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DENTAL MAGAZINE デンタルマガジン

Clinical Report
歯間部のプラークコントロールを再考する! デンタルフロスの役割 「Floss or Die」から「Floss and Survive」へ
愛知学院大学 短期大学部歯科衛生学科 稲垣 幸司

本誌158号、159号の「歯間部のプラークコントロールを再考する! 前編、後編」において、国民の疾病構造の現状、歯間部清掃用具の使用頻度、歯間部歯肉の組織構造、歯間部清掃用具の臨床効果とその適切な使用法、選択基準や歯間ブラシの消耗の評価などについて解説した。そこで、本稿では、「Floss or Die」から「Floss and Survive」への変遷、デンタルフロスの臨床効果、種類、適切な使用法、歯間ブラシとの使い分けについてまとめた。歯間部清掃用具の使用頻度の現状歯間部清掃用具の使用頻度は、健康日本211)では、歯周病予防のための40、50歳における歯間部清掃用具使用者の2010年目標値を、50%以上としているものの、前述(デンタルマガジン158:30-33, 2016)のように、1999年保健福祉動向調査2)では、約25%(35?44歳:35.5%、45?54歳:31.6%)程度である。その後の2010年国民健康・栄養調査3)でも、デンタルフロス約13%、歯間ブラシ約20%に留まっている。「Floss or Die」をめぐる変遷から「Floss and Survive」へボストン退役軍人の健常人ボランティアを対象として、NormativeAging Study (NAS)という男性の正常な加齢に伴う長期的な研究が、1963年にはじまった。著者が、2000年10月から2001年9月に所属していたボストン大学歯学部健康政策・健康事業研究講座では、同調査に加えて、1968年からはじまったDental Longitudinal Study(DLS)という加齢に伴う口腔と全身の関係を特定する調査研究を行ってきている。すなわち、DLSの対象は、1,231名の有歯顎者で、その中の、1,147名を約18年追跡調査し、冠動脈性心疾患との関係が報告された(1996年)4)。追跡調査中に、207名が心臓疾患に罹患し、59名が冠動脈性心疾患により死去し、40名が心発作に遭遇した。冠動脈性心疾患のリスクを補正したうえで、歯槽骨吸収との関係を評価すると、オッズ比が、冠動脈性心疾患1.5、冠動脈性心疾患による死去1.9、心発作2.8となることから、両者の関連性を示唆した報告になる。さらに、その後、804名を約25年間追跡し、166名が冠動脈性心疾患により死去したことから、同様の評価(オッズ比1.5)を行い、歯周病の存在が、寿命(命)にまで関与することを示唆した衝撃的な報告(1998年)5)に繋げた。このような一連の研究を、アメリカのマスメディア(新聞Associate Press、July、1997、週刊誌Newsweek、Aug 11、p60、1997)が、「Floss orDie、すなわち、デンタルフロスをきちんとしないと(歯間部の清掃をおろそかにしていると)、死んでしまうよ(冠動脈性心疾患のリスクとなり、健康を害して死に近づきますよ)!」として大きくとりあげた。その後、歯周病と寿命に関する報告が続いている(表1)6)。一方、我が国においては、日本の歯科医師19,733名(51.4±11.6歳)を対象とした歯と全身の健康、栄養との関連に関する前向き研究7)において、歯間部清掃用具使用と全死亡リスクとの関連について報告されている。すなわち、平均9.6年間の追跡期間中に、1,086例の死亡を確認し、歯間部清掃用具の使用者では死亡リスクが低下し、ほとんど使用しない群と比較して、週5回以上使用する群では有意な16%のリスク低下を認めた(死亡危険度(ハザード比)0.84)。この関係は、調査参加時点で65歳末満であった参加者でより強く、同様に計算した週5回以上使用する群では、26%の有意なリスクの低下を示した(ハザード比0.74)。日本の大規模な歯科医師を対象とした前向き調査から、歯間部清掃用具の使用頻度が高い程、死亡危険度が低いことが示唆され、歯科医師や歯科衛生士は、「Floss and Survive、デンタルフロスをきちんとすればする程、(歯間部の清掃を適切に行う程)、健康で長生きしますよ!」という新フレーズを確信して、国民の口腔とからだの健康を守るために啓発を行う責務をもつべきである。次に、口腔清掃指導に当たる歯科医師219名のデンタルフロスの使用頻度と患者への啓発に関する研究8)を示す。すなわち、デンタルフロスの使用頻度が高くなるにつれて、患者にデンタルフロスを勧めるオッズ比が高くなり、使用しない歯科医師に比較して、毎日使用する歯科医師の方が、患者にデンタルフロスを11.7倍勧めるという報告である(表2)。他の因子として、デンタルフロスの使用法を教科書で学ぶだけでなく、模型を用いた実習経験がある方が、2.2倍、さらに、歯科衛生士がいない歯科医院に比べて、勤務する歯科衛生士数が3名以上になると、3.4倍患者にデンタルフロスを勧めるという興味深い結果である(表2)。したがって、歯間部清掃用具を指導する歯科医師や歯科衛生士は、自ら、歯間部清掃用具を毎日適切に使用していることが最低条件である。デンタルフロスの臨床効果真実は!成人の歯周病やう蝕に対するデンタルフロスの役割に関するコクランレビュー9)によると、歯ブラシにデンタルフロスを併用することが、歯ブラシだけに比べて、歯肉炎をより改善するという12件の報告から、その臨床的な効果が支持されている。しかし、歯ブラシとデンタルフロスの併用は、1か月後と3か月後のプラーク減少に関連しているという10件の研究からの、信頼性の弱いエビデンスで、歯ブラシとデンタルフロスの併用が、う蝕、歯石、クリニカルアタッチメントロス、QOL等のアウトカムに効果的であるとした報告はなかったと総括されている。おそらく、このようなエビデンスに起因するのか、2016年8月頃から、「デンタルフロスの効果には医学的な裏付けがなかったことが判明」といった記事10、11)が広報された。前述のように、エビデンスレベルは、確かに低いが、たとえば、ランダム化比較試験を行ったとしても、プラークや歯肉炎の変化では、有意差がでても、アウトカムとしてのう蝕、クリニカルアタッチメントロスやQOLなどの発生や変化には、長い年月が必要になり、現実的な数か月の臨床研究では、有意な差異はないと思われる。したがって、デンタルフロスの効果がないことには繋がらない。デンタルフロスの種類糸巻き(ホール)型デンタルフロスを糸巻きで束ねたもので、使用ごとにデンタルフロスを伸ばして、適度な長さに切り、環状にしたり指に巻いて使用する。糸は、歯間部に挿入しやすいよう、繊維の滑りをよくしたワックスタイプとワックスを使わないノンワックス、アンワックスタイプに分かれる。また、唾液によって繊維が膨らむエキスパンドタイプがある。エキスパンドタイプ(DENT. eflossR:ライオン歯科材)は、挿入時は歯間部へ入れやすく、歯面にも沿わせやすく、唾液に触れるとデンタルフロスの水溶性ワックスが溶けだし、直径が約4倍のスポンジ状に膨らむことで、清掃面積が広がり効率的にプラークを除去するものである(図1)。ホルダー型専用の柄にデンタルフロスを取りつけているタイプで、形状によりF字型とY字型があり、デンタルフロスとホルダーが単一でセットされているもの、糸巻き型を内蔵しているものがある。前述(デンタルマガジン158:30-33,2016)のように、デンタルフロスを接触点直下から舌側・口蓋側の歯頸部に、前歯部から臼歯部にかけてどの部位でも、適切に沿わせるためには、F字型よりも、Y字型ホルダー(図2)で、しなりと強度のあるデンタルフロスが望ましい。デンタルフロスの繊維は、通常は、ナイロンであるが、より丈夫な高耐久性(引張破断強度:ナイロンの約3?5倍)、より挿入が容易な低摩擦力(摩擦抵抗力:ナイロンの1/4?1/3)の超高分子量ポリエチレンから造られた高強度繊維材料テクミクロンが商品化されている(表3、図2、DENT.EX ウルトラフロスR:ライオン歯科材)。そのため、適用時には、水洗しながら、繰り返し使用可能で経済的である。デンタルフロスの材質の種類や用具によるプラーク除去効果には差異がみられないことから、接触点の強弱、歯面の塑造さ、補綴物や矯正装置の有無、器用さ、簡便性などの要因から、各個人にあったものを選択させる。デンタルフロスの適切な使用法デンタルフロスの歯間部への挿入は、歯間乳頭歯肉を損傷させないように、?舌的方向に、のこぎりを引くような操作を数回繰り返しながら、ゆっくりと接触点から歯間部に挿入させる。その後、接触点直下から舌側・口蓋側の歯頸部に、デンタルフロスを沿わせて、歯頸部から歯冠測にプラークを除去することである。一般的に、近遠心径は、?側・唇側に比べ、舌側・口蓋側が小さいため、接触点から舌側・口蓋側の歯頸部にかけて、近心面は遠心方向に、遠心面は近心方向に角度をつけて、デンタルフロスを沿わせなければならない(図3、4)。したがって、患者指導において、この特異性を理解させ、この方向に操作するための技術の習得に繰り返しの指導が必要になる。舌側・口蓋側の歯頸部に沿わない歯間部でのデンタルフロスの誤用により、歯肉クレフト(flossing cleft)が生じる可能性にも留意しておく必要がある(図5)。デンタルフロスと歯間ブラシの使い分けデンタルマガジン(158:30-33,2016)で解説したように、正常歯列であれば、歯間部清掃用具として、歯間ブラシ(極細の4SやSSSタイプ)が適用可能である。しかし、歯根の近接した歯や叢生部位の歯間部は、歯間ブラシの適用が不可能であるので、デンタルフロスが必須となる。逆に、小臼歯部や大臼歯部の隣接面の歯根陥凹部は、デンタルフロスでは、プラークの除去ができないので、歯間ブラシが必須である。また、最後方歯の遠心部には、デンタルフロスが有効である(図6)。しかし、デンタルフロスを乱暴に用いると、特に、最後方臼歯や臼歯部の遠心部において、歯質の欠損を引き起こしたり12)、歯槽骨吸収を起こす可能性13)のあることも留意しておく必要がある。また、糸巻き(ホール)型からデンタルフロスを取り出して用いる手指による方法とホルダー型を用いた方法があるが、接触点直下から舌側・口蓋側の歯頸部に、デンタルフロスを沿わせて適用できれば、どちらでもよい。しかし、手指による方法では、両手指4指を口腔内に挿入して、鏡を置いて適用させなければならない。一方、ホルダー型では、特に、Y字型ホルダーでは、片手に手鏡を持ちながら、口腔内に指を挿入することなく、片手での操作が可能である(図7)。さらに、Y字型ホルダー中間の把持部を、第1指と第2指で把持し、挿入後の舌・口蓋側に傾斜させるための角度調整が容易である(図2)。また、上顎では、接触点直下から口蓋側歯頸部に、デンタルフロスを沿わせた部分が見えないため、Y字型ホルダー中間の把持部を、第1指と第2指で把持し、挿入後の口蓋側に傾斜させ、適合させることをイメージさせ、指導時には、歯科医師や歯科衛生士が直視で確認する必要がある(図8)。まとめ口腔清掃指導にあたる歯科医師や歯科衛生士は、歯間部清掃用具としての歯間ブラシやデンタルフロスの適用法を熟知し、双方の適切な使用者となった上で、よき指導者であるべきである。歯間部清掃を再考した本連載が、国民の口腔の健康から、からだの健康に繋がる皆様の歯科医療の一助になれば幸いである。