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第6回 (119号)

積極姿勢で経営環境悪化に立ち向かう

デンタル・マネジメント・コンサルティング 稲岡 勲/門田 亮

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119

歯科医院経営講座

THE DENTAL BUSINESS MANAGEMENT

21世紀の歯科医院経営~積極姿勢で経営環境悪化に立ち向かう~

デンタル・マネジメント・コンサルティング
稲岡 勲/門田 亮

8月25日に厚生労働省から発表された、平成16年度国民医療費の概況(表1)を見ると国民医療費総額は32兆1111億円、そのうち一般診療医療費は24兆3627億円、歯科医療費は2兆5377億円となった。国民医療費全体に占める歯科医療費の比率は7.9%と、初めて8%を下回る結果である。
平成15年度データと比較すると、一般診療医療費については24兆931億円から24兆3627億円へ1.1%の増加、薬局調剤医療費が3兆8907億円から4兆1395億円へと7.8%増えているのに対し、歯科医療費はほぼ横ばいのままである。
一方、別の調査資料に見る歯科医院の診療所数の推移では、表2にあるように一貫して増加しており、平成15年から16年にかけては1.1%の増加となっていることから、単純に歯科医療費を歯科診療所数で割った平均額をみると、一歯科医院あたり保険収入合計は38,128千円ということになる。平成12年度について同じように考えてみると、一歯科医院あたり40,354千円であることから、保険診療についてはここ5年間で5.5%もダウンしているといえる。
また表3は、弊社が情報交換を行っている、熊本県の隈部会計事務所からのデータである。顧問先歯科医院数約120件を抱えており、その経営データの平均を示したものである。保険収入についてみてみると、平成14年分から17年分までは一貫して減少してきており、14年分平均3,560千円から17年分3,198千円へと、実に10%もダウンしてきたことになる。一方保険患者数をみるとそれほど大きな減少はないために、保険の患者単価が徐々に下がっているという状態である。
そうした中で、自費収入の推移を見ると、平成14年分から15年分にかけては一旦下がってはいるものの、15年分から連続して20%以上もの増加率を示している。これは、多くの歯科医院が必死に経営努力を行い、保険診療から自費診療へと少しずつ力を入れて、診療方針の転換を図っていることの表れである。

表1

表2

いずれの項目も平成18年分については数値が大きく出ているが、それでも自費診療については平成17年分から18年分にかけても、20%の上昇率を保っていると推測できる。

表3

表3

積極経営による経営の安定化

弊社は毎年、歯科医院の経営状況について「収支アンケート調査」として多くの先生方に経営資料のご回答をいただいているが、平成16年分調査報告書資料の中に、「前年との収入の比較」という項目を設けている(表4)。その結果では、収入規模が3千万未満から5千万円台の歯科医院では、「収入が減少」が「収入の増加」を上回っているが、6千万円台の収入規模からは「収入の増加」が「収入の減少」を上回る結果となっている。
規模が大きくなるにつれて収入が増加する比率が高くなり、収入の安定化につながるといえる。また同時に、積極的な経営を行うことにより収入を上げ、規模を大きくしているともいえるのではないか。

ジリ貧になる前に経営上の対策を打つ

経営環境が悪化し、医院の収入状況にも影響を及ぼしてくるようになると、どうしても支出を切り詰めて、出て行くお金を少なくすることで所得を確保する動きが多くなってしまう。経営を維持していくためには当然のことであり、コスト管理なくしては歯科医院を維持できないことではあるが、何から何まですべてを抑え、その結果、働く意欲も失ってしまうほどになっては周囲との競争力を失うばかりである。
消耗品や通信費、水道光熱費といった抑えるべきコストは1円たりとも無駄にしないようにしっかりと抑えていく必要があるが、より高い技術を習得するための研究図書費や、よりレベルの高い人材を確保するための人件費、あるいはより品質の高い補綴物を確保するために、技術力のある技工所への外注技工料といった医院の競争力を維持するための政策型経費については積極的に投資をするなど、メリハリをつけたお金の使い方をする必要がある。
ある歯科医院では、スタッフが経費抑制に影響を及ぼすことができる科目、たとえば、旅費交通費や消耗品費、衛生管理費、事務用品費、通信費等をピックアップし、それら項目についてどういった対策が可能かをスタッフ同士で話し合ったところ、中には管理表を作って経費抑制に動くものもあれば、スタッフ全員に関わるようなものはミーティングで可否を決めて無駄のない出費を心がけるといった効果があった。
さらに、少し大きな金額であっても、よりよい環境にするためにはどうしても必要になる積極性のあるものについて、スタッフ自ら企画書を作り院長へ提言するという非常に前向きな姿勢へと変化したのである。
しかし、スタッフにある程度経費管理をまかせ、先生自身も積極的な経営を行うべく対策を講じるためには、経営が行き詰ってにっちもさっちもいかなくなってからでは遅い。
すでに歯科医院を取り巻く経営環境が厳しくなっているために、いずれの歯科医院も余裕があるということはないと思うが、それでもまだ、余力を残しているうちに次なる対策を講じる必要があることはいうまでもない。ジリ貧になって身動きが取れなくなってからでは、積極的な経営に転ずることが非常に難しいことを、十分に注意しておく必要があるのではないか。

表4 前年度との収入の比較<収入階層別>

医院の経営努力が不可欠

今では、日本最大のインターネット上の仮想商店街となっている「楽天」は、出店数46,500店舗、取扱商品数は実に15,000,000点を数える。日々多くの顧客が訪れ、2005年の第4四半期には注文件数は840万件余り、流通総額は1000億円を突破するなど、非常に活況を呈しているサイトである。最近では携帯電話からも簡単にアクセスでき、欲しい商品をすぐに見つけられるということで年代を問わず利用する世代が広がっているという。パソコンでの利用以上に携帯電話からの利用が増え、今後はパソコンをしのぐほどの非常に大きな市場規模が予測されている。
しかし、そういった時代の先端を行き、活気に満ち溢れているように見える楽天であっても、そこに出店をして、その後継続して安定的な収入をあげているという店舗は5%にも満たないという。メールマガジンを発行し、広告を出し、イベントを行い、プレゼントやオークションで顧客情報を確保し、サーチエンジンに登録して来店してもらいやすく工夫するなど、ありとあらゆる経営努力の末に、ようやく口コミでのリピート客が少しずつ増えてくるものだという。
歯科医療の世界と物販の世界を同様に語るつもりはないが、しかし、いずれにおいても自ら情報発信をし、相手にわかりやすく、しかも親しみを持ってもらえるように努力していくことが、ファンを一人でも多く作っていくためのもっとも大きな力となっていることは間違いない。診療所を構え、患者さんに集まってきてもらうという形だけを見れば、歯科医院に来院するという行動を起こしてもらうための医院側の努力というのは不可欠なことである。

待っていても患者さんは来院しない

歯科医院経営においては、その公平性から広告できる内容が限られている。しかし、来院してきた患者さんに対しては、どのように情報を提供しようとも制限されることはない。現在、成功しているといわれる歯科医院では、いずれも来院してきた患者さんに対して、今後ずっと自医院のファンでいてもらうために、積極的に情報を提供する体制を整えている。
先ほどの楽天でうまく売上を確保している店舗でも同じである。患者さんにアピールできるような強みは何なのか、それらをわかりやすく伝えるためにどういった手段を使うのか、そうした積極的に展開をしているところでは次のような点で整備が進んでいるといえる。

患者さんは気持ちよいと感じるか

第一には、患者さんを受け入れる環境がしっかりと整っていることである。患者さんを迎え入れたときに暗い雰囲気では居心地が悪い。痛みを抱え、不安を抱きながら来院する患者にとっては、受付の明るい笑顔と挨拶によって迎え入れてほしいものである。また、入ってすぐに目に入るスリッパや、受付カウンター周りが汚れている場合でも、そうした点を患者さんはよく見ているものである。
患者さんが歯科医院に一歩足を踏み入れたときに、気持ちよいと感じてもらうために、院内で働くスタッフの表情やしぐさだけでなく、歯科医院を構成するすべての物品にいたるまできれいに整えておく必要がある。そうしたソフト面、ハード面両方の環境を適切に保つことが、患者さんに対する訴求力として表れてくるのである。

患者さん本位の行動であるか

次に必要なことは、患者さんの居心地がよくなるような仕組みができていることである。来院してきた患者さんは、まず受付に行く、次に待合室に回り診察の順番を待って、自分の番が呼ばれると診察室に入って治療を受けるが、その時々で誰がどのように患者さんをサポートするのか、どういった設備を使用して一連の手続きを進めていくのかという仕組みを整えることである。
規模がそれほど大きくなく、スタッフの人数が少ない歯科医院では、手の空いたものが患者さんを診察室に誘導し、手の空いたものが診療の準備をするという状況が多い。しかし、そういったことでもお互いがきちんと話し合って理解しているのと、流れに任せて作業しているのとでは、患者さんへの対応がまったく異なってくる。
後者はどうしても自分本位の行動に出てしまうものである。自分が今の状況に対応するのに精一杯で、患者さんがその行動を見てどのように感じるのかまでは関心が向かない。「ちょっと待って」「次にはこれをしなきゃ」「誰かがしてくれるでしょう」そういったことばかりが頭をめぐり、患者さんに対して余裕を持って接する機会が失われていくために居心地が悪くなってしまう。
いろいろな場面を想定しながら、忙しい状況にどう対処していくのかを常に院内で話し合う時間を持ち、しかも、患者さんはそのときにどういった状況にあるのかを含めて院内の仕組みを整えていくことが最低条件と思う。

期待以上のものを提供できるか

そして次には、患者さんが期待する以上のものを提供できているかという点である。歯が痛くて治療に来た患者さんに対して、痛みがなくなるということ以上の心地よさをどう提供するか。近頃は、治療前に徹底して現在の状況を聞き、それに対しての対処法を明確に説明することで、患者さんの不安をきれいに取り除くことに力を注ぐ歯科医院が多い。
また、歯が痛くないのに来院するメンテナンス患者に対しては、ただ口の中をきれいにするだけでなく、30分なり1時間といった診療時間にどれほどの快適さを提供できるのかが大切になる。技術の高い歯科衛生士により、スケーリングが本当に気持ちよく受けられることも大切であるし、清掃だけでなく親しく会話が発展することでも患者さんは心地よさを感じるものである。中にはさまざまな企画を通じて、その都度患者さんにサプライズを与えて虜にしてしまうほど、患者さんの心をつかむことに長けた歯科医院も多い。

院長の姿勢がすべて

いずれにしても、来院する患者さんをしっかりと留めておくためには、きめ細かな対応が欠かせない。情報発信一つにしても、ある情報を一度流しただけでは次からは離れてしまう。院内の体制を整えたとしても、それがその場限りの対応で長続きしないものであれば、次第に元の形に戻ってしまうだけである。常に新しい情報を収集して患者さんにわかりやすく伝える努力を続け、患者さんが心地よいと思える空間を維持するために医院全体で改革に取り組む。そうした姿勢が医院の活気を生み出し、患者さんが明るい歯科医院だといって集まってくる原動力となる。何かを続けるということは非常に大変なことであるけれども、どれほど経営環境が悪化しようともそれに立ち向かい、積極的な対策を講じ続けているところが安定的な経営を可能にしている。
積極性を維持するためにも、スタッフを巻き込んで診療方針の転換を図ることが必要であるし、また、そうしたスタッフが精一杯頑張れる形をどのように築くかということも考えなければならない。しかし、スタッフが頑張ってついていくことができるのも、患者さんが医院のファンとなって継続して来院してきてくれるのも、院長の姿勢がすべてであるといえる。院長の大きな器に比例して、歯科医院も大きくなるものである。

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