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CLINICAL REPORT

3次元画像診断装置(3DX)が切り開く新次元 -5,700症例を経験して-

新井 嘉則

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目 次

開発コンセプト

3DXは日本大学とモリタ製作所(京都)が共同開発した、日本初の歯科医療に最適化した3次元画像診断装置である。
本装置の開発は1992年にスタートした。歯科医療で日常的に使用することを目的とした小型のX線CTの開発を目指した。
必要とされる要件は①デンタルなみの高い解像力、②低被曝であること、③小型であること、④実用的な時間内に処理できることなどが要求され、開発には多くの問題点の解決が必要であった。
1997年に試作が完成し、日本大学歯学部の倫理委員会の承認を得て臨床が開始された。本技術は日本大学国際産業技術育成センター(通称NUBIC)によってモリタ製作所に技術移転され、3DX multi image micro CT (以下3DX)が開発され、2000年12月には厚生省(当時)から歯科頭頸部用小照射野X線CTとして、初の認可を受けた。
2001年1月より本学付属歯科病院にて臨床応用が開始され、5月には一般への発売がなされた。本装置は、パノラマと同等の解像力があり、被曝線量は従来法のパノラマとほぼ同等ときわめて低被曝であった。撮影時間は17秒と短く、画像再構成時間も2~3分と大変短時間であった。
症例の累積数は試作機が3,700症例、3DXが2,000症例におよび、2001年11月にはその合計は5,700症例となった。
画像は特に埋伏歯、過剰歯、根尖病巣、根分岐部病変、顎関節症およびインプラントの診断に有効であった。

  • [写真] 3DXの全景
    図1 3DXの全景
    装置は座位で撮影する頭部に限局したX線CTである。取り付け面積は180×180cmである。

装置紹介

3DXは図1に示す様に、2本の支柱で回転部分を保持している門型で中央に患者を位置付けする椅子が位置されている。椅子はXYZ方向に自由に動き撮影領域を合わせる。
撮影領域の大きさは高さ30mm直径40mmの円柱形をしている。これはちょうど、歯科で多用されているデンタルフィルムを横に置いて1回転して形成される円柱と同じ大きさである。
したがって、デンタルフィルムがそのまま3次元的に観察できると考えてもらえばよい。この大きさは、一般的な歯科で行われる外科的処置範囲を十分にカバーしている。
また、撮影領域をこの範囲に限定することで低被曝と高解像度および高速処理を可能にしている。断層面は任意の方向に設定できるが、通常は歯列を基準に平行断、横断、水平断の3方向の断面を連続的に再構成し、病変部分を観察する(図2)。
実際の撮影では、図3に示すように患者の顔面に投影された正中、側方、水平の3方向のライトビームの交点が撮影領域の中心を示しているので、撮影領域を容易に確認することができる。また、同時に液晶上の画面上にイラストにも撮影領域が示され、確認を容易にしている(図4)。
撮影条件は管電圧80kV、管電流2mAを標準としている。これは、従来のフィルム法のパノラマに比較して、管電流では約1/3程度と少ない。被曝線量は実効線量等量で7μSvと大変少なく、年間の自然放射線量の1/300に相当する。この量はきわめて微量な被曝で、パノラマやデンタルと同様に安全性が高いと考えられる。
画像表示は図689111213および14に示す様に、XYZ方向の3面図として表され、画面上の十字線が各断面を表す。この十字の交点はXYZの面の3面に表示されているが、この点は特異点で、同じ位置を表している。この十字の交点をコンピュータ上でマウスを使用して移動させることで、連続的な断面を動かして骨や歯の立体的な構造を容易に観察することができる。また、画面を回転させることで任意の方向の断面を再構築することも可能である。
このようにして3方向の画像を同時に観察することで立体的な構造を容易に把握することができる。表1に3DXの基本性能を示す。

  • [写真] 撮影領域
    図2 撮影領域
    撮影領域は高さ30mm幅40mmで通常3方向の画像を同時に観察して、3次元的な画像診断を行う。
  • [写真] ライトビーム
    図3 ライトビーム
    撮影領域は正面・水平・側方の3方向のライトビームで指示される。患者の椅子をXYZ方向で移動することで、撮影中心を診断部位に一致させる。
  • [写真] 液晶画面
    図4 液晶画面
    イラストで示される歯列と円型の撮影領域によって、診断部位を確認する。図3のライトビームと併用することで、正確な位置合わせが可能となる。
  • [表] 3DXの基本性能
    表1 3DXの基本性能

症例供覧

最近の症例のなかから代表的なものを以下に供覧する。

症例1 埋伏智歯

図5にデンタルを示す。右下8番が近心に傾斜して埋伏していた。根尖付近で下顎管が横断しているのが認められ、3次元的な位置を確認するために3DXの撮影が行われた。
図6に3DXの画像を示す。歯列に対して横断像と水平断像で埋伏歯の舌側に下顎管走行しているのが観察できた。下顎管の断面は通常、類円型であるが、根尖付近では圧排され扁平化しているのが確認された。歯列に対して平行断では、歯根に合わせると根尖から歯冠部までその断面が明瞭に観察できた。また、下顎管に断面を合わせるとその走行が明瞭に観察でき、根と下顎管が極めて近接しているのが理解できた。
本症例では根と下顎管との間に白線などが存在せず、抜歯時に管が露出する危険があること考えられた。

  • [写真] 症例1 埋伏智歯(デンタル)
    図5 症例1 埋伏智歯(デンタル)
    下顎管と根尖の重複を認める。
  • [写真] 症例1 埋伏智歯(3DX)[写真] 症例1 埋伏智歯(3DX)
    図6 症例1 埋伏智歯(3DX)
    下顎管が舌側にあり、圧排され扁平化している(矢尻:下顎管)。
    上左、上中央;水平断
    下左;歯列平行(歯根相当部)
    下中央;歯列平行(下顎管相当部)
    下右;歯列横断(根尖相当部)
症例2 根尖病巣(上顎小臼歯)

図7にデンタルを示す。左上第二小臼歯の根尖側方にX線透過像を認める。上顎洞底を示す白線は連続していて、画像からは歯性上顎洞炎は特に疑えなかった。
精査のため3DXの撮影を行った。図8に3DXの画像を示す。上顎洞底部の粘膜肥厚が明瞭に認められ、根尖部の骨の一部が破壊され消失しているのが観察された。

  • [写真] 症例2 根尖病巣(デンタル)
    図7 症例2 根尖病巣(デンタル)
    上顎左上2番の根側に透過像を認める。洞底部の白線の消失は認めない。
  • [写真] 症例2 根尖病巣(3DX)
    図8 症例2 根尖病巣(3DX)
    3DXでは上顎洞底部の粘膜肥厚と洞底部の骨の一部欠損を認める。
    上右;水平断
    下左;歯列横断(第2小臼歯根尖相当)上顎洞底部の粘膜肥厚を認める。
    下右;歯列平行 上顎洞底部の骨の一部消失を認める。
症例3 顎関節変形症

顎関節の変形は従来、1方向のみの撮影で診断されることが多かった。3DXを使用することで3方向から詳細な観察が可能となった。
図9に示す症例では、側方からの横断像ではわずかな変形しか認められないが、前額断方向の像では下顎頭の外側斜面に陥凹するような変形があることが認められた。

  • [写真] 症例3 顎関節(変形)
    図9 症例3 顎関節(変形)
    3DXでは3方向の画像を1度に観察するので、骨の変形や位置異常を精密に評価することが可能である。側方からの観察では変形を認めるのは困難であったが、前額断方向では外側に変形を認めた(矢尻)。
    上右:水平断
    下左;前額断 外側の陥凹を認める
    下右;矢状断
症例4 正中過剰歯

正中過剰の3次元的な位置関係を従来法で詳細に観察することは難しかった。
図10にデンタルを示す。2本の過剰歯が認められたが、切歯管や鼻腔底との関係は判然としなかった。
図1112に3DXの画像を示す。図11は左側の過剰歯を示し、歯冠部を鼻腔側に向け、歯冠部で内部吸収があり、癒着していると考えられた。また過剰歯の咬頭が鼻腔底に接していて、唇側に位置していた。
図12は、図11と同じデータから、右の過剰歯の断面を表示したものである。過剰歯は切歯管と右上1番の中間付近にあり、口蓋側に埋伏していることが観察できた。

  • [写真] 症例4 正中過剰歯(デンタル)
    図10 症例4 正中過剰歯(デンタル)
    2本の過剰の埋伏を認める。
  • [写真] 症例4 正中過剰歯(3DX-1)
    図11 症例4 正中過剰歯(3DX-1)
    2本の過剰歯のうち、左上の過剰歯の3DX画像を示す。歯冠部に内部吸収を認め、癒着も疑われる。
    上右;水平断
    下左;歯列横断
    下右;歯列平行
  • [写真] 症例4 正中過剰歯(3DX-2)
    図12 症例4 正中過剰歯(3DX-2)
    右上の過剰歯の3DX画像を示す。切歯管と右上切歯の間に過剰歯を認める。
    上右;水平断
    下左;歯列横断
    下右;歯列平行
症例5 上顎インプラント(術前)

インプラントを成功させるためには骨の3次元的状態を正確に把握する必要がある。図13に上顎大臼歯部欠損でインプラントのための術前審査のために3DXを撮影した一例を示す。3DXではXYZの3方向を同時に観察することができるので、インプラント埋入予定部位の骨の幅、深さ、方向をなどの情報を容易に理解することが可能であった。
また、計測ルーツを使用することで、距離も容易に測定することが可能であった。症例では5番相当部で骨の深さは7mm、幅15mmと診断された。

  • [写真] 図13 症例5 上顎インプラント(術前)
    図13 症例5 上顎インプラント(術前)
    上顎洞までの距離、骨幅等の測定が容易にできる。第1大臼歯相当部で歯列横断方向の測定で7.00mm、歯列平行方向での画像で計測では6.75mmであった。
    上右;水平断
    下左;歯列横断
    下右;歯列平行
症例6 下顎インプラント(術後)

インプラント処置の術前検査として、医科用のCTが使用されている。しかし、被曝の問題などから、術直後や経過観察で従来のCTを使用することは難しく、3次元的な画像によって、インプラントを評価しメンテナンスしていくことは難しかった。3DXはパノラマと同様に低被曝であるので、術後管理に使用しても被曝による問題を最小限に抑えることが可能となった。したがって、インプラントの術直後に撮影して、予定の位置の埋入ができたかを3次元的に確認することが可能となった。
図14は下顎左下小臼歯部のインプラントの画像である。3DXは任意の断層面を再構成することが可能なので、インプラント体に対して垂直方向の画像を再構成することも容易にでき、骨の吸収度などを正確に評価することも可能である。

  • [写真] 症例6 下顎インプラント(術後)
    図14 症例6 下顎インプラント(術後)
    低被曝であるので従来と同様に評価に使用することが可能である。インプラント体の骨埋入距離は8.13mmであった。
    上右;水平断
    下左;歯列横断
    下右;歯列平行

まとめ

以上、3DXは3次元的画像診断を可能にすることで歯科医療に革命的な進歩をもたらすと考えられる。
その証拠にすでに、5月の発売以来、短い間に11台が稼動または稼動が予定されている。
本学では1年間に約2,200症例あり、欠かせない診断装置となっている。患者に対しても、3次元的画像を使用し病態に対する科学的根拠にもとづいた説明が十分に行えるために、患者から十分に理解を得た上での治療が行われ、不要なトラブルを回避することが可能なケースも多く高い評価を得ている。
外部からの撮影依頼の受け付けも積極的に行っているので、従来法では十分な画像診断ができない例に対して適応し正確な診断のもとでよりよい治療を行っていただければと考える。

撮影依頼について

3DXの撮影依頼を希望する先生は日本大学歯学部付属歯科病院歯科放射線科(03-3219-8084)までご予約ください。費用は自費で6,500円以上です。保険適応はありません。撮影後、10日ほどで画像を郵送いたします。
また、全例に対して3DXの原データ(約100MB)をCD-Rに記録し配布しておりますので、カルテ同様に大切に保管してください。こちらのデータは専用ソフトを使用することで、あらゆる断面の画像を表示することが可能となります。

参考文献
  • 1) 新井嘉則:歯科医療に最適化された小照射野X線C T ( O r t h o - C T )、日本歯科医師会雑誌、2000,53,15-24.
  • 2) 篠田宏司、新井嘉則、伊藤公一、吉沼直人、小森規雄、小木曽文内、本田和也、江島堅一郎、秋山 裕:新世紀の歯科診断と歯科治療「画像診断」、日本歯科医学会誌、2001;20:6-17.
  • 3) 新井嘉則、橋本光二、江島堅一郎、本田和也、岩井一男、篠田宏司:歯科用小型X線CT(Ortho-CT)の臨床例1000例の統計的分析、日本歯科医学会誌、2000;19:54-63.
  • 4) 新井嘉則:小型X線CTによる3次元歯科X線画像診断、CD-ROM、医歯薬出版、2001.

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