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DMR ディー・エム・アール

No.206 2002年9月21日発行
咬合圧の適正分散と咬合力の適正伝達
細井紀雄、細見洋泰、水野行博

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どう捉えるかが、粘弾性レジンを使うかどうか以前の段階で、一番重要な点だろうと思っているのですが、先生方はいかがお考えでしょうか。(図1~6)細井 そうですね。私は個人トレーにスペーサーを付与せずにシリコーン系印象材やラバー系印象材で最終的な印象を採ることが多いのですが、先生がおっしゃるように、そういった機能時の粘膜の動態を写し取ってくるというのが最も望ましいと思います。特に下顎のように負担圧面積の小さいところでは、機能しているときの粘膜の動態を再現しないと、機能回復できる義歯は望めないのかな、と思います。その状態では、印象面にはピカッと光った面が出てきます。シリコーン印象などでは、顎提粘膜のシワ1本1本を全部拾っていますから、機能時の印象ではなく、無圧に近く精密印象方法なのではないかと感じてます。私はまず、粘膜面のように圧が加わると、動くものの印象を細見 近年、高齢社会が定着するとともに義歯装着患者が増加し、特に高齢者においては、いわゆる粘膜負担性義歯の症例が多くなっています。私は従来から、粘膜のように加圧されると、動くものの機能印象にはコレクターワックスを使用していました。ここで再現されている印象面は、ティッシュコンディショニングをしているときに、患者さんが食べ物を噛めるというのと近い状態、つまり、機能圧が加わっていて、粘膜の部分が若干変化し、なおかつ、最大に加圧された状態から口腔粘膜に血流が戻り、咬合圧との均衡がとれた状態だ出席者:      教授細井 紀雄・      院長細見 洋泰・      助手水野 行博咬合圧の適正分散と咬合力の適正伝達鶴見大学歯学部歯科補綴学第一講座鶴見大学歯学部歯科補綴学第一講座歯科技工研修科東京都開業細見デンタルクリニック水野行博先生 細井紀雄先生 細見洋泰先生人に優しい歯科診療を考えるデンタルをテーマに明るい情報をお届けします。ISSN 0915-0765C O N T E N T S咬合圧の適正分散と咬合力の適正伝達出席者:細井 紀雄・細見 洋泰・水野 行博■関連商品鼎談鼎談 咬合圧の適正分散と咬合力の適正伝達ことですが、それがたぶんベストだと思います。私も東京医科歯科大学にいたときに、松元先生がなさっているのをよく見ておりましたけれども、コレクターワックスですと、機能しているときの粘膜の動態が非常に強調されますから。細見 次に、機能時の印象面が再現できたとしますと、今度は義歯の製作過程であまり大きなテクニカル・エラー、要するに重合時の変形などが出てくると、問題があります。大学のように専門の先生方がいらっしゃる場合はいいのですが、通常、開業えますし、齦 移行部の張り出しも外へ押したような形で固まってしまっているような気がするんです。口の中に入れると、義歯床で粘膜が加圧された状態になりますから、患者さんが痛いという部位が出てきます。咬合圧を受けなければいけない部分が小さければ小さいほど単位面積当たりの圧は大きくなります。上顎と下顎と比較すれば、下顎のほうが大きくその差が出てくるんじゃないかな、と感じています。(図11a, b)細井 全くそうですね。先生はコレクターワックスを使われているというと思います。(図7~10)細見 上顎の場合は硬口蓋がありますので、機能圧が加わったときでもそう大きな変化はしないのですが、下顎の場合は、ラバー系印象材のような硬化する印象材で印象したものは、オーバーロードがかかった状態で固まったところの面を再現しているように思100806040200患者さんの満足度(VAS値)咬合圧の分散の違い 咀嚼効率 ①沢庵 咀嚼効率 ②ハム硬性レジン80706050403020108070605040302010粘弾性レジン満足度(%)咀嚼時間(sec)咀嚼時間(sec)ティッシュコンディショナー粘弾性レジン シリコーン系 硬性レジンティッシュコンディショナー粘弾性レジン シリコーン系 硬性レジン患者A 患者B 患者C 患者D 患者A 患者B 患者C 患者Dティッシュコンディショナー粘弾性レジン シリコーン系 硬性レジン図1 コレクターワックスの印象これが下顎のオーバーデンチャーの症例での印象です。コレクターワックスですと加圧部の印象面には粘膜のシワがほとんど見られず、ピカッと光っているところが確認できます。図2 ティッシュコンディショナーの印象ティッシュコンディショナーを用いたダイナミックインプレッションです。コレクターワックスを用いた機能印象面に近い状態を再現しているように思われます。図3 広島大学でのデータですが、ティッシュコンディショナーでの患者さんの満足度がこのように高い。私が臨床の場で感じているのと同一である。※図3、5、6データ提供:濱田泰三教授(広島大学歯学部歯科補綴学第二講座)図4 硬性レジンと軟質裏裝材を床内面に装備した義歯の咬合力を、プレスケールにて測定した結果である。表に示したように約2倍の咬合力が軟質裏裝材の方で発揮されていることがわかる。図5 広島大学での研究結果であるが、1センチ角の沢庵を咀嚼した際には嚥下までの時間が、それぞれの床内面の材料で明確な相関が出ている。粘弾性レジンを装備した義歯の嚥下までの時間が他の物より短いことがわかる。図6 図7と同様に1センチ角のハムを咀嚼した場合には、沢庵の時のような相関は見られなかった。よってある一定の咬合力を発揮しなければ咀嚼できないような食品の場合は床内面の材料で差が出ることがわかった。図11a,b ラバーとコレクターワックスとの模型での比較これぐらい石膏模型にしてみますと顎提模型の再現性に差が出ています。図7 機能している時の粘膜の状態。モデリングコンパウンドによる印象。図8 その時の石膏模型。粘膜はのびて、シワがない。図9 機能していない時の粘膜の状態。アルジネートによる印象。図10 その時の石膏模型。圧が加わっていないので粘膜にシワがある。いずれも同一患者の下顎である。細井紀雄先生abコレクターワックスによる印象コレクターワックスによる印象ラバー系印象材による印象ラバー系印象材による印象診査しているわけですが、咬合したときの菲膜厚さが一定の厚さに分布することによって、負担圧が適正に配分されて、局所負担圧が小さくなる。それによって全体としては咬合力が高くなります。ですから、適合精度がいいということは局所負担圧分布に偏りがないということなんですね。(図12)細見 開業医は、患者さんから教えてもらう予後の結果しかないわけです。開業していますと、しょっちゅう「ちょっとここが」と言われて来院されます。日頃から、その患者さんを継続して見ていますので、「食べ物が入りやすくなったかな」など、ということが分かります。だから、そこでリライニングやリベースの処置をしているのですが、粘弾性レジンを使い始めてからは、食べ物が入って痛い細見 私のところでは、粘弾性レジンを使うことによって総義歯の場合にも母模型が残ることが多くあります。アンダーカットがあまりないものですが、重合終了時でまだ若干温度が高い状態ですと、柔らかさが増していますので、外れることがあるんですよ。細井 粘弾性レジンを使うことによるメリットは大きいですね。細見 粘弾性レジンが軟らかいから痛くなく噛めるんだということではなく、適合精度自体が上がるから単位面積あたりの力は小さくなるのかなと。軟らかいものは食べられるけれども、硬いものがイマイチと言われるような総義歯の場合に、きちんとしたステップを踏んだうえで、粘弾性レジンを内面に敷くということは、一定以上の咬合圧が必要なものでも食べられるという付加価値が加わるのだと思っています。決して粘弾性レジンを敷けば何もかもが全部いいんだというのではなくて、そのなかでの一要素にはなり得るのかなと、臨床を通して思うのです。細井 適合精度がいいということは、機能時に粘膜への負担圧が適正に配分されている、ディストリビュートされているということで、例えば粘膜が薄くてあまり圧を負担できないところは小さく、圧に耐えられるところは大きく、それが均一に出てくることだと思うのです。私たちはそれをホワイトシリコーンを使うなどして医の場合は院内ラボか技工所へ出します。そうすると、適合精度がいつもいいものばかりをつくってくれているとは限りません。母模型に戻したときに、硬性レジン、つまり床用レジンだけで重合したものと、内面に粘弾性を持った柔らかい材料を使ったものでは、やはり母模型への戻り方が違います。さらに口腔内に入ったときには粘膜自体も動きますので、随分違うんだろうということは感じているのですが。水野 加熱重合レジンの場合にはかなり大きな変形があるように思います。低温長時間重合法で何とかなるかというと、それでも満足な適合が得られるとは言えませんね。重合後、徐冷する方法が安直で効果的だろうと思っているのですが、細見先生がおっしゃるように、粘弾性レジンを裏装して重合しますと、確かに硬性レジンの収縮が緩衝されてしまうというのでしょうか、非常に適合のいいものができるということは経験しています。細見 硬性レジンのような重合時の変形量の多いものが変形しようとしているときに、柔らかいものが内側にあると、それが変形を補正しているんだろうというような気はするんですよね。細井 義歯の場合はだいたい作業模型を壊わして割り出ししますので、母模型がなくなってしまうわけです。私共の技工部では、小型の義歯とか金属床義歯などですと、フレームがしっかりしているので、取り外し埋没法で、作業模型を残してワックスデンチャーをそっと取り外すんですね。水野 一度、模型上で粘膜面の印象をするということですね。それで重合して、模型にまた戻すことをしているわけです。その戻すときに変形による当たりを調整しながら模型に合わせていきます。細井 そういった方法で加熱重合レジンによる義歯を調整しているわけです。そのときに粘弾性レジンの重合収縮を補正するという意味で使えば、あるいはいいのかもしれませんね。図12 適合検査。ホワイトシリコーンの菲膜厚さは、ほぼ均一で負担圧分布は適正である。図13 フィジオライナーを裏装した図14 高度に吸収した下顎顎提。下顎全部床義歯。図16 スペースにバイオライナーを盛り上げて、直接法で裏装する。図17 咬合圧負担域である大臼歯部はフィジオライナーで、左右のオトガイ孔間は疼痛緩和の目的でバイオライナーが裏装されている。図15 バイオライナーを前歯部から小臼歯部にかけて裏装するためにスペースを設ける。細見洋泰先生れた人工歯デュラクロスフィジオはそういうふうになっていますね。細見 水野先生、大きさはどうですか。水野 デュラクロスフィジオの第一大臼歯近心 側咬頭と近心舌側咬頭頂間を測ってみますと、やや従来のデュラクロスよりは広くなっているかなという程度ですね。大事なことは、削合量が増えてくるとファセットが大きくなって咬合面が広くなる傾向にあるので、口腔内での調整で広くな細井 一般的に咬合面が広ければ、側方運動や前方運動をしたときに当然滑走面積が広くなり、距離が大きくなりますから、義歯の動きを助長することになると思います。ですから、なるべく義歯の動きを少なくするという意味で、例えばリンガライズドオクルージョンが出てきたのも、そういう考え方からです。細見 リンガライズドオクルージョンのように上顎の機能咬頭が下顎の咬合面の中心窩にほぼ垂直に入ってくるような咬合様式をとったときに、接触面積とか云々よりも 側側にスピルウェー、つまり食べ物が流れる大きなスペースができるというのは、非常に大事なことだろうと思います。だから、これからの人工歯の持っていなければいけない要因としては、少し幅の狭い、要するにリンガライズドオクルージョンを採用したときにスピルウェーが 側側にきれいにできるように排列できるものがいいと思います。細井 そうですね。学生にも、やはり人工歯は天然歯よりは 舌径も、近遠心径も狭いものと教えています。スピルウェーが 側にあって食べ物が流れるようにということも、非常に大切なことです。今回新しく発売さというクレームは非常に少なくなったように思います。細井 私は、粘弾性レジンのフィジオライナーとバイオライナーを、非常に高度に顎堤が吸収して、いつも痛みを訴えるような患者さんに適用していました。細見先生の先程からのお話を伺って、加熱重合レジンの変形を補正するとか、適合精度をよくするというところに視点を持っていきますと、特に高度吸収の症例だけではなくて、普通の症例に使ってもいいんだな、という感じを受けました。粘弾性レジンは疼痛緩和というよりも、義歯の適合をよくする材料ですから、症例をあまり狭めないで、いろいろな粘膜負担性義歯の症例に適用していきたいですね。(図13~17)細見 では、ここで視点を変えまして、義歯が口腔内で安定するためには咬合の調和が必要になってきます。そして、そのために人工歯の形態が非常に重要になってきます。私は下顎の両側性の遊離端でどれぐらい義歯の動きが咬合の接触関係で変わってくるかという研究をしたときに、人工歯の咬合面の 舌径というのは、対合歯の7 割程度の幅のものでなければならないというデータを得ました。ただ、それが5 割になってしまうと、逆に大きく動いてしまいます。それから、もう一つわかったことは、咬合接触面積が後方臼歯部に行くに従って少なくなるほうがはるかに義歯が動かないということです。 舌径を広くして、接触面積を広く取ると、咀嚼効率自体は上がりますから、患者さんは食べ物は噛めるけれども、義歯が動いてしまいます。義歯が動かないことと、食べ物が噛めるというメリットとを天秤にかけなきゃいけないわけです。今まで広いものを入れていらっしゃって、狭いものに替えた途端に、「先生、痛くはないんだけれども、食べ物が噛めない」。それはストローク数でカバーをしようということです。要するにどんなに噛んでも義歯は動かないのですから、残存諸組織に為害作用を及ぼしません。だから、長い間噛んでも為害作用が起きません。( 図18~20)図18 人工歯咬合面の 舌径と義歯動態との関係対合歯の 舌径に対して約7割の幅を有する人工歯が、義歯の動きを少なくし、なおかつ食品での差が出にくかった。咬合面形態と義歯の移動量との関係咬合面接触箇所  舌径振幅浮上沈下A B C(Peanut)mm振幅浮上沈下A B C(Nougat)mm図19 咬合接触面積は小臼歯部から最後方臼歯にいたるに従って順次少なくなっていく方が、咀嚼時の義歯動揺度を軽減する。図20 後方臼歯にいくに従って固有咬合面が 舌径で狭くなる方が良い。A:対向歯の 舌径とほぼ一致したものB:Aよりも 舌径を30%削減したものC:Aよりも 舌径を50%削減したもの最後臼歯に向かうほど小さく水野行博先生るのですが。細井 確かにそうですね。義歯調整に関しては、咬合面の調整が先か、粘膜面の調整が先か、という質問をよく受けますが、それは両方とも基準がないからですよね。粘膜面の変化というのは生体が変化するわけですから、基準がなくなってしまうので、やはり咬合面で硬質レジンのように咬合関係が変化しにくいものを基準にし、粘膜面のほうで粘弾性レジンで補正して調整するほうがよろしいかと思います。先日、各メーカーの硬質レジン歯の調査をしましたが、硬さではデュラクロスフィジオが有意差を持って最も硬いですね。また、臨床的な経験からも、調整時の感触がいいといいますか、必要以上に削れないし、非常に調整もしやすい。そして硬さもあるということで、非常に良い人工歯ではないかという印象は持っています。また、私は“ 硬質レジン歯の色調変化の原因” というテーマで、コーヒーの水溶液につけた場合の変化や技工操作時の火炎の影響など、各種の人工歯をi n v i t r o で実験、調査したのですが、デュラクロスフィジオが最も変色しにくい人工歯であるという結果が出ました。細見 開業医にとって、システムで材料が揃うというのは非常に楽なんですね。硬いもので経時的な変化を抑え、軟らかいもので生体の変化を抑える。フィジオロジックのシステムの中でチョイスしていけば大きな間違いが起こらないというのは、私達開業医にはとても有難いことなんです。細井 粘弾性レジンによって適合精度を上げ、形態に優れた硬い人工歯によって咀嚼効率を上げる。これがフィジオロジックのコンセプトでしょうね。削合するときには、咬合器のラテラルウィングを5 度ないし0 度まで下げます。そうしますと、固有の咬合面の中にも食べ物が流れるスペースが広がり、そういう空間が生まれます。(図24~26)細見 それと、どんなに咬合器上で調整されていても、口腔内では咬合調整して、削合しなければならない場合が大半です。そうすると、削合後はどうしても硬質レジン層があまりない状態になりがちです。デュラクロスフィジオの硬質レジン層の厚みというのはいかがですか。水野 従来のデュラクロスより、またさらに硬質レジン層が厚くなっていると思います。その分、削合には十分耐えられると考えられます。(図27)細見 ところで、硬質レジン歯や陶歯などの咬合時の衝撃力が顎堤に及ぼす影響についてよく言われますが、フィジオライナーなどの緩衝作用のある粘弾性レジンを内面に敷いておいて、デュラクロスフィジオのような咬合高径が変わりにくい硬い人工歯を咬合面に持ってくるというフィジオロジックシステムは、今までの弱点を補うような気がすらないように工夫されたほうがいいんだろうと思いますね。細井 そういう意味では、デュラクロスフィジオはあまり削合しなくていいわけですね。水野 そうですね。技工操作の上では嵌合もきちんとしますし、側方運動時のバランスも削合をほとんどしなくても大丈夫なくらいに排列できますので、技工サイドでは、できるだけ削合量を少なくして完成するように心がけています。(図21~23)細井 デュラクロスフィジオは下顎の 側面がわりと舌側に傾斜しているので、食べ物のほとんどは 側のほうに流れやすい形態になっています。また、少し上顎臼歯の側方調節彎曲を強くしてやれば、確実に広くなりますね。水野 リンガライズドに排列して、図21 中心咬合位。 図22 作業側。 図23 平衡側。図24 中心咬合位の咬合面の適合検査。 図25 右側方運動時の咬合面の適合検査。 図26 左側方運動時の咬合面の適合検査。図27 デュラクロス フィジオ前歯と臼歯の硬質レジン層