THE DENTAL BUSINESS MANAGEMENT
デンタル・マネジメント・コンサルティング
稲岡 勲/門田 亮
スタッフ全員が安心して業務に携われるように、就業規則を作成し たいと考えています。どういったことがポイントになるでしょうか。
医院で勤務するスタッフの数が多くなると、個々の事情もそれだけたくさん出てくるようになります。
「旅行に行くために休む」「体調不良により欠勤をする」「親族に不幸があった」「通勤の電車が遅れた」など、普段思いも寄らない出来事が待ち構えているものです。
それらのスタッフ個々の出来事に、すべて平等に対応するとなると、何らかの一定の基準を設けなければ対処のしようがありません。
歯科医院が地域に根付き、患者さん、スタッフともに増えてくると、その規模も大きくなってきます。スタッフが3人4人、さらには7人8人と増えてくると、場当たり的な対応では対処しきれず、スタッフ間の対応に差が生じてしまい、必ずと言っていいほど不満が生じるものです。
そういった煩わしいトラブルを避けるためにも、働く上での決まりごとをまとめた就業規則は、一日も早く整備しておきたいものです。
あるとき、医院に勤務するスタッフAさんから休暇の申請があったとします。「新婚旅行に行きたいのですが、特別休暇はないのでしょうか」ということでした。
そのときの院長の答えは、「いつもよく頑張ってくれているから5日間認める」というものでした。
それから、1年が経過したある日、同じく医院に勤務するBさんから、「新婚旅行に行くとすれば何日の休みがもらえるのですか?」との質問がありました。
Bさんも結婚を控えており、新婚旅行の計画を立てようとしているところでした。
医院の状況は、患者さんは増えつつあるときでしたが、スタッフを増員するまでには至らず、一人にかかる業務の負担が重くなっている状態でした。
スタッフには1日でも多く出勤して欲しいと考えていた院長は、Bさんに4日間の特別休暇を提示しました。
院長は、スタッフのためにと思い認めた特別休暇でしたが、AさんもBさんも一緒に働いており、与えられた休暇の日数に違いがあれば不信感を抱かれてしまうことになりかねません。
こうしたことがトラブルに発展すると、院長は大変なストレスを感じることになります。こんなことなら休暇など認めるのではなかったと思っても仕方がありません。
就業に関するトラブルを未然に防ぐ、あるいはトラブルに対して解決を図りやすくすることが、医院のルールとして就業規則を作成する大きな効果です。
就業規則には、記載するいくつかの決まりごとがあります。
たとえば、労働基準法に定められている有給休暇の付与日数は表1となっていますが、法令どおりの日数に何日分かをプラスして規定することができます(表2)。
勤続年数が長くなるほど付与される日数が増えることで、長く頑張ってくれていることに対して、あるいは長く頑張ってほしいから待遇をよくしていることを就業規則で規定するものです。
労働基準法の条件を上回るものであれば何ら問題はありませんし、「残業代を支払う」ことへの抵抗感からすれば、「休暇を少し増やす」ことへの意識はそれほど強いものではないかもしれません。
年1日あるいは2日ほど法令よりも休暇を多くすることは、医院にとって金額的にもそれほど大きな負担ではないと思います。
さらには、自己啓発を目的として、積極的に院長にセミナーや学会の参加を申し出てくる従業員に対して、受講費用の一部を負担することの記載をしてもよいのです。待遇は悪いことばかりではなく、医院としてもできる限り精一杯のことを考えていることを示していくことがモチベーションのアップにもつながります。
表 1:一般の労働者(週の所定労働日数が5日以上または週の所定労働時間が30時間以上の労働者)
継続勤務年数 | 6ヵ月 | 1年6ヵ月 | 2年6ヵ月 | 3年6ヵ月 | 4年6ヵ月 | 5年6ヵ月 | 6年6ヵ月以上 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
付与日数 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 |
継続勤務年数 | 付与日数 |
---|---|
6ヵ月 | 10日 |
1年6ヵ月 | 11日 |
2年6ヵ月 | 12日 |
3年6ヵ月 | 14日 |
4年6ヵ月 | 16日 |
5年6ヵ月 | 18日 |
6年6ヵ月以上 | 20日 |
表2:労働基準法の付与日数に数日をプラス
継続勤務年数 | 6ヵ月 | 1年6ヵ月 | 2年6ヵ月 | 3年6ヵ月 | 4年6ヵ月 | 5年6ヵ月 | 6年6ヵ月以上 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
付与日数 | 10日 | 11日 | 13日 | 15日 | 18日 | 20日 | 23日 |
継続勤務年数 | 付与日数 |
---|---|
6ヵ月 | 10日 |
1年6ヵ月 | 11日 |
2年6ヵ月 | 13日 |
3年6ヵ月 | 15日 |
4年6ヵ月 | 18日 |
5年6ヵ月 | 20日 |
6年6ヵ月以上 | 23日 |
就業規則に関して、作成義務があるのは従業員10名以上(パート・アルバイト含む)の事業所となっていますから、作成義務が生じないうちは、最低限必要な項目のみを規定するなど柔軟に対応することができます。従業員数10名未満であっても、規定を作ることで従業員とのトラブルを未然に防ぐことや、モチベーションアップを図ることなど積極的に活用することができるのです。