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No.212 2008年9月1日発行

クラレメディカルレジンセメント3製品を使いこなす

加藤正治

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クラレメディカルレジンセメント3製品を使いこなす- クリアフィルSAルーティングの臨床的位置づけ -

高輪歯科加藤 正治

1接着新時代の到来

従来から修復物の合着には、無機セメントやレジンセメントが用いられている。レジンセメントはコンポジット系レジンセメント、PMMA系レジンセメント、そしてグラスアイオノマー系レジンセメント(RMGI)に大別されるが、接着性に優れた前二者のレジンセメントは、テクニックセンシティブで多くの操作ステップが要求されることから敷居が高く、主に自費補綴物を中心に用いられてきた。
一方、RMGIは簡易的なレジンセメントとして普及し、保険点数上も接着材料に分類されたことから、現在もっとも多用されるセメントとなっている。しかしながら、RMGIは接着性能においてはいわゆるレジンセメントに匹敵するとはいえず、とりわけ耐久性や物性面において満足のいくものではなかった。
それに対し、今回クラレメディカルからパナビアF2.0(図1)、クリアフィルエステティックセメント(図2)につづくレジンセメントとして発売となったクリアフィルSAルーティング(図3)は、パナビアで培った技術を投入しMDPを高配合することで補綴物の前処理を不要とし、要望の多かった余剰セメントの除去を光による半硬化の状態で可能とした、まさに文字通りSA(セルフアドヒーシブ)のルーティング(合着用)セメントといえる。
RMGIと違って純粋なレジンセメントであるとともに、簡便ながら信頼性の高いレジンセメントとして、これまで敬遠されがちであった保険診療においても、標準となりうるセメントの登場で、いよいよ合着は本格的に接着の時代に入ったといえるであろう。

  • 図 1パナビアF2.0

  • 図 2クリアフィルエステティックセメント

  • 図 3クリアフィルSAルーティング

2接着の使命

合着にレジンセメントによる接着を求める理由は何か。
ただ単に接着強さを高めて脱離に抵抗するためではない。二次齲蝕の再発予防という点からみれば、細菌とその栄養の進入を防ぐことができるセメントが理想であり、その可能性を持っているのが接着性レジンセメントである。
しかしその予後を左右する因子は決して接着強さだけではなく、材料の選択、組み合わせ、テクニカル面での正確さ等の多くが存在し、症例ごとに判断することが大切である。

臨床例 1 パナビアF2.0(レジンコア+エステニアジャケットクラウン)
  1. 1-1補綴物除去時、二次カリエスが進行している

  2. 1-2根管形成終了時 歯根象牙質は変色し、脆弱化している

  3. 1-3間接法にてファイバーポスト併用レジンコアを作製サンドブラスト処理後、K-エッチャントGEL5秒塗布、水洗、乾燥

  4. 1-4セラミックプライマー塗布、乾燥

  5. 1-5支台歯の歯面処理ADゲル法を行う K-エッチャントGEL10秒塗布、水洗、乾燥

  6. 1-6ADゲル60秒塗布、水洗、乾燥

  7. 1-7EDプライマーⅡ30秒塗布 充分に乾燥

  8. 1-8パナビアF2.0ペースト(ホワイト)をCRシリンジニードルチューブにて根管内に満たし、コアを圧接光照射 6番も同様に処置

  9. 1-9作製したエステニアジャケットクラウンを試適調整後、サンドブラスト処理(1~2気圧)、超音波洗浄

  10. 1-10K-エッチャントGEL5秒塗布、水洗、乾燥
    1-11セラミックプライマー塗布、乾燥

  11. 1-12ADゲル法後の支台歯 出血のないことを確認後、EDプライマーⅡ30秒塗布、充分に乾燥
    パナビアF2.0ペースト(ブラウン)にて装着

  12. 1-13セット後のエステニアジャケットクラウン

とくに、近年重要視されてきた弾性率の論点から述べるならば、咬合力にも耐えうる機械的強度と弾性率を有するコンポジット系レジンセメントは合着用の第一選択となり、辺縁漏洩を防いで細菌の侵入に抵抗することを期待するものである。
予防がキーワードとなって久しいが、いわゆる修復治療の領域においても細菌をターゲットにするならば、接着は予防の一部を担っていると言っても過言ではない(図4)。

図 4予防処置と接着治療はともに細菌をターゲットにしている。細菌の侵入を防ぐには接着が不可欠である

臨床例 2 クリアフィルエステティックセメント(ジルコニアジャケットクラウン)
  1. 2-1支台歯形成後の上顎前歯 右上2番のみ生活歯、ほかレジンコア

  2. 2-2試適時、トライインペーストにてセット後の色調を事前にチェックする

  3. 2-3トライインペーストにて試適確認後、充分に水洗する

  4. 2-4サンドブラスト処理後、セラミックプライマー塗布、乾燥

  5. 2-5歯面にEDプライマーⅡ30秒塗布乾燥 エステティックセメントにて装着 余剰セメント拭き取り後、光照射

  6. 2-6内部のセメント層まで光が到達するように十分に光照射する

  7. 2-7セット後のジルコニアジャケットクラウン

3レジンセメントのバリエーションと選択基準

従来レジンセメントは無機セメントよりも接着性が高いセメントとしての存在でしかなかったが、これからはレジンセメントを一種に絞るのではなくそれぞれの特長や、その場の状況判断にあわせて症例毎に選択していくことが欠かせない。今回紹介するクラレメディカルの3製品を症例に応じて使い分けることであらゆる合着の臨床例に対応できる(図5)、(図6)。
そこで各セメントの特長を捉えて様々な観点から選択の基準を以下に示してみたい。

  • 図 5クラレメディカル3製品とそれぞれの重視している特性

  • 図 6メーカー推奨の使用用途を参考に、最終的には臨床的判断により選択する

1.予防的観点から選択するパナビアF2.0

筆者は臨床歴の中で合着用途にはクラレメディカルのパナビア(現製品パナビアF2.0)を中心に用いてきた。すでに象牙質処理法として評価されているADゲル法との併用で高い接着性能はもとよりフッ素徐放による耐酸性層の形成をも可能にした予防的な性能を兼ね備えた製品である。バージョンアップとともにその信頼性を高め、筆者の行った臨床評価においても二次齲蝕の発生を起こさないことを経験している。
とくに予防的観点から求められる要件としては、補綴修復材料以上に先ず歯質への接着を優先させる必要があることはいうまでもない。臨床的にその性能を最大限に引き出すにはADゲル法の併用は必須である。補綴修復の対象となる象牙質に対しては、ADゲル法の併用により三者のなかで最も優れた接着性能を発揮する(図7)。
ADゲル法により象牙細管内有機質を除去しレジンタグを打ち込むことで接着強さとともに耐久性を向上させることができる。同時にフッ素徐放するというだけでなくそれによって確実に耐酸性層を形成することが明らかにされている。条件の悪い劣化した象牙質に安定した接着を得るためには、変性したコラーゲンを除去することで予知性を高めることができると考えている。また、エナメル質に対しても安定した接着性能が得られていることは高く評価できる(図8)。

  • 図 7人歯象牙質との接着強さ パナビアF2.0はADゲル法併用により最も優れた接着性が発揮される

  • 図 8人歯エナメル質との接着強さ EDプライマーⅡを使用するシステムは切削したエナメル質に対して高い接着性が得られる

したがってパナビアF2.0は歯質はもとより金属からセラミックスまでオールマイティーに接着する中心的存在ではあるが、同時に二次齲蝕予防にウェイトをおく症例、カリエスハイリスク症例にはファーストチョイスとなる。

■パナビアF2.0の特長と留意点

  • ①補綴修復の対象となる劣化した象牙質に有効
  • ②マージン部の辺縁封鎖性に優れ、ばらつきの少ない接着が可能
  • ③間接法で作製したコンポジットレジンコアの接着に有効
  • ④ペーストの等量採取、練和時間の遵守
  • ⑤コアセット時はとくに気泡混入を回避するように配慮する
  • ⑥金属酸化物(ジルコニア、アルミナ)の被着面処理(K-エッチャントGEL+セラミックプライマー)は不要
臨床例 3 クリアフィルSAルーティング(メタルアンレー)
  1. 3-1支台歯形成後の頬側面観

  2. 3-2試適調整後、サンドブラスト処理(3~4気圧)、 超音波洗浄

  3. 3-3SAルーティング(ユニバーサル)10秒練和、圧接

  4. 3-4光照射 一部位につき数秒、全周で約10秒

  5. 3-5半硬化状態で余剰セメント除去 探針で装着方向(歯頸側)に向かってはがす

  6. 3-6コンタクトポイントにフロスを通し、横から引き抜く

  7. 3-7再度充分に光照射。歯質を透過して重合を促進

  8. 3-8装着5分後最終硬化 セット後のメタルアンレー

2.審美的観点から選択するエステティックセメント

近年、ジルコニアやファイバーポストの登場によって、審美性を求めた補綴修復は従来のいわゆるメタルボンドからジャケットクラウンへと主役が変わってきている。また、支台歯にも色調を求めるようになり、メタルコアからレジンコアへとメタルフリー化は進んでいる。パナビアをより審美的ユースにふったエステティックセメントはメタルフリー時代に対応した色調と操作性を追求した製品である。
EDプライマーⅡはパナビアF2.0と共通であるが、セラミックスインレーやラミネートベニアなど支台歯の色調を活かしたりマスキングしたりしてコントロールすることが可能な5色をラインナップしている。ユニバーサル色を基本に、透明性をアップするクリア、遮蔽性をアップするオペーク、彩度をアップするブラウン、明度をアップするブリーチとそれぞれに対応したトライインペーストが用意されていることが特長である。ラミネートベニアのような脆性な修復物も接着補強効果がフルに発揮されるようにセメントの硬化特性が優れている。ただしフッ素徐放性は付与されておらず、ペーストにはMDPは配合されていないため、ジルコニアに対してはパナビアF2.0と異なり、処理が必要である。
ペーストはオートミックスにより提供され、気泡混入がきわめて少なく、高い物性値が期待できる。また多数歯同時セット時にも操作性が非常によい。

■エステティックセメントの特長と留意点

  • ①フッ素徐放性は付与されていない
  • ②ジルコニア(金属酸化物)の接着にはセラミックプライマーを必要とする
  • ③オートミックスシリンジの先端から正常にペーストが押し出されることを確認してからチップを装着する。
臨床例 4 クリアフィルSAルーティング(メタルクラウン)
  1. 4-1レジン築造を行った支台歯

  2. 4-2クラウン内面をサンドブラスト処理、SAルーティングユニバーサル塗布

  3. 4-3全周から余剰セメントが出るようにクラウンを圧接

  4. 4-4光照射 一部位につき数秒、全周で約10秒

  5. 4-5浮き上がりに注意して半硬化状態で余剰セメント除去 探針で装着方向(歯頸側)に向かってはがす

  6. 4-6コンタクトポイントにフロスを通し、横から引き抜く

  7. 4-7装着5分後最終硬化 セット後のメタルクラウン

3.操作性の観点からの選択するSAルーティング

SAルーティングはパナビアF2.0の流れをくむMDPを新技術により高濃度に配合したことで、歯質、金属、金属酸化物セラミックスにプライマーなしで安定した接着を得ることができ使用対象が広いことが特長である。ただしシリカ系のポーセレンやハイブリッドセラミックスにはセラミックプライマーを用いるシステムであるパナビアF2.0あるいはエステティックセメントを推奨する。また同じくパナビアF2.0で実績のある表面特殊処理フッ化ナトリウムが配合されており、フッ素徐放性を有している。
重合様式はパナビアF2.0同様デュアルキュアタイプであるが、余剰セメントの除去は、光照射により半硬化状態で一塊除去できる点で操作性に優れている。スピーディーな診療が可能であるが、コツを抑える必要がある。(後述)。
SAルーティングは経済性と時間効率を優先した製品で保険診療の時間的、経済的、制度的制約の中でも対応可能とした点は大きく評価できるといえる。たしかに保険診療での使用においてはコスト面も選択のポイントとなるが、「時は金なり」と考えることも必要である。単純な製品価格よりも時間効率の良さ、コスト以上の性能が得られるポテンシャルを持ったセメントである点を高く評価したい。また、保険、自費に限らず、操作がシンプルであることはテクニカルエラーの発生が少なくなることである。
したがって出血、浸出液のコントロール、防湿、開口制限、ポケット内余剰セメント残留の危険性など臨床の現場で100%の接着を得ることが困難である症例にセカンドチョイスとして用いることでかえって良い結果が得られることもあるであろう。

参考文献

  • 『補綴修復イノベーション 細菌と咬合力を重視した生物学的アプローチ』柏田聰明・加藤正治・森田 誠/著 (医薬歯出版株式会社)

■SAルーティング導入時の注意点

SAルーティング発売から5ヶ月が経過し、ユーザーの先生方からの質問や評価がよせられている。そこで最後にこれまでにない新タイプのセメントとしておさえておくべきポイントをまとめておきたい。

  • ①被着面清掃(支台歯側)

    歯面処理が不要であることが特長であるが、支台歯の汚染を確実に除去することは不可欠である。ADゲルは有機質溶解作用があるため、有効利用できる。本セメントは補綴物側にはよく接着するが、二次カリエス予防の観点からは歯質への確実な接着が求められる。

  • ②環境光の影響

    化学重合タイプと異なりデュアルキュアタイプで若干光の感度を高めている。操作時間には必要充分な余裕を持たせているが環境光による重合促進には注意する。

  • ③裏装用グラスアイオノマーセメントの影響

    窩洞をグラスアイオノマーセメントで裏装する場合、SAルーティングとグラスアイオノマーセメントとの接着は問題ない。むしろグラスアイオノマーセメントと歯質との接着の方が劣るため、裏装面積が大きいと本来のSAルーティングの性能が発揮されない。また、フッ素徐放の効果が期待できなくなるため、裏装は最小限にとどめる(図9)。

    図 9SAルーティングとグラスアイオノマー系裏装材硬化物の接着

  • ④余剰セメント除去

    余剰セメント除去は光照射により半硬化状態で行うが、補綴物を軽くおさえた状態で探針等を用いて装着方向(歯頸側)にはがすようにする。歯頂側に除去すると内部の重合進行中に浮かせてしまう可能性があるので十分注意する。

  • ⑤余剰セメント量による光照射の調節

    部位により余剰セメント量の差が大きいと均一な半硬化状態が得られないため、全周からできる限り均等にはみ出るようにコントロールすると除去操作が簡単になる。
  • ⑥一回使用量

    ダブルシリンジ一回の押し出し量はクラウンで5mm、インレーで3mm程度を目安とする。押し出すときはA、Bそれぞれのペーストが当量採取できていることを確認する。

  • ⑦補綴物の処理

    補綴物にプライマー類は不要であるが、試適による被着面の汚染や適合診査材の影響を排除する意味でもサンドブラスト処理を推奨する。

臨床例 5 クリアフィルSAルーティング(ジルコニアジャケットクラウン)
  1. 5-1レジン築造を行った支台歯

  2. 5-2クラウン内面をサンドブラスト処理(1~2気圧)

  3. 5-3超音波洗浄1分(樹脂製のカップを使用)、乾燥

  4. 5-4SAルーティングは薄く広くのばして練和

  5. 5-5クラウン内面にペースト塗布

  6. 5-6クラウンを圧接、光照射(メタルよりも若干短く照射)

  7. 5-7半硬化状態で余剰セメント除去、再照射

  8. 5-8セット後のジルコニアジャケットクラウン

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