので、接着手技等を変えることなく従来りの操作が可能である。
ダッペンディッシュ(陶器)、ポリマー粉末(ティースカラー、クリア)、モノマー液、キャタリスト、計量スプーン StandardおよびSmall、ディスポ用筆柄(直)、(曲)とそれに装着して用いるディスポチップ混和(青)、筆積S(緑)、筆積L(ピンク)、表面処理材 レッドおよびグリーン、スポンジ(L・S)からなる。
また、スーパーボンドは全ての構成品(キャタリスト・モノマー液・ポリマー粉末)が組み合わせ自由で、ポリマー粉末は従来と同じくアイボリー、オペークアイボリー、オペークピンク、ラジオペークのラインナップがあり共通単品として購入可能である。 当然、従来からの金属用プライマーであるV‑プライマーや、ジルコニア・陶材用プライマーであるポーセレンライナーMも今までと同じく用いることができる。
以前の構成品がそのまま流用できるのは、基本組成を変えないスーパーボンドの大きな利点の一つであろう。

  • 図1 新しいスーパーボンドセット
    図1 新しいスーパーボンドセット
    上:スーパーボンドC&Bセット
    左:スーパーボンド筆積セット
    右:スーパーボンド混和セット
  • 図2 従来品同様に冷却環境下でも操作可能である。
    図2 従来品同様に冷却環境下でも操作可能である。
  • 図3 ケースの中仕切りが改良され、混和・筆積両方の構成品を1つのセット箱に収納できる
    図3 ケースの中仕切りが改良され、混和・筆積両方の構成品を1つのセット箱に収納できる。
  • 図4 表面処理材は高粘度化し、従来のボトル式からシリンジタイプに変更され、スポンジを使用せずに直接歯面への塗布が可能になった。
    図4 表面処理材は高粘度化し、従来のボトル式からシリンジタイプに変更され、スポンジを使用せずに直接歯面への塗布が可能になった。
  • 図5a ディスポダッペンカップとダッペンスタンドを組み合わせる方式になった。
    図5a ディスポダッペンカップとダッペンスタンドを組み合わせる方式になった。
  • 図5b ディスポダッペンカップはダッペンスタンドにカチッと装着でき、裏から押すと容易に取り外せる。
    図5b ディスポダッペンカップはダッペンスタンドにカチッと装着でき、裏から押すと容易に取り外せる。
  • ダッペンスタンドには3つのディスポダッペンカップが装着でき、プライマー溶液等が滴下できる2つのくぼみと筆置きがついている。
    図6 ダッペンスタンドには3つのディスポダッペンカップが装着でき、プライマー溶液等が滴下できる2つのくぼみと筆置きがついている。
  • 図7 筆積用としてディスポチップが3サイズ用され、判別しやすいように色分けされている。
    図7 筆積用としてディスポチップが3サイズ用され、判別しやすいように色分けされている。
  • 図8 ディスポチップを収納する容器は天板をスライドさせ、手で触れることなく直接筆柄を差し込んで1本ずつ取り出せる。
    図8 ディスポチップを収納する容器は天板をスライドさせ、手で触れることなく直接筆柄を差し込んで1本ずつ取り出せる。
  • 図9 スプーンの内側の形状が改良され、粉材の付着を防いでより正確な計量が可能になった。
    図9 スプーンの内側の形状が改良され、粉材の付着を防いでより正確な計量が可能になった。
  • 図10 スーパーボンド混和セット
    図10 スーパーボンド混和セット
  • 図11 スーパーボンド筆積セット
    図11 スーパーボンド筆積セット
  • 図12 筆積専用の粉材
    図12 筆積専用の粉材
  • 図13 スーパーボンドC&Bセット
    図13 スーパーボンドC&Bセット

■まとめ

リニューアルされたスーパーボンドは、基本的な組成や作用機序を大きく変えることなく、従来より受け継がれた優秀な接着性、生体適合性はそのままに、より使いやすい材料として生まれ変わった。
これにより初心者からベテランまでが、長年の臨床実績を持つ材料の性能はそのままに、より自由に症例や好みに応じてタイプを選択し適用することが可能で、臨床応用の幅も一層拡がることが期待できる材料となった。

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