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104号 WINTER 目次を見る

CLINICAL REPORT

イビキと睡眠時無呼吸症候群の歯科的治療Ⅱ

中川 健三

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目 次

D. イビキとOSASの治療法

医科でイビキやOSASの治療法で一般的に行われているものとしては、内科的治療法と耳鼻科で行われている外科的治療法があります。その中でも広く行われている治療法は、経鼻的持続陽圧呼吸(CPAP)と外科療法のUPPPまたはLAUPです。それに加えて歯科的療法のスリープスプリントは、最近では医科でも注目され、治療の第一選択肢として定着しつつあります。

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a. 内科的治療

①体重減量
肥満者には食事療法と運動療法によって減量をはかるのですが、長期間にわたって生活習慣を変えさせるのは非常に困難です。OSASだからといっても本人にとって差し迫った苦痛がない場合には、自覚が希薄なためなかなか目標の体重減量が達成できないことが多いようです。
減量が非常にうまくいけば他の治療法が不必要になるケースもあります。しかし、肥満がない場合には体重減量しても改善できません。
②原疾患の治療と悪習慣の誘因除去
原疾患があればその治療と、悪習慣があればその誘因を除去するようにします。
・甲状腺機能低下症⇒甲状腺製剤
・アルコール常飲者⇒禁酒
・睡眠薬・鎮静薬や精神安定剤常用者⇒投薬中止または変更
・睡眠体位の改善:仰臥位⇒側(横)臥位
・口呼吸⇒口をテーピングして鼻呼吸
③薬物療法
中枢型無呼吸や軽度のOSASにはある程度の効果は認められますが、治療の対象となる多くのOSAS患者には効果が少なく、あくまで他の治療法が施行不能の場合や併用療法として補助的役割にとどまっています。
・アセトゾラミド(ダイアモックス)
炭酸脱水素酵素阻害薬でSASの保険適応が認められている唯一の薬剤です。アセトゾラミドは腎尿細管での重炭酸イオン再吸収を抑制し、代謝性アシドーシスを引き起こすことによって増加した水素イオンが呼吸中枢を刺激し、換気量の増大と低酸素・高炭酸ガス換気応答の改善をもたらします。アセトゾラミド1日250~500mgを投与することにより、睡眠中の酸素飽和度、覚醒時の動脈血液ガスの改善がみられますが、その効果は小さく、長期使用によって呼吸刺激効果の耐性が報告されていますので、適応は軽症から中等症のSASの一部に限られます。
④経鼻的持続陽圧呼吸装置(図12)
・CPAPまたはnCPAP(nasal continuous positive airway pressure)
1981年にSullivanらはOSASの治療にCPAPを導入し、有効性が高く、これまで医科ではOSAS治療の第一選択となっています。
<原理>
経鼻的に一定圧の空気を送り上気道を常に陽圧を保つことで、上気道閉塞を防止します。患者は鼻マスクを鼻にしっかりと装着してバンドで頭部に固定し、コンプレッサーから供給される空気を吸入しながら就寝します。
適切な圧で施行されればほぼ完全に無呼吸を防止することが可能だといわれています。一般に重症例ほど高い圧が必要になりますが、圧が高くなればなるほど大量の空気を吸入することになるため、患者の不快感はより強くなります。
<臨床的有用性と適応>
CPAP装着時のPSGでの測定では、すべての睡眠段階の無呼吸を消失させ、深睡眠の割合が増えることが確認されています。そのため治療が完全に行われると、自覚症状の改善は劇的で患者は治療翌朝より熟睡感を自覚し、日中の傾眠もほぼ完全に消失することが多いといわれています。
本法は、鼻閉のないOSAS患者に適応となるといわれていますが、持続的に陽圧がかかることに不快感を伴うことがあります。
欧米では70~80%のコンプライアンスがあるのに対し、わが国では50~80%の成績が報告されています。
OSASの重症例にはCPAPが絶対的適応と考えられています。1998年4月より保険適用となり、AIが20以上のSAS患者にとっては大きな福音となりましたが、毎月検査のため受診義務があります。しかし、OSASが軽症の場合やUARS、HSでは保険適応外となるため購入費用が25万円前後かかります。
<問題点>
CPAPも対症療法であり、使用を中止すれば治療前の状態に戻ってしまいます。また、毎晩装着して就寝しなくてはならない煩わしさや、大量の空気を鼻から吸入することによって生ずる不快感も継続の可否を決める大きな要因となっています。
装置自体も小型になってきましたが、出張や旅行時の持ち運びにはちょっと大きく、重過ぎます。
また、仰臥位で使用するため寝返りが制限される難点や、合併症として鼻腔や口腔の乾燥感、窒息感、鼻炎、結膜炎になるといった副作用があげられています。時として、夜間に強制圧が食道を通して消化器にまわり、朝起きると腹部膨満感に苛まれたり、中には急性腸炎を引き起こした症例もあり、全く安全な治療法とはいえません。

b. 外科的治療

イビキやOSASに対する手術的治療として、耳鼻咽喉科で行われている方法はUPPP(uvulopalatopharyngoplasty)とLAUP(laser assisted uvulopalatoplasty)です。
いずれの治療法も上咽頭のスペースを広げると同時に、口蓋垂および軟口蓋下縁が睡眠中に舌根部、中咽頭側壁、後縁に接したり、はさみ込まれたりして気道が閉塞することを防ぐことを目的としています。
UPPPは、弛緩した口蓋垂を含めた軟口蓋下縁を切除し、口腔側粘膜と鼻腔側粘膜を縫い合わせることにより、軟口蓋の緊張がもたらされ、上咽頭腔を広げる手術です。LAUPは、口蓋垂の両側にレーザーで切り込みを入れ、同時に口蓋垂の下半分をレーザーで蒸散するという手術です(図13)。
これらの手術の有効率は報告者によってかなり異なりますが、イビキに対しては80%前後、睡眠時無呼吸に対しては60%前後とする報告がみられます。
これらの手術の問題点としては、私のように手術しても全く良くならず、かえって重症になる症例もあり、また術後数カ月経過すると、症状が元に戻ってしまう例が少なくないことがあげられます。また、飲食物を誤嚥しやすくなり、さらには高齢者になると誤嚥性肺炎を起こしやすくなるといった弊害もあります。また、これらの手術は一般に保険適応外になりますので、費用として25~50万円ほど覚悟しなくてはなりません。
保存療法の歯科的療法、CPAP、UPPP、LAUPといった療法をしてもOSASが改善されない場合には、最後の手段として気管切開手術をします。この手術を行えば確かにイビキやOSASは確実に良くなりますが、発声に支障をきたしますし、気管からの感染の恐れもありますので、最後の選択肢となります。

c. 歯科的治療

総称して口腔内装具(オーラルアプライアンス)といっていますが、大きく分け、次の2種類があります。
①舌保持装具:TRD(tongue retaining device)
前歯唇側にある膨らみ(anterior bulb)の中に陰圧を利用して舌を引き出して、睡眠中保持するオーラルアプライアンスです。臨床的には、主として末端肥大症の患者に適応されますが、ケースは限定されます。
②下顎前突型歯科的装具:スリープスプリント(sleep splint : SS)
下顎位の前方移動によって、舌根沈下の予防と上気道の中下咽頭腔の拡大をはかる保存的な治療法で、研究者によって呼称が異なり、prothetic mandibular advancement ( PMA)、mandibular prothesis 、dental device、dental appliance などの名称があります。いずれも原理は同じですが、材質、設計、製作方法などに微妙な違いがあり、患者の装着感、効果、耐久性などに影響します(図14、15)。
私どものグループでは、1987年からスリープスプリント(SS)と名づけ、HSまたはOSAS患者、1,000名以上に対してSS治療を行ってきました。


  • 図12

  • 図13

  • 図14

  • 図15

E. スリープスプリント(SS)による治療成績

1. 東京医科歯科大学医学部付属病院第二内科の治療報告(※c、※d参照)

1988年9月~1994年11月までの6年3カ月の間に睡眠呼吸障害を主訴に入院し、Polysomnography(PSG)またはRespinosomnograph(Nims)によりOSASと診断された患者でSS治療をした69例(男性59、女性10)を対象としました。
SS治療の適応については、SASの診療に習熟した耳鼻科医が一般耳鼻科的診察および鼻咽頭ファイバーを施行し、鼻咽頭領域の異常の有無をチェックし、適応を決定しました。
患者にはあらかじめOSASの治療法について十分説明し、SS治療を行うことについてのインフォームドコンセントをとった上で、中川歯科医院でスリープスプリントを製作、装着しました。
Body mass index (BMI)は平均27.0kg/m2であり、BMIが30kg/m2以上の高度肥満は15例(27.1%)でした。
Sleep studyはスリープスプリントによる治療前後で行い、apnea index(AI)、全睡眠中のSao2最低値(Lowest Sao2)を算出しました。
自他覚症状については問診およびアンケートにより、表1に示すSymptom scoreを求め比較検討しました。コンプライアンスについては、外来通院時あるいはアンケート法により調査しました。
統計学的に、測定値はすべてmean±S D で表示し、平均値の差の検定はpaired t 検定を用い、P<0.05を有意差の限界としました。
[治療成績]
図16に、スリープスプリント装着前後のAI、Lowest Sao2 、Symptom scoreの変化を示します。
AIは治療前30.2±18.5回/時から治療後は9.3±8.7回/時に、Lowest Sao2は7 4 . 5 ± 1 2 . 7 % から8 7 . 0 ± 8 . 3 % に、Symptom score は5.4±1.6から1.8±1.0へといずれも有意な減少がみられました。自他覚症状の中でも特に高いscoreを示したのは、イビキが平均2.3から0.8に、日中傾眠が1.9から0.6に劇的な改善が認められました。
AIの改善率でも80%以上の著効群が27例(40.6%)、50%以上の有効群が57例(84.1%)で、悪化したのは2例のみでした(図17)。
次に、OSAS重症度分類別(表2)にAI改善率でみた有効性を比較しました。その結果、Stage0が7例、Stage1が22例、Stage2が23例、Stage3が17例でした。
各群についてAIの改善率が80%以上を著効、50%以上を有効と判定し、有効率を示したのが図18です。有効率は各群とも80%を超えており、重症度による差は認められませんでした。
なお、治療開始前と治療効果判定時のBMIには有意差は認められず、純粋にスリープスプリントによる効果と考えられました。
[コンプライアンス]
治療開始からの観察期間は1~74カ月で、平均27カ月であり、治療継続群は59例、治療中断群は10例で、全体のコンプライアンスは85.5%でした。
コンプライアンスは治療開始からの期間によっても差がありますから、治療開始期間別にコンプライアンスを比較したのが図19です。
当然のことながら、期間が短い方が良好ですが、治療開始後1年以上経過している患者51例中42例(82.4%)、5年以上経過している患者でも13例中8例(61.5%)が治療を継続しており、長期コンプライアンスも良好でした。
治療中断群の中止理由は、合併症(装着時呼吸困難、顎関節痛)2例、歯科治療後不適合2例、紛失2例、減量に伴う臨床症状の改善2例、自覚症状の改善なし1例、装着の煩わしさ1例でした。

2. 中川歯科医院の治療報告①(※f参照)

1987年6月~1998年8月末日までの11年3カ月の間に当院に来院したHSまたはOSASの患者504例(男性439、女性65)について、SS装着前と装着後にsleep studyを行い比較検討しました。
なお、統計学的には測定値はすべてmean±SDで表示し、平均値の差の検定はpaired t 検定を用い、P<0.05を有意差の限界としました。

(1)患者背景

a. OSAS患者とHS患者の年齢
OSAS HS total
例数: 434 70 504
年齢: 50.7±10.9 49.8±12.5 50.6±11.2
b. 短期治療成績

SSを7~14日使用した時点で評価してもらい、その装着状況と結果について、患者および同居家族からアンケート方式で188例から回答を得て集計しました。

良好 177例(94.1%)
多少問題あり 9例(4.8%)
不良 2例(1.1%)

[多少問題あり]の内訳は、違和感あり目が覚める、朝食時かみにくい、よだれが出て枕が濡れ気持ちが悪い、朝あごが痛いなど。
[不良]の内訳は、違和感あり寝られない、1例は上顎が義歯で外れてしまう。

c. 残存歯と予後の関連

残存歯は20本以上が483例(95.7%)、19本以下が21例(4.3%)でした。
その後のリコール調査での治療成績からみて、残存歯が20本以上ある場合の継続使用率が91.0%であるのに対し、19本以下での使用率は57.1%でした。したがって、SS治療をしていく上で残存歯が20本以上ある症例が望ましいことがわかりました。

d. SS装着後の改善

(1)Apnea indexの変化(※f:P.119~120参照)
OSASの患者として紹介され、sleep studyでSS装着前後のapnomonitorまたは簡易ポリグラフの資料がある症例125(男性109、女性16)について検索しました。
AIが5≦AI<20は34、20≦AI<40は59、40≦AIは32例でした。125例中122例に改善がみられました。
(2)Lowest Sao2の変化(※f:P.121~124参照)
OSASの患者として紹介され、sleep studyでSS装着前後の簡易ポリグラフの資料とパルスオキシメーターがある症例115(男性100、女性15)について、重症度別にLowest Sao2の検索をしました。その結果、SS装着前では73.9±12.5でしたが、装着後は84.0±11.0に改善されました。
一方、Sao2≦60が17、60<Sao2≦70が25、70<Sao2≦90が73例ありましたが、いずれの群でもほとんど改善されていました。115例中104例は改善されていましたが、1例は変化なく、10例は悪化していました。したがって、SS装着後のsleep studyも欠かせません。

2. 中川歯科医院の治療報告②(※j参照)

中川歯科医院で2000年5月31日までにスリープスプリントを装着した全患者659名に「往復はがき」を2000年6月末に発送し、7月31日までに得られた回答を以下にまとめました。

a. 回答者内訳
265名 (男性229、女性36)
回答率:45.6%
内訳 OSAS:183
UARSまたはHS:82
b. SSの経過年数
5年未満 126(男性105、女性21)
5~10年未満 133(男性120、女性13)
10年以上 6(男性4、女性2)
c. SSの使用状況
継続使用者: 206名(77.7%)
毎晩使用: 140
週3~4回: 21
週1~2回: 17
外泊時のみ: 28
d. SS使用の中断

使用中断者:59名(22.3%)
中断までの期間は使用開始直後から7年
2年以上使用していたが半数以上
SS使用開始後すぐに中止した症例は少数でした。なお、その後CPAP療法に移行したのが5名、UPPP療法を受けたのが1名ありました。使用を中断した主な理由としては、「自然治癒」、「歯や顎に違和感がある」、「後の歯科治療による不適合」、「息苦しい」が多くあげられていました。また、「唾液が出てきて苦しい」、「紛失」、「歯の喪失」、「眠れない」などもみられました。なお、「自然治癒」と回答した12名のうち、9名が体重減量、1名が禁酒、1名は退職後にストレスがなくなったことを理由としていました。

  • [表] Symptom scores
    表1 Symptom scores
  • [図] Sleep Splint装着前後の各指標の変化
    図16 Sleep Splint装着前後の各指標の変化
  • [図] Apnea indexの改善率
    図17 Apnea indexの改善率
  • [表] OSASの重症度分類
    表2 OSASの重症度分類
  • [図] 重症度別有効率
    図18 重症度別有効率
  • [図] 図19 期間別コンプライアンス
    図19 期間別コンプライアンス

F. イビキやOSASに対するスリープスプリント(SS)の効果

a. スリープスプリント(SS)の原理

一般に、舌根沈下による気道閉塞時には、下顎を前方に引き出すことによって、気道の閉塞が解除されます。下顎を前突位に固定するスリープスプリントを夜間睡眠中に装着することで気道を確保し、無呼吸を改善しようとするものです。したがって、この方法は、OSASの閉塞機転として舌根沈下が関与していることが前提条件となります。
今回の成績でスリープスプリントの奏功率が高かったことをみても、気道閉塞機転に舌根沈下の関与する割合が予想以上に高いことを示唆しています。
スリープスプリントの基本的メカニズムは、下顎前突による舌根沈下の改善と中~下咽頭腔の拡大です。
今回の検討で興味深いことは、アレルギー性鼻炎や鼻中隔彎曲症をもつ患者の中に、スリープスプリントの装着により鼻閉塞が消失した例がみられたことです。このことは、顎位の変化に伴う咽喉頭諸筋の緊張亢進や副交感神経刺激による鼻呼吸の改善が影響している可能性を示唆するものと考えられます。

b. スリープスプリント(SS)の装着効果

これまでに多数のスリープスプリントの装着者から、その影響をみてきましたが、主なものを列挙しますと、以下のような効果がみられました。
①舌の挙上
②上気道の拡張
③口呼吸の防止
④睡眠中鼻閉防止効果
⑤睡眠中鼻呼吸の回復
⑥イビキの解消
⑦夜間頻尿の減少
⑧起床時頭痛の解消
⑨熟睡感の回復
⑩日中傾眠の解消
⑪唾液の分泌促進
⑫口渇感の解消
⑬睡眠中開口の防止
⑭夜間中途覚醒の減少
⑮夜間体動の改善
⑯精力の回復
⑰集中力、意欲の回復
⑱高血圧症の改善
⑲AIの改善
⑳Sao2の改善

G. スリープスプリントによる治療(SS治療)を始めるにあたって

HS、UARSの患者さんはともかく、OSASの診断および治療は医科の守備範囲の疾病ですので、耳鼻咽喉科、呼吸器内科、精神神経科などの医師と協力連携して集学的な医療を進める必要があります。
スリープスプリントの製作にあたっては、自己流で失敗しているケースが多いので、前もって私のセミナーを受講して下さい。
軽症のHSの患者さんでは、イビキをかくのは単なる呼吸騒音でウルサイという感じしかもっておらず、旅行に出かける時だけSSを持って行きたいので作ってほしいというものから、深酒した時や疲れた時だけ大イビキをかくのでSSを入れたいとか、これから入院するので他の入院者に迷惑をかけてはいけないのでSSを作ってもらいたいという方もおります。
一方、かなり重症のOSASの患者さんで、普段はnCPAPを使用しているが、外泊する時にはnCPAPは携帯に不便なのでSSを入れたいといった患者さんもおり、患者さんの要望を前もってよく聞いておく必要があります。
以前は、初診時に各種検査とSS作製用の印象をとり、2回目にSSを完成していましたが、違和感やイビキの改善が十分でないといった場合があるので、最近は仮止めの状態で1~2回(2~3週間)様子をみて、SSに慣れてイビキの改善を確認してから完成させるようにしていますので、トラブルはほとんどなくなりました(※j参照)

それではSS治療を始める前に、どのような情報を患者さんから得ておけばよいか、各項目について説明します。
<術前検査項目>

a. 紹介状・PSGデータから

患者さんが他院から紹介状とPSGデータを持参した場合には、データからOSASの重症度を事前に把握してから対応します。
紹介医と連絡を密にし、治療経過を連絡すると同時に、医科でなければできない血液検査をはじめ種々の検査結果からのアドバイスなどをいただくように心がけてください。
なお、SS治療が完了したら、必ず前医に治療経過と結果の報告書を送付してください。できましたら、SS装着時のPSGデータもとっていただいて、術前のデータと比較してみて改善の度合いを検討してみてください。

b. 診療申込書からのインフォメーション

①年齢/30代~50代が多い。70歳以上の高齢になると肥満もなくなりOSASも少なくなります
②身長・現体重・(BMI)・首回り(別に20歳頃の体重・首回りとの比較)/8割以上がBMI 125以上の肥満者、特に、中年から急に肥満になった人が多い
③性別/男性に多い(80~90%)。女性はイビキをかくことに羞恥心をもっている人が多いので対応は慎重に
④職種/中堅管理職者で暴飲暴食と運動不足が原因で肥満になった人が多い
⑤動機/男性では配偶者からの勧めで来院する人が多い。女性ではグループ旅行で他人に迷惑をかけたくないという理由が多い
⑥鼻閉・鼻疾患の有無/片側でも重症であれば、鼻疾患の治療が先決です
⑦就寝時間と起床時間/就寝時間が遅い人が多い
⑧平均睡眠時間/6~9時間、不眠症、過眠症を訴える人もいます
⑨寝つきの善し悪し/寝つきが良い人が圧倒的に多いが、悪い人はSS治療不適
⑩就寝姿勢/仰臥位で寝ている人が多いが側臥位にさせます
⑪夜間頻尿の有無/ないのが正常ですが、1~2回起きる人がかなりいます。中には1~2時間おきに起きる人もいます
⑫熟睡感の有無/OSAS患者では起床時に熟睡感のない人が多い
⑬口呼吸の有無/口呼吸をする人は、朝起きた時に口渇感があります。寝る前に必ずテーピングさせるように指導しています
⑭口渇感の有無/あれば就寝時に口呼吸している証拠。鼻呼吸を心がける。寝る前に必ずテーピングさせてください
⑮イビキ歴/肥満になるにつれ、イビキをかきだした人が多い。本人はあまり自覚せず不明なことが多い
⑯呼吸停止の自覚・症状/本人が自覚していることは少ない。同室の配偶者が心配して同伴して来院することが多い
⑰同室家族の有無/イビキかきの夫婦は別室就寝になっていることが多いのですが、SSを装着後、イビキや無呼吸がどの程度改善されたか判らないので、必ず同室就寝してもらってください
⑱日中傾眠症状の有無/個人差はかなりありますが、SASの重症度とほぼ比例し傾眠症状が強くなります。重症の人は社会生活上、問題があります
⑲飲酒癖の有無と頻度/飲酒癖のある人は、深酒した晩にイビキや無呼吸がひどくなる場合が多いので、控えめにするように指導してください
⑳義歯の有無/欠損歯の多い義歯を装着している場合は、SSの固定源が不安定であると同時に残存歯に負担がかかり、SS治療は不適です。

c. 問診項目

(イビキ問診表※f:P.101~102、資料1参照)
①治療歴の有無/UPPP、CPAP:時期、施術医療機関名、施術医師名、予後良否、その理由などを記録しておきます
②常用薬の有無/精神安定剤、睡眠導入薬、頭痛薬、降圧剤などの薬品名、1回服用量、頻度、副作用の有無
③高血圧・心疾患・不整脈などの有無と加療医療機関名、所在地、電話番号
④遺伝的要素の有無/両親、兄弟、姉妹のイビキかきの有無
⑤閉経時期/閉経後は女性ホルモンの分泌が低下し、イビキをかき易くなる
⑥車の運転頻度と居眠り運転の有無
⑦車の運転事故歴/居眠り運転事故歴、事故未遂、時期
⑧顎関節症既往の有無/過去に既往歴があれば、SS治療は慎重に
⑨歯列矯正既往の有無/下顎前突患者、矯正患者は治療困難
⑩精神異常の有無/各種問診しながら性格的、精神的に異常がないか確認します。問題がある場合は不適

d. 検査項目

(OSAS、HS患者検査表※f:P.103、資料2参照)
①パノラマレントゲン撮影/残存歯の骨植を考えてSSの設計をします。上顎前歯部補綴、歯周疾患の状態、残存歯の状態、補綴物の状態の確認。不良インプラントがあればSS治療は断念します
②セファロ撮影/小下顎症にはOSASが多い
③歯牙模型/歯列不正の有無、咬合、欠損の状態などを検査します
④舌・口蓋垂・扁桃の形態と大きさ/よく観察し、異常がないか検査します
⑤中川式呼吸テスト/水平位に寝かせ、下顎を前方に移動させることで、中下咽頭腔(上気道)の拡張を患者さんに確認させます
⑥下顎関節異常の有無/開口および下顎を前方運動させ、異常がないか確認します
⑦最大下顎前方移動量/個体差がありますが、80%以上は約10mm前方移動できます。8mm以下は不適です
⑧顔貌・口腔内写真の撮影/首の太さ・長さ、下顎の大きさ・上顎との比較、口唇、舌、軟口蓋、咽頭、口蓋垂、歯牙、歯列、歯肉などの異常の有無

e. スリープスプリント治療適否の判断基準

SS治療は症例を選べば、大きなリスクもなく、違和感も少なく、携帯にも便利で、イビキに悩んでいる睡眠呼吸障害の患者さんに、まず初めに試していただきたい治療法です。
しかし、誰にでも良いかといえば、SSは歯を固定源にするのですから、自ずと制約を受けるのは仕方ありません。その他にも以下のような適応基準がありますので、決して無理な症例にはスリープスプリント治療だけに固執せず、他医を紹介し、CPAPなど他の方法を選んでください。
①年齢:18歳未満の若年者には、SSは不適応なので、CPAP治療を勧めます
②性別:女性の中には神経質で、装着感を気にして眠れない人がいるので要注意
③BMI:一般にSASの重症度とほぼ比例して肥満度が高いのですが、値が低い人には神経質な人が多いので慎重に対応してください
④UPPP、CPAP治療歴のある人:重症者が多く、呼吸器内科の医師と連携して集学的治療に努め、SS装着後のPSG検査をして比較検討してください
⑤睡眠薬・精神安定剤服用者:徐々に止めさせる説得をしながらSS治療します
⑥飲酒癖:節酒につとめさせながらSS治療します。なるべくテーピングさせます
⑦歯科矯正治療既往歴のある人:下顎前突の矯正者は気をつけないと治療前に戻る可能性があり、矯正歯科医と協力連携してSS治療をしてください
⑧精神障害が疑われる人:精神障害治療が先決です。精神科医に紹介し、改善されてからSS治療を開始してください
⑨性格:神経質な人はSS治療は不適です
⑩寝つき:一般に寝つきの良い人が多く、SS治療で問題ありませんが、寝つきの悪い人は不適です
⑪就寝姿勢:舌根沈下を防ぐよう、必ず側臥位で就寝させてください
⑫口呼吸:夜間SS装着時にはテーピングをして、鼻呼吸にさせます
⑬鼻疾患の有無/鼻閉は鼻疾患の処置が先決です。耳鼻咽喉科医に紹介し、改善されてからSS治療を開始します
⑭口蓋垂・扁桃肥大:極端に大きければ、耳鼻咽喉科で外科的切除を依頼します
⑮中川式呼吸テスト:SS治療の患者説得には欠かせないモチベーションですから、必ず事前に行ってください
⑯顎関節異常の有無:異常の程度にもよりますが、重症であればSS治療は不適です
⑰残存歯:健全歯が20本以上あること
⑱歯周疾患の有無:全顎的にP3~4の場合は20本以上あっても不適です
⑲不良インプラントの有無:不良インプラントがある場合はSS治療は絶対不可です
⑳下顎の前方可動距離:8mm以下ではSS治療不適ですが、訓練すると前方可動距離が伸びることもあります

H. SS治療の展望

イビキを伴う睡眠時呼吸障害の患者さんは潜在的に存在し、毎晩どうしたらよいか悩んでいる人がたくさんいるのです。
大病院へ行っても、どの科でも相手にされず、運良く呼吸器内科で精密検査を受けても、重症の睡眠時無呼吸症候群でなければ、「心配ないでしょう」とあしらわれ、行き先がなく困っている人が大勢いるのです。
今後も食生活がますます豊かになり、アルコールの消費が増すにつれ、このような睡眠時呼吸障害の患者さんは増加の一途をたどることは間違いありません。
これまで述べてきたように適応症例を選んでいただければ、スリープスプリントによる歯科的治療によって、上気道の狭窄あるいは閉塞を間違いなく改善し、睡眠時呼吸障害には絶大な治療効果があることがお解りいただけたことと思います。
幸い、1998年の4月より、東京医科歯科大学の医歯学総合研究科包括診療歯科学講座(黒崎紀正教授)でOSASに対するスリープスプリントの治療と研究を始めていただけるようになり、現に、スリープスプリント治療で博士論文も提出されています(※i)
今後は、大学でなければできないアカデミックな臨床および基礎的研究を進めていただける道筋ができ、飛躍的な発展を心から期待しています。
どうか、これをお読みになって興味を抱かれた先生方は是非「スリープスプリントの製作実習セミナー」にご参加いただいて、違和感のない、患者さんに喜ばれるスリープスプリントの作り方を早く修得してください。
そして、「イビキを伴う睡眠時呼吸障害」というこれまで踏み込めなかった、全く新しいジャンルの歯科的治療に積極的にチャレンジしていただけたら幸甚です。

参考文献
  • ※a:中川健三:イビキの治療- 睡眠時無呼吸症候群に対するスリープ・スプリントの効果- . 歯界展望、Vol.73 No.7:1535-1550,1989-6.
  • ※b:長谷川誠:A dental device for the treatment of obstructive sleep apnea; A preliminary study. Otolaryngology Head and Neck Surg, 104:555, 1991.
  • ※c:市岡正彦:歯科的口腔内装具による治療、睡眠時無呼吸症候群(克誠堂出版)、88-98,1996-1.
  • ※d:市岡正彦:閉塞型睡眠時無呼吸症候群に対する歯科的口腔内装具の治療成績とコンプライアンス. 日本胸部疾患学会雑誌(第33巻、第11号、平成7年11月).
  • ※e:長谷川誠:日本耳鼻咽喉科学会第12回専門医講習会テキスト. 平成10年11月14~15日、於:広島国際会議場.
  • ※f:中川健三:いびきと睡眠時無呼吸症候群の歯科的治療(砂書房)、1999-7.
  • ※g:中川健三:イビキは怖い!(砂書房)、2000-8.
  • ※h:長谷川誠:睡眠時無呼吸症候群の治療法の進歩- スリープスプリント- . 日本臨床、第58巻・第8号(平成12年8月号).
  • ※i:瀧本賢一郎:閉塞型睡眠時無呼吸症候群に対するスリープスプリントの効果. The Journal of The Stomatological Society, Japan. Vol. 68, No.1, March 2001.
  • ※j:瀧本賢一郎:閉塞型睡眠時無呼吸症候群に対する歯科的アプローチ- スリープスプリント療法のコンプライアンス- . 歯界展望、Vol.98,No.2:435-440,2001-8.

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