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101号 SPRING 目次を見る

CLINICAL REPORT

Post Modern Dentistry 4 デンタル・ドック(Ⅱ) マルチメディア・デンタル・ドック(その1)

川村 泰雄

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目 次

はじめに

マルチメディア・デンタル・ドックは、健康志向でなければなりません。
歯は、老化で失われるのではなく、一生涯命と共にあるべきであるという概念の上にあります。古典的な修復中心の歯科医療ではなく、歯牙、歯周組織および咬合など咀嚼系の健康を作る口腔健康科学(Oral health Science)をベースにした、デンタル・ドック・システムでなければなりません。
・咀嚼系の歯牙・歯周組織・咬合・顎関係筋神経・筋肉などの状態を精密に検査し、口腔の健康の悪化に関係ある全ての因子を見つけることを目的とします。
・デンタル・ドックはクライアントが今までの主観的な健康観から、客観的な専門的なレベルの口腔の健康観への変革を促さなければなりません。
検査にあたってクライアントが持っている口腔の身体像(Body Image)を客観的なイメージに構造化するために、クライアントも参加し、共に検査を行い、自分の口の中の状態を充分に理解し、自己学習するべく動機付けに役立つシステムが必要になります。
・今までの検査は、単に歯科医だけが治療に必要な情報を収集しているに過ぎず、クライアントにはその情報は正確には伝わらず、ただ自分の口を歯科医である他者に預け、自分の責任を放棄した形で受診していたといえます。検査のプロセスの中で「私の歯」、「私の歯周病」、「私の咬合」というように、自我が入り積極的に検査に参加するよう促すことが大切です。デンタルドックはPatient Oriented System のKeyとなります。
・これらの目的のために、マルチメディアのITを用いて、クライアントに専門的なレベルの情報を分かりやすく提供し、健康への自己責任を啓発することができるわけです。
また、そこから得た情報の集積を容易にし、健康管理をシステマティックに行うことが可能になります。
・咀嚼系の健康、即ち最適口腔健康(Optimum Oral Health)、それは、
1. 歯牙と歯周組織の健康
2. 咀嚼系の解剖的な調和
3. 咀嚼系の機能的な調和
4. 咬合の安定 を、いいます。
・一般的には、日本の人達の今までの歯科医療とのかかわりは緊急治療的です。定期的な健診を受け、常に健康をチェックするというライフ・スタイルを持つように促すことが重要です。そのことのためには、修復歯科医療の延長線上の考えに基づいた健診ではなく、口腔健康科学に沿ったシステマティックなシステムとしての「デンタル・ドック」を作ることが重要となります。
これは歯科医サイドにおいても、デンタル・ドックにより膨大な潜在的需要を顕在化することができるわけで、そのことは歯科医の経済的な利益につながることにもなります。
今回、私達が開発した、「マルチメディア・デンタル・ドック:(MMDD)」は、アメリカ、フロリダにあるPankey InstituteのComplete Examination の方法に準拠したものです。

  • [写真] デンタル・ドック
    写真1
  • [写真] デンタル・ドック
    写真2

マルチメディア・デンタル・ドック

ステップ1

・インタビュー
・プレクリニカル検査
・レントゲン
 歯科用レントゲン
 パノラマレントゲン
 顎関節レントゲン(必要時)
・歯型模型の作成
・口腔内写真の作成
・顔写真の撮影
・口腔内写真による共同検査(視診)を行います。

◎インタビューWhat's your Problem?
インタビューにおいて大切な問いかけは、 「どうなさったのですか?」
「あなたにとって、今何が問題ですか?」
・クライアントにとってデンタル・ドックを受けるということは、ただそれだけの問題ではなく、一般的な健康のこと、審美的なこと、社交に自信を失ったり等、情緒的にも種々な悩み・不安があります。それらの問題を歯科医は受け入れ、「私はあなたの歯にのみ関心があるのではありません。私はあなたの健康とあなたに関心があるのです」という姿勢で接することです。全人的なかかわりを作ることが、健康を創り、助けていく中で大変大切です。(デンタルマガジン99号:Post Modern Dentistry 2参照)
それはインタビューの中でこれらの問題を聴き、入力し、今後の治療計画を立て、ケースプレゼンテーションを行うにあたって大変重要な情報となります。
・クライアントが来院し、「デンタル・ドック」に受診するにあたって、クライアントは主訴や要求を持っています。特に主訴が解決しない限り、健康へのモチベーションは難しいでしょう。鎮痛・消炎などの緊急処置が行われ、患者の苦痛を解決することが先決となります。このことが充分解消されているかを検査の先に確かめる必要があります。
・クライアントの、「食事ができない」、「美しくなりたい」等の欲求や、それに伴うプロブレムを聞き、また歯科診療の今までの経験やそれに伴う歯科治療に対する恐れ、痛みに対する恐怖、不安などをよく聴き捉えなくてはなりません。クライアントの訴えを傾聴し、共感し、理解し、援助者としての姿勢を示すことが大切です。
・そのためにもインタビューを行う部屋は、整理整頓され、治療器具などがクライアントの目に触れないように、またアメニティに心がけなければなりません。
・クライアントと歯科医との目線は常におなじレベルであることが必要で、普通の歯科治療椅子で治療を受けるときとはまったく違ったお互いのポジションが必要となります。
・よい会話の雰囲気を演出するためにも、お互いがパソコンのモニターに映し出される環境ビデオを利用することなども必要でしょう。普通の治療とおなじ環境ではなく、お互いがリラックスした雰囲気が必要です。
「自分の歯の今の状態をどのように思いますか」
「歯が年々悪くなっていくように思いますか」
「これまで歯を失ったことをどのように思いますか」
「口臭が気になりますか」
などの問いかけも必要です。
・またクライアントの歯に限らず、父、母、兄弟、妻、夫、子供の歯の健康状態も問いかけることで、遺伝の問題、ライフ・スタイルなどの基本的問題の理解につながると同時にクライアント自身が回りの人たちの歯の健康についても関心を示すことにもなります。

◎プレクリニカル検査 Pre-Clinical Examination
クライアントは主訴やそれに伴う「プロブレム」等の種々な異常を持っているものです。しかし、それは日常の生活感情の中で流されて、「こんなものだろう」、「仕方がない」、「いつか慣れるだろう」、「年だから」というように、埋もれ、潜在化する異常があります。
インタビューにより、これを一つ一つ取り出し、聞くことにより、口の中の種々の機能の中での異常を自己学習していくことになります。
次のようなPre-Clinicalな質問がクライアントの前のモニターに風景画像と共に表示され、会話を助けていきます。
①「熱いもの、冷たいもので痛みを感じることがありますか?」
この質問によって、痛みの種類や部位をクライアント自身が再評価するわけで、クライアントは具体的な質問によって、初めて異常に気づきます。クライアントは、歯科医から、「あなたの歯は種々とだいぶ悪いですよ」と指摘されることと、自分自身で「何か歯に問題があるらしい」と肯定的な心理状態で答えることでは大きな違いがあります。
②「食事のとき咬んでどこか痛みを感じますか」
これは歯周組織に関する質問ですが、ここでは歯の動揺を自覚して頂きます。
③「歯の間に物が挟まりますか。もしあればどこですか」
この質問で、もし「いいえ」と返事がかえってきたら、質問を少し変え、「肉や野菜を食べたとき歯の隙間に食べカスや繊維が詰まったりひっかかったりしたことはありませんか」、または「爪楊枝を使われますか」と質問を続けていきます。このように尋ねると「いいえ」と答えた人でも「そうです」と答えるかもしれません。この3つの質問を種々な方法で聞くと、クライアントはそれについて考え始めます。そして思い起こし、考えながら答えていくでしょう。質問するとき、食い下がっていく必要があります。このように隠れていた異常をクライアントは自分で気付いて、明確化します。
④「ブラシを使ったとき、歯肉から血が出ますか。それ以外でも血が出ることがありますか」
歯肉から出血していることを初めは驚いて気にしても、そのうち日常当然のことのように感じ流されていきます。しかし質問されることによってその異常を認識させることができます。
⑤「食事は左右両方で噛みますか。それとも左ですか、右ですか」
⑥「強く噛むほうですか」
⑦「日常、歯を時々食いしばっていますか。夜眠っているとき歯ぎしりの癖はありませんか」
これらの⑤⑥⑦の質問は咬合に関する質問です。この質問から、「口が開けられなかった経験はありませんか」、「朝起きた時顎がだるくありませんか」、「頭痛、肩こりはありませんか」、「今まで耳鳴りや耳の痛みがあったことがありませんか」、「舌が痛かったことはありませんか」、「食事のとき、または口を大きく開けたとき、顎に音がしますか」、などの質問に発展し、これらの問題も咀嚼系の関係の異常も歯科に関係があることを知らされていきます。
⑧「定期的に歯科医を訪れていますか」(定期健診を受けていますか)
3ヶ月に1度-6ヶ月に1度-1年に1度-痛いときに行く程度現在の日本では、定期検査はライフ・スタイルとして定着していないようですが、これらの質問により定期的に健診を受ける必要があること理解するでしょう。
「あなたは定期的に人間ドックを受けておられますか」という質問も、クライアントに気付かせるのに必要な質問でしょう。
⑨「ブラシは強く使うほうですか。大きいブラシですか、小さいですか。毛は固い方ですか、それとも柔らかいほうですか」
⑩「歯の手入れ法を専門的に指導を受けましたか」
⑨⑩の質問は、クライアントの日常のブラッシング方法とそのことに対する意見を聞くことになります。同時に歯の手入れ法は、個人的に指導を受けなくてはならないと言うことを告げることにもなります。
このように、一連のPre-Clinical Examinationは、クライアントの自分の欲求が自分の内面でクリエイトされ、「私の歯」への関心が自分の意思で守られるようになります。それは歯科医の指示的な型で対応するのではなく、クライアントが質問に答えることによって気付いてくるわけです。

◎レントゲン撮影
歯科用レントゲン(デジタル)
歯科用パノラマレントゲン(デジタル)

◎上下顎全顎印象と模型の作成
Face Bowにて上顎トランスファー、中心位を採得、咬合器マウント。(咬合器マウントは次回クライアント来院時までに)

◎口腔内写真での共同検査
転送した画像データを見せながら、患者さんと一緒に歯牙状態、虫歯、修復物の入力を行います。患者さんに自分の口腔内のデジタル画像を見てもらいながら、その状態を一緒に入力していくということが、自身の口や歯について関心を持ってもらうという理由で、ここで重要な意味を持っています。患者とドクターが情報を共有し、患者も参加してドクターやアシスタントと共に学んでいくことによって患者の認識が高まります。これを共同検査(Co-Diagnosis)と言います。
①歯牙状態入力(歯の状態、歯の外観、歯の位置)…『状態』をクリック
『状態』をクリックし、「歯牙状態入力」の画面を呼び出します。入力では、まず全体の歯列状態について説明し、その後で、「それでは一本ずつの歯を見ていきましょう。まず右上から順に見ていきましょう」というふうに一本ずつ説明しながら入力していきます。アシスタントはコメントなどを紙に記録します。
初めに、欠損歯や乳歯などのチェックを行い、その後で以下の入力を行います。
『歯の位置』…「舌頬近遠舌近頬近舌遠頬遠挺出その他」
『歯の外観』…「破折過剰円錐転移圧下傾斜矮小癒合捻転その他」

『『歯の状態』…「埋伏半萌出半埋伏残根その他」
②虫歯入力…『虫歯』をクリック
『虫歯』をクリックし、「虫歯入力」の画面を呼び出します。
入力は、歯牙状態入力と同じように1本ずつ、前歯部は近心・遠心・唇側・舌側、臼歯部は近心・遠心・頬側・舌側・咬合面のカリエス該当部位にマーキングしていきます。
患者さんには、「では次にどこに虫歯があるか見ていきましょう」と説明します。
③修復物入力…『修復』をクリック
『修復』をクリックし、「修復物入力」の画面を呼び出します。
赤い×は不良修復物を意味し、修復物の入力も①②と同様の説明と手順の上で行いますが、入力事項は「修復物」と「充填物」の2つに分かれています。
・修復物の種類
M-冠 G-冠 Po-冠 レジン-冠 M-3/4冠 G-3/4冠 レジン前装冠 ラミネートベニア M-オンレー G-オンレー Po-オンレー レジン-オンレー 義歯 M-ポンティック G-ポンティック Po-ポンティック レジン-ポンティック レジン-ポンティック
・充填物の種類
Amf CRF CRF インレー cap Po-facing レジン-facing その他
充填物は、歯牙の部位も入力します(O,M,D,L,B)。
モニター上の画面の中で、上顎右側の智歯から左側智歯へ、下顎左側大臼歯から下顎右側大臼歯の順序にて、一歯ずつ共同検査を行います。
これらの検査は視診であって、より具体的な検査はレントゲン診査によって委ねられます。
この共同検査の目的は自分の口の中の様子を具体的に視覚化することにあります。
クライアントは、通常口の中の状態はあまり視覚的には意識してはおりません。
前歯はともかく、口は顔の真中にあり、毎日何回かは鏡で顔を見ているのにかかわらず、口の中の様子は眼ではあまり認識していません。その代わりに、舌で歯に触れたりして歯の存在を認識しているようです。自分の歯が何本あるのかということすら知らないようです。
そこで、改めて詳しく歯を一本一本モニターの上で拡大され、映し出されるとき、クライアントは興味深く学習されていきます。これも歯の身体像を具体的な客観的なイメージに最構成し、自分の歯の状態が正しく認識されることとなると思います。これらは、クライアントにとっても生まれて初めての体験でしょう。
(ステップ2は次号に掲載します。)

  • [写真] 今、あなたにとって一番の問題は、なんでしょうか?
    写真3 今、あなたにとって一番の問題は、なんでしょうか?

  • 写真4

  • 写真5

  • 写真6

  • 写真7

  • 写真8

  • 写真9
  • レントゲン撮影
    写真10 レントゲン撮影
  • Face Bow トランスファー
    写真11 Face Bow トランスファー
  • 中心位採得
    写真12 中心位採得
  • 模型の咬合器マウント
    写真13 模型の咬合器マウント
  • 口腔内写真は正面写真
    写真14-a 口腔内写真は正面写真
  • 口腔内写真は右側面
    14-b 口腔内写真は右側面
  • 口腔内写真は左側面
    写真14-c 口腔内写真は左側面
  • 口腔内写真は上顎
    写真14-d 口腔内写真は上顎
  • 口腔内写真は下顎
    写真14-e 口腔内写真は下顎
  • 口腔内写真による共同検査(視診)
    写真15 口腔内写真による共同検査(視診)
  • 歯の状態・外観・位置の入力
    写真16 歯の状態・外観・位置の入力
  • カリエス入力
    写真17 カリエス入力
  • 修復入力
    写真18 修復入力

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