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デンタル・マネジメント・コンサルティング
稲岡 勲/門田 亮
歯科医院の経営形態が個人事業の場合、多くはメインとなる一つの口座からすべての入出金が行われます。
個人事業の資金管理で厄介なのは、生活費や借入返済費用のほか、所得税、住民税、生命保険の掛け金など経費に分類されない支払いを管理することが難しい点にあります。
税金等はある時期にまとめて納付する必要があるため、日頃の入出金管理では資金準備ができていないことがあります。
事業用の資金から生活用の資金まで、すべてが一つの口座で動くことが資金管理を難しくさせているのですが、次に挙げる項目については、ある程度毎月の金額を把握しておくことが必要です。
1.生活費、2.社会保険料、3.生命保険掛金、4.年金掛金、5.共済掛金、グループ保険等、6.借入返済元金、7.ローン返済等、事業主貸に相当する分を管理できれば、毎月の必要収入を的確に把握することができ、安定した経営を行うことにつながります。
損益分岐点収入は、固定費÷(1−変動費率)で算出できるものです。事業主貸など経費外の支出も固定費として捉え、経費と合わせた金額が、たとえば3,000,000円とし、材料薬品と外注技工料を合わせた変動費率が15%の場合、3,000,000÷(1−0.15)=3,529,412円となります。算出された約352万円が、すなわち収入金額と支出金額がまったく同じ損益分岐点収入ということになります。この金額によって歯科医院の原価、経費を支払い、さらには事業主の生活費までをすべて賄える計算が成り立つことになります。
今後、損益分岐点収入を1円でも上回れば利益が残ることになりますが、分岐点付近の収入のままですと、資金繰りとしてはなかなか楽に感じる状態ではないと思います。損益分岐点収入を下げるために、一方では積極的に収入増加を図り、また一方では経費の抑制やあるいは、借り換えによる返済資金の軽減などの対策を行い、支出を抑制する取り組みを行う必要があります。
さらに、1ヵ月あたりの損益分岐点収入を、1週間、1日の必要収入額に換算し、より身近に捉えることのできる数値として把握します。また、一人あたりの患者単価から、一日に必要な患者数に置き換えて、収入増加に向けた目標として検討することも必要です。
損益分岐点収入を大きく上回る経営状態になれば、資金繰りも非常に楽になります。預金残高も増えてくるため、突発的に生じる資金負担にも余力を持って応じることができます。
損益分岐点収入付近あるいはそれを下回る経営状況の場合、常に資金繰りへの配慮をしておかなければなりませんから、結果的には、銀行への毎月の返済と同時に、資金が少なくなってきた場合には新たな借入により運転資金を注入して資金繰りを継続させることになります。
そこで、資金繰りの管理や借入のタイミング等を把握しやすいように、まとまった支出に関しては口座を分けるなどの方法を検討します。たとえば、所得税や住民税などは納税一覧表などから年間納税額を把握し、1ヵ月ごとに納税準備資金として積み立てを行います。スタッフを伴った研修旅行や賞与などの比較的大きい資金についても、予定金額の合計を1ヵ月分に換算して、毎月定期預金等で積み立てていくようにします。さらに、生活費に相当する金額については、給料のようにあらかじめ毎月一定額を別口座に移しておくと管理がスムーズです。
計画的に資金管理を行いますと、メインの口座には毎月コンスタントに支出するものだけが残ります。収入が安定的に確保できるようになれば、さらには将来に向けた設備資金の準備などへ目を向けることができるようになります。