100号 AUTUMN 目次を見る
目 次
はじめに
近年、患者さんの審美的要求が高まり、臼歯部においても歯冠色を望まれるようになった。また、金属アレルギー等の問題からメタルフリー化、いわゆるセラミックスレストレーションへの移行も確実に進んでいると思われる。それに伴い、審美修復材料も改良が加えられ、多くの種類が市場に出ている状況にある1)。
審美修復材料の代表として、ポーセレンが挙げられる。審美性、経時的耐久性、表面性状等、多くの利点を有する材料ではあるが、硬くて脆いという性質や製作の難しさ等の欠点もある。特に硬さについては、対合歯の摩滅や歯牙に対する影響等で指摘されているところである。
それらのポーセレンの欠点を補い、臼歯部での咬合に耐えうる機械的強度を有し、審美性、生産性を考慮した新素材が「ハイブリッドセラミックス」といわれる【エステニア】である。18K 相当の硬さと高靭性をもち、硬質レジンと比較して格段の強度と耐久性を有している。すなわちエステニアは、機械的強度に優れ、弾性率もエナメル質と象牙質の中間に位置し、力学的にも天然歯に調和している材料といわれている。また、材料強度があるためメタルとの接着性にも優れ、メタルフレームに築盛することにより、多くの補綴装置に応用することが可能で、そのほかに、ポーセレン、キャスタブルセラミックスに比べ、導入する際の設備投資が少ない利点も有し、生産性の点からも技工士、患者双方にメリットがある2)。特筆すべきこととして挙げられるのは、上市まで10年に及ぶ開発期間を経ていることで、臨床に携わる者としては最も信頼に値することだと考えている。
エステニアのようなメタルフリー材料の臨床応用には確実な接着が最も重要なことである。修復材料、セメント、歯質(支台築造メタル)が調和してこそ長期的な安定が得られることになる。
そこで開発されたのが、機械的強度に優れ、長期的に安定しているコンポジットレジン系セメント・パナビアフルオロセメントである。パナビアフルオロセメントは、従来のパナビア21を高機能化したもので、フッ素徐放性を有したデュアルキュアタイプの接着セメントである。
補綴物の再修復の原因の大きなものに、二次齲蝕があるが3)、その対策として、細菌の侵入抑制と歯質の耐酸性強化が必要とされている。高強度、適度な弾性と高接着性は無機フィラーを78wt%含有するパナビアフルオロセメントの理工学的特性により、現時点では優れたものになっているし、デュアルキュアによってマージン部をシャープに硬化させることができるうえ、さらに化学重合によって確実に硬化させることができる。また、特殊処理されたNaFにより、フッ素が徐放され、フルオロアパタイトの形成が促進され歯質の耐酸性の向上が期待される。また、今回EDプライマーⅡになったことにより、歯面処理時間が従来の60秒から30秒と短縮され、さらに操作が簡便になった。
象牙質との接着性を増加させる処理方法に、柏田聰明先生の提唱されたADゲル法がある。KエッチャントGEL(40%リン酸)で表層のスミヤー層を除去した後、ADゲル(10%NaOCl)で表層の脱灰コラーゲンを溶解、除去し、粗造化した新鮮な象牙質表面を出すというものである。この面にEDプライマーで接着することにより、樹脂含浸層ができるとともに、象牙細管中に入り込んだレジンタグで機械的な嵌合も得られると報告されている4)。
現在、最も優れた合着材のひとつがパナビアフルオロセメントであるといえるが、エステニアインレー合着用のシェードはブラウンしかなかった。エステニアクラウンの合着の場合は、ほとんどの症例に適応したが、インレー、アンレーのように接着面が露出することの多い症例では、クラパールDCが推奨されていた。
この色調の問題を解決するために追加されたのが、今回の新色『ライト色』である。歯冠色に近似した色調で、エステニアインレーと歯牙との界面を違和感がないように埋めることができるようになった。透明感を強調する症例の場合、エステニアクラウン内面にオペークを施さないことがあるが、これらの症例でも健全象牙質に近似したイエローの強いライト色は良好な結果を生むと考える。セメントの色調が増えることで、より審美的な修復に近づくことができるようになったと思う。
エステニアのような新素材を臨床応用し、最善の結果を出すためには守らなくてはならないルールがある。エステニアインレーでいえば、メタル修復と異なり、インレー体をレジンセメントを介して歯牙と一体化させることといえる。機械的嵌合は必要ないので、ブラックの窩洞のような窩洞形成は必要ない。外開きで、できるだけスムーズなラインアングルで形成する。バットジョイントマージンで側室マージン部はショルダーとし、咬合力を受け止めるようにする。テーパーがきつすぎると試適時でも破折が起こる。咬合圧が加わるところは水平にしショルダーを付与する。
最も重要なことは接着である。エステニアインレーの清掃、シランカップリング処理は必須である。歯面も前記したような処理を確実に行うことが必要である。守らなくてはならないルールに従って、一連の処置を行えば、患者さんに満足していただける修復が可能であると考える。
エステニアインレーの製作過程、パナビアフルオロセメント(ライト色)の接着過程、臨床例を呈示したので、参考にしていただければ幸いである。
エステニア-
パナビアフルオロセメント
技工編
図1 術前。患者は31歳、女性。4の齲蝕。-
図2 インレーを除去し、窩洞形成を行う。側室はショルダー形態。 -
図3 ビタA3シェードガイドをあてて撮影する。 -
図4 シリコンにて印象採得を行い、作業模型を製作する。 -
図5 スペーサーに使用するカラーワックス。色がない方が惑わされない。 -
図6 窩洞内に一層盛る。 -
図7 レジン分離剤、マージンセップ。 -
図8 模型に一層塗布する。 -
図9 エステニアデンチンを築盛し、筆でレジンを馴染ませる。各ステップ毎に所定の時間光重合を行う。 -
図10 エステニアアンバーを築盛する。 -
図11 クロマゾーンカラーステインのブラウンとオレンジを準備し、混和する。 -
図12 内部にステインを置き、光重合を1分間行う。 -
図13 窩壁にエステニア トランスペアレントを築盛する。 -
図14 筆でレジンを馴染ませる。 -
図15 エステニア エナメルを築盛する。 -
図16 筆で表面を整える。 -
図17 築盛終了。 -
図18 エアバリアーペーストを一層塗布する。 -
図19 αライトⅡで光重合を3分間行う。 -
図20 慎重に模型から分離する。 -
図21 KL-310で110℃、15分間加熱重合を行う。 -
図22 バリや表面の低重合層を取り除く。 -
図23 模型上でコンタクト等の調整を行う(副模型があると、より正確にできる)。 -
図24 中研磨。 -
図25 エステニア専用研磨材。 -
図26 エステニア用研磨材をロビンソンブラシにつけ研磨する。 -
図27 布バフで最終研磨。 -
図28 副模型上で完成したエステニアインレー。 -
図29 完成したエステニアを脱型。 -
図30 ほとんどの工程はマイクロスコープ下で行う。
合着編
図31 印象採得後、軟質レジンで仮封。
図32 完成したエステニアインレー。ベースはビタA3 。
図33 仮封材を除去し、清掃。エステニアインレーの試適。
図34 エステニア内面をエッチング処理。5秒後、水洗、乾燥。
図35 窩洞をエッチング処理。10秒後、水洗、乾燥。
図36 ADゲルを窩洞に塗布。2分後、水洗、乾燥。
図37 シランカップリング処理剤としてメガボンドプライマーとポーセレンボンドアクティベーターを使用。
図38 スチームクリーナーで洗浄後、乾燥。シランカップリング処理剤を塗布する。
図39 シランカップリング剤は熱でより活性化する。ドライヤーを使用。
図40 EDプライマーⅡを準備。
図41 窩洞にEDプライマーⅡを塗布し、30秒放置後、乾燥。
図42 パナビアフルオロセメント。上がAペースト、下がBペースト(ライト色)。
図43 パナビアフルオロセメント、ライト色を等量練和。
図44 ペーストをインレー側に盛り、窩洞に圧接。インレー体を挿入したら浮き上がり防止のためにしばらく圧接しておく。
図45 圧接した状態で、筆で余剰セメントを取り除く。
図46 隣接面はスーパーフロスを使用している。
図47 セメントを除去したら光照射を行う。本症例はアークライトⅡを使用した。
図48 咬合調整。
図49 丁寧に研磨を行う。
図50 装着後。患者は満足した。
臨床症例編
図51 患者は38歳、女性。右下6番の齲蝕。
図52 完成したエステニアインレー。
図53 装着後。患者はまったく違和感を感じなかった。
図54 患者は25歳、女性。左下5番の齲蝕。
図55 完成したエステニアインレー。
図56 装着後。
図57 患者は35歳、女性。メタルインレーの脱離。
図58 完成したエステニアインレー。
図59 装着後。
図60 患者は29歳、女性。齲蝕の処置とメタルフリーを希望。術前上顎面観。
図61 同患者。術前下顎面観。臼歯部にメタルインレーが装着されている。
図62 下顎左側6.7番の完成したエステニアインレー。
図63 装着後。
図64 同患者。修復後の上顎咬合面観。
図65 同患者。修復後の下顎咬合面観。患者は大いに喜んだ。
図66 患者は59歳、女性。下顎の審美修復を希望した。
図67 下顎右側4番はエステニアクラウン。6.7番はエステニアインレー。
図68 装着後。
図69 修復後の下顎咬合面観。左側はエステニアブリッジで処置した。「もっと早く治せば良かった…」
- 1) 平澤忠、内田馨子:セラミックス・高分子複合歯冠修復材料の理工学的性質.歯科技工別冊.20~27.1997.
- 2) 松井信人、高橋英登:エステニアの臨床応用.歯科技工別冊.34~45.1997.
- 3) 柏田聰明:接着技法を応用した新しい歯科治療の展開.補綴誌.41.747~762.1997.
- 4) 柏田聰明、森田誠ら:フッ素徐放性レジン材料による歯質強化に関する研究.日歯保存誌.41.918~926.1998.
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