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第4回 (117号)

患者さんと築く人間関係

デンタル・マネジメント・コンサルティング 稲岡 勲/門田 亮

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117

歯科医院経営講座

THE DENTAL BUSINESS MANAGEMENT

21世紀の歯科医院経営~患者さんと築く人間関係~

デンタル・マネジメント・コンサルティング
稲岡 勲/門田 亮

新聞紙上では、連日日本経済の好調さを示す記事が報道されている。IT企業の不祥事による株価下落のショックをも跳ね返し、株価の順調な回復ぶりとともに、電機各社は、次から次に大規模な設備投資計画を発表している。自動車業界にいたっては、数年ぶりの昇給アップを目指して、労働組合が賃上げを要求しており、今後他の産業へも波及するほどの勢いを持って交渉が進められている。
その一方で、歯科医療界に目を転じてみると、昨年から続く医療制度改革による影響が、今後の患者の受診行動に大きな影響を与えることは避けられない状況になっている。しかも、個々の歯科医院レベルでは太刀打ちできないような大きな流れとなって、歯科医院を取り巻く環境は大きく変わろうとしている。

同じ業種でも格差が出始めている

しかし、景気回復に沸く産業界においても、環境の厳しさを増す歯科医療界においても、業績格差の広がりや、人材確保の難しさなどの諸問題が顕著になってきていることは確かなことではないか。
従業員数が数人の小さな事業所から、社員数万人といった超マンモス企業といった規模の大小や、歯科医院のような医療業界から松下やシャープといった電機業界など、それぞれの業界の違いを問わず常に問題の根底にあるのは、働く者同士の人間関係、顧客との信頼関係をいかに強く築き上げることができるかにある。
そういった問題に対して、いかに早く的確に対応できるかによって、厳しいといわれる経営環境をプラスに取り込んでくることは不可能なことではない。
診療報酬のマイナス改定が決まり、現在は個々の治療に対してどう点数付けをするかという段階に入っているが、いずれにしても、保険の収入が今後増加するという状況はどうしても考えにくい。
世論の目も厳しくなっており、社会保険料の負担増大や自己負担の増加が進む中で、医療提供者側に厳しい目を向けてきており、今後の対応が大変難しくなっている。
表1は弊社が、毎年先生方の協力を得て行っている「収支アンケート調査」から、過去3年間における収入構造の変化を見たものである。すでに多くの歯科医院でも同様の変化が生じていると思うが、保険収入の比率はどんどんと下がってきているのが現実である。
そのため、自費収入が増えていくことは自然の流れであり、自費で治療するということは、その意思決定は患者に大きく委ねられることになる。また選択権が患者にあるということは、医院から発せられるさまざまな情報を元に患者自身が判断するということである。その上で、どの歯科医院に行くのか、どの先生のどの治療を施してもらいたいのかを判断することになる。
今回の調査では、対前年と比較して患者数が増えたとする歯科医院は31.0%。それに対して減ったとする歯科医院は41.0%という結果であった。さらに収入についても、増加した医院44.4%に対して減少した歯科医院は55.6%と、経営が悪化した歯科医院の方が、よくなったとする歯科医院を上回る結果となっている。

表1

平成14年分 平成15年分 平成16年分
社保収入 45.4% 44.6% 42.6%
国保収入 37.1% 37.9% 38.7%
自費収入 16.7% 16.5% 17.5%
雑収入 0.9% 1.0% 1.1%
患者の来院する要因を把握する

それだけ、伸びる歯科医院とそうでない歯科医院との格差がはっきりしてきているということではないかと思うが、すべての観点をすべて同じような配分でコストをかけ、強化していくということは不可能に近い。どのような歯科医院でも、中断患者がゼロということはありえないわけであり、増える患者ばかりではない。やはりどうしても転院する患者さんはいるものである。
しかし、その患者さんが転院してしまう、中断してしまうということが、どういった要因からくるものなのかを理解しておくことは非常に大切なことである。
なんとなく原因がつかめないまま患者さんが減っていき、気がつくと数年前の約半分近くまで患者さんが減っていたということもありえる。そういったところは、患者さんを引き止める、あるいは呼び寄せる力を持っていないために、どんどんと患者さんが離れていき、どんどんジリ貧状態になって、気がつけば経営を維持することで精一杯ということになる。
一方で、患者さんが別の歯科医院に転院したとしても、それがきちんと理由がわかっている、ちゃんとその裏づけがあるという歯科医院もある。
極端な言い方をすれば、こちらから他の歯科医院に変わってもらう、患者さんからすれば変わらざるを得ないという歯科医院である。そういったところでは何がそうさせているのかといえば、診療方針あるいは経営方針、経営理念といったものがしっかりと築きあげられているということがいえる。
つまり、当歯科医院ではこういった診療方針で日々の診療を行っているのですよ、こういった考えで歯科医院を開いているのですよといったことが、明確にはっきりと打ち出されているということである。
そういった歯科医院では、その歯科医院の考え方についていけない患者さんは、当然居心地が悪くなり他の歯科医院に変わっていかざるを得ない、新たに自分にあった歯科医院を見つけて転院せざるを得なくなるわけであり、しかし、その一方で、離れていく患者さんの数を上回るスピードで、自分の歯科医院のやり方にあった患者さんが集まってくる、明確に打ち出した診療方針や経営方針といったものに感銘し、理解を示した人たちが次々と集まってくる、そういった好循環を生み出している。
したがって、一口に患者さんが歯科医院を変えるといっても、それがどういったもので、どういった要因から生じたものなのかを改めてもう一度把握しておく必要があるのではないか。

医院の雰囲気を変えるもの

いろいろと歯科医院を訪問してみると、先生の現状に対する考え方の違いによって、また、先生の歯科医院経営に対する考え方がはっきりしているかいないかによって、歯科医院全体の勢いが違うというか、そこで働くスタッフも、そういったところでは非常に元気に活発に頑張っており、訪れる患者さんと先生やスタッフとの関係も非常によい関係を築いている。
歯科医院全体を見渡しても、開業当初のまだ汚れのないきれいな状態は別として、開業後何年も経過していたとしても、どこか雰囲気が明るく、温かい感覚を醸し出している。
ある歯科医院では、訪問すると受付担当者が、満面の笑顔でこんにちは~とあいさつしてくれて、しかも、こちらが訪問することもちゃんと事前に知らされていて、お越しいただくのをお待ちしておりましたという言葉がすかさずかけられる。また、どの部屋に案内するかもきちんと決めていて、ご案内しますのでどうぞといっててきぱきと案内してくれる。案内される際には診療室の中を通るため、他のスタッフともすれ違うわけだが、そのたびごとにそれぞれのスタッフがこんにちはと声をかけて通り過ぎていくという状況ができ上がっている。
こうした「おはようございます」「こんにちは」という、元気よいあいさつがあるかないかということだけでも、院内の雰囲気は大きく違ってくるものである。患者さんから予約の電話が入ってきた場合、あるいは患者さんが診療所に来院された瞬間にも、しっかりとあいさつの言葉がかけられているだろうか。「いつも治療してもらっている○○ですが~」という電話にも、「はい、…」という言葉だけで終わっている歯科医院は多いのではないかと思う。
たとえ、たった一言のあいさつであっても、スタッフ一人一人に対してしっかりと教育が行き届いていて、それもやらされていると言うのではなく、全員が積極的に行っているということであれば、とても活気がありいい雰囲気を作り出しているに違いないと思う。当然、患者さんも多く、ただ多いだけではなく毎年毎年どんどんと患者さんが増えていっているという状態が作られているのではないだろうか。

笑顔が作り出す温かい雰囲気

またその一方で、正面の入り口から入っても、受付の担当者が下を向いたまままったくこちらを向かないという歯科医院も存在する。何か一生懸命に書き物をしていてそれに集中してしまっている。
そうして、スリッパに履き替えてそろそろと受付の近くまで行くけれども、近くに行けば顔をあげてこんにちはと言ってもらえるのかといえばそうではない。
こちらからこんにちはと言わなければまったく返答がない。他の患者さんも、ある意味それを心得ているのか、何もいわずに受付に近づいていって診察券を入れてそのままだまって待合室に座るという状況である。わたしも仕方なくこんにちはとあいさつして院長先生はいますかとたずねると、あいさつを返してくれるわけでもなく、少々お待ちくださいといって先生のところへわたしが来たことを告げにいく。
当然先生は診療でお忙しいですからすぐには手が離せず、しばらく待つことになるが、そのときでも様子を知らせてもらえないために、どうしたものかがわからない。先生とスタッフの間にコミュニケーションが取れていないために、スタッフもどう返事していいかわからないという状況である。
院長室に通しておけばいいのか、待合室で待たせておけばよいのか、すぐに手が開くのか、まだしばらく手が離せないのかについて何も言わないためにスタッフもわたしに何と言っていいかわからない。
その歯科医院は患者さんに対しても、コミュニケーションの少ないところであり、入ったときの雰囲気はシーンとしたものである。極端な言い方をすれば、人の気配がないというのか、診療室の中で働いている衛生士や助手も口を開くことなく黙々と仕事をしており、受付もそういう状態のためにあまり積極的に話をしない。
そして、患者さんさえも何か声を出すのが憚られるぐらいであり、皆静かに本や雑誌を読んでいる。テレビがついているけれども、聞こえる音と言えばタービンの音とテレビの音、ときおり指示を出す院長の声ぐらいのもので、本当に静かなものである。
この歯科医院は、年を追うごとに患者さんがどんどん減少していって、以前はそれでもまわりに歯科医院が存在しなかったために、ある程度患者さんを確保できていたが、2年前に同じ地域に歯科医院が新しくできてからは、患者さんはみんなそっちに行ってしまって、どんどんと患者さんが減ってしまっている。
この歯科医院で何がこのような雰囲気を作っているかといえば、「笑顔」ということが挙げられるのではないか。あいさつは先ほど述べたようにもちろんのこと、次に続く言葉や会話についても、やはり笑顔を伴ってかえってくるととても安心するものである。笑顔があると、そこには自然な温かみや、さらにはもっとこの人と話をしてみようという積極的な感情が生まれてくる。
作られた笑顔にしろ、自然に内面から滲み出てくる笑顔にしろ、それによって雰囲気は間違いなく変わる。そして、笑顔で接するその先に、「患者さんには安心して来院して欲しい」「患者さんに心地よい治療を受けて欲しい」という意識を持つことで、表情というものはきっと変化するはずである。日々をどのような目的意識を持って過ごしているのか。
目的意識というとつまり、自分の歯科医院はどういった診療を患者さんに提供しようとしているのか、自分の歯科医院で患者さんにどのような気持ちになってもらいたいのかといった理念といったものを、院長だけでなくスタッフ全員までしっかりと浸透している歯科医院では、自然と働くスタッフの表情も豊かなものになる。
一人一人が、院長の指示がなくてもきちんと考えを持って行動できているか、その考えというものが患者さんや関係する人たちに対してどういったものかがはっきりとわかっているかがもっとも大きなことではないか。そういった違いは、わたしが歯科医院にかかわっているからとかそういったことを除いて、患者さんにもはっきりと伝わっていくものである。ふと訪れた患者さんでも、その雰囲気の違いというものをはっきりと感じる、そういったものが、片や患者さんがどんどんと増え続けている、片や毎年毎年患者さんの減少に直面しているというそういう違いになって現れてきているのではないだろうか。

患者説明には裏づけを

東京に「Ritz」という美容院がある。全国に20万軒以上もあるといわれる美容業界の中にあって、常に時代の先を読みオピニオンリーダーとなって積極的な展開を図る美容院である。その「Ritz」の代表でもある金井豊さんが、自書の中で対人関係について、つまり顧客の話を聞き、こちらの意図をうまく伝えるための方法として次のようなことを述べている。
初めてのお客さんが来店された。当然スタイリストやその他スタッフとも初対面のことであり、不安を抱えてやってくる。自分の希望はきちんと伝わるのだろうか、どういった髪形を勧められるのだろうか。そういった場合、どのような髪形になるのだろうかというお客さんの不安を取り除く際に重要な要素として、「なぜならば」ということが言えるかどうかだという。「カラーはこんな色にしましょう、なぜならば…」「パーマはこのくらいにしましょう、なぜならば…」という、この「なぜならば」という一言によって、顧客に大きな安心感を与えるということである。
担当するスタイリストが、どうしてそのような選択をしようとするに至ったのか、なぜその方がよいと思えるのかを、専門家としての立場からしっかりとした裏づけをもって提案してもらうことは、技術に対しての明確な判断基準を持たないものにとっては、大変心強いことといえる。
元気のよいあいさつで患者さんを迎え入れ、豊かな笑顔で患者さんと接することができるようになったあとに、患者さんが望む治療と、医院が提案したい治療との間に、確かな信頼関係を築く段階での重要なコミュニケーションのポイントではないか。
たとえば、歯科治療の現場において、どうしてメタルボンドにした方がよいのか、どうしてインプラントを入れた方がよいのかを、患者にわかりやすくきっちりとした裏づけを持って説明できることが求められている。どのような専門的判断基準からそのような提案に至ったのかを、ぜひ「なぜならば」という言葉とともに説明できるような体制を整えたいものである。

納得すれば躊躇しない

最近では、インプラントという言葉もあちこちで普及してきている。患者自身も、インターネットや周囲でインプラントを経験した人からの口コミで、インプラントというものがどういうものかをある程度知っている人もおり、また、よいと納得できればインプラント治療を受けてみたいという患者も増えてきている。
インプラントを受けたいとする患者さんは、所得階層の高い人だけかというとそうでもない。あるところでインプラントに関するセミナーを開いたところ、思いがけない人数が集まり、まさか治療を受ける人はそうはいないだろうと思っていると、次の日から治療希望の患者さんの電話が次々とかかってきたという話もある。
そういう人たちは、よい服を着て、高いアクセサリーをつけてくるわけではなく、どこにでもいる普通の主婦であったり、サラリーマンであったりするという。幼少のころに歯で苦労をしたために、今やっとそのコンプレックスを克服することができたといって、下顎の左右に二本のインプラント治療を施した30代のOLもいるのである。
歯科医院側としても、インプラントといえばまだまだ特殊な技術であり、高価なものという意識があるために、この患者さんは説明しても治療を受けないだろうということできちんとした説明をする場面が少ないのではないだろうか。実は、患者さんの方は大変興味を持っており、そこに専門的に裏づけられた説明があればすんなり納得して治療を受けるという土壌がすでにできつつあるのかもしれない。時代は変わりつつあり、厳しい経営環境が取り沙汰されている反面、新たな需要もすぐそばにあるのかもしれない。
特殊な技術ということでいえば、み合わせの問題や金属アレルギーなどの問題も挙げられる。み合わせが悪い、あるいは金属アレルギーによって体に何らかの症状を抱えているという患者さんは、全国的にも潜在的に多数存在するのではないかと思う。
こういったことは、それこそ人には言えないような悩みや、人には絶対に見せられないほどの体への影響を抱えていることが多い。しかも保険適用の分野が少ないために自費での診療が主となる。したがって、今後取り組もうとする場合には、なぜその治療法を採りいれるにいたったのか、なぜその治療法が必要と感じるようになったのかということを、患者さんに伝えることができるようにしておきたい。
患者さんは、自分の体調が少しでもよくなるのであればと、藁をもすがる思いでやってくる。治療代を何とか捻出してくる患者さんも多いが、そういった患者さんは、医院から発せられる言葉や雰囲気といったさまざまな情報を受けて、治療に踏み切るかどうかを判断するものである。先生の治療に対する強い信念をもって発せられる言葉は、先生方が思う以上に患者さんには大きな影響を与えるのである。

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