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第1回 (114号)

経営方針の重要性

デンタル・マネジメント・コンサルティング 稲岡 勲/門田 亮

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114

歯科医院経営講座

THE DENTAL BUSINESS MANAGEMENT

21世紀の歯科医院経営~経営方針の重要性~

デンタル・マネジメント・コンサルティング
稲岡 勲/門田 亮

個人情報保護法が4月より全面施行されることになった。
それに伴い医療機関は、患者本人が希望すればカルテやレセプトなどの診療記録についての開示を原則義務付けられることになる。
法律の内容としては、以下の原則から成り立つものである。

  • ① 利用目的を本人に明示すること
  • ② 情報の取得は本人の了承を得ること
  • ③ 個人情報を正確な状態に保つ
  • ④ 個人情報の流出や盗難あるいは紛失を防ぐこと
  • ⑤ 本人が情報を閲覧することが可能であること

医療機関は本来個人情報の、それもきわめて深いプライバシーに関わる情報を得る立場にある。
したがって、各医療関係者は個人情報の取扱については慎重に対応してこられたことと思う。本法律によってカルテやレセプトの開示が義務付けられたことに関しては、本法律の趣旨が「情報の所有権は個人にある」という原則に基づいて、「本人が情報を閲覧することが可能である」という視点に立っていることにある。
つまり、医療機関が個人から得た情報は医療機関のものではなく、あくまでも個人のものを「預かり、保管し、一定の目的のためだけに利用する」ものであるから、本来の持ち主である個人から情報の開示を要求された場合には、これに応じなければならないとするものである。
対象となるのは、個人の情報を5,000件以上保有している医療機関となるが、これまでに得た情報も含まれるために、ほぼすべての医療機関において該当するという。
新規開業歯科医院では、それほど多くの情報をもっていないにせよ、今後数年のうちに該当事業所となることはほぼ間違いのないことである。

患者との相互の信頼関係を築く

厚生労働省は「原則開示が浸透することで、医療の透明化、適正化が進み、医療機関と患者の信頼関係が進む」としているが、カルテやレセプトの開示によって、国民の意識が高まり、過剰な医療行為や投薬を減らすことができれば医療費の抑制につながるとして、積極的な取り組みを行っている。
現実には、患者が医療機関に対してカルテの開示を求める多くの状況としては、死亡した患者の遺族が医療機関の診療行為に疑問を抱いたからというのが多くを占めると思うが、遺族に対しての開示義務については本法律では規定されておらず、「診療情報の提供等に関する指針」によって推進されることになる。
実際にカルテの開示がどのように進んでいくかということは、今後、法の施行後の状況を注視しなければならないが、少なくとも、医療機関側と患者側との相互の信頼関係をより積極的に築いていくことが、本法律に翻弄されないためのポイントである。
少なからず、法の制定によって権利ばかりを主張してくるものが現れないとも限らない。法律で定められたからと、闇雲にカルテやレセプトの開示を要求してくる場合、その患者は医院に対して不信感を抱いていると考えられる。
したがって、より今まで以上に、患者さんがどういう意図で来院してきているのか、何を期待して来院してきているのかに注目し、患者さんに対して不要な不信感を抱かせない医院経営が求められるのである。
そこで、患者さんから信頼される歯科医院となるためにどのような点にポイントを絞って考えていけばよいのかを考えてみたい。

医療技術を患者にどう伝えるか

第一に、患者さんにとって、医療技術を目で見て判断することは非常に難しいものである。患者さんの技術評価は自分が治療を受けてみて快適であったか、そうでなかったのかということでしか判断ができないのである。
したがって、痛くない治療、見た目にも美しい治療、歯を抜かない治療など、患者自身が自覚できる治療内容を満たしながら、歯科医学の専門的な視点からも最良の治療を施すことが、患者さんの満足度向上につながるのである。
ある歯科医院でこのようなことを聞いた。
その患者さんは突然歯が疼き始め、とてもその日一日を我慢できる状態ではなかった。すぐに歯科医院に行き治療をお願いすると、麻酔注射を施して歯の神経を取らなければならないという。そこで、歯科医師の言うとおりに従ったのだが、麻酔をしたはずなのに感覚は残ったままで治療され、とても痛いという。
何度か痛みを訴えても、一向に対処してくれる様子もなく、最後には、「これほど痛いといっているのにどうしてわかってもらえないのですか。次からは別の歯科医院に通います」と言い残して帰っていったそうだ。
その歯科医師は患者さんのことを考えて、できるだけ麻酔の量を少なくして患者さんの負担を軽くしようとしたようだが、それが却って患者さんの反感を買ってしまった。
患者さんからすれば十分に麻酔を効かせて痛くない治療を望んでいたにもかかわらず、まったく逆のことをされて怒ってしまったのである。
この場合、歯科医院の治療方針として、患者さんにできるだけ負担をかけないようにするということは、多少痛みを感じても麻酔の量を減らすということよりも、患者さんの「痛み」という負担を取り去ることに重点を置く方が、より患者さんの求める治療に近づいたのではないだろうか。

患者さんは何を求めて来院するか

次に、患者さんが歯科医院を訪れる際、歯科医院に求めるキーワードをいくつか考えてみると、
「周囲の評判がよい」
「説明をよくしてくれる」
「優しく接してくれる」
「治療方針がはっきりしている」
「治療が上手」
などといったことである。
では、普段患者さんと接する中で、それらをどのように満たしていけばよいだろうか。

患者さんの気持ちはどこにあるのか

先日、ある歯科医院を訪れた患者さんからうかがったエピソードである。
この患者さんは、昨日の治療のときに抜髄をした患者さんであり、一晩たった翌日、お昼前になって訴えてきたものである。
「昨日、治療してもらった○○といいますが…」
「はい、こんにちは」
「治療してもらったはずのところが痛くなってきたんですけど、どうしてなのか原因がわからないので電話をしたのですが…。水を飲んでも痛いですし、ものが当たるとズキっとした痛みが走るのですが大丈夫なのでしょうか」
「そうですか、今すぐには無理ですけど、夕方なら予約患者さんが少ないですよ。時間が取れますが」
「…いや、昨日治療したはずなのに、そこがまた痛くなってるんですよ。ものを食べることもできないし、水を飲むこともできなくて困ってますし、それよりも、治療した歯が痛くなることがおかしいことなのであれば心配なので、今すぐにでも診て欲しいので電話をしているのですが」
「しかし、今は予約をいただいている患者さんでいっぱいなんですよ。今来ていただいてもすぐに診れるかどうかがわかりませんが…。わかりました、それなら先生に確認してきますので少々お待ちいただけますか」
「お待たせしました。それでは、今から来てください。予約の患者さんの間に少し時間をとって診てみましょう」

患者さんの気持ちを理解する

この患者さんが望んでいたことは、

  • ① 痛みに対して不安を抱いている気持ちを理解して欲しかった
  • ② 歯科医院の状況よりも、患者の状況に応じて対応して欲しかった

という二つの点にあったのである。患者にとって、治療したはずの歯が痛み始めるということは、大変な不安を伴うものであるし、また、この歯科医院なら不安な状況を理解して、すぐに対応してくれると信じて連絡をしてきたのではないだろうか。
患者の気持ちが理解できていれば、「夕方なら患者さんが少ないですよ」といった対応ではなく、早急な対応ができたのではないか。「痛みが出てきて心配ですね。院長と相談して、すぐに診ることができるか確認を取ってみますね。では、今からでも来てください」
こういった対応によって患者は、「自分のことを大切に扱ってくれる」という認識を持つのである。
実際の診療現場においては、痛みを訴えてきたら、いつでもすぐに対応ができるものではないかもしれない。また、他の多くの患者さんが待合室で待っているにもかかわらず、急患だと訴えさえすれば、予約患者を差し置いて無条件で先に診療してもらえるというものでもない。しかし、患者さんを安心させ、また相互の信頼関係を良好に築くためには、一度患者さんの気持ちを受け止めて、理解することが求められるのである。

経営の安定をどう図るか

第三には、経営自体が安定しているかどうかということが挙げられる。
患者さんが多く、収入が安定的に入ってくる一方で、経費を多くかけすぎて経営が立ち行かなくなるというケースもある。
経費の中で最も多くの負担を強いられるものは人件費であるが、弊社では毎年、「歯科医院の経営指標」として先生方に協力を要請し、確定申告のために税務署に提出された「所得税青色申告決算書」をまとめた、収支アンケート調査を実施している。

経費の比率に注目する

その中で、給与賃金の比率について見てみると、収入に対する平均の割合は22.1%だが、少ないところでは1%台、高いところになると実に収入の5割を超える。
給与賃金の比率が30%を超えると経営が非常に苦しくなる中で、5割を越える給与賃金は資金繰りにも影響を及ぼすことになる。しかし、給与賃金の比率の大小だけでは、経営の安定度を測ることは難しい。
そこで、スタッフ一人当たりが1カ月にどれほどの収入を獲得しているかという生産性についても考えてみなければならない。
同じく、「歯科医院の経営指標」のデータを見てみると、スタッフ一人当たりの月額収入の平均は、1,240,000円であるが、少ないところでは380,000円となり、多いところでは6,000,000円もの収入を挙げているところが存在するのである。
したがって、給与賃金の比率が多少高くても、スタッフ一人当たり月額収入もある程度高いのであれば、少ない人数でも一人ひとりが十分に機能して医院の収入に寄与していると推測することができる。
しかし、一方、給与賃金の比率が非常に高く、スタッフ一人当たり月額収入は低いという場合には、スタッフを十分に活用しきれておらず、人数的にも多いという判断ができるのである。
その場合には、資金繰り等を考えた場合には経営的にもなかなか安定しないという状態になる。
やはり、たとえスタッフの充実を図ったとしても、適正な比率、生産性を確保する努力が必要になる。

方針に沿った資金配分が必要になる

立地条件のよいところで開業していれば、相対的に地代家賃の比率が高くなる。
特に家賃は、毎月一定の金額が発生するため、収入の増減が大きいと資金的にも大きな影響を与えてしまう。
したがって、立地条件がよく、家賃の比較的高い場所では、それに見合うだけの自費の獲得や患者数の確保が絶対的な条件となるため、その立地においてどのような診療を目指すのかを明確に打ち出す必要がある。
また、学術講習会等に積極的に参加している先生は、研修費や研究図書費といった比率が相対的に大きくなるし、設備の充実を主に図る先生は、減価償却費やリース料などの比率が大きくなるなど、それぞれに力を入れる箇所によって、その比率の傾向が異なってくるものである。
大切なことは、あれもこれもすべてにお金をかけるのではなく、自身の診療方針によってかけるべきところは積極的に資金を投資し、抑えるべきところは1円でも多く削減していくという、メリハリのある資金配分が必要なのである。

今なぜ方針を定めるのか

医療技術を最新・最高レベルに保つために研鑽を積みながら、患者さんが高い満足を得られるようにスタッフを育成し、両者を満たしつつ経営的にも安定させるというバランスを保つことは、そこに院長の経営手腕が大きく問われるところでもある。
患者さんに対して、歯科医院に従事する誰もが同じように対応するためには、院長の明確な理念に基づいた方針を打ち出さなければならない。
冒頭に述べたカルテ・レセプトの開示の問題に加え、2月9日付の日本経済新聞朝刊には、医師免許の更新制を盛り込んだ、政府の規制改革・民間開放推進会議が3月下旬に取りまとめる追加答申の内容を掲載している。
近年多発する医療ミスに対して、医療の信頼確保を目指すために盛り込んだものだが、医療分野の改革案には医師免許の更新制のほかに、電子カルテの導入を義務付け、患者のカルテをオンラインによって管理できる体制を敷き、患者に対する情報開示の促進を図ろうとする動きが出ている。
今後、ますます歯科医療業界に対する環境は激変することが予想されるが、変化する経営環境の中で強く勝ち残っていくためには、自身の医院がどこに向かって進もうとしているのかを明確に打ち出すことが大切になってくると思う。
患者さんに真に満足してもらえる医療の提供を目指す上で、スタッフの力を一つにまとめ価値観を共有するためにも、患者さんの理解を得て相互に強力な信頼関係を築くためにも、また、資金配分を効果的に行い、安定した経営を実現するためにも、診療方針を改めて考えることはますます重要なことになると思う。

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