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Technical Hint

ノリタケスーパーポーセレンAAA 発売30周年特別連載 スーパーポーセレンAAA の誕生

クラレノリタケデンタル株式会社 技術顧問 坂 清子

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■ポーセレン研究のきっかけ

学会発表や雑誌投稿以降、多くの臨床家から相談の電話を受ける機会が増えていった。その中で多かったのが、Ni-Cr系合金を使用すると、何故かポーセレン焼成後にクラックが入りやすいという内容であった。
前夜にポーセレンを焼いたときは問題なかったが、朝になるとクラックが入っている。この問題は技工物納品の日に間に合わないといったことが発生し、歯科技工士にとって死活問題となっていた。
そこで今度はクラックの原因を追究する研究を始めた。
当時、光弾性試験法などでポーセレン中の応力を測定する研究はなされていたが、筆者は合金にポーセレンを実際に焼付け、そのポーセレン中に発生する応力の種類や数値を測定する方法が納得しやすいと考え、専門家を探していたところ、愛知県立窯業技術センターの先生より類似した研究で博士号を取得した方<稲田博先生:当時の(株)ノリタケカンパニーリミテド開発本部部長>が食器製造メーカーの(株)ノリタケカンパニーリミテドにいることを教えてもらい、発表された論文を紹介いただいた。
論文は難しくて分からなかったため、翌日ノリタケへ電話をかけ稲田先生に会って相談に乗ってもらうことにした。
「合金にポーセレンを焼付けてポーセレン中の応力を測定したことはないけれど、陶器の基材と釉薬の関係と類似しているから測定は可能でしょう」と言われたので、今回も初対面だったが研究の指導をお願いした。
それからほぼ毎日、測定のためにノリタケの研究所を訪れる日々が始まった。合金単体、ポーセレン単体も加熱条件によりどのように熱膨張が変化するかも徹底的に調べた。
約3年の研究の結果、ポーセレンの熱膨張が加熱条件により変動し、合金の熱膨張と合わなくなること、そして強度が高く変形の少ないNi-Cr系合金ではその影響が顕著に現われ、クラックが発現しやすいことが分かった。
そこで、加熱条件による熱膨張の変動が少なく、クラックの入りにくいポーセレンの開発をしなければ、この問題は解決しないと考えた(図1)。
窯業工学ハンドブックなどを参考書として、ポーセレンの原材料となる長石などを入手し試作を何度も行ったが思うようにいかず、ノリタケに共同開発の申し入れを行った。
申し入れから約1年後の1981年、ノリタケ本社よりポーセレンの開発の許可を得た。開発にあたっては、3つの項目をターゲットとした。
①熱膨張の変動が少なく、クラックが入りにくいこと。
②ろう着時に合金中の銀によって黄変しないこと(図2、3)。
③天然歯と類似した蛍光性を有し、自然感にあふれた色調を再現できること。
ポーセレンを合金の熱膨張に合わせるためには原料となる長石にフラックス成分を添加して熱処理を行い、リューサイト結晶を析出させる。
しかし、このリューサイト結晶の量をコントロールすることが難しく、焼成スケジュールや繰り返し焼成によって結晶が増加あるいは減少することがクラックにつながっていた。
追加焼成を繰り返してもリューサイト結晶の増減が極力少なく、クラックの発生を抑制することに成功した。
また、今では改良されて聞くことは少ないが、当時は銀による黄変もポーセレンにとっては大問題であったため、新しいポーセレンではその解消を達成した。
以上のような物性面の開発はノリタケで行ったが、色合わせには多くの臨床家の協力をいただいた。結果、現在のクラレノリタケデンタルの陶材の特徴である赤みのあるあたたかい、口腔内になじむ色調となっている。
開発でターゲットとした3つの特長に優れているという意味合いからAAA(トリプルA)と名付け、1987年に『スーパーポーセレンAAA』は発売となった(図4、5)6〜8)
開発したポーセレンは『EX-3』という名称で海外への輸出も行っている。1987年に日本で発売した後に台湾からスタートし、現在では90ヵ国以上へと拡大している。
AAA発売以降、新たなポーセレンが発売されてきたが、今なお多くの臨床の現場で使用していただいているのは、物性面の特長が歯科技工士の先生方の信頼を得ているからだと考えている。
2000年に入り、フレーム材として新たにジルコニアが登場した。ジルコニアフレーム用陶材『セラビアンZR』を発売(2005年、日本発売)したが、AAAの技術を基本に据えて開発を行っている。
ジルコニア黎明期において口腔内で発生するジルコニア用陶材のチッピングが問題視される中、セラビアンZRはチッピングの少ない陶材との評価9、10)をいただき、AAAと同じく多くの国でたくさんの先生方に愛用いただいている。
現場の声を聞き、そしてノリタケのセラミックメーカーとしてのノウハウを生かした製品がノリタケの陶材であり、それ故に信頼いただけていると考えている。

  • 陶材およびセラミック製品年表
    陶材およびセラミック製品年表
  • 図1 歯科焼付用ポーセレンの熱膨張の変動。
    図1 歯科焼付用ポーセレンの熱膨張の変動。ポーセレンは焼成回数、冷却速度、ろう着時の係留時間などの条件により熱膨張が大きく変動する。開発したAAAは焼成条件により熱膨張の変動が極めて少ないことを実現した。
  • 図2 銀による黄変。
    図2 銀による黄変。左:銀含有合金使用で黄変したクラウン。右:黄変していないクラウン。
  • 図3 銀粉による黄変テスト。
    図3 銀粉による黄変テスト。上段:銀粉を載せずに焼成した試料。下段:銀粉を載せて焼成した試料。黄変の度合いはメーカーにより異なるが、AAAは黄変しない。
  • 図4 スーパーポーセレンAAA(トリプルA)
    図4 スーパーポーセレンAAA(トリプルA)。クラックフリー、銀による黄変防止、天然歯と類似した蛍光性を有す。この3つが主な特徴である。
  • 図5 スーパーポーセレンAAAで製作した金属焼付けポーセレン
    図5 スーパーポーセレンAAAで製作した金属焼付けポーセレン。自然感にあふれ、天然歯との調和に優れている。
    左:術前、右:術後。<(株)カスプデンタルサプライ山田和伸先生提供>
参考文献
  • 1)宮川行男:金属・陶材焼付界面におけるX線回折(第1報). 歯理工誌, 18(44):296〜306, 1977.
  • 2)宮川行男:金属・陶材焼付界面におけるX線回折(第2報). 歯理工誌, 19(45):15〜27, 1978.
  • 3)野村順雄、坂 清子:陶材焼付用Ni-Cr合金(3)-陶材焼付用Ni-Cr合金の技工上の諸問題-歯科技工別冊. 非貴金属によるクラウン・ブリッジの技工/医歯薬出版:61〜83, 1980.
  • 4)武井厚:80Ni-20Cr合金の高温酸化に及ぼす微量Be添加の影響. 金属学会誌, 32(12):1221〜1228,1968.
  • 5)坂 清子他:Ni-Cr系陶材溶着用合金の酸化膜について. 第39回歯科理工学会抄録, 1980.
  • 6)坂 清子:クラック発生の理論とクラックフリーの新陶材. 歯科技工, 14(4):423〜446、医歯薬出版, 1986.
  • 7)坂 清子:トラブルの少ない金属焼付ポーセレンの製作―理論に基づいた製作法―. QDT別冊「デンタル・ファイン・セラミックスの現況を探る」:97〜105, 1986, クインテッセンス出版.
  • 8)坂 清子:セミプレシャスメタルの問題点と新陶材. 歯科技工, 15(2):160〜193, 1987, 医歯薬出版.
  • 9)Rella P. Christensen :A Clinical comparisonof Zrconia, metal and alumina fixed-prosthesisframeworks veneered with layered or pressedceramic A three-year report JADA141(11)Nov.2010,1317〜1329.
  • 10)Markus B.Blatz, DMD, PhD、Francis Mante,DMD, PhD:Clinical Performance of PosteriorAll-Ceramic Crowns featuring three zirconiacoping systems (Katana/Procera/Lava) veneeredwith Noritake CZR porcelain comparedto PFM posterior crowns A survey of privatepractitioners: November 10, 2009. Universityof Pennsylvania School of Dental Medicine Departmentof Preventive and Restorative Sciences.

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