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DENTAL MAGAZINE デンタルマガジン

歯科医院経営講座 -21世紀の歯科医院経営-

第10回 (123号)
教育の場としての歯科医院を考える
デンタル・マネジメント・コンサルティング 稲岡 勲/門田 亮

THE DENTAL BUSINESS MANAGEMENT

歯科医院経営講座123

21世紀の歯科医院経営~教育の場としての歯科医院を考える~

デンタル・マネジメント・コンサルティング
稲岡 勲/門田 亮

訪問したある歯科医院の受付で、30代男性と受付担当者との間で次のような会話が交わされていた。
受付:「それでは○○様、次回のご予約ですが、いつがよろしいですか?」
男性患者:「じゃあ、○日(土曜日)でお願いします」
受付:「え~と、土曜日はもうずっと一杯でして、平日ですと○日以降になるんですが…」
男性患者:「じゃあ、○日で」
受付:「お時間はどういたしましょう」
男性患者:「夕方6時でお願いします」
受付:「その時間ですと、○日以降になりますので、○日でよろしいですか?」
男性患者:「はい、わかりました」
受付:「では次回、○月○日夕方6時でお待ちしております。お疲れ様でした」
男性患者:「ありがとうございました」
治療を終えた患者さんが会計を済ませ、次の治療の予約を取ろうとする場面であった。会計での金銭の授受から、予約確認のためのスケジュール調整へと進む流れは自然であったのだが、ふと振り返ってみるとそこには矛盾が生じていた。
それは、受付担当者の問いかけの方法が、十分に患者さんの意思を反映したものではないということである。受付では、最初に男性患者に対して次回はいつがよいかと聞いておきながら、最終的には医院の都合のよい日程に患者が合わせた形になってしまった。
今回のやり取りの中で、患者さんの希望する日程が結局は何一つ聞き入れられないまま次回の予約日程が決まってしまっている。
一日の来院患者数が多く、また、日程的にも患者さんが集中するときであれば、患者さんの要望を全て聞き入れられるわけではなく、患者さんにある程度合わせてもらうしか方法はない。そうであれば、予約を取るときには「いつがよろしいですか」という聞き方ではなく、「今からですと、平日のみ予約が空いておりまして、夕方であれば○日以降でお願いしたいのですが」と先にこちらから提示する聞き方の方がスムーズであり、また患者に合わせた対応の仕方ではなかっただろうか。
話す言葉の数からすると、「いつがよろしいですか」という方が少なくて済むし、その分楽なのかもしれない。また、うまく予定が合致して一度で予約が決まれば、かかる時間も少なくて済むのかもしれない。しかし、そうだとするとあまりにも医院の都合によって進められる会話であり、会話の矛盾にも気がつかないほど効率を追いかけた会話が、今後続けて患者さんに支持されるとも思えない。
その医院の受付担当者の言葉遣いは丁寧であるし、笑顔もよく、またある意味で押しが強い。そのため、その男性患者も特に何かを言いたいような雰囲気でもなく、そのまま帰っていったのだが、中には「いつがいいかと聞いてきておきながら、希望を聞き入れてもらえないじゃないか」と不満を抱く患者もいるのではなかろうか。

教育に対する企業の取り組み

こうしたことは、訴えられて大きな問題になることではないし、また、気がつかなければ、気がつかないまま時が経過するだけであるのかもしれない。
しかし、患者さんがどのようなことを望んでいるのかに敏感になり、患者さんの要望に応えていこうとするのであれば、冒頭のようにマニュアルに決められたとおりの対応ではなく、一人ひとりの状況に合わせてきめ細かく対応する力が必要になる。
そしてまた、患者さんへの対応力は歯科医院での勤務によって身につくものであるから、その歯科医院がどういった姿勢で患者さんと向き合おうとしているのかが大変重要になってくる。
現在、多くの企業が人材育成を経営課題の重要項目に挙げて取り組みを始めているという。業績改善が一段落し、企業経営にも安定感が戻ってきつつある中で、これまで放置されてきた人材育成という分野に注目が集まっているのだという。
昨年から今年、来年にかけての団塊の世代の大量退職により、今度は人材不足が始まっているため、どの企業も新卒採用人数を大幅に増やしている。今就職活動を行っている学生側からすれば渡りに船であろう。数年前の就職氷河期が嘘のようで、今でも転職がままならなかったり、フリーターから抜け出せなかったりする人材が多いというが、ほんの数年社会に出るタイミングが違うだけで、180度も違う人生がそこにあるのである。
そうした少子化の流れを受けて採用数を大量に増やしながら、同時に企業としてもよい人材に育てるため、さらに制度を設けて企業が再教育するという。特に大学での教育水準が非常に低くなっているといったことが言われ続けているが、いずれにしてもそうした人材に今後企業を背負っていってもらわなければならない。
企業としても当然高いレベルの学生を確保したいところだが、大量退職、少子化の現実の前に、とにかく教育水準はどうあれ人員を確保し、教育という問題に関しては企業に入ってから徹底して行おうというのが現在の流れであろう。企業としても生き残りをかけた死活問題である。人員が集まらなければ企業としての存続が危ぶまれるわけであるが、人材確保が難しい歯科医院では、人の教育は特に本気で取り組まなければならない問題ではないか。

院内でもできる従業員教育

以前訪問した先の院長曰く、「こんなことから教えていかないといけないでしょうか。学校も出て教育もきちんと受けているはずですから、自分で理解できるはずです」とのことであった。
院長の考えによれば、スタッフは、院長から言われなくても必要な機器はタイミングを外さずに準備するべきだし、院長からの指示がなくても、患者さんを待たせることがないように考えなければならないということだ。
しかし、実際は院長の思うようにスタッフが動くかというと、むしろ逆で、院長が思ってもいない行動をするために、どうしてかと言って注意をしてしまう。スタッフも思いがけず注意を受けるために反発し始めて離れていってしまう。
一度そうした関係になると、雰囲気を盛り上げようとしても難しく、いつまでもギスギスした状態が続いてしまうし、スタッフも定着しない。実際、例に挙げた歯科医院では、スタッフは3ヵ月と続かず辞めてしまうケースが多かった。
このような状態の中で、どのようにして医院経営を盛り上げていけばよいのか。初めから業務遂行レベルが非常に高く、また人柄もよく、明日から即戦力として医院経営に大きな影響を与える人材は、すでに確保できないと考えた方がよい。
先の例に挙げたように、一般の企業、とりわけ大企業にあっても、従業員のレベルに期待するのではなく、とにかく採用人数を確保した上で教育を施し、彼らの潜在能力に期待して採用を行っている。歯科医院においても、そこで関わる業務を通じて人間的にも、業務遂行レベルの上でも成長を期待するということでなければ人材の確保は難しいのではないか。
歯科医院のような、小規模の事業所においては、従業員の教育にまで手が回らないという声が上がる。しかし、何十万、何百万円もかけて外部のセミナーに参加するだけが、教育の全てではない。もちろんそうしたセミナーや講習会に参加すれば、大きな刺激も受けられるし、広がった世界を垣間見ることもできる。
しかし、院長を中心として歯科医院という世界を作る上では、院長の人としての考え方や、仕事に対する姿勢、あるいは趣味や家族への接し方などを題材としながら話し合うことによっても十分に学ぶことはできるはずである。たとえ院長の他、衛生士、助手、受付と合わせて3~4人で構成する歯科医院であっても、スタッフを何十人と抱える大規模歯科医院であっても、一人として同じ価値観の人間はいないわけであるから、お互いの考え方について意見交換することによってさまざまな考え方を学び、感じ方を学ぶことができる。
また、意見が食い違った場合には、徹底して話し合う場を作ることで、どうすれば妥協点を見つけられるのか、そのためにどう相手と向き合えばよいのかを肌で感じられるようになる。その場合にはスタッフだけに任せきりにせず、院長も一緒になって課題解決に向けて取り組むことが大切である。

一流としてのかかわりを目指す

以前、テレビ番組や経済雑誌等で、特に接客業において、若い人たちの言葉遣いが変わってきているといったことの特集がよく組まれていた。
「~でよろしかったですか?」
「○○円からお預かりします」
といった類のものである。それでもなお、今でも当たり前のようにこれらの言葉が使われ続けているのは、時代の変化という他はないのだろうか。
しかし、一流のホテルや旅館、一流のレストランなどでは決してこういった言葉が使われることはない。教育が徹底されていることに加え、一流であるというプライド、自負心といったものが言葉一つにまで神経を行き渡らせているのだと思う。
そういったところでは、利用する客の方もまた、いいかげんな言葉を使うことはない。しっかりと自分の意思を、的確な言葉を用いて相手に伝えることができる。
働く側も、利用する側もお互いが一流として認め合う関係を、歯科医院でも作りたいものである。たった一つの言葉であっても、そういったところまできめ細かく教育できているか否かは、利用する側(顧客・患者)は一瞬で見抜くことができる。十分に教育されていないことが分かると、それなりの位置付けでしか考えてもらえないものだ。
もし、技術を強みとして医院の特長にしようとするのであれば、同時に技術力の高さをきちんと伝えられる技術も身につけておきたいものである。
ある旅行会社は、有名旅館と提携して、旅館の女将が言葉遣いや礼儀作法などの接客の基本技術について講義をする、法人向けの研修旅行プランを作ったという。女性の従業員が多い化粧品業界や、生命保険業界などを狙いとするそうだが、人とのかかわりが希薄になりつつある現代において、こうした人との接し方について学ぼうとする機会は、今後ますます需要になるのかもしれない。

教育の場としての歯科医院を考える

人の教育というテーマは、非常に大変で、労力を要し、手間のかかる問題である。しかし、歯科医院という事業を継続していくためには人の問題は避けて通れないものであり、この問題に真正面から向き合っていくことが強い団結力を生むことにつながる。
働くことを通じて自己成長を遂げるという意味からすれば、歯科医院も教育の場としての視点を持つべきであると思う。
今後は、一から教育するというぐらいの気持ちで、従業員の採用を考えていかなければならないのではないか。

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