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107号 WINTER 目次を見る

CLINICAL REPORT

口腔金属アレルギー研究

服部 正巳

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■目 次

■はじめに

私たちの生活環境中の金属は近年著しく種類も量も増加している。身につける装飾品として指輪、ネックレス、ピアスなどがあり、特にピアスは耳朶に孔を開けて使用するものであり、ピアスの流行で金属に対する感作率が増大し、アレルギー性接触皮膚炎がかなりみられるようになった。ヨーロッパではほとんどの若者がピアスをしており、かなり高い感作率を示している。
接触アレルゲンとしての金属の中で感作率の高い元素はニッケルで、ついで水銀、クロム、コバルトである。日本では、以前予防接種の際に水銀系の消毒剤を使用したことがあり、昭和59年の東京都の調査では水銀の感作率が20%程度あった。
このように金属元素にすでに感作されている人が、歯科治療で口腔内に陽性金属元素を含む合金を装着された場合には、口腔内や皮膚に湿疹やただれ等の症状を呈することがある。しかし、金属は決して体にとって有害な物質ではなく、むしろ必須ミネラルと言われるように、体にはなくてはならない物質でもある。

  • [写真] DMAメーターJS2002
    DMAメーターJS2002

■歯科用金属の要件

歯科用金属は過酷な口腔内環境の中で機能を果たさなければならない。口腔内で使用するため、毒性や催奇形性があってはならないという生物学的要件、酸性、アルカリ性の食品等の摂取も日常的に行われる過酷な環境にあっても化学的に安定していなければならない。
また、熱い食品、冷たい飲み物、咬合力などによっても物理的に安定していなければならないという、物理的要件など種々の要件(図1)が満たされるものである。

  • 歯科用金属の要件
    図1 歯科用金属の要件

■アレルギーの4型

今回取り上げた金属アレルギーとは、アレルギーの4型のうちⅣ型反応で細胞性免疫型アレルギーと言われるものである。アレルギー性接触皮膚炎や結核菌の感染アレルギーとして起こる結核結節(ツベルクリン反応)等が代表的である。Ⅰ型反応はアナフィラキシー型アレルギーと言われ、アレルギー性鼻炎、結膜炎、蕁麻疹やアトピー性の喘息などが代表的な疾患である。Ⅱ型は細胞障害型アレルギーで、不適合輸血による障害、溶血性貧血や顆粒白血球減少症などがある。Ⅲ型は免疫複合体型アレルギーで、アルチュス型アレルギーとも言われ、血清病や糸球体賢炎などがある(図2)。
このようにアレルギー反応の分類と疾患には多くのものがある。もともとアレルギーとは、20世紀初めにVon Pirquetが造語したように、allos(変わった)+ergon(反応能力)と言われるように、以前は何も反応を示さなかった化学物質に対して、ある時を境にして顕著な異常を生ずることである。皮膚が赤くただれたり、涙や鼻水が発作的に出たり、最悪の場合には血圧低下で死に至ることもある。原因が毒物であるなら以前から同じ反応を呈するはずであるので、毒物のようなものではない。アレルギーは「それまでは何でもなかった化学物質に対しての拒絶反応が長い期間続くこと」ともいえる。

  • アレルギー反応の分類と疾患
    図2 アレルギー反応の分類と疾患

■Ⅳ型アレルギーの発症機序

Ⅳ型アレルギーは抗体が直接関与しない免疫反応で、細胞性免疫型アレルギーといわれ、感作されたT細胞が活性化され、キラーT細胞となり標的細胞を破壊する。また、感作T細胞からリンホカインが生産、遊離されることにより血管壁の透過性が増し、マクロファージ、好中球、好塩基球、リンパ球が集積してくる。そして、マクロファージを介して標的細胞を破壊する(図3)。これらの一連の反応は24~48時間必要であることからⅣ型アレルギーを遅延型アレルギーともいう。
日常の臨床ではアレルギー症状の緩和にステロイド剤やステロイド軟膏が処方されることがある。これは症状が一時的に和らぐことはあるが、あくまでも対症療法であり、金属アレルギーの原因が存在するならば完治することはない。抗原である金属に再度暴露すれば何度でも再発する。
金属アレルギーの治療では一般的には原因除去療法(金属除去療法)が行われる。口腔内に原因となる金属修復物が存在し、その金属修復物からごく微量であっても金属が溶出していれば、常に抗原と接触していることになり症状が出現し治癒することはない。
そこで、抗原抗体反応が起こらないように口腔内から原因となる金属修復物を除去し、その患者さんにとってアレルギーを起こさない安全な材料(金属その他歯科材料)を用いて歯科治療を行う。これが金属アレルギー患者さんに対する原因除去療法であり、この安全な歯科材料が見つかりさえすれば治療は容易である。

  • Ⅳ型アレルギーの反応機序
    図3 Ⅳ型アレルギーの反応機序

■アレルゲンとは

アレルギー症状を引き起こすアレルゲンにはどのようなものがあるのか 考えてみると、その存在は数百万以上数限りなく存在する。言い換えれば、我々の生活環境中にあるほとんどすべての物質が、アレルゲンになる可能性がある。
歯科臨床で使用する器具材料に限定してみてもかなりの数が存在する。ゴム手袋、ラバーダムシート、アクリルモノマー、ユージノール、ヨードホルム、アルコール、マレイン酸、ニトロフラゾンなどが存在する。金属に関しては歯科用金属として使用されているすべての金属元素に対して、アレルギーが報告されている。歯科治療に使用される薬剤、材料すべて旧厚生省の薬事審査を通過したもので安全といわれているものだが、アレルギーの観点からはすべての薬剤、材料を疑う必要がある。
しかし、これらの薬剤、材料に対してアレルギー症状を呈する患者さんは、ごく一部であることも事実で、いたずらに恐れることはないと考える。初診での問診を確実に行えば、基本的に歯科用材料は安全なものといえる。図4は代表的なアレルゲンとその疾患が記載してある。

  • 代表的なアレルゲンとその疾患
    図4 代表的なアレルゲンとその疾患

■歯科用金属によるアレルギー

歯科用金属によるアレルギーについて、最初に報告されたのは1928年のFleishschmanで、アマルガムに含まれた水銀による口内炎と、肛門周囲の皮膚炎だと言われている。その後、多くの報告が出たが、ほとんど水銀に関するものであった。
我が国では1960年に仲井が、クロムとニッケルによる歯肉炎について報告しており、その後1972年に中山らによる報告があるが、これは水銀が原因となった扁平苔癬であった。その後、歯科用金属としてのパラジウム、金、スズ、プラチナなど、ほとんど全ての金属元素に対してのアレルギーが報告されている。金、パラジウム、ニッケル、水銀、プラチナ、亜鉛が原因となった掌蹠膿疱症、ニッケル、コバルト、クロム、水銀が原因となった皮膚炎や湿疹、ニッケルが原因となった紅斑、ニッケル、コバルト、クロムが原因となった汗疱状湿疹など多くの報告がある。
この様に、歯科用金属によるアレルギーは、歯科用合金として使用しているすべての金属元素について起こる可能性がある。口腔内は食物によってpHが変化したり、プラークや電解質溶液となりうる唾液が存在すること、また異種金属の接触というように、金属がイオン化しやすい大変に過酷な環境にある。また、咬合力による応力腐や歯ブラシによる摩耗腐なども起こり得るので、口腔内では特に金属がイオン化しやすくなる。イオン化した金属がハプテンとなり、蛋白と結合して完全抗原となる。その結果、体内で抗原・抗体反応が起こり、抗体を獲得すると再度、抗原と接触することにより、アレルギー症状を現すことになる。

■金属アレルギーの疫学的調査

私どもは平成元年より3年間にわたり東京医科歯科大学の井上昌幸先生を中心にして、皮膚科中山秀夫先生の協力のもとに、当時の文部省科学研究費の補助金を得て、北は北海道から南は九州までの13大学と1つの機関が協力して、歯科用金属に対する感作率をパッチテスト法により調査研究した。
その結果ではまったく症状を呈していないボランティア群でも約10%の感作率を示した。何らかの症状があり自分が金属アレルギーではないかと疑っている人では20%を越える感作率であった。この後、平成4年以降は私どもの補綴科にて治療と、研究を継続した。

■口腔金属アレルギー外来

平成13年1月に本学歯学部附属病院が新築された際に、金属アレルギー患者に対して専門的知識を有する歯科医師による治療が必要との判断で、口腔金属アレルギー外来が設置された。この外来は保存科、補綴科、口腔外科、小児歯科からの歯科医師15名で、いずれも金属アレルギーに対する専門的知識を有している。
平成13年の1年間にこの外来を受診した患者は男性16名、女性71名の合計87名であった。どこから紹介されたかといった紹介元別では、院内からの依頼が22件で、補綴科よりの依頼が最も多く、ついで保存科、口腔外科の順であった。院外からの紹介元別では開業歯科医院からの23件が最も多く、口腔外科、皮膚科の順であった。皮膚科より依頼が少なかったのは、まず近在の歯科医院に依頼されるケースが多く、今回のデータでも図中の23件の中には皮膚科から開業歯科医院、そして私どもの外来への依頼というケースも散見された。紹介なしの35件のうち、私どもの外来が紹介されたテレビや新聞を見て来院されたケースが8件あり、マスコミの影響の強いことが推察された(図5)。
外来を受診された患者さんの診察は、まず問診が行われる。その結果金属アレルギーの疑いがあり、口腔内に金属修復物が存在する場合は、金属元素の特定を行うため皮膚科領域で広く用いられているパッチテスト(貼布試験)を行う。このパッチテスト法は1894年にJadassohnにより、創設されてBlochやSulzebergerらによって一般的に広められた方法であり、現在でも副作用の非常に少ない検査法として利用されている。
パッチテストで陽性反応を示した金属元素が、口腔内金属修復物に含まれている可能性がある場合は、この金属修復物よりごく微量の金属を採取し、X線マイクロアナライザーにて金属組成分析を行う。

  • 口腔金属アレルギー外来での実績
    図5 口腔金属アレルギー外来での実績

■金属アレルギー患者の症状

金属アレルギーの症状としては、口腔外では全身性の接触皮膚炎、麻疹、手足の水泡、アトピー様皮膚炎、掌蹠膿疱症(図6)などがある。口腔内では扁平苔癬(図7)や粘膜の糜爛・発赤・腫脹、舌炎、口内炎、口唇炎などといった、いろいろな症状を現す。
図に示した2名の患者さんは、いずれも金属アレルギーの原因となっていた金属修復物を除去し、純チタンにて処置を行った。術後6ヶ月で症状はなくなり、以後再発はない。

  • [写真] 掌蹠膿疱症の患者さんの手
    図 6-1 掌蹠膿疱症の患者さんの手
  • [写真] 掌蹠膿疱症の患者さんの足
    図6 -2 掌蹠膿疱症の患者さんの足
  • [写真]
    図7 頬粘膜部の扁平苔癬

■パッチテストに際しての注意事項

金属元素に感作されているか否かを検査する簡便で一般的な方法は、パッチテスト(貼布試験)法である。パッチテストは通常3日目までの反応で判定を行うが、歯科用金属として使用頻度の高いパラジウムは3日後から反応を現すこともあるので、私どもは7日目までの反応を総合的に判断して金属アレルギーの判定をする。
パッチテスト用の絆創膏は貼ったままにしてあるため、水に濡らさないことが必要で、2日間は入浴や汗をかく激しい運動などはできない。そのため、汗をかきやすい真夏は検査結果が不正確になる恐れがあるため検査を行っていない。
また、当然であるが反応を抑えるような、抗ヒスタミン剤やステロイド剤などの内服や、皮膚への塗布は禁止している。すべての試薬が低濃度になっており、薬物の使用は反応が抑えられて陰性と判定される可能性がある。その他、刺激物の摂取も控えさせる(図8)。

  • パッチテスト時の注意事項
    図8 パッチテスト時の注意事項

■パッチテスト試薬と絆創膏

私どもが使用しているパッチテスト用の試薬と絆創膏は鳥居薬品株式会社製で市販されているものと私どもで調剤したものである。絆創膏は10cm程の長さで中央に直径5mm程のリント布が付けてある。そのリント布に金属試薬を塗布し、肩甲骨の少し下に貼り付ける。
金属元素はCu・Pd・Cr・Ni・Co・Hg・Sn・Au・Pt・Fe・In・Ir・Al・Ag・Zn・Mnと、私どもで調剤した純TiとTi合金の合計18種類と、アクリルモノマーとレジン重合片である(図9)。
図中の2種類のクロムは硫酸クロムと重クロム酸カリウムである。金属元素により水溶液タイプとワセリンタイプのものがある。水溶液タイプのものは1滴を、またワセリンタイプのものは半米粒大のものを、リント布に付ける。
絆創膏は2日間貼付(図10)したままにし、2日後の朝、絆創膏を剥がし、2時間後に判定する。

  • [写真] パッチテスト用試薬と絆創膏
    図9 パッチテスト用試薬と絆創膏
  • [写真] 試薬の付いた絆創膏を肩甲骨の下に貼布したところ
    図10 試薬の付いた絆創膏を肩甲骨の下に貼布したところ

■パッチテストの判定基準

判定は国際接触皮膚炎研究班の基準に準じて行う。この判定基準(図11)を使用することによって、国際的な判定となるので、外国での判定結果との比較検討が可能となるので非常に有用である。判定は、変化なしが-、紅斑のみが?+あるいは±、紅斑と浮腫が+、紅斑と浮腫と小水疱(丘疹)が2+、大水疱が3+となる。判定日は試薬の貼付後、2日・3日・7日と3回行う。7日後(図12)でも充分皮膚面の反応は残っており判定は可能である。また、金のアレルギーはないのではないかと思われるが、金に対してのアレルギーを示す患者さん(図13)も存在する。この患者さんは金以外にパラジウムとコバルトに陽性反応を示した。

  • [図] 国際接触皮膚炎研究班(IC.DRG)の判定基準に準じて作成された判定基準
    図11 国際接触皮膚炎研究班(IC.DRG)の判定基準に準じて作成された判定基準
  • [写真] 貼布7日目の背中
    図12 貼布7日目の背中
  • [写真] 金(11:Au)に対して陽性反応を示した例
    図13 金(11:Au)に対して陽性反応を示した例

■パッチテストの結果

平成13年に私どもの外来を受診した患者さんのパッチテストの結果、何らかの金属元素に陽性反応を示したものは70名で、全患者さんの約80%という高い値を示した。また、何種類の金属元素に陽性反応を示したかについては、2種類の金属元素に反応を示したものが最も多く24名(約27%)で、ついで1種類が19名(約22%)という結果であった。人数は少ないが5種類以上の多くの金属元素に対して陽性反応を示した患者さんが9名(約10%)も存在し(図14)、金属アレルギー患者の歯科治療で使用可能な金属を選択する困難性を示唆していた。
金属元素別に何名の患者さんが陽性反応を示したかについては、クロムが32名(37%)と最も多く、ついでパラジウム29名(33%)、亜鉛23名(26%)ニッケル22名(25%)の順となった(図15)。歯科用金属として最も使用頻度の高い、12%金銀パラジウム合金に含有されているパラジウムに 、 多くの患者さんが陽性反応を示したということは問題である。

  • [図] 口腔金属アレルギー外来でのパッチテストの結果
    図14 口腔金属アレルギー外来でのパッチテストの結果
  • [グラフ] 金属元素別のパッチテスト陽性者数
    図15 金属元素別のパッチテスト陽性者数

■分析用金属試料採取

つぎに、パッチテストで陽性となった金属元素が、口腔内金属修復物に含有されているかが問題となる。金属分析を希望した患者さんの金属修復物から、約0.1mgの微量の金属削片を採取(図16)する。採取に使用するバーは金属成分のわかっているカーバイトバーを使用する。その金属削片をX線マイクロアナライザーで金属組成の分析を行う。その結果の一部を図17に示す。赤色の金属元素は、パッチテストで陽性と判定された金属元素で、口腔内金属の赤色の金属元素は金属修復物分析の結果、陽性金属元素と一致した事を示している。12%金銀パラジウム合金の使用が多いためかとも考えられるが、パラジウムの一致率は10名中7名で70%という高い値になった。このようにパッチテスト陽性金属元素と一致した金属修復物が口腔内に存在する以上、その金属修復物がどのような状態にあるかを知る必要がある。

  • [写真] 口腔内金属修復物からの金属削片採取
    図16 口腔内金属修復物からの金属削片採取
  • パッチテスト陽性金属元素と口腔内金属修復物に含まれる金属元素との関係
    図17 パッチテスト陽性金属元素と口腔内金属修復物に含まれる金属元素との関係

■電位差の測定

口腔内金属修復物と口腔粘膜との電位差を測定したという報告があるが、禾は粘膜用プローブ電極と金属用プローブ電極を24金製とし、口腔内電流測定を行っている。坪田らは粘膜用プローブ電極に参照電極として飽和カロメルを用い、金属用プローブ電極は白金を用いて測定している。また、野本らも同様に合着後の経時的な電位の変化を測定しているが、いずれも日常の歯科臨床で簡便に使用するにはそれらの機器は不可能であった。
しかし、最近ハンガリーのSZEGED大学にて開発され、ドイツのアーヘン大学のGutknecht教授が臨床使用しているDMAメーター(デンタルメタルアクティビティメーター:図18)が私どもの臨床でも応用可能ではないかと考えた。

  • [写真] DMAメーター
    図18 DMAメーター

■DMAメーターの原理

SZEGED大学物理化学科のDr.Adam Rauscherは、Stomathological Institute of Budapestの協力を得て、市場にある歯科用合金各種について電気化学的腐蝕パラメータ(比電位または電位差と、ある電位差における金属の腐率に相当する電流密度)を定電位分極法(分極曲線を記録する)で決定し、DMAメーターに格納した。Dr.Rauscherは以下のようにその原理を概説している。
まず正確な電位を測定するためには、電位が一定である参照電極を使用しなければいけない。特に口腔内で実測するためには非毒性で使い捨て可能であるという条件も満たされなければならない。我々は使用のたびに生理食塩水に満たされる構造をもった非金属のフェルト様チップを持つAg/AgCl(銀塩化銀)を参照電極として開発することに成功した。これにより粘膜スキャン電極は起電力ゼロとなり口腔内で正確な電位の測定が可能となった。
金属を取り囲む媒質には多くの還元物質(H+、O2など)が含まれる。したがって、2つ以上の連続した電極反応が金属表面で発生し、金属は複数の電極として機能する。腐する金属を流れる電流は、媒質の中に異なる金属(例えばPt)を入れ、電極を分極させはじめて測定できる。歯科用合金の実験は三電極セル内で行った。媒質として人口唾液(Fusayama溶液を改変)を使用した。
分極が逆方向に進行する場合、金属の溶出は減少し、金属は熱力学的に安定で電位差も小さくなり腐は発生しない。これが無腐電位差である。この電位差では金属は不活性で、DMAメーターではStable(安定)であると示す。陽極分極の場合、還元反応が減少して、いわゆる「動態―不動態」反応によって金属の酸化速度が速くなり、動的な溶解が発生する電位差に達し、これをActive(活性)とDMAメーターは表示する。つまり、最大の許容電流密度に対応する電位がDMAメーターで測定されるとActive(活性)が示され、再不動態化が期待できる低電流密度に測定された電位の値が対応すると、DMAメーターはMetastable(準安定)と表示する(図19)。

  • [写真]
    図19 腐蝕する金属の分極曲線

■DMAメーターの測定結果表示

この機器は感染対策も考慮されており、粘膜用スキャン電極と金属用スキャン電極が、無菌パックされており、患者一人一人に対しての使い捨てであり衛生的である。
粘膜用スキャン電極は、使用直前に写真のように指で強く押し込んで(図20)使用する。この操作を忘れて、測定器にスキャン電極を装着すると破損してしまうので注意が必要である。両スキャン電極を装着したのちDMAメーターの電源をONにし、両スキャン電極を軽く接触させた後(図21)測定する。金属用スキャン電極のグリップの部分には測定用スイッチが付いており、口腔内での使用を容易にしている。図22は実際の測定風景であるが、測定に要する時間も数秒と短く、使い勝手の良いものとなっている。測定結果の表示はStable(安定)、Metastable(準安定)、Active(活性)の3段階となっており、非常に判定が明確である。また、DMAメーターの中に収納されている合金リストはアマルガムから陶材溶着用金属までと多く、特に日本でのみ使用頻度が高い12%金銀パラジウム合金までもが、収められているというから驚きである。言いかえれば、歯科用金属のほとんど全てが測定可能となる。
今までの金属アレルギー患者に対する原因除去療法では、口腔内のどの修復物から、金属の溶出があるのか見分けが付かず、全ての金属修復物を除去していたが、今後はパッチテストの結果、金属組成分析の結果、DMAメーターの測定結果などを総合的に判断して、金属アレルギーの治療が行えるという点で、有用な測定機と考えられる。実際私どもの外来でも平成14年から、このDMAメーターを用いて金属アレルギーの治療を行っている。

  • [写真] DMAメーターの粘膜用チップ
    図20-1 DMAメーターの粘膜用チップ
  • [写真] キャップを指で強く押す
    図20-2 キャップを指で強く押す

  • 図 21-1
  • [写真] 金属チップ・参照電極を接触させる
    図 21-2 金属チップ・参照電極を接触させてから測定する
  • [写真] 測定風景
    図22 測定風景

■金属アレルギーの治療

金属アレルギーの治療は、原則としてアレルゲンである金属に直接接触しないようにすることであり、その第一段階として、原因となっている口腔内の金属修復物を全て除去し、プラスチックの暫間被覆冠(図23)を装着し、6ヶ月間経過観察を行う。最終処置は安全と考えられる純チタン金属にて行う(図24)。
現在、比較的安全と言われている金属は純チタンであり、私どもはこの金属を金属アレルギー患者に臨床応用して良好な結果を得ている。図25は金属アレルギーによる掌蹠膿疱症の患者で、上下顎の多数歯を純チタンにて処置を行い、術後2年6ヶ月経過しても症状の再発はみられない例である。これ以外にもまったく金属を使用しない、オールセラミックスや硬質のプラスチックを使用することもある。
金属アレルギーという病気は決して稀な病気ではなく、誰にでも起こりうる病気であり今後、ますます増加するものと推察され、正しい知識と認識が必要と考える。

  • [写真]
    図23 除去した後、Tek装着
    654 67暫間被覆冠
    7露出しているのはチタンコア
    • [写真]
    • [写真]
    図24 76 57
    76 7
    純チタンによる修復物
    • 症例
    • [写真] 術後2年6ケ月後の手と口腔内
      図25 術後2年6ケ月後の手と口腔内
参考文献
  • 1) 中山秀夫ほか.歯科金属による感作の可能性について;歯界展望43:382~389 ,1974.
  • 2) 井上昌幸,中山秀夫編.歯科と金属アレルギー;デンタルダイヤモンド社, 東京, 1993.
  • 3) Fleischmann.P.Zur Frage der gefahnichkeit kleinster Quecksilbermengen, Dtsch. Med Wochenschr 54:304, 1928.
  • 4) 仲井厚.皮膚アレルギーと口腔粘膜アレルギーの関係の研究; 日皮会誌70:871, 1960.
  • 5) 中山秀夫ほか.歯科金属の金属によると思われる扁平苔癬の2症例について;耳鼻咽喉科44:239~247,1972.
  • 6) 井上昌幸ほか.金属アレルギーの疫学的調査ならびにその口腔内使用金属との関連性について;平成3年度文部省科学研究費補助金総合研究(A), 研究成果報告書, 1992.
  • 7) 井上昌幸ほか.歯科用金属アレルギーの診断と治療;補綴臨床:553~563,1986.
  • 8) 禾紀子.金属アレルギー患者における口腔内電流測定によるしか金属溶 傾向の検討;日皮会誌99:1243 ~1254, 1989.
  • 9) 坪田健嗣ほか.非貴金属鋳造冠の経日的電位変動;補綴誌30:1393~1401,1986.

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