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Clinical Hint

CBCT読影虎の巻Part2 CBCTのアーチファクトとその画像障害

デンタルスキャン院長 歯科放射線専門医・指導医 九州大学名誉教授 神田 重信

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■緒言

歯科用コーンビームCT(以下CBCT)は一般CT(MD-CT)に比べて、そのCT画像は物理学的にアーチファクトだらけの画像だと言われている。しかし、実際の臨床画像では微弱なアーチファクトは装置メーカーの工夫によって補正や減弱により目立たなくしているので、臨床医の目には認識されなかったり、注意を引かないことがある。
X線写真では被写体(歯・顎骨)を透過して来た直接X線がそのまま検出器(フィルムやセンサー)に画像として記録されるので、アーチファクトが生ずることが少ないし、むしろ散乱線によるノイズが問題となる。しかし、CBCTでは被写体を通過してきたX線を検出器で受光したX線画像を数学的計算(再構成画像構築)により、CT断面画像に作り変える過程で各種のノイズや不安定さが原因となって様々な人工的で不整な白黒画像が出現する。これらをアーチファクトと称して、被写体の歯・顎骨像と重なって障害像となる。
CBCTでは理論的にもかつ構造的にも各種のアーチファクトが非常に多く発生する宿命を持っているが、それらのアーチファクトの発現を防いだり、目立たないような工夫もされているものの、強いアーチファクトは臨床画像上でも残ってしまい、読影障害となる場合がある。
本稿では、もっとも良く知られた金属アーチファクトを主体として、どんなアーチファクトがCBCT画像に現れているか、それらがどんな障害を起こしているかについて解説したい。また工夫によっては障害を避けながら読影する方法も紹介したい。

■各種のアーチファクトによる障害像

1)歯科金属から発現した金属アーチファクト(メタルピンアーチファクト、メタルアーチファクト)
成人の多くは、歯の治療により金属の充填物、補綴物、インプラントなどが施されている。CT撮影により金属部を通過したX線は、そこで大部分が吸収され透過してくる線量が格段に低下してしまう。X線の吸収は原子番号が高い金属(Au、Pt、Baなど)ほど、また厚くなるほど強くなる。金属部を通過したX線は非常に減弱し、射出側ではX線信号がゼロに近づくために、この部分の画像を再構成するコンピュータアルゴリズムでは画像を作成することができず、無構造の黒い領域や白い放射状像として描出される(図1)。
CBCT撮影では、照射X線は照射野の中心を回転中心として、かつ水平方向に回転しながら照射されるので、金属部からはほぼ全回転方向にアーチファクトが発現する。しかし、金属の位置や大きさ、他の金属アーチファクトとの関連などにより、アーチファクトの出現は方向や強弱が様々に変化する。
一般に、歯列上にある歯の金属部から発現するアーチファクトは、発生原因となる金属から前後的方向(臼歯では近遠心方向)に黒い領域として見られる(図1、2)。また、金属の左右方向(臼歯では頰舌方向)には白い放射状の無構造障害像が見られることが多い(図1、3)。これらのアーチファクトは、横断像で明瞭に観察することができ、矢状断像や冠状断像では、アーチファクトの一部だけが観察される。

2)インプラント体から発現した金属アーチファクト
インプラント体の表面を構成しているチタン(Ti:原子番号22)の原子番号はやや低いが、数ミリの厚さを持っているので、やはりこのインプラント体からアーチファクトが発生する。横断像(図4)では、インプラント体が1本だけの場合はその前後に黒いアーチファクト領域が見られ、左右方向(頰舌方向)には白い放射状のアーチファクトが見られる。しかし、歯列並行断像(図5)では近心側と遠心側に黒いアーチファクトが発生して、歯槽骨をburn-outしている。頰舌方向の白いアーチファクトは、歯列並行断像ではほとんど障害されない。しかし、歯列直交断像(図6)では白いアーチファクトが強くでるので、インプラント体自体も膨張して描出され、周囲の歯槽骨を強く障害している。
図7のようにインプラントが数本隣接して埋入されていると、黒いアーチファクトはお互いに連続したり、さらに強調されて障害が非常に強くなりやすい。
これらのインプラント体から発生したアーチファクトにより、障害された歯槽骨の状態を観察する場合(例えば、インプラント周囲炎の疑い)、そのままでは歯槽骨の変化を見ることができないので、CT画像を軟調に画像調整したり、あるいは、画像を白黒反転することにより、アーチファクトにより障害された領域が見えてくることがある(図8、9)。しかし、インプラント埋入後の予後観察には、CBCTではアーチファクトが出やすく観察に向いていないので、デンタルX線写真を利用するのが妥当だろう。

3)根充ポイントから発現した金属アーチファクト
根充剤の主成分はBa(原子番号56)で相当に原子番号が高く、金属アーチファクトを発現しやすい。一般には根充ポイントは細いので(径が小さく、すなわち薄い)、高い原子番号の割には強烈なアーチファクトを生ずるまでには至らないが、横断像では根充ポイントから放射状に白いアーチファクトが発現している(図10)。さらに詳細に観察すると、白い放射状の間に小さな黒い領域(アーチファクト)も見られる。黒いアーチファクトは近心側や遠心側に出ていることが多い。このように金属アーチファクトの発現状態は、横断像で観察すると一目瞭然で、歯列並行断像や歯列直交断像ではあまり目立たない。これらの断面像では、白い根充ポイントがやや膨張したり、ポイントに沿ってその近心側や遠心側が黒くなり、あたかもポイントと歯質との間に隙間が生じたように見られることがある(図11〜13)。

4)歯冠エナメル質から発現した金属アーチファクト
歯の大部分を構成する歯質はアパタイトが主成分で、カルシウム(Ca:原子番号20)の含有量が多い。したがって、X線の吸収も高くなる。その中でエナメル質がもっとも実効原子番号(15)が高く、次に象牙質の実効原子番号(13)となり、金属のアルミニウム(Al:原子番号13)とほぼ同じとなる。顎骨の皮質もほぼ同じ実効原子番号を持つ。したがって、歯や顎骨皮質はX線工学的には金属の範疇に入る。しかし、原子番号13〜15では強いアーチファクトは発生しにくいけれど、厚みが増すと白い放射状アーチファクトが出やすい(図14、15)。
歯の歯冠部レベルの横断像(図16)では、エナメル質に対して接線方向は厚くなり、その方向に白いアーチファクトが出ている。同じ被写体の歯根レベルの横断像(図17)では、エナメル質が無くなり象牙質だけになるのでアーチファクトの目立った出現はない。

5)顎骨皮質から発現したビームハードニングによるアーチファクト
顎骨皮質は骨を構成する骨質としては最も骨密度が高く、実効原子番号(13)は象牙質と同じレベルにある。通常は強いアーチファクトの出現がないものの、皮質にたいして接線方向では、X線が通過する皮質成分が非常に厚くなり、皮質内部に黒いアーチが出やすくなる(図18〜21)。これはビームハードニング(beam hardening)と言われ、X線が強く吸収されるだけでなく、X線の線質が変化して固くなり皮質の画素値が低くなる現象であり、臨床画像では本来の骨質の白い画像が、やや黒い画像に変化する。すなわち、その部の領域は画素値が低く計算される。一般CTではCT値が低くなる。CBCTでは撮影するX線の管電圧が80〜90kVと低いので(一般CTでは120〜130kV)、ビームハードニングが生じやすい。

  • 図1
    図1 右側上顎臼歯部の歯冠部における横断像。歯冠金属から放射状の白い、あるいは黒いアーチファクトが強烈に発現している。
  • 図2
    図2 図1の歯列並行断像。上顎歯列の金属から発現した黒いアーチファクトが目立っており、他の白いアーチファクトは極めて弱い。
  • 図3
    図3 図1の歯列直交断像。上顎の歯の金属部から白いアーチファクトが水平にかつ左右方向に発現している。
  • 図4
    図4 右側下顎臼歯部の横断像。インプラント体から黒いおよび白いアーチファクトの発現が見られる。
  • 図5
    図5 図4の歯列並行断像で、インプラント体の近心側に黒いアーチファクトが発現している。断面方向をずらすと遠心側にも出現する。
  • 図6
    図6 図4の歯列直交断像で、インプラント体から左右方向に、強烈な白いアーチファクトが発現し、インプラント体は膨張し、周囲の歯槽骨を強く障害している。
  • 図7
    図7 下顎に4本のインプラント体が隣接して埋入されている。インプラント体の近心側や遠心側に強烈な黒いアーチファクトが発現している。
  • 図8
    図8 #46部のインプラント体から近心・遠心側に黒いアーチファクトが発現し、歯列直交断像(右)では左右方向に白いアーチファクトが発現している。いずれも周囲の歯槽骨を障害して見えにくい。
  • 図9
    図9 図8を白黒反転した。アーチファクトにより障害されていた歯槽骨が見えるようになった。この手法でアーチファクトによる障害をいくらか改善できる。
  • 図10
    図10 #46の横断像。根充ポイントから放射状の白い、あるいは黒いアーチファクトが発現している。
  • 図11
    図11 図10の歯列並行断像。近心根の根充ポイントはやや膨張している。遠心根の根充ポイントの遠心側に沿って歯質との間隙を思わせる黒いアーチファクトが見られる。
  • 図12
    図12 #37のデンタルX線写真。歯冠金属部や築造体の辺縁に沿って狭い黒い層が見られ、haloと言われるアーチファクトが発現している。
  • 図13
    図13 図12のCBCT歯列並行断像。根充ポイントに沿って黒いアーチファクトが発現し、破折などを疑わせる疑似所見(矢印)。
  • 図14
    図14 左側下顎骨の横断像。外則の皮質から放射状の白い、あるいは黒いアーチファクトが発現している。
  • 図15
    図15 図14の歯列直交断像。横断像で見られた放射状のアーチファクトは上下方向に見られる。
  • 図16
    図16 上顎歯列の歯冠部レベルにおける横断像。エナメル質から白い放射状のアーチファクトが発現している。
  • 図17
    図17 図16と同じ症例の歯根レベルにおける横断像。エナメル質は存在せず、象牙質となり、歯根からは目立ったアーチファクトは見られない。
  • 図18
    図18 右側下顎骨の横断像。厚い皮質骨を通過するX線はビームハードニングを生じ、皮質骨やその隣接した軟組織の画素値が低下し、やや黒くなる(矢印)。
  • 図19
    図19 図18における青色横線に沿った歯列直交断像。同様な所見が見られる。
  • 図20
    図20 図18症例と同様に、下顎骨の舌側皮質にはビームハードニングによる画素値の低下で黒くなる現象が起きやすい(矢印)。
  • 図21
    図21 図20の歯列直交断像。画素値の低下は皮質から海綿骨に及ぶ(矢印)。

■おわりに

CBCTの画像において、発現したアーチファクト(主に金属アーチファクト)の状態は横断像において明瞭に現れる。しかし、歯列並行断像や歯列直交断像では部分的に障害像が見られる。特に歯列並行断像では金属の近心側や遠心側に局所的な黒いアーチファクトが目立ち、他のアーチファクト障害は強くないので、読影には大きな障害にならない場合が多い。
CBCT画像では金属アーチファクトだけでなく、各種のアーチファクトが発現しているので、臨床画像上では異常で不自然な所見には注意を要する。アーチファクトと思われる障害像や異常な所見が見られた場合は、断面の位置を変えたり画像処理を加えたりして、障害像を外しながら読影することが必要である。

参考文献
  • 1)森一生他:CTとMR −その原理と装置技術−,76-87,コロナ社,2014.
  • 2)森田康彦:第4章 CBCTの性能、歯科用コーンビームCT徹底活用ガイド,103-129、クインテッセンス社,2008.

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