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101号 SPRING 目次を見る

TALK

歯科医療革新の夢を語る -新世紀の医療と歯科医療の構造改革を考える-

江藤 一洋/増原 英一/山田 敏元

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目 次

  • [写真] 江藤 一洋(東京医科歯科大学 歯学部長) / 増原 英一(総合歯科医療研究所所長 東京医科歯科大学名誉教授) / 山田 敏元(虎の門病院歯科 歯科部長)

21世紀を迎え、我が国においては急激な少子高齢化と情報技術の発展による社会環境の変化により、歯科医療も根本的な構造改革が要求されている。また、介護保険の導入により、医科と歯科が急速に接近し、全人的医療の必要性も認識されるようになった。このような情勢のもと、医学的視野を有する歯科医師の養成を目指し、昨年、東京医科歯科大学・大学院医歯学総合研究科が創設された。今回は、東京医科歯科大学歯学部長・江藤一洋先生と虎の門病院歯科部長・山田敏元先生をお迎えし、21世紀の歯科医療の課題と将来展望について、貴重なお話をお伺いした。

増原本年は新世紀への門出の年であり、本誌101号には格別な意義が感じられます。本日は、日本の歯科医療の基本となる歯学教育の立場から東京医科歯科大学の歯学部長・江藤一洋先生と、臨床教育の現場から虎の門病院の歯科部長・山田敏元先生にご出席いただきました。
ご承知のように、今や世界情勢は大きな変革期を迎えていますが、それに連動して社会構造も医療構造も必然的に大きく変わりつつあります。そのなかで、日本として特に注目されるのは、少子高齢化の急展開と情報技術の急激な発展による社会環境の変化です。医療の立場からみると、昨年の介護保険の導入により一般医療と歯科医療が急速に接近してきて、全人的医療の必要性が強く認識されるようになったことが挙げられます。また、情報技術の進歩がもたらす社会活動の大きな変革により、人々はマスコミを通じて非常に多様な医療情報が得られるようになりました。
これらの社会的変化に対応して、歯科医療も在来の意識から脱却して、新しい歯科医療の在り方をしっかりと考えていく必要に迫られています。
東京医科歯科大学には、昨年、大学院医歯学総合研究科が創設されました。これは戦後に新制歯科大学が発足して以来の画期的な出来事であるといえます。これが新世紀における歯科学教育の核になるものと考えられます。
そこで、最初にこの大学院医歯学総合研究科とはどんなものなのか、研究科長に就任されました江藤一洋教授から、この大学院を構想された理念とか組織について具体的なお話を伺うことにします。

医学的視野を有する歯科医師の養成を目指す大学院医歯学総合研究科の創設

[写真] 江藤 一洋江藤医歯学総合研究科構想は山本肇学長の時代に端を発しますが、さらに歴史をさかのぼれば、創立者の島峰先生と長尾先生の構想が源流となります。かつて本学の大学昇格に努力された長尾優学長は、「歯科医学教育に関する私見」(昭和13年2月)において、歯科医師法及医師法に支配さる両面医養成機関として、口腔歯科大学(予科2年本科6年)の構想を示されております。
その主旨をみますと、「本大学は歯科医学を学べる医師を作るのではなく、反対に医学を修め且つ法律的に医事行為の出来る、然し自らは歯科医業を専念し、且つ一般歯科医学の向上発達を理念とするの士を、換言すれば歯科医界の真の指導者を養成するのが目的である」とあり、本学の歴史に照らしてみても医学と歯学の協力連携が、歯学の発展を図る道であったことがよくわかります。
医学と歯学の密接な協力連携なくして本学の将来はあり得ないのであれば、医学部と歯学部の双方が力を合わせていかなければならないと思います。
この精神を生かすべく、基本理念は、「21世紀の医学及び歯学の発展において、我が国が国際的指導力を発揮するためには、病因、病態はもとより患者診断・治療・リハビリテーション、QOLまでを常に視野におさめた臨床指向型研究の展開は最も重要な課題である。本研究科は、我が国における医歯学両分野での教育研究の拠点となることを目指して、21世紀における国民と国際社会のニーズに応える研究心旺盛な高度専門職業人(アカデミックドクター)と世界をリードする研究者並びに医学・歯学両分野にわたる境界型医療人の養成を行う」ことにあります。
増原今のお話で、大学院医歯学総合研究科の基本理念が医学と歯学の連携によって、医学的視野をもった新しいタイプの歯科医師を養成することにあることがわかりました。
確かに、戦後はアメリカの影響もあって、医科大学と歯科大学は別々に専門化されて、相互間の連携が薄らいできました。その結果、医師と歯科医師は相互の医学用語さえも通じなくなってきており、最近は介護保険の導入などで、その弊害も指摘されるようになってきました。
その意味で、東京医科歯科大学の医歯学総合研究科の創設は大きな意義があると思いますが、具体的にはどのような人材を育成するお考えですか。
江藤前述の基本理念に基づき、次の2つのタイプの人材の育成を目指しています。
(1)世界をリードする研究者
①基礎と臨床の融合を図る臨床指向型研究分野で世界をリードする研究者
②医歯学の密着連携を図る医歯学際型研究分野で世界をリードする研究者
(2)アカデミックドクター
(研究心旺盛な高度専門職業人)
①分化から統合化を目指す全人的診断治療を遂行できるアカデミックドクター
②医歯学臨床境界領域を緊密連携させる医歯学境界型医療を遂行できるアカデミックドクター
しかしながら、医歯学総合研究科への道のりは決して平坦なものではありませんでした。
本学歯学部は11国立大学歯学部の中で重点化される資格を有していると自負しておりましたが、歯学部が単独で重点化された場合、本学医学部の単独重点化は極めて困難となります。なぜなら、国の大学院重点化政策は一つの選別を行うということですから、これを旧7帝国大学医学部にとどめるのは極めて当然といえば当然の措置でもあります。旧6医専(千葉、新潟、金沢、岡山、長崎、熊本大学の各医学部)よりも歴史の新しい本学医学部であれば、その学問的業績と社会的名声が極めて高いものであるにも拘わらず政策上無理ではないかということです。
この隘路を抜ける唯一の方法、すなわち医学部の重点化の実現は、医学と歯学が協力連携したユニークな研究科を創ることにしかないことが平成9年9月の時点で明らかになりました。
このような経緯を背景にして、医学部の重点化のために医学部より歯学部に対して正式な協力依頼がなされ、医学、歯学を連携した研究科が設置上可能かどうかを検討する用意があることを歯学部は了承して、医歯学総合研究科創設のスタートが切られました。
[写真] 増原 英一増原今、アカデミックドクターという言葉が出ましたが、これは21世紀に大いに活躍してもらいたい人材ですね。これまでの歯科医師は技能的な専門職と見られがちだったのですが、このドクターは学究的な立場で診断、治療、介護に携わって患者に安らぎを与え、感謝してもらえる人材ということですね。また、新しい顎顔面外科や骨などの再生医療の推進にも重要ですね。どういうプログラムで実施されるのですか。
江藤医歯学総合研究の枠組み(組織)ができたわけですから、これからはその内容の充実になります。
現在、全学的な組織として「新教育2001年委員会」を作り、教育改革に着手しています。
具体的な教育プログラムの策定の前に如何なる基本方針を掲げるかは重要です。学内外の多くの方々の意見を要約してみますと、次のようになろうと考えております。
①自立した個人による自己教育の尊重
テュートリアル方式による自己課題探究設定・解決型の導入は十分に検討する予定です。ただ、偏差値の高い学生は往々にして問題解決の知識と技術はありますが、むしろ、自ら課題を探究し設定する能力、すなわち、問題発見能力に劣る傾向にあることも考慮すべきでありましょう。
②グループにおける相互教育の尊重
各学部・研究科の全講座・部門(分け方が問題です)に、学部の2、3、4年生の全員を分属させ、3年生の時に基礎選択実習による論文を書かせる。2年生は3年生の見習いとしてつき、4年生は3年生を指導する。さらに、大学院生が4年生を指導し、各講座に分属する学部学生と大学院学生全体にテューターをつける。基本的には、上級生が下級生の面倒をみ、これにテューターがつく仕組みとなります。
①のテュートリアル方式も少人数による相互教育の効果の一面があります。この同級生同士の横の繋がりと②による縦の繋がりとによって織りなされた学修環境で、学生諸君には切磋琢磨してもらいたいのです。
以上、自己教育についても相互教育においても、教官は学生の知識、理解、技能といった見えやすい能力よりも、思考力、判断力、表現力、関心、意欲、態度といった見えにくい資質を発掘し育成するためには、教官による教えるシステムの工夫もさることながら、学生による学ぶシステムの工夫がさらに大事であり、これにはまず、教官自身で獲得した知の磨き方を意識化して学生に伝えることも大切であろうと思われます。
また、自己教育と相互教育を進めることによって、学生と教官が直接触れ合う機会が多くなります。医歯学総合研究科・研究所の全教官が、いかなる形であれ、教育に参加すべきであると考えています。すなわち、全教官が教育を共有することにより、将来の医歯学総合大学院の研究の担い手となる人材を育てる。これが長い目で見れば研究を高めることになりましょう。
このように、医歯学総合研究科における教育研究の目標は明確です。そして、研究の基盤となるのは教育であることもまた自明です。本学の全部局の全教官が教育を共有して、共同体意識を自覚し、研究を高めることを目指すならば、本学の発展の礎を築けるものと思います。
増原今お話があった大学院の医歯学総合研究科は医科歯科大学ならではの構想ですが、これは21世紀の医療を先取りしたかたちの医療と歯科医療を総合的に実践していく全人的医療の在り方を示すモデルにもなると思われます。
山田先生は虎の門病院の歯科部長になられてから、医科と歯科の交流を積極的に進められ、大きな成果をあげてこられましたことが評判になっています。先生の「全人的歯科医療」の在り方についての考え方や病院内での体験や実践の様子を聞かせていただきたいと思います。

人を人として扱うことが全人的歯科医療の基本となる

[写真] 山田 敏元山田現在、医学の分野では先進的な診断法や治療法が採用され、それこそ日々進歩していますが、当院では、医科からの入院患者さんの歯科治療の依頼が1年間に本院だけで500名を越えています。川崎にある分院でも数百人ありますので、この入院新患の方が毎日2人以上あることになります。これらの方の全身疾患はそれこそ様々で病気の博物館のような状況を呈しています。
医科の先生方は依頼書に病名、症状、治療の方針を詳しく書かれますが、これまでの歯科の教育では、この対応はできません。
しかしながら、結局我々歯科医師が行う治療は同じなわけであり、依頼書や患者さんの検査データを解説書を用いて慎重に対処していけば何ら問題はおきませんし、ポケベルで担当医を呼び出して相談すれば、お互いに理解しながら治療を進めることはできます。
私が虎の門病院へ来て過去4年間、平均約3.5週入院される患者さんを予約外で頻繁に呼んで治療していきますと、医科からの信頼も得られるようになってきました。そうしますと、入院患者さんも近くの方であれば、退院後も歯科の外来に来ていただけるようになっています。
医科の先生方や研修医の若い先生方からも歯科の治療を見てみたいとか、教えてほしいという希望が出てきました。また、Opeの前後の口腔管理や血液病の患者さんの口腔管理もしてほしいという要望も出だし、大きな信頼関係がつくられています。さらに、先生方本人やそのご家族の歯科治療も随分と増えています。
入院患者さんに接していると、一般の外来患者さんも同じですが、病気の方は病気を物として扱わないで、一個の人間、すなわち、感情を持った人として扱わなければならないということを痛感し学びました。
病気を治すのではなくて、人間の心を癒すということです。これは当り前のことですが、人を人として扱うということでして、これを全人的医療と一般医科では言い始めていますが、これは、どんなに医学が進歩し、検査や治療法が進んでも、対象は人間であるということです。歯科でいえば全人的歯科医療となりますが、インプラントや金属床のいい義歯を入れても、患者さんが歯科医師との人間関係においても満足して下さらないと本当の意味での医療ではないということです。
増原高齢者の介護保険の導入で歯科医師が歯科医療や口腔ヘルスケアなどに参加する機会が多くなりますが、その場合、歯科医師が医師の医学用語を正しく理解して適切な処置をすることが重要になりますね。この点について、山田先生が虎の門病院で経験されていることやお考えを教えてほしいと思います。
寝たきり患者が入院してから義歯を新調して咀嚼機能が回復したら、元気も回復して歩けるようになったという話がよくありますが、こんな症例には医師や看護婦の親切な配慮が必要ですよね。
[写真] 山田 敏元山田看護という言葉の中には、患者さんの口腔介護も入っていますが、全ての入院患者さんの口腔管理を看護婦さんが行うことは不可能です。それで身体不自由な方のみ口腔清掃を行っているわけですが、これも忙しいため不完全になっています。
実は昨年と一昨年に看護婦さんを対象に歯科の話をしましたところ、大変大きな反響を呼び、それもあって少しずつ患者さんの口腔介護が定着しつつあります。最近では一部の看護婦さんの中にグループが生まれ、積極的に入院患者さんの口腔管理を向上させようとする気運が高まりつつあります。モリタで販売されている口腔ケア用品にも大変興味を持っておられました。
医科の先生方も入院患者さんに1日でも早く退院して社会復帰してほしいと希望されていますが、その第一条件は自分で食事ができるということです。そのために歯科の治療が必須の要件となるわけです。最近では、義歯はいつ頃入れていただけますか、その後に退院を予定しますという電話が担当医から歯科に入るようになりました。
現在、日本の歯科開業医の先生方は全身疾患を持った患者さんを敬遠されることが多いようですが、我が国では今、高齢者の比率が著しい勢いで増加しており、これら全身疾患を有する患者さんを積極的に取り込んでいかないと、国民からも歯科は見放されてしまいます。担当医と緊密に連携して治療を進めればよいことであり、実際に始めてみると、それほど難しいことではありません。口の中のことがわかるのは歯科医師をおいてないのです。
また、やはり患者さんの気持ちになって考える姿勢が最も大事なことです。高齢者の方には人生の先輩として丁寧な言葉遣いで、同年代の人にはわかりやすい言葉遣いで、というように、医療はサービス業であることを胆に銘じて行動することです。そういう態度は、衛生士さんや受付、看護婦さんにも少しずつ伝わっていきます。
[写真] 増原 英一増原21世紀は歯科医師過剰の時代になるといわれていますが、これから育つ若い歯科医師は医師と協力していく医療派と、現行の歯科技術にこだわる技能派に2極分化していくように思われますが、如何がでしょうか。
山田私は歯科の将来について大変楽観的な見方をしています。これからの歯科は、例えば毎月床屋さんへ行くような気持ちで、少なくとも年2回は受診してケアを受けるようになると思います。このような日常的なケアを行いながら、インプラントや審美修復、埋伏歯の抜歯などを日常的に行える歯科医師を養成していく必要があるように思います。
日本の医科は約7割が病院の勤務医で、3割が開業医ですが、歯科は約8割が開業医ですから、進んだ歯科医療も開業医が実践しなければなりません。この意味からも大学での臨床教育には大きく期待したいところです。また、医科との連携プレーや全身疾患を有する患者さんの歯科治療についても、病院歯科の現場を有効に利用するとともに、学生のうちから医科との接点を持たせることが大変重要です。自分の学生時代を振り返ってみても、この点が欠けているような気がしてなりません。
ですから、これからの開業医は、最新の技術と材料を駆使して、さらに医科との接点を十分に利用して、国民の口腔健康の増進と福祉の向上に努力していかなければなりません。
まもなく研修医が必修化され、制度の上でも臨床教育の充実が叫ばれ始めていますが、卒前卒後を問わず、患者さんに愛情を持って接し、患者さんから慕われるような人格を有する有能な歯科臨床家の育成が日本の歯科の大きな目標となっています。医科と歯科は本来同じものであるべきで、進んだ技術、材料に支えられた全人的歯科医療こそ21世紀の歯科の展望と考えています。
増原そこで、全身疾患を有する患者さんと接触する全人的歯科医療に携わることができるアカデミックドクターの養成が必要になりますね。
[写真] 江藤 一洋江藤私の知り合いで札幌の日の出歯科の工藤理事長が「患者が少ないというのはとんでもない話で、老人病院には歯科治療を待っている患者さんがたくさんいます。ただ、それをどうやっていいかわからないだけでしょう」と言っていました。日の出歯科では、ガンや重症の糖尿病患者のための歯科の入院病院を真駒内に作っています。
そこの歯科医師は週に1回、内科の医師に来てもらって、歯科医師としての診断・治療能力を高めるために勉強しています。ガンや糖尿病の患者を治療する際に、最低限度何を注意すれば歯科治療が遂行できるか、というための医学知識を学んでいるわけです。
もう1点は、口腔内を診て、消化器系統の病気の症状が出ていれば医科の受診を勧めることができる知識を学ぶ。それが要するに歯科における医学の導入だと思うのです。
山田全人的歯科医療を推進していくためには医学の知識を有したアカデミックドクターはもちろん必要ですが、それとともに、人間の持っている感情まで含めてケアし、キュアしていこうというのが全人的歯科医療の目指すところだと思います。
増原今日はいろいろなお話が出ましたが、結局、これからの日本の歯科医療を輝かせる全人的歯科医療ということをもう一度皆で考えて、これを普及していくことを考えなければいけないと思います。これこそ東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科の大きな理念であり、目標ですからね。本日は、大変貴重なお話を聞かせていただきました。有難うございました。

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