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DENTAL MAGAZINE デンタルマガジン

歯科医院経営講座 -21世紀の歯科医院経営-

第12回 (125号)
経営の質を強化するために
デンタル・マネジメント・コンサルティング 稲岡 勲/門田 亮

THE DENTAL BUSINESS MANAGEMENT

歯科医院経営講座125

21世紀の歯科医院経営~経営の質を強化するために~

デンタル・マネジメント・コンサルティング
稲岡 勲/門田 亮

弊社が長年続けている調査資料に、「歯科医院の経営指標」(歯科医院収支アンケート調査報告)というものがある。これは、開業されている歯科医院の先生方の協力を得て、毎年の青色申告決算書のコピーを添付していただき、それを集計することで平均値を出していくものであるが、その結果から見えてきたある点に着目して歯科医院経営を考えてみる。

院長のマネジメント能力が問われている

図1は、収入金額と所得金額をそれぞれ前年実績と比較し、増加したか減少したかを集計したものである。収入金額についてみてみると、収入が増加した歯科医院は42.6%ある。一方、収入が減少した歯科医院は過半数を超えて55.4%に達する。これを所得金額で見ると、所得が増加したとする歯科医院は33.3%しかなく、実に6割以上もの歯科医院が所得減少という結果となっている。
収入が減少傾向にあると、先生のみならず歯科医院全体の士気に影響が出てくる。歯科医院に限らず、どういった業種においても、減収あるいは減益との雰囲気が漂うとたちまち組織全体にその影響が広まり、モチベーションが下がってますます競争力を失うという悪循環に陥ってしまう。
そういった負の流れを断ち切るためには、ひとつは冷静に決算書あるいは月々の試算表を読み込んでいくことが大切である。税理士事務所から毎月送られてくる資料は、単なる税金の計算書ではなく、現実の歯科医院の姿をあらわしている。したがって、この表から次にどのように具体的に目標を定めていくかを考えることができる。

<図1> 前年度との収入の比較

図2は、過去3年以上にわたって、収入が増加し続けている歯科医院と、その反対に収入が減少し続けている歯科医院の比率をあらわしたものである。また、収入増加の歯科医院の中でさらに所得が増加した歯科医院と、収入減少の中にあって所得を伸ばした歯科医院の比率も掲載している。
これを見ると、収入が増加した中の約8割の歯科医院は所得も増加させている。これはある意味当然ともいえる結果であるが、それでも残り2割の歯科医院は、収入増加にもかかわらず、所得減少という厳しい結果である。
反対に、収入減少が続く中にあって、所得が増加し続けてきた歯科医院は、約15%しかない。やはり、収入そのものが減ってしまっては、確保する所得が減少してしまうことはやむを得ないことである。そうした中で所得を増加させた15%の歯科医院は、お金の入りと出のバランスが非常によく取れていたのではないかと思う。
出て行くお金をどのようにコントロールするか、つまり、経営の進め方如何によって多くの所得や利益を確保し、キャッシュを多く残すことができる歯科医院と、経費の削減がうまくいかず、自分の所得や給与を下げる、あるいは個人のお金を医院に貸し付けて経営を維持する状態に陥る歯科医院が存在する。表面的には同じに見える歯科医院であっても、両者の内実を見ると、そこにはまったく異なる経営実態が隠れているのである。
経営格差が広がりを見せる中で、歯科医院経営も自由競争であるがゆえに直面していかなければならない経営の舵取りの問題だが、こうした経営内容の違いは、歯科医院経営を行う院長のマネジメント能力が、強く問われているということがいえる。
今回の診療報酬改訂においては、歯科の診療報酬本体はプラス0.42%の改訂を予定するなど、これまでのマイナス改訂から比較すると少しは明るい材料が期待できるものの、保険収入の伸びによって歯科医院経営の安定が図られることは、これからも期待できないであろう。
診療方針の転換を図り、仮に自由診療に移行できたとしても、①治療に関する訴訟リスクにどう対処するか、②保険診療と自由診療との技術差を、患者が納得するようにどう説明していくか、③自由診療の多額の未収入金の回収をどのように行っていくか、といった多岐にわたる問題にまで目を配らなければならない。
また、研修会や勉強会に参加して治療技術向上を図ることも行う必要があるし、スタッフの管理をどのような仕組みで行うか、そのスタッフにかかる人件費をはじめとして、歯科医院経営にかかる経費をどうコントロールしていくかという問題に対しても、あらゆる角度から対応していかないと経営の舵取りが難しい環境になってきている。治療技術だけでなく、お金の使い方、すなわち経営感覚を身につけることを忘れてはならないのである。

<図2>

具体的な目標を立て数値的な感覚を身につける

収入や経費に関して、数値的な感覚を身につけるためには、具体的な目標を立てることがよい。例えば収入に関して、勤務医を採用している歯科医院であれば、勤務医ごとに1ヵ月の収入目標を定めることがわかりやすい。その際、保険診療、自由診療別に目標とする点数および金額が設定できると、非常に具体的な目標となりやすい。
1日の患者単価や、1レセプトあたりの単価等あるいは保険と自費のおおまかな収入比率から、必要な患者数がわかるため、具体的で確認しやすい単位にして診療にあたることも必要である。
また、原価や経費に関しては、前年の実績や月々にかかる費用の平均等を基準として具体的な金額目標を定めることができる。発注の仕方や在庫の管理方法によっては、それが積み重なったときには金額や比率に大きな差が表れるし、事務用品費や水道光熱費、消耗品費といったものは、日常の習慣づけを少し変えることでも効果が表れる。そうして毎月頑張ってきた経営内容をミーティング等でスタッフに対して報告することで、より自分の問題として捉えられるようになる。
給与額については、給料、福利厚生費、法定福利費と合わせて人件費として大きなくくりで計算してしまうと詳細が判明することがないし、租税公課や接待交際費、保険料、支払利息等あまり直接関係のない費用は、その他経費としてまとめておけばよい。
大切なことは、自分たちが頑張った成果がどのように反映されているのか、あるいは、頑張りが本当に医院経営に影響を与えているのかを検証できることである。
経費がかえって増えたからといってすぐに批判するのではなく、その原因を自分たちで考える癖をつけることが必要であるし、削減が成功したら手放しで喜ぶのではなく、なぜうまくいったのか、今後継続させるためにはどうすればよいのかを考えるきっかけとしたい。
目標を設定して管理を行うようにするために大切なことは、どういった形でもよいので数字に置き換えて判断できることである。実額の推移を評価対象項目としてもよいし、あるいは比率を使ってそのパーセンテージの推移を見ていくことでもよい。簡単なものでも、自ら明確に比較検討ができるようにすることが必要である。
歯科医院の毎月の試算表を見ると、スタッフが頑張って削減できる経費科目というのは非常に限られた範囲でしかない。スタッフがどうにか管理できるものとしては、通信費、消耗品、水道光熱費、新聞図書費、衛生費といった経費であるが、これら経費の合計額は医院全体の収入から考えるとそれほど大きな比率を占めるものではなく、せいぜい5%~9%程度のものである。
しかし、たとえ小さな比率、金額であっても、ここで自分たちの責任において管理をするという習慣、仕事の流れを身につけるということは、目に見えないが歯科医院経営に関する他への影響は計り知れないものがある。数百円、数千円の経費の多寡を問題にしたところで、数百万円の売上規模からすれば非常にわずかなものであり、それゆえに問題もそれほど大きなものではないように思う。

スタッフにも経営感覚を持ってもらう

しかし、なぜ数千円が増加したのか、なぜ数百円を削減することができたのかを考えながら日々過ごすことによって身につく経営感覚は、徐々にではあるがスタッフの経営努力が及ばないと思われる範囲まで影響を及ぼすことになる。
たとえば、広告宣伝費、研究図書費、技工料、リース料、地代家賃などは、毎月決まった金額が発生するため削減の施しようがない。では経営的に、立地条件をどのように生かすことができるのか、どうすれば設備機器を有効に使えるのか、また精度の高い補綴物はどうよいのかを考えれば、患者さんにアピールする方法というのを自分たちで考えることができる。
最新の設備機器によって、患者さんに確かな処置を施せるのであれば、その設備を使用した治療方法をまとめてリーフレットを作ることができる。また、補綴物がよいものであれば、保証制度を設けることができ、それによって患者さんからの確かな信頼を得ることが可能になる。
あるいは、経費の中でもっとも大きな経費である人件費も、例えば業務の徹底効率を図ることで時間が生まれ、新たな患者さんを迎えるための準備へ充てることができるかもしれない。さらに一段上のレベルの業務内容へとステップアップが図られるかもしれない。そうすると同じ給与賃金額でも、非常に生産性の高い投資と考えることができる。
どうしてもかかる費用については、現段階においてその効果を最大限活用することを考えることで、相対的な経費削減が可能になるのである。
これは、院長一人がその気になってああしろ、こうしろと指示を出すには限界がある。やはりスタッフ自身も経営感覚を持った上でないとなかなか管理できるものではない。また、スタッフの人数の多寡が関係するものでもない。もちろん人数が多ければ多いほど、そうした管理の重要性は高まってくるが、家族4人の主婦が家計を維持するために、安い食材を求めて日夜広告を研究するのと同様、自分に任せられた仕事、自分が責任を持って管理しているという自覚によって、スタッフが数人の歯科医院であっても非常に強い歯科医院へと発展することができる。
収入の多寡を量的なものとして考え、経営結果である所得なり利益を質的なものとして捉えるならば、これからの歯科医院経営の成功は、必ずしも規模が大きくなることだとはいえない。それも、所得を確保するためにただ経費を削減すればよいというのではなく、使うべきところはしっかりと使いながら、抑えるべきところはしっかりと抑えるといった要所をおさえた経営体質の歯科医院が、強い歯科医院として競争力を維持することができる。いかに健全に効率よく経営を行っているかという質的な視点で歯科医院経営の成功の指標を考えてもよいのではないか。
当然、収入も多く且つ利益率も高ければ、潤沢な資金が確保できる。そのため競争力を維持し、患者さんを獲得するための設備投資も積極的に行えるであろう。しかし、そうそう収入ばかりが増えるわけでもない。収入規模はそれほど大きくなくとも、適正な利益を確保できてさえいれば、定期的な設備投資は十分可能である。また、しっかりとしたキャッシュ管理ができていれば、安定的な診療材料の購入もでき、またその支払いも確実に行えるはずである。
そのような体質の歯科医院を作るためには、たとえ、小さな金額であっても、それが自分の問題として考えられるか、自分に課せられた責任として取り組むことができるかどうかが大切である。
院長からの指示に対して、何か自分たちの考えを含めて対処できるかどうか。もちろん最初は院長が考えるレベルとは程遠いものからのスタートである。経営者と従業員という立場の違いからくる、経営に対する切実さの度合いは最後まで埋まらないかもしれないが、スタッフが目的意識を持って日々の業務に関わることで医院の体質は大きく変わる。そのためには、院長がスタッフとどう向き合い、どのようにスタッフをその気にさせるかが大きく問われるところでもある。

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