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107号 WINTER 目次を見る

CLINICAL REPORT

DENT.EX systema ultrasonicの歯周疾患への臨床的効果 -スーパーテーパード毛と1.6MHzの超音波でバイオフィルムを分解-

市村 光

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■目 次

■緒 言

近年、超音波を利用した様々な医療器具が開発され、その有効性と効率性から我々の日常臨床には欠くことの出来ないものとなってきています。特に歯科領域では、超音波スケーラー、超音波根管洗浄拡大器具、および超音波器具洗浄器などで、その使用目的や使用場面は多岐に及んでおります。
今回ご紹介するのは、スーパーテーパード毛を備え、同時に超音波を応用した、しかもセルフケアに用いられる1.6MHzの超音波エネルギーの作用でバイオフィルムを分解・除去する歯科用超音波歯ブラシ〔DENT.EX systema ultrasonic〕(以下、システマ超音波歯ブラシ)です。手用歯ブラシに対して電動歯ブラシという言い方がありますが、ヘッド部の往復運動を主としたタイプを第1世代電動歯ブラシとしますと、高速振動によって音波を発するタイプは第2世代電動歯ブラシとなり、さ らにこの1.6MHzの超音波を発振するシステマ超音波歯ブラシは、第3世代電動歯ブラシということになります。
周知のように生活習慣病と位置づけられた歯周病では、日常のセルフケアで適切かつ効果的な歯周局所のプラークコントロールが最も重要であります。そこでその手段として、患者さん自身が容易に行えること、より歯周ポケットコントロールへも効果があること、および超音波振動により種々の組織改善効果も期待できることを兼ね備えるセルフケア器具を利用することが望まれます。このような口腔ケア器具により、歯周疾患への効率的な改善効果も期待できます。そこで現在知られている超音波エネルギーのバイオフィルムへの影響を簡単に解説し、そして歯周疾患への効果が期待できるスーパーテーパード毛と超音波振動を組み合わせたシステマ超音波歯ブラシを用い、歯周病への臨床的有効性について検証を試みました。

■効果について

1. 基礎的研究から

この1.6MHzの超音波エネルギーがバイオフィルムに対してどのような影響を与えるかについては、「超音波歯ブラシがエナメル質表面のStreptococcus mutansに及ぼす影響」1)に報告されています。
その概要は、5%ショ糖添加液体培地にS.mutansを加え、ヒト抜去歯から切り出したエナメル質ブロック上にバイオフィルムを形成させ、このエナメル質ブロックに生理食塩水中で1.6MHzの超音波を5mmの距離から作用させます。その結果、エナメル質表面のS.mutansの連鎖の繋がりが切れて飛び散り、さらに、形成された不溶性グルカンも飛び散っていった所見が観察されました(図1)。
また、歯周病原性細菌Porphyromonas gingivalisバイオフィルムの影響については、「Porphyromonas ginigivalisバイオフィルムモデルに対する超音波歯ブラシの作用に関する微細形態学的検索」2)で報告されています。
唾液処理を施したハイドロキシアパタイトディクスをMRD内に装着し、P.gingivalis培養液を灌流させ、ディスク上にP. gingivalis バイオフィルムを形成させました。このバイオフィルム形成ディスクに生理食塩液中で、システマ超音波歯ブラシを作用させる一連の実験から、1.6MHzの超音波は、バイオフィルムの分解と剥離に影響を及ぼしていることが示唆されました。図2にシステマ超音波歯ブラシを30秒間作動させたときのバイオフィルムの形態的変化を示します。
これらの研究結果は超音波歯ブラシでは、通常の歯ブラシ、あるいは電動ブラシのように直接、プラークに毛先が触れていなくてもプラークを除去できる可能性を示唆しています。
この研究に関連して、超音波歯ブラシから発生するエネルギーを、水中でハイドロフォンを用いて毛先からの距離が0、5、10mmの位置で測定すると、各々313Pa(パスカル)、287Paおよび326Paであり、毛先と毛先から離れた位置で同じレベルのエネルギーが存在することが確認されています3)図3)。

  • [写真] 1.6MHz超音波のバイオフィルムへの影響<[写真] 1.6MHz超音波のバイオフィルムへの影響<
    図1 1.6MHz超音波のバイオフィルムへの影響
  • [写真] システマ超音波歯ブラシのバイオフィルムへの影響[写真] システマ超音波歯ブラシのバイオフィルムへの影響
    図2 システマ超音波歯ブラシのバイオフィルムへの影響
  • [図] 毛先からの距離と超音波エネルギー
    図3 毛先からの距離と超音波エネルギー
2. 臨床的研究から

超音波は、細胞に直接働き、細胞膜を刺激し活性化(線維芽細胞とマクロファージの活性化)させるために、歯周組織の創傷治癒や再生を促す作用や、抹消血管の血液循環を良くする(血管形成の促進)作用、白血球の内皮接着の促進および再発性アフタ性口内炎の改善4)も期待されています。
実際、この1.6MHzを発振する超音波歯ブラシを用いたコロラド大学での臨床試験5)では、1ヵ月以上の長期の使用によって歯周病の臨床症状が有意に改善したことが確認されています。
今回紹介するシステマ超音波歯ブラシ(図4)でも、狭い部位への到達性に優れたスーパーテーパード毛を替えブラシに採用し、毎分17,000ストロークという穏やかな微振動を併備した1.6MHzの超音波歯ブラシDENT.EX systema ultrasonicを歯科領域の生活習慣病である歯周病などにセルフケアの器具として利用することで予防・治療効果の向上、さらには、患者の治療に対するコンプライアンスの向上に寄与すると考えられます。
システマ超音波歯ブラシを使用した一例として、今まで上手にブラッシング出来なかった患者さん(75歳女性、難治性の慢性剥離性歯肉炎)に、歯ブラシの当てる角度だけを指導しながら使用していただいたところ、非常に高いプラーク除去効果と歯肉の炎症改善が認められています6)図5)。
さらに同研究では、システマ超音波歯ブラシの臨床的効果について、臨床的パラメータとポケット内細菌検査(PCR法)を用いて、下記の被験者(1)~(4)の各1症例について、患者への同意を得たのち、同一患者の一口腔で左右に分け、観察対象に適する同程度の部位を選択し観察し調査しました。
(1)病状安定となったメインテナンス・定期的リコール患者
(2)重度歯周炎罹患歯牙に対する延命的ポケットコントロールを必要とした患者
(3)歯周外科処置後のプラークコントロールに用いた患者
(4)慢性剥離性歯肉炎患者
使用方法と使用条件は、被験部位に本システマ超音波歯ブラシを用い、対照部位には、手用でDENT.EX systema 42M歯ブラシ(製造元:ライオン歯科材株式会社)を使用し、歯面への当て方は、いずれも毛先をバス法と同様とし、一日2回、それぞれ3分間ブラッシングし、連続して4週間使用することとしました。
その結果、plaque index (PlI)の変化は、各症例とも実験側の被験歯部位で経時的に著明な減少を示し、歯肉辺縁部プラークの刷掃効率が良いことがわかります(図6)。
gingival index (GI)の変化は、リコール患者(被験者(1))と歯周外科処置後の患者(被験者(3))では、対照側の対照歯部位と比較し実験側の被験歯部位で経時的に著明な減少を認め、観察4週目にはいずれの症例も実験側で辺縁歯肉の表在性炎症の軽減が、観察されました(図7)。
一方、各症例の probing depth(PD)(図8)とclinical attachment level(CAL)(図9)は、被験歯部位と対照歯部位ともに著明な変化は認められませんでした。すなわち、表在性の炎症は改善したもののポケット底の根面への付着の獲得は認められませんでした。
しかし、各症例のプロービング時の出血(BOP)の経時的推移は、対照側の対照歯では一定した改善傾向は認められないものの、実験側の被験歯部位では若干の経時的改善傾向が認められました(図10)。したがって、歯周ポケット内の末梢血管の出血傾向が改善され、ポケット内壁の炎症が改善されたと考えられます。
また、歯肉溝滲出液(GCF)量は、各症例とも対照歯部位では減少傾向が認められませんが、被験歯部位では経時的な減少が認められました(図11)。この被験歯部位でのGCFの減少は、ポケット内の炎症改善に伴い歯周局所の毛細血管の透過性亢進が改善されたことを明らかにしています。
これらのことから、被験歯部位では経時的なポケット内の著明な炎症改善効果があったものと考えられます。
さらに、歯周病原性細菌であるActinobacillus actinomycetemcomitans(A.a.)、Porphyromonas gingivalis(P.g.)、Prevotella intermedia (P.i.)、およびBacteroides forsythus (B.f.)の歯周ポケット内からの検出は、PCR(polymerase chain reaction )法によるキット(株式会社BML社製)にて少なくとも100個の菌数で検出可能な精度にて検査いたしました。サンプリングは、被検部ポケットから通法にしたがい一定条件でペーパーポイントにて採取し、判定はアガロースゲルを用いた電気泳動で行いました。その結果、歯周病原性細菌の変化は、重度歯周炎患者(被験者(2))を除く他の3症例においては、被験部位でシステマ超音波歯ブラシ使用前に対し、使用後4週目で検出の認められなくなった菌種が多かった(図12)ことから、スーパーテーパード毛超音波振動歯ブラシにより、歯周ポケット内のバイオフィルムの剥離と分解が促進され、歯周病原性細菌の減少に効果があったものと推察されます。
以上のことから被験部位は、対照部位と比較しPlIとGIの減少部位が多く認められたことから、スーパーテーパード毛を備えた超音波振動による刷掃は、効率よく歯肉辺縁のプラークをコントロールし、さらに効果的な表在性の歯周組織の炎症病変改善効果があったものと推察されました。
また、BOPとGCF量の経時的改善と減少傾向が被験部位で認められたことから、歯周ポケット内の炎症軽減と活動性の減少が行われたことが示唆されました。さらに被験部位は、2週間以上の使用で歯周ポケット内の歯周病原性細菌の認められなくなった部位が多かったことから、ポケット内のバイオフィルムを分解し有効な歯周ポケットコントロールが行われたと考えられました(図13)。

  • [写真] 左がシステマ超音波歯ブラシ本体/右はスーパーテーパード毛
    図4 左がシステマ超音波歯ブラシ本体
    右はスーパーテーパード毛
  • [写真] 左はシステマ超音波歯ブラシ使用前/右はシステマ超音波歯ブラシ4週間使用後
    図5 左はシステマ超音波歯ブラシ使用前
    右はシステマ超音波歯ブラシ4週間使用後
  • [写真] 各症例別のplaque index(PlI)の経時的変化
    図6 各症例別のplaque index(PlI)の経時的変化
  • [写真] 各症例別のgingival index(GI)の経時的変化
    図7 各症例別のgingival index(GI)の経時的変化
  • [写真] 各症例別のprobing depth(PD)の経時的変化
    図8 各症例別のprobing depth(PD)の経時的変化
  • [写真] 各症例別のclinical attachment level(CAL)の経時的変化
    図9 各症例別のclinical attachment level(CAL)の経時的変化
  • [写真] 各症例別のプロービング時の出血(BOP)の経時的変化
    図10 各症例別のプロービング時の出血(BOP)の経時的変化
  • [写真] 各症例別の歯肉溝滲出液(GCF)量の経時的変化
    図11 各症例別の歯肉溝滲出液(GCF)量の経時的変化
  • [写真] 各症例別の歯周ポケット内細菌の検出
    図12 各症例別の歯周ポケット内細菌の検出
  • [写真] 左上のスーパーテーパード毛が左下のようにポケット内に挿入され、右のように歯周ポケット内と歯周組織へ超音波が伝わる様子のイメージ
    図13 左上のスーパーテーパード毛が左下のようにポケット内に挿入され、右のように歯周ポケット内と歯周組織へ超音波が伝わる様子のイメージ

■結 語

スーパーテーパード毛超音波振動歯ブラシは、以下のような大きなセルフケア効果がありました。
(1)電動であるため、どのような方にも歯面へあてる角度のみを注意するだけで、ブラッシング操作も容易であり、過度の強い振動でないので長時間使用しても不快感がなく、プラークコントロール効果が大きい。
(2)セルフケア器具としての利用でも、スーパーテーパード毛により超音波による有効な歯周組織の炎症改善と、効果的な歯周ポケットコントロールの手段となる可能性があります。

■今後の展開

先にあげた研究報告や臨床評価での効果は、超音波歯ブラシのプラークやバイオフィルムの破壊のメカニズムとその有効性を示唆するものではあるが、今後さらに詳しい
・歯周ポケット内の活動性への影響
・歯肉縁上・縁下の口腔細菌叢に及ぼす
超音波の影響
などの基礎的研究を通じて臨床評価の有効性を理論的・実験的に裏づけられれば、EBMに基づいた歯科医療の提供に有用なultrasonic plaque control という新しい手法が確立されるものと期待しています。

謝 辞

本文の効果についての基礎的研究からの部分で、超音波エネルギーのバイオフィルムに対する貴重な所見の資料のご提供を頂いた大阪大学大学院口腔分子感染制御学講座、恵比須繁之先生、他に深謝いたします。

参考文献
  • 1) 品田佳世子、他、日本歯科保存学会誌、42(2)、410(1999).
  • 2) 薮根 敏晃、他、日本歯周病学会誌、44、春季特別号、157(2002).
  • 3) 本多電子株式会社(豊橋市)測定.
  • 4) Sylvia L. Brice,Oral Surg . Oral Med . Oral Pathol. Oral Radiol. Endod., 83, 14(1997).
  • 5) Geza T. Terezhalmy et. al., Compend. Contin. Educ.Dent.,15(7),866(1994).
  • 6) 市村 光、他、高度テーパード毛超音波振動歯ブラシの歯周疾患への臨床的効果、日本歯周病学会誌、44、春季特別号、114(2002).

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