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102号 SUMMER 目次を見る

CLINICAL REPORT

ほんとうのインフォームド・コンセントとは?

山本 敦彦

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■目 次

はじめに

『インフォームド・コンセント』この言葉を知らない歯科医は、ほとんどいないと思う。しかし、この言葉の本当の意味を体感している歯科医ははたして多くいるのであろうか?
私は、ここ数年、特に視覚による患者説明用機器を利用し、そのことを痛感している。今回はその経験から対患者説明における視覚的分野の重要性、有用性について説明する。

インフォームド・コンセント=説明と同意⇒説明と一致

従来、インフォームド・コンセントは「説明と同意」と言う訳で広く浸透してきたが、最近は同意という部分をさらに進歩させ「説明と一致」というふうに変化してきている
では、同意と一致ではどのように違うのか。同意とは、医師からの説明や意見に対して賛成、是認していることであって、けっして与えられた情報の内容を十分に理解しておらず、意見の一致を見ない場合でも成立し得るものである。一方、一致とは患者が与えられた情報を十分に理解されている時にのみ得られるものであり、この点の理解が説明する側の歯科医に必要であると考える。このことは、私自身デジタルのレントゲン装置を導入した際に、大きなディスプレイを用いてカリエスの状況を患者さんに説明した際に幾度も体験したのである。
具体的に説明すると、これまででも病状の説明には自分なりに十分に時間をかけ、当然レントゲン写真を見せ、説明し、時にはメモに図を描くなどして説明し、患者さんもその説明に対して十分納得し、同意を得ていた、と思っていた。が、デジタルのレントゲンを導入し、15インチほどのディスプレイに映し出された画像を用いて説明を始めてからというものは、小さなデンタルフイルムに映し出された画像を用いていた時に比べて、明らかに患者さんの説明を受ける間の目の集中度が違うのに気づいたのである。
従来からの小さなデンタルフイルムを見せながらの時によく経験した事柄で、こちらが一生懸命説明しているにもかかわらず、患者さんからレントゲンを指して「この白い部分が虫歯ですか?」「いやいや、白い部分は詰め物で、この黒い部分が虫歯で…」ともう一度はじめからやり直す経験があったが、それが、同じ手法で説明しているにもかかわらず、大きなディスプレイを用いて説明した場合、そのようなことは一切と言っていいほど無くなり、逆に「先生、もしかしてここの部分も虫歯じゃないですか?」と、こちらが説明する前に患者さんのほうから説明を求めるように変化したのである。
このことによって初めて気づいたのは、専門家である歯科医にとっては日ごろ見慣れたレントゲンフイルムは十分理解し得る材料ではあるが、それを見慣れていない患者さんにとっては小さくて、白黒で、理解しにくい情報源にしか他ならなかったということである。このことからも患者さんに説明し、かつ十分な理解と納得(一致)を得るためには単に視覚に訴えるだけではなく、画像を拡大して大きくわかりやすくするなどの要素が重要な役割を果たしているということがわかったのである。
そのような経験から、私たち歯科医がよく用いる方法で、実は患者さんが意外とわかりにくいと思っている説明の手段について考えてみると、手鏡によるカリエスの説明などはまさしくそのものであるとわかった。歯科医の立場としては、日ごろ小さなカリエスも見慣れているので、手鏡を通して写っているほんの点のようなカリエスも自分ではよくわかって説明しているのだが、それが、患者さんサイドになると、痛くも無い歯の、しかも手鏡を通して見える点のような黒いものは決して治療が必要な虫歯という理解はし難く「歯医者がそういうのだからそうかな?」くらいにしか理解していないはずで、それでも「はいわかりました、よろしくお願いいたします」と言っているのが現状ではないだろうか?
これでは、説明と同意は成り立っても説明と一致は成り立たっていない。
そこで、それを補う手段として、数年前より各社より口腔カメラなるもので口腔内の撮影を行い、それを用いて拡大した画像を患者さんに対する説明に用いる機器が発売されており、現に私も利用していたのだが、従来の製品は大きく、なおかつ操作が煩雑ですぐに説明の場に利用するには億劫になるものが多く、いいとわかっていても頻繁に使用するにいたっていなかったのが現状であった。
が、今回、モリタ製作所より従来の口腔カメラの欠点の多くを解消した画期的な口腔説明用カメラが発売されたので、そのカメラ「ペンスコープ」(写真1)を用いた、視覚に訴えた患者さんの理解を容易に得る方法をこのカメラの特徴と共に若干の症例を挙げて説明する。

  • [写真] ペンスコープ
    写真1 ペンスコープ

ペンスコープの特徴

まず、このペンスコープの特徴について列記する。
① 従来の製品に比べて軽量、コンパクトである(カメラヘッドのサイズはW15×D18×H13mmしかなく、ハンドピース全体でも192mmで、重量は70gと一般的なピンセット約2本分である)。本体部も従来品の約5kgに対して1kgである。
② ハンドピースヘッド内に高輝度の新開発LEDを4つ内蔵しており、影の無い撮影が可能なのに加え、従来品には不可欠であった電源部よりの光ファイバーによる導光が必要でなくなったため非常にフレキシブルである。
③ カメラヘッドには高解像度のCCDを内蔵し、かつ、特殊レンズの採用により深い焦点深度が得られ、1歯~口腔全体がピント調整なしに撮影できる。
④ カメラのハンドピース本体に撮影用のフリーズスイッチが内蔵されており、かつ、スイッチを押しつづけると静止画を0.5秒おきに自動的に記憶するので手ぶれのない画像が得やすい。
⑤ 2枚の画像を本体内でメモリーできるので、術前、術後などの説明などに使える。
⑥ 撮影された画像はチェアーサイドのパソコンによりデジタル画像と共にデータベースとして一括管理でき、治療計画や、術前、術中、術後などの比較としても用いることができ、かつ、ディゴラやデジタルパノラマのパソコン(Df W2.1)に接続した場合は、ハンドピース本体にあるフリーズスイッチを操作するだけでパソコン操作なしに画像をコンピュータに取り込める。
⑦ 従来品に比べて比較的安価である。
⑧ 専用のディスプレイを使用しないので、任意のディスプレイ(たとえば手持ちのテレビなど)を利用できる。
以上ペンスコープの従来品との比較を簡単に列挙したが 次に実際の症例に対する応用法を実際の画像を用いて説明する。
まず、始めに実際に手鏡で見せている実物大の像と15インチくらいのディスプレイを通じて拡大して見せている像の違いをお見せする(写真2)。
このように、たとえば15インチのディスプレイを用いて見せた画像の大きさはA4サイズに相当する。従来の手鏡を用いた方法では右下の大きさにしか見せることができない。

  • [写真] 術前の症例
    写真2 ①を通常のデンタルフィルムとした場合、15インチのテレビ画面では、②のように、大きさに違いがある。(術前の症例)

おわりに

以上のような症例以外にも様々な症例におけるインフォームド・コンセントにペンスコープは簡単、迅速、かつ有効に用いることができ、患者さんの十分な理解を伴った本当の意味合いでのインフォームド・コンセントに役に立っている。
私は、このような経験から、私たち歯科医は、患者さんの視点に立って説明することの大切さを再度認識し直す必要があるのではないかと思っている。

臨床例

  • [写真] 隣接面カリエス
    症例1-1:隣接面カリエス
    単に歯牙を撮影しただけでは隣接面のカリエスがうまく表現でき難い。
  • [写真] 隣接面カリエス
    症例1-2
    従来の方法では確認しにくかった隣接面カリエスの存在も、カメラの反対側からライトをあて、透過した光をCCDで受けると、カリエスの黒い部分が浮き出して表現できる。
  • [写真] 隣接面カリエス
    症例1-3
    Er:YAG Laserにてカリエス部分を蒸散した状態を記録し、どういう状態だったかを説明する。
  • [写真] 充填した後
    症例1-4
     充填した後に、先の術前の状態と比較。
  • [写真] 歯石除去
    症例2-1:歯石除去
    舌側の歯石の存在などは特に有効に見せることができる。
  • [写真] 術後の像
    症例2-2
    術後の像である。必ず術前の状態と比較した像を見せるのが重要。
  • [写真] 上顎前歯舌側面カリエス
    症例3-1:上顎前歯舌側面カリエス
    舌側、特に上顎の場合、従来の方法では患者さんに見せて説明するのは困難であった。
  • [写真] 充填後
    症例3-2
    充填後、必ず術前との比較を見せる。
  • [写真] 根管治療
    症例4-1:根管治療
    術前の状態を、通常、患者に見せ難い角度より見せて説明できる。
  • [写真] 充填物を除去した状態
    症例4-2
    充填物を除去した状態で一度カリエスの進行状態を見せる。
  • [写真] 根管形成が完了した状態
    症例4-3
    根管形成が完了した状態。
  • [写真] 仮封の状態
    症例4-4
    貼薬を完了し、仮封の状態で説明する。
  • [写真] アブセス切開
    症例5-1:アブセス切開
    術前の状態で、腫脹の程度を説明する。
  • [写真] Er:YAG Laserを用いて切開
    症例5-2
    Er:YAG Laserを用いて切開、消毒を行う。
  • [写真] 排膿
    症例5-3
    排膿している状況を静止画、できればスルーの動画の画像で患者に見せて説明する。
  • [写真] 歯根襄胞摘出術
    症例6-1:歯根襄胞摘出術
    術前の患部。
  • [写真] 嚢胞摘出直後の状態
    症例6-2
    嚢胞摘出直後の状態。
  • [写真] 縫合後の状態
    症例6-3
    縫合後の状態などを段階ごとに術後に見せて説明に用いる。
  • [写真] 左上1が外傷で陥没しており、左上2も歯牙破折
    症例7-1:外傷処置
    左上1が外傷で陥没しており、左上2も歯牙破折している。この状態をまず説明。
  • [写真] 舌側より撮影した像
    症例7-2
    同部を舌側より撮影した像であるが、陥没した歯牙はよくわかるが破折した歯牙に入ったクラックはよくわからない。
  • [写真] 唇側よりライトをある
    症例7-3
    唇側よりライトをあてて、透過した光をCCDでうけると破折線が浮かびだして確認できる。
  • [写真] T-FIXを終了した時点
    症例7-4
    T-FIXを終了した時点で状況をさかのぼって画像を用いて説明する。
  • [写真] 手術開始時
    症例8-1:歯周外科
    手術開始時。
  • [写真] 術中(口蓋側像)
    症例8-2
    術中(口蓋側像)。
  • [写真] 術中
    症例8-3
    術中、剥離した状態や不良肉芽の付着状態を記録しておく。
  • [写真] 縫合終了
    症例8-4
    縫合終了した時点で先に記録しておいた段階の画像を用いて手術全体と術後の注意点を説明する。

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