138号 AUTUMN 目次を見る
■目次
■はじめに
近年は超音波式骨削器を応用したインプラント手術の症例報告が増えてきているようである。
超音波式骨削器は、超音波振動を利用して軟組織への損傷のリスクを抑えながら硬組織に対する精度の高い切削を可能とする。
こうした特性を生かすものとして
- 1) 下歯槽管に近接した埋伏歯の除去。
- 2) サイナスリフトにおける骨開窓。
- 3) エクスパンジョン。
- 4) 移植ブロック骨の採取、及びスクレーパーとしての骨削片の収集。
等が挙げられる。
今回、コストパフォーマンスに優れたソニックサージオン300が発売されることになり、当医院にて3年ほど前から導入済みの従来機種と数症例で比較使用してみたが、チップの種類も豊富で非常に満足できるものであった。
限られた誌面の中で、全ての症例を解説することは不可能であるため、今回は超音波式骨削器の用途として最も関心が高いと思われるサイナスリフトにおける骨開窓を採り上げた。
■症例供覧
【症例A】は従来のサイナスリフトの開窓法であり、【症例B】はソニックサージオン300を用いた超音波式骨削器の特性を意識したサイナスリフト骨開窓である。
2つの症例を比較することで超音波式骨削器の有用性について考えてみたい。
【症例A】従来型サイナスリフト骨開窓(ウォール・オフ法)
本症例は20歳代女性。6 のサイナスリフト症例である(図A‑1、2)。
従来のサイナスリフト骨開窓法は、開窓部骨片を洞内に折り入れる『トラップ・ドア法』と本症例で用いた開窓部骨片を遊離除去する『ウォール・オフ法』とに大別される。
『ウォール・オフ法』の場合は、洞内補塡後に除去骨片を開窓部へ復位することを意識して骨削溝の幅を極力小さくすることが望ましいため、通常はラウンドバーによる骨削よりも径の細いフィッシャーバーにて骨削を行う。
また、開窓後に追加切削により開窓部の拡大を行うことは、除去骨片の復位が不能となるために初めから必要十分と思われる大きさの開窓デザインを意識する(図A‑3、4)。
*(挙上が広範囲に及ぶ場合には追加開窓し、複開窓とする)
バーによる開窓骨削時に洞粘膜にダメージを極力与えないことが骨開窓における最大のポイントであるのは『トラップ・ドア』、『ウォール・オフ』いずれのテクニックにおいても共通であるが、『ウォール・オフ』の場合は、さらに骨片除去時においても洞粘膜の裂開の危険を伴う(図A‑5、6)。
フィクスチャーの埋入に十分余裕を持った洞粘膜の挙上がなされたことを確認(図A‑7)。
インプラントの埋入、補塡材の充塡を行い開窓時に除去保存しておいた骨片を復位し、さらに吸収性メンブレンにて開窓部を被覆補強して終了(図A‑8、9)。
埋入後のX‑P所見(図A‑10)。
開窓骨片の除去時の粘膜損傷の危険はあるが、骨片の復位によって呼吸圧による洞内の補塡材料が押し出される力に抵抗できることが『ウォール・オフ』最大の利点である。
図A‑1 上下、左右全ての大臼歯部欠損。
※2007年の症例であるため、この時点では当医院ではCTは未導入。
図A‑2 右上臼歯部の拡大図。
図A‑3 歯肉剥離を十分に行い骨面の露出。
図A‑4 #700のフィッシャーバーにて開窓外形をデザイン。
図A‑5 洞粘膜を傷つけないように慎重に剥離しながら骨片を除去。
図A‑6 洞粘膜に裂開が無いことをチェック。
図A‑7 洞粘膜を剥離挙上埋入予定のフィクスチャーの長さに十分な挙上量が得られたかをチェック。
図A‑8 インプラントを埋入し、洞内に補塡材を充塡。
図A‑9 開窓部に骨片を復位して閉鎖。
図A‑10 埋入後の確認。
【症例B】ソニックサージオン300を用いたサイナスリフト骨開窓(掘削開窓法)
【症例B】はソニックサージオン300を用いた症例である。既に従来型のサイナスリフトの術式をマスターしている術者が超音波式骨削器を使った時の感想として、「骨の厚みがある症例では、開窓までの時間がかかりすぎる」というものが多く、あまり評価されていないようであるが、これは、今まで使用していたラウンドバーやフィッシャーバーを使ったテクニックをそのまま用いたことが原因であると考えられる。
今回は超音波式骨削器の特性を生かしたサイナスリフト骨開窓法を解説したい。
本症例は20歳代男性 6 部インプラント処置を希望。
画像診断(図B‑1)から、本症例においては2回法を採用。1次処置として上顎洞挙上を行い、治癒期間を利用してMTMにより7 の傾斜の修正を終了後にGBR併用のンプラント埋入を行うことを計画。
スクレーパー用のチップを用いて、十分な歯肉剥離を行い、露出された骨面全体から骨の厚みを切削調整しながら自家骨の採取を行う(図B‑2、3)。患者の開口量や器具の操作性等を考慮して開窓しやすい位置を決定し、さらに開窓部を中心に徐々に深く掘り下げるように骨削追加を行う(図B‑4)。この時に採取された骨削片は洞内への充塡材として利用(図B‑5)。必要に応じてさらに全体的に切削を加えてより多くの骨削片を収集できる。
薄い骨を一層残し、洞粘膜を確認できる程度まで骨削を進めた後、ラウンド形のチップを用いて辺縁のトリミングを行いDM3‑003の径を意識して円型の開窓部を作る。この時の直径は6mm程度で十分である(図B‑6、7)。
DM3‑003を用いて開窓部辺縁に沿わせ、洞粘膜を剥離する(図B‑8)。洞粘膜を剥離した後、洞粘膜の挙上に必要な開窓量の拡大を行う(図B‑9)。この時に生ずる骨削片も収集して補塡材として利用する。洞粘膜の十分な挙上を行った後に洞内に補塡材の充塡を行う(図B‑10、11)。
本症例では、採取した自家骨と、β‑TCP、HA等の混合補塡材を使用したが、自家骨のみで補塡を行う場合には、術部周囲骨削片だけでは量的に不足であるため、他の部位からの採取が必要となる。
チタンメッシュを用いて開窓部の封鎖(図B‑12)。今回用いた『掘削開窓法』では『トラップ・ドア法』と同様に、開窓部にハッチとなる骨片が無いために強度のあるメンブレン等による開窓部の封鎖が必須である。
本症例は後日にGBR併用のインプラント埋入を予定しているためにチタンメッシュを使用。画像による術後のチェック(図B‑13、14)。
図B‑1 左:術前CT 右上:術前パノラマX‑P 右下:術部拡大。
図B‑2 歯肉剥離、骨の露出。
図B‑3 露出骨面を一層骨削し、自家骨の採取を行う(DH6‑005を使用)。
図B‑4 開窓部を徐々に深く骨削。
図B‑5 自家骨をダッペングラスに保存。
図B‑6 開窓部辺縁のトリミングを行う(DG3‑001を使用)。
図B‑7 開窓部の大きさの確認。最初の必要開窓径はDM3‑003の径よりも僅かに大きい程度で十分である。
図B‑8 超音波振動にて開窓辺縁周囲の洞粘膜剥離を行う(DM3‑003を使用)。
図B‑9 必要な開窓量まで拡大(DD6‑028iを使用)。
図B‑10 開窓拡大終了後、洞粘膜を挙上。
図B‑11 洞内に骨補塡を行う(今回は採取した自家骨とβTCP、HAをMIX)。
図B‑12 開窓部閉鎖のための骨片は、骨削片として補塡材に使用したため、チタンメッシュにて開窓部の閉鎖(この症例は後日インプラント埋入を行う2回法であるが、インプラントの同時埋入を行う1回法の場合は吸収性メンブレンを使用する)。
図B‑13 術後の3Dイメージ像。
左:断面図 右:術後骨外観図
図B‑14 左:術後CT 右上:術後パノラマX‑P 右下:術部拡大
■まとめ
サイナスリフトにおいては、洞粘膜へのダメージを極力小さくすることは最も重要な問題である。ソニックサージオン300は洞粘膜に損傷を与えること無く骨削ができ、まさにサイナスリフトのために開発された器械であるともいえる。
今回紹介したソニックサージオン300による『掘削開窓法』は徐々に骨削を深くして必要最小限の開窓を行い、その後に必要に応じて安全に追加拡大を行う術式であり、サイナスリフトの経験の浅い術者にとってお奨めしたいストレスの少ない方法である。また、本来理想とされる補塡材である自家骨が、開窓の過程で必然的に生ずる骨削片として無駄なく収集できることも、超音波式骨削器の特徴を十分に生かすことができる効率的な術式であると思われる。
ソニックサージオン300は、今回は誌面の都合上紹介することができなかった様々なインプラントの難症例においても非常に有用であり、インプラントの適応症拡大のためには是非導入しておきたい器械であると思う。
目 次
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