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Clinical Report

歯間部のプラークコントロールを再考する! 前編

愛知学院大学短期大学部歯科衛生学科 稲垣 幸司

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■疾病構造の現状から

疾病の罹患率を2014年患者調査1)から抽出すると、傷病別では、多い順に、高血圧性疾患677万8,000人、歯周病444万9,000人、悪性新生物300万8,000人、う蝕283万6,000人、脳血管疾患253万4,000人、糖尿病243万3,000人、心疾患(高血圧性のものを除く)193万9,000人、脂質代謝異常146万6,000人の順となり、歯科疾患である歯周病とう蝕が2位、4位となっている。次に、その罹患者の医療機関への通院者率(入院者を含まない人口千人あたりの人数)は、2013年度国民生活基礎調査2)によると、歯科疾患は、男女とも、「歯の病気」として、男性3位、女性5位とベスト5以内にランキングされている(図1)。
なお、同調査は、3年毎に行われているが、2010年、2007年、2004年、2001年の調査でも同様に、男女とも、上位5以内に位置づけされている。すなわち、う蝕、歯周病は、罹患率も高く、通院者も多いことがわかる。

■歯科疾患実態調査から

2011年歯科疾患実態調査3)によると、毎日歯を磨く者の割合は、およそ95%以上で、毎日複数回歯を磨く者の割合も年々増加している。
一方、う蝕をもつ者の割合は、5〜10歳の年齢階級では10%程であるが、20歳以上の各年齢階級では、急激に増加し、どの年齢層も8割以上である。過去の調査と比較すると、5歳以上25歳未満の各年齢階級では減少する傾向を示したが、45歳以上では、特に、高齢者になる程、より増加傾向を示している(図2)。
次に、歯周病所見は、15歳未満では、歯肉に所見のある者、検査対象歯のない者は少ないが、15歳以上はすでに、約7割、30歳以降から、約8割の者が歯肉に所見がみられ、およそ8割の国民が歯肉炎を含めて歯周病に罹患しているといわれている。
さらに、4mm以上の歯周ポケットを持つ者の割合(歯周炎)は、30歳以降で2割以上、45歳以降で3割以上、55歳以降で4割以上となり、2005年同調査と比較すると、30〜60 歳代では低くなる傾向を示したが、65歳以上の高齢者層ではより高くなる傾向にある(図3)。
すなわち、多くの国民が、う蝕や歯周病にならないために、毎日、歯を磨いているにもかかわらず、う蝕や歯周病の罹患率は高く、特に高齢になる程むしろ増加傾向にある。

■歯間部清掃用具の使用頻度の現状から

歯周病とう蝕の共通の好発部位は、歯間部である。その歯間部の清掃は、歯ブラシだけでは困難であり、歯間部清掃用具が必須となる。
一方、歯間部清掃用具の使用頻度は、健康日本214)では、歯周病予防のための40、50歳における歯間部清掃用具使用者の2010年目標値を、50%以上としているものの、1999年保健福祉動向調査によると5)、デンタルフロス約15%、歯間ブラシ約11%程度である。その後の2010年国民健康・栄養調査6)でも、デンタルフロス約13%、歯間ブラシ約20%に留まっている。

■歯間部歯肉の組織構造から

歯間部歯肉はコルと呼ばれ、形態的には鞍状形態(凹面形態)である(図4)。このくぼみに、プラークが停滞しやすく、かつ、歯肉は構造的に角化が粗な弱い上皮組織で被覆されていることから、歯周病関連細菌が停滞、侵入しやすく、歯ブラシだけでは、除去できない。
したがって、歯間部清掃用具を適切に用いないとう蝕や歯周病に罹患しやすいことになる。
現時点で、う蝕や歯周病の罹患率が依然として、高いことから、歯科医師や歯科衛生士は、その好発部位である歯間部への歯間部清掃用具の使用頻度を高め、その上で適切な使用法を啓発することが急務である。

■歯間部清掃用具の適切な使用に際して

歯間部清掃用具の効率的、かつ、歯周組織への損傷の少ない使用法は、歯ブラシでは除去できない接触点直下から舌側・口蓋側の歯頸部に、歯間ブラシのワイヤー部やデンタルフロスを沿わせて、歯頸部からプラークを除去することである(図5)。
歯間部清掃用具の適切な使用に際し、隣接面歯頸部の歯根形態、特に大臼歯部の歯根陥凹や根分岐部の位置関係に留意しておく必要がある(図6、7)。
一般的に、近遠心径は、頰側・唇側に比べ、舌側・口蓋側が小さいため、接触点から舌側・口蓋側の歯頸部にかけて、近心面は遠心方向に、遠心面は近心方向に角度をつけて、歯間ブラシのワイヤー部やデンタルフロスを沿わせなければならない。
したがって、患者指導において、この特異性を理解させ、この方向に操作するための技術の習得に繰り返しの指導が必要になる。
舌側・口蓋側の歯頸部に沿わない歯間部の歯間ブラシの使用は、歯間乳頭中央部を圧迫し、歯間部歯頸部プラークが残存し、さらに、大切な歯間乳頭部の喪失を招くことになるため、避けなければならない(図6、7青線)。

■歯間部清掃用具の臨床効果 歯間ブラシとデンタルフロスの比較研究から

慢性歯周炎患者に対して、歯肉縁下のルートプレーニング前の歯間ブラシやデンタルフロスの効果についてランダム化比較試験を行った研究7)によると、6週後、12週後ともに、デンタルフロス群に比べ、歯間ブラシ群で全ての指数がより低下し、歯間ブラシによる歯周病所見のより一層の改善効果が報告されている。
また、日本での歯間部プラーク除去効果を比較した研究8)でも、歯ブラシだけに比べ、デンタルフロス併用、さらに、歯間ブラシ併用でより有意なプラーク除去効果があることが確証されている。
歯間ブラシとデンタルフロスによる歯周病とう蝕の予防や治療効果に関するシステマティックレビュー9)やコクランレビュー10)でも、歯間ブラシの有効性が実証されている。
歯間部清掃用具には、歯間ブラシとデンタルフロスがあるが、本稿では、まず、歯間ブラシの選択と適切な使用法について解説する。

■歯間ブラシの選択基準

歯間ブラシのハンドル部分は、主に、ストレートタイプとアングル(L字型)タイプがある。
ストレートタイプの方が、挿入操作は平易であるが、前述のように、接触点直下から舌側・口蓋側の歯頸部中央にかけて(図5)、歯間ブラシのワイヤー部分を適合させることが困難(特に臼歯部)であるため、L字型を選択する。
さらに、歯間ブラシのワイヤー部分の適合後の操作には、ワイヤー部の強度が優れた製品、超合金製ワイヤーが適している(図8)。
植毛部の形態は、ストレート型、テーパー型、バレル型(樽状)があるが、歯間部への挿入のしやすさから、テーパー型が適している。
また、ゴムタイプの歯間ブラシは、歯間乳頭部歯肉を圧迫するだけで、接触点直下から舌側・口蓋側の歯頸部中央にかけてのプラーク除去は困難である。
歯間ブラシのサイズは、4S(最小通過径0.6mm~)〜LL(最小通過径2.2mm~)までの7種類があり、歯間部のサイズに応じて選択する(図9)。
一般的に、歯間ブラシは、歯周病に罹患した患者が使用するというイメージがあるが、ワイヤー強度の向上に伴い、極細の4SやSSSタイプが追加され、健康な歯周組織や軽度の歯肉炎症例に対しての適応が可能になった。
すなわち、歯間ブラシを、接触点直下から舌側・口蓋側の歯頸部中央にかけて適切に用いることで、歯間乳頭の損傷、喪失を防ぎ、歯周病やう蝕を予防し、その進行や再発を抑制することが可能になる。
しかし、歯間ブラシは、すべての部位に万能なものではなく、歯根の近接した歯や叢生部位の歯間部は、歯間ブラシの適応が不可能であるので、デンタルフロスを併用する。
むしろ、正常歯列であるからこそ、歯間ブラシ(極細の4SやSSSタイプ)を推奨すべきであり、歯間部清掃用具を指導する立場にある歯科医師や歯科衛生士も、その適切な使用者となった上で、よき指導者であるべきである。
すなわち、歯間部清掃用具を使用していない、いや、毎日使用することが定着しない歯科医師や歯科衛生士が、無責任に、歯間部清掃用具を指導する資格はない。歯間ブラシの誤った挿入により、大切な歯間乳頭が損傷し、炎症の原因である接触点直下から舌側・口蓋側の歯頸部中央にかけてのプラークが残存するという事態は、避けなくてはいけない。

  • 図1 男女別の通院者率の上位5傷病
    図1 男女別の通院者率の上位5傷病2)
  • 図2 う蝕を持つ者の割合の年次推移
    図2 う蝕を持つ者の割合の年次推移3)(5歳以上、永久歯)
  • 図3 4mm以上の歯周ポケットを有する者の割合
    図3 4mm以上の歯周ポケットを有する者の割合3)
  • 図4 歯間部歯肉の形態
    図4 歯間部歯肉の形態
  • 図5 歯根形態と歯間部清掃用具の適用部位
    図5 歯根形態と歯間部清掃用具の適用部位
    歯間ブラシの目的は、歯間部のプラーク(aの赤矢印部分)を除去することである。大切な歯間乳頭(図a青矢印、歯間部の中央部の三角状のピーク部分)を喪失させないように留意する。誤った使用により、歯間部の歯間乳頭だけが下がり、肝心の歯間部のプラークが残存するような使用法では歯周病は改善しない(青矢印)。上顎の前歯部の例であるが、図bの器具の方向に、口蓋側の歯間部の歯周ポケットに沿って、歯間ブラシをゆっくり小さく慎重に動かす(b、c紫矢印)。決して、早く動かしたり、振動したりする必要はない。
  • 図6 上顎歯頸部の歯根形態と歯間ブラシの挿入方向
    図6 上顎歯頸部の歯根形態と歯間ブラシの挿入方向
    歯根形態から、赤線のように歯間ブラシを挿入して清掃する。青線のように挿入すると、プラークは残存し、歯間乳頭部歯肉の退縮の危険性がある。
  • 図7 下顎歯頸部の歯根形態と歯間ブラシの挿入方向
    図7 下顎歯頸部の歯根形態と歯間ブラシの挿入方向
    歯根形態から、赤線のように歯間ブラシを挿入して清掃する。青線のように挿入すると、プラークは残存し、歯間乳頭部歯肉の退縮の危険性がある。
  • 図8 歯間ブラシのワイヤー強度の比較歯間ブラシ先端に重りをつけ、左右に90°回転して折れるまでの回数
    図8 歯間ブラシのワイヤー強度の比較
    歯間ブラシ先端に重りをつけ、左右に90°回転して折れるまでの回数<ライオン(株)データ>
  • 図9 歯間ブラシのサイズと通過径の比較
    図9 歯間ブラシのサイズと通過径の比較<ライオン(株)データ>
参考文献
  • 1)厚生労働省:平成26年(2014)患者調査の概要.http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/10syoubyo/, Accessed for Mar 3, 2016.
  • 2)厚生労働省:平成25年国民生活基礎調査の概況.http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/ktyosa13/dl/04.pdf, Accessed for Feb 20, 2016.
  • 3)厚生労働省:平成23年歯科疾患実態調査結果について.http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/62-23.html, Accessedfor Apr 11, 2016
  • 4)厚生労働省:健康日本21 歯の健康.http://www1.mhlw.go.jp/topics/kenko21_11/b6.html#A63,Accessed for Apr 16, 2016.
  • 5)厚生省大臣官房統計情報部:歯間部清掃用器具の使用状況.http://www1.mhlw.go.jp/toukei/h11hftyosa_8/kekka5.html,Accessed for Apr 16, 2016.
  • 6)厚生労働省:平成22年国民健康・栄養調査結果の概要.http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000020qbb.html,Accessed for May 23, 2016.
  • 7)Jackson MA, Kellett M, WorthingtonHV, Clerehugh V.: Comparison of interdentalcleaning methods: a randomized controlledtrial. J Periodontol, 77(8):1421-1429,2006.
  • 8)高世尚子、田淵由美子、鶴川直希、武村あかね:歯間清掃具によるプラーク除去効果の臨床的検討.日歯保存誌,48(2):272-277, 2005.
  • 9)Slot DE, Dörfer CE, Van der WeijdenGA.: The efficacy of interdental brushes onplaque and parameters of periodontal inflammation:a systematic review. Int JDent Hyg, 6(4):253-264, 2008.
  • 10)Poklepovic T, Worthington HV, JohnsonTM, Sambunjak D, Imai P, ClarksonJE, Tugwell P.: Interdental brushing for theprevention and control of periodontal diseasesand dental caries in adults. CochraneDatabase Syst Rev, 12:CD009857. doi:10.1002/14651858.CD009857.pub2, 2013.

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