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144号 SPRING 目次を見る

Clinical Report

電動式歯科用ファイルMANI GPR(ガッタパーチャリムーバー)「GPRの有用性」

日本大学松戸歯学部歯内療法学講座 診療教授 辻本 恭久

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目 次

はじめに

歯内療法の成功率において、抜髄や感染根管治療のような、初めて根管が処理されるようなケースにおいての成功率は約95%と高い。しかし、一度根管治療を受けて根管充填を施されたケースでの再根管治療についての予後については約70%と低くなってしまうことはよく知られている1-3)。これは根管の複雑さ、根管系の破壊、根管・フィン・イスマスの未発見・未処理など、様々な原因が考えられるが、根管充填材であるガッタパーチャが完全に除去されないことも、大きな原因の一つである。根尖部に汚染した根管充填材を取り残してしまうと、感染源が除去されていないわけであるから、根尖の病変は治癒せず再根管治療しても病変は治らないことになる。再根管治療において、根管充填材を確実に除去することは、予後に与える影響が大きい。しかし、実際の臨床において根管内のガッタパーチャの除去には時間がかかり、まして確実に除去されたか否かの確認も、マイクロスコープ(図1)を用いれば比較的容易にできるが、肉眼では困難である。今回、われわれはMANI®「GPRガッタパーチャリムーバー」<MANI®製造販売、(株)モリタ発売>(図2)を用いて再根管治療時の根管内ガッタパーチャの除去を行った治療をしているので解説する。

これまでの再根管治療

図3に示したのは下顎左側第一大臼歯のエックス線写真である。所見からわかるように根尖周囲には透過像があり、根尖性歯周炎と推測される。また近心根管根尖部には根管治療用器具の破折片と思われる不透過像が認められる。図4では根管治療を行い、ガッタパーチャを除去した後のエックス線写真を示した。近心根管根尖部には破折片が残留しているのがわかる。図5では根尖部の金属破折片を除去した後の、エックス線写真を示した。図6に示したのは根管充填後のエックス線写真である。これら、一連の処置に費やされる時間はどの位と考えるだろう? 実際、根管内のガッタパーチャおよび金属破折片の除去を行い根管のシェーピングを行うためには、これまでに、われわれが使用を推奨4)してきた、超音波用エンドファイル・ダイヤファイル<MANI®製造販売、(株)モリタ発売>(図7)を超音波発生器ソルフィーに装着使用して処理を行った場合でも、実質約30分以上要する。また、根尖部に汚染ガッタパーチャが残留した場合、水酸化カルシウム貼薬で根尖部の石灰化を期待しても、図8に示したように汚染ガッタパーチャがある場合には、根尖部が石灰化してこないのを臨床では経験することがある。ただし、この根尖部の石灰化と残留ガッタパーチャについての詳細なエビデンスはまだ報告されていないが、歯髄の再生が感染根管ではできない5)ように、感染ガッタパーチャがある部分での石灰化もないものと推測している。

  • Leica M320の画像
    図1 歯科臨床で使用されているLeica M320。照明にはLEDが使用されている。アームが長く、録画も簡単にでき、使用しやすいマイクロスコープである。
  • GPRの画像
    図2 GPR。左の2本はステンレス製の1S、2Sである。右の2本はNi‑Ti製の3N、4Nである。
  • 下顎左側第一大臼歯のエックス線写真
    図3 下顎左側第一大臼歯のエックス線写真。近心根管に破折片と思われる不透過像が有り、根尖周囲には透過像がみられる。
  • 下顎左側第一大臼歯のエックス線写真
    図4 下顎左側第一大臼歯のエックス線写真。根管内のガッタパーチャ除去後のエックス線写真であるが、近心根根尖部の破折片は残留しているのがわかる。
  • 近心根根尖部に、残留していた破折片が除去されたことを確認したエックス線写真
    図5 近心根根尖部に、残留していた破折片が除去されたことを確認したエックス線写真。
  • 根管充填後のX線写真
    図6 根管充填後のX線写真。

GPRガッタパーチャリムーバーの解説

GPRのコンセプト
  • 1. 根管内にあるガッタパーチャポイントを短時間で除去する。
  • 2. 生体および器具に対する安全性を考慮している。
  • 3. 簡単明瞭なシステムである。
  • 4. 特殊な操作や設備環境を必要とせずに使用できる。
  • 5. ガッタパーチャポイントの大まかな除去のみを行う。
    以上の5点がGPRのコンセプトであり、図9に具体的な除去コンセプトを示した。根管中央部あたりまではステンレススチール製の1S(#70)あるいは2S(#50)を使用する。根尖側1/3についてはNi‑Ti製の3N(#40)、4N(#30)を使用する。
  • ソルフィー用のコネクター(エンドチップM)とエンドファイルとダイヤファイルのセットの画像
    図7 ソルフィー用のコネクター(エンドチップM)とエンドファイルとダイヤファイルのセット。
  • マイクロスコープで観察した根尖孔の写真
    図8 マイクロスコープで観察した根尖孔の写真。白いツブツブ部分は石灰化組織。その上部に見えているのが残留しているガッタパーチャ。ガッタパーチャの周りは石灰化していない。
  • GPRの除去コンセプト図
    図9 GPRの除去コンセプト。1S、2Sでは根管中央部までのガッタパーチャを除去し、3N、4Nでは根尖手前までを除去する。
  • 刃部の形状図
    図10 刃部の形状。a先端角、m山幅、v溝深さ、pピッチを持つ構造をしている。
  • 1Sと4Nの形状図
    図11 1Sと4Nの形状。太さと長さは異なるが、形状は同じである。
  • GPRのそれぞれの刃部仕様の表
    図12 GPRのそれぞれの刃部仕様。
    ※1S、2S、3N、4Nは基本的に同じ形状特徴を有する
GPRの構造
  • 1. 刃部形状
    図10には刃部の形状のポイントを示した。a先端角、m山幅、v溝深さ、pピッチを持つ形状をしており、図11には1Sと4Nの形状図を示した。さらに、図12にこれらの具体的な材質、形状等を示した。前記したように、1S、2Sの素材はステンレスであり、D1の直径はそれぞれ0.70mm、0.50mmである。3N、4NはNi‑Ti製でありD1はそれぞれ0.40mm、0.30mmである。テーパーに関してはすべて4%である。刃部作業長は、1Sは16mm、2Sは18mmである。これは1S、2Sで根管上部のガッタパーチャを除去とする目的のため、また弾力性のない太いサイズのステンレスであるため、太い1Sは2Sより短い設定となっている。3N、4Nは根尖部近くのガッタパーチャを除去するためのものであり、1S、2Sよりも長い21mmに設定されている。刃部長はすべて12mmであり、先端角もすべて80°±5°に設定されている。また、溝数、カッティングエッジもすべて1であるが、ピッチ数は1S、2Sは6であるのに対し、3N、4Nは8と多くなっている。
    図1314には1S、2S、3N、4Nの形状ならびに刃部先端の形状を示した。
  • 2. 刃部構造
    図1314に示したように、溝はカッティングエッジを1つにして、引き込まれるのを抑制している。また、先端部の溝は浅くしてあり、徐々に溝が深くなっている。これは、GPRの挿入時の急な引き込みを抑制し、破折や根尖部の破壊を予防するための形状である。
    さらに、先端から元部にかけて徐々に溝深さ比率(対径)を大きくしてあるのは、除去物であるガッタパーチャの排出路を大きくとり排出性を上げるためである。
  • 3. 刃部の特性
    GPRの刃部のテーパーが4%に設定されているのは、一般的根管形成サイズ(#40、6%テーパー)と器具形状が一致すると、接触面が増加し、嚙み込みによる破折や根管壁損傷の原因となるためである。
    また、GPRのサイズを#70(1S)、#50(2S)、#40(3N)、#30(4N)としたのは、外径が大きく、根管壁との距離が小さい方がガッタパーチャをキャッチしやすく、巻き込みながら効率良く除去できるからである。
    一方、3N、4NはNi‑Ti製であるため超弾性特性を持っているが、先端約5mmにおいては形状記憶特性を持たせているので、柔軟性が高まり疲労破断耐久性も高まっている。
    さらに、オーバートルクで破折するときは元部よりで折れやすくなっている。
GPR使用時の特徴
  • 1. トルク制御付コントローラーの必要がない
    先端側の溝は浅く徐々に溝は深くなっており、嚙み込みを制御しているのでトルクオーバーによる停止制御は必要ない。
  • 2. 速度設定
    1000±500min-1で使用するよう設定しているので、一般のエンジンでも対応可能な回転数であり、ユニットのエンジンでも使用できる。1000±500min-1にした根拠は、特にこの回転数で行った時の除去効率、時間効率が良かったためであるとのことである。3000min-1での使用は、刃部形状に関係なく非常に短時間で除去可能だが刃部がぶれるため、破折を含め危険である。
GPRの安全への配慮
  • 1. 挿入時の急な引き込み感を抑制する。
  • 2. 根管壁を過剰に切削しない。
  • 3. 形成根管サイズを逸脱しないサイズおよびテーパーである。
  • 4. 器具の金属疲労破折を軽減。
  • 5. 作業長を短くし、根管への過度な侵入を予防する。
  • 6. 刃部先端に集中して発生する破折を抑制。
  • 7. 刃部根元付近で破折しやすく、根管内での破折片除去が容易。
  • GPRのそれぞれの形状図
    図13 GPRのそれぞれの形状。
  • GPRのそれぞれの刃部先端の形状図
    図14 GPRのそれぞれの刃部先端の形状。
  • 根管充填されている上顎左側第一小臼歯の人工歯の画像
    図15 根管充填されている上顎左側第一小臼歯の人工歯。
  • MANI®サージカルバーの画像
    図16 MANI®サージカルバー。左から25mmの#2、#330、#1557、28mmの#2、#330、#1557を示した。
  • 根管口までサージカルバーによって除去された人工歯の画像
    図17 根管口までサージカルバーによって除去された人工歯の状態。
  • 人工歯と1S・2Sの画像
    図18 根管中央部までのガッタパーチャを1Sあるいは2Sで除去する。
  • 人工歯と3N・4Nの画像
    図19 根尖手前までを3Nあるいは4Nで除去する。
  • 根尖部までほぼ除去された人工歯の画像
    図20 根尖部までほぼ除去された人工歯の状態。
  • ENDOHOLDERと各種ファイルの画像
    図21 ENDOHOLDERと各種ファイル。
  • ENDOHOLDER用の各種ファイルの拡大図
    図22 ENDOHOLDER用の各種ファイルの拡大図。
  • ファイルの先端図
    図23 先端はφ0.3、0.5、0.7mmの銛(もり)状の刃が付いており、僅かに取り残したGPがストレス無く除去できる。また、先端の刃部は360°付いており、持ち替えずに作業ができる。
  • 超音波用ファイルの画像
    図24 超音波用ファイルによる根管のshapingとcleaning。
  • 根管治療を終了した人工歯の画像
    図25 根管治療を終了した人工歯の状態。
ガッタパーチャの除去法手順
  • 1. サージカルバーの使用
    図15にガッタパーチャポイントによって根管充填された、上顎左側第一小臼歯の人工歯を示す。MANI®サージカルバー(#2、#330、#1557)(図16)のどれかを5倍速コントラを用いて根管口までのガッタパーチャを除去する(図17)。
  • 2. GPRによる根管内ガッタパーチャ除去
    図18に示した1S、2Sどちらかを根管の径に合わせて選択する。コントラアングルに1Sあるいは2Sを装着し、1000±500min-1で根管内に1~2秒停留後、上下に動かしながら、根管中央部までのガッタパーチャを除去する。次いで、根尖部付近までを図19に示した3Nあるいは4Nを用いて1S、2Sの操作と同様に根管の径を合わせて、用いるGPRを選択し、根管内に1~2秒停留後、上下に動かしながら、あるいは上下にブラッシングするようにガッタパーチャを除去する。除去後の状態を図20に示した。
  • 3. 根尖部のガッタパーチャ
    GPRを使用することで、根尖部のガッタパーチャもほとんど除去できるが、根尖部に残留したガッタパーチャはMANI®エンドホルダー、マイクロファイル(図2122)を使用することで除去可能である。また、GPリムーバー スピアー<製造販売(株)YDM、発売(株)モリタ>(図23)は根尖部に残留したガッタパーチャを除去するために開発されたもので、GPRシリーズのガッタパーチャ除去最終処理を行う器具として優れたものである。
  • 4. 根管のシェーピング・クリーニング
    最終的に根管壁に残留したガッタパーチャを含め、フィンやイスマス部分を切削し根管のシェーピングとクリーニングを行うには図24に示した、超音波用ファイル<MANI®製造販売、(株)モリタ発売>を用いて行うとよい。図25に超音波ファイルを用いてシェーピング・クリーニングされた人工歯を示した。

まとめ

今回解説したGPRを中心とした各種器具を用いれば、再根管治療に費やされる時間は飛躍的に短縮される。特にGPRは歯質をほとんど切削することなくガッタパーチャを除去することが可能であり、湾曲根管にも対応する。フィンやイスマス部分は超音波用エンドファイル・ダイヤファイルを使用し、根尖部の残留ガッタパーチャはエンドホルダー、マイクロファイルやGPリムーバースピアーを用いることで、根管系のガッタパーチャを除去し根管治療を完了することができる。

参考文献
  • 1) Sjogren U, Hagglund B, Sundqvist G et al.: Factors affecting the long‑term results of endodontic treatment. J Endodo, 16:498‑504, 1990.
  • 2) De Chevigny C, Dao TT, Basrani et al.:Treatment outcome in endodontics : the Torontostudy‑phase 4 : initial treatment, J Endod, 34:258‑263, 2008.
  • 3) De Chevigny C, Dao TT, Basrani et al.:Treatment outcome in endodontics : the Torontostudy‑phase 3 and 4 : orthograde retreatment, J Endod, 34:131‑137, 2008.
  • 4) 辻本恭久:マイクロスコープを使用した根管治療を有効的にする器具と使用法,デンタルマガジン,119,1-6,2007.
  • 5) 中島美砂子,庵原耕一郎:歯の健康維持・延命化をめざした歯科再生医療による新しい齲蝕・歯髄炎治療法の開発,小児歯科学雑誌,48:653-658,2010.

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