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108号 SPRING 目次を見る

CLINICAL REPORT

高周波電気メスの基礎と臨床

寺中 敏夫/平林 正道/南田 厳司

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■はじめに

現在、一般に電気メスといわれている機器は、正確には“高周波電気メス”と呼びます。その歴史は意外と古く、1910年にアメリカのWilliam Clarkが外科手術に応用したのが始まりだと考えられます。
この器具は軟組織を切開するのに周囲の組織にダメージを与えることなく、出血も極端に少なくてすむことから、医療分野では広範かつ頻繁に使用されてきました。
歯科領域でも始めは一部口腔外科の手術に使用されていましたが、最近では器具の品質が向上し、歯科専用のものが開発されたこと、また、比較的低価格で購入できるため、大多数の歯科医が装備するほどに普及した器具となっています。
また、この電気メスは構造が比較的シンプルで壊れにくく、高度の技術も必要とせずに軟組織の切開や切除、血液の凝固や止血が行えること、さらに、複雑な形態をした口腔内のほとんどの部位で使用可能なため、歯科医院では利便性の高い器具といえます。
しかし、歯科領域で汎用されている器具にもかかわらず、その有用性と危険性についてあまり語られていないのが現状ではないかと思われます。「なぜ出血せずに切開できるのか」、「熱で焼ききるのとはどこがちがうのか」明確に回答できる人は少ないと思います。
この器具の特徴は大きな電気エネルギーを利用しているところにあります。それ故、使用法を誤ると人体への熱傷や周辺機器への誤作動など、重大な影響を及ぼす可能性があるのです。そのため、高周波電気メスの基本的な原理を理解することで、この器具の危険性を回避しなければなりません。
ここでは電気メスの危険性と有用性を理解していただくために、その基本的原理と臨床例についてお話させていただきます。

  • 高周波電気メス「プログ」(ヨコ型)のイメージ
    高周波電気メス「プログ」(ヨコ型)
  • 高周波電気メス「プログ」(タテ型)のイメージ
    高周波電気メス「プログ」(タテ型)

■基礎編

1. 高周波とは
高周波電気メスはただ単にニクロム線に電気を流して発熱させるものとは全く原理を異にします。
高周波とは一般に周波数の高い電源のことを言いますが、どのくらい高い周波数かというと、家庭用電源が関東では50Hz、関西では60Hzに対して、電気メスでは1MHzの周波数を使用していて、関東の電源の実に20,000倍の周期で流れている電気なのです。
つまり関東では蛍光灯が1秒間に50回点滅しているのに対して、1MHzでは100万回点灯していることになります。
それでは、なぜ電気メスはこのように高い周波数の電流を用いるかというと、電流は周波数が高くなればなるほど人体に対する影響が小さくなるという現象があるからです。
おおよその見当として、1KHzまでの低周波では人体に対する刺激は同程度ですが、1KHzを超すと周波数に反比例して電気刺激が小さくなっていきます。
電気メスで使用している1MHzの周波数であれば、1Aの電流を流しても1mA(0.001A)の刺激作用しか受けないことになります。
しかし、人体の心臓に直接0.1mA程度でも電流が流れると心室細動が生じ、生命の危険な状態となりますが、通常流れている家庭用の15Aの電流を誤って直接ふれても生命に危険が少ないのは、人体の持つ電気抵抗が電流の量を極端に減少させているおかげなのです。
そして、この電流と人体の持つ電気抵抗の関係は、一般的に使用されている電気メスの切れ味と熱傷に大きな影響を与えることとなります。

2. 二つの電極
電気メスが瞬間的に高熱を発して軟組織を焼き切ることができるのは、高周波のアーク放電によるものです。アーク放電とは気体中で二つの電極の間に電圧をかけると電流が流れ、強い発熱と発光が起きる現象をいいますが、電気メスを使用する場合、二つの電極とはメス先端の金属性チップと患者の体ということになります。
そして、この二つの抵抗値の違う電極に電流を流すこと、すなわち、電気メスの細いチップ先端から人体に向けて電流を流すと、二つの電極間の電気抵抗値の差により、チップ先端が身体に接触した瞬間に放電が起こります。そのときの放電路が人体に当たり、広がり抵抗を発してチップ付近の限局された狭い場所に大きなジュール熱が発生ます。この発熱は100℃にまで達するといわれ、ほとんど爆発するような勢いで細胞が蒸散消滅していくことで軟組織が焼き切られるのです。これが電気メスの切開の原理ですが、この放電が作用した切開部の近接した周囲は血液が凝固するため、止血効果も極めて高くなります。レーザーメスの場合、大きな熱を外部より与える体外熱作用で切開、止血させるのに対して、電気メスは人体の持っている直接抵抗、すなわち体内熱作用によるところが大きな違いといえるでしょう(図1)。
歯肉の切開が高周波電流の放電による発熱で、組織の水分を蒸散して起こるものであることはご理解頂けたと思います。すなわち、チップ先端が組織に触れ、電流を流せば瞬間的にジュール熱が発生し水分が蒸散します。この時、チップ先端と組織の間に間隙ができ、この間隙が放電を起こす上で必要なスペースとなります。このスペースを維持するためには、チップの太さは数ミリ以下で熱密度を高くしなければなりません。

  • ジュール熱の図
    図1 生体表面に大きな電気抵抗が生じ、高いジュール熱が発生する。
  • 電気的ループの図
    図2 電気メス本体から流れ出す高周波電流は、チップ先端から生体に流れ、対極板を通して本体に帰る電気的ループが形成される。
  • 鶏のささみ肉イメージ
    図3 鶏のささみ肉を伝導性のない皿の上にのせ準備する。
  • 対極板を使用せず切開する様子
    図4 対極板を使用せず切開してみる。鶏肉は切れない。

3. 対極板の重要性
電気メスはJIS規格において“電気手術器”と呼ばれ、「JIS T 1453」の基準に従って製造されなくてはなりませんが、歯科用電気メスのように出力50W未満(50W以上のものもある)のものに限っては「JIS T 1001医用電気機器の安全通則」に基づく薬事承認を受けて製造されてきました。
では、この50W未満の電気メス(いわゆる歯科用電気メス)とそれ以上の出力の電気メス(電気手術器)の違いはどこにあったかというと、50W未満の電気メスでは対極板を使用しなくてもいいのに対して、50W以上のものでは必ず対極板を使用しなくてはなりませんでした。その上、対極板が接続されていないときは高周波の発振を停止し、安全回路により警告音を発声しなくてはならない構造が要求されていたところです。
しかし、1991年に制定された「IEC601-2-2」を基に、1998年「JIS T 1453:1998 電気手術器(電気メス)」が改正され、その適応範囲は50W以下の出力機器も含まれることとなり、歯科用電気メス(出力50W以下のもの)も「JIS T 1453:1998」の適応を受けることとなりました。したがって、1998年以降に販売された電機メスは歯科用であっても、出力50W以上の電気メスと同じ規格で製造されるようになりました。
それではなぜ対極板が重要なのでしょうか?
電流は抵抗の高いところから低いところに向かって流れる特性を持っています。ですから、電気メスのチップ先端より発せられた高周波電流は、人体を通り抵抗の少ない対極板へと向かって流れます。すなわち、対極板は高周波電流を電気メス本体に戻す役割を持っているのです。この一連の電気の流れをループと呼んでいます(図2)。
電気メスにおいて対極板はある程度の面積を持った板状のものが付属されています。これは対極板の面積が回収する高周波電流の密度に関係するため、ある程度の面積がなければ対極板は再びチップと同じ効果が働き、人体に作用して熱傷の原因となります。もちろん対極板の面積が十分であっても人体との接触面積が少なければ、電流の密度があがり危険な状態になるので注意が必要です。また、対極板を用いずに、ハイジーンやアシスタントが電気メス使用中、不意に患者や術者に接触することで、接触した場所に新しいループが形成され、ジュール熱が発生して熱傷を起こすことがあります。
電気メスによって起きる医療事故は軽度の熱傷や電気ショックがほとんどですが、その多くは対極板設置の不備によるものであるといわれています。必要以上の熱を患者に与えない、必要以上のパワーを患者に通電させないことは、事故を防ぐ意味でも大切です。また、電気メスの切れ味は、対極板を使用することで格段に上昇します。
患者のためにも、性能を上げるためにも、対極板を必ず使用することをお勧めします。

■臨床編

1. トレーニング
電気メスについての簡単な理論と構造、あるいはメカニズムについて、おおよそのご理解がいただけたと思います。
次に電気メスを初めて使用される方、あるいは電気メスの切れ味が悪いとお考えの方は、次のようなトレーニングを行い正確な使用法を会得して下さい。
また、対極板の正しい知識は電気メスを臨床で安全に使用する上でも非常に重要ですので、是非このトレーニングをお勧めいたします。

  • ①電気メスを準備し、鶏のささ身肉を伝導性のない皿の上にのせます(図3)。
  • ②ハンドピースにチップ(C1)を装着して、プログのモードを切開にあわせ、出力モ-ドを4~6にして下さい。この時、対極板は使用しないで下さい。鶏肉には手を触れずチップ先端を鶏肉に軽く接触させ切ってください。恐らくまったく切れないはずです(図4)。
  • ③次に同じ状態で左手を少し広い面積で鶏肉に接触させ、再び切開を行って下さい。こんどは鶏肉が切開されると思います(図5)。
  • ④こんどは対極板の上に鶏肉を置いた状態で同じ操作を行います。対極板が汚れるのを防ぐために鶏肉と対極板の間にラップなどを敷いても問題はありません。同じ設定であれば③より高い出力で安定した良好な状態で切開することができると思います。これは、対極板を使用したことにより、より安定した高出力が得られたことになります(図6)。続いて出力モードや切開のスピード、角度等を色々変化させ、スパークの出方や切れ味を試して下さい(図7)。
  • ⑤凝固用チップについても同様の操作を行い試して下さい(図8、9)。
  • 左手を少し広い範囲で鶏肉に接触させ切開する様子
    図5 図4と同じ状態で、左手を少し広い範囲で鶏肉に接触させ切開してみる。鶏肉は切開できる。。
  • 鶏肉の下に対極板を置いて切開する様子
    図6 鶏肉の下に対極板を置いて切開する。図5と同じように切開できる。
  • 放電によるスパークの様子
    図7 同じ状態で出力を上げて切開すると、放電によるスパークがみられる。
  • ラウンド状の止血用チップを用いて鶏肉に接触させると、表面が凝固する様子
    図8 止血用のチップも試してみる。本体のモードを止血に合わせ、ラウンド状の止血用チップを用いて鶏肉に接触させると、表面が凝固する。
  • 先端の尖った止血用チップを使用する様子
    図9 先端の尖った止血用チップも試してみる。
  • 切開用の先端が直線的なチップのイメージ
    図10 切開用の先端が直線的なチップ。

このトレーニングから、安定した切れ味を維持するためには、対極板の必要なことがおわかり頂けたと思います。
また、③の状態で左手をわずかな面積で鶏肉と接触させると、そこに流れた高周波電流により、この抵抗の少ないわずかな接触部に発熱が生じて熱傷の原因となります。したがって、電気メスを使用する場合には、必ず対極板を十分な面積をもって患者と接触させるとともに、術者が患者に大きな接触面積でフィンガーレストすることで、事故を未然に防ぐことができるのです。
さらに電気メスを効率的に使用するためのコツをご紹介しますが、切れ味は生体の電気抵抗値の個人差により変化することをご理解下さい。

  • ①切開、切除する場合は接触面積をできるだけ小さくする。すなわち、使用するチップ先端は細い針金状のものを選択する。
  • ②切開の際には直線的なチップ先端を(図10、11)、また、切除にはループ状の先端を使用する(図12~14)。
  • ③止血、凝固の場合には接触面積を大きくする。すなわち、チップ先端の太いもの、もしくはラウンド状のものを選択する(図15)。
  • ④操作中はチップ先端に組織片や血液が炭化して絶縁被膜となる。この絶縁被膜は通電性を妨げるため、切開効率が落ちたり、スパーク発生の原因となるので頻繁にガーゼなどで清拭する。

なお、電気メスは口腔内で切開や切除、あるいは止血を行うため、チップ先端やハンドピース部が血液や唾液で汚染されるので、患者ごとにチップ先端とハンドピースをオートクレーブで滅菌することをお勧めします。最近の電気メスはオートクレーブの熱や水蒸気に耐えられるように作られています。

  • 切開する様子
    図11 抵抗のないスムーズな切開が行える。
  • 切除用のループ状チップイメージ
    図12 切除用のループ状チップ。目的に合わせて形態を選択する。
  • 広い範囲を切除する様子
    図13 広い範囲の切除には円形のものを使用する。
  • 細かい部分を切除する様子
    図14 細かい部分の切除には楕円形もしくは菱形のものを使用する。
  • 止血用チップのイメージ
    図15 止血用チップ。

2. 使用上の注意点
臨床で使用する際は熱傷などの事故を未然に防ぐ以外に、次のような点に注意すると、さらに事故は少なくなります。

  • ①スイッチはチップ先端を患部に接触させた直後に入れる。口腔外からスイッチを入れた状態で口腔内にハンドピースを移動させると、口唇や口腔粘膜に誤接触を起こして危険である。
  • ②バキュームチップ、排唾管、ミラーなどは金属性の物を避け、プラスチック性のものを使用する。
  • ③金属性の補綴物や修復物にチップ先端が瞬間的に接触した程度ではほとんど問題はないといわれているが、これらへの接触は極力避ける。もちろん長時間の接触は行わない。
  • ④有髄歯への瞬間的な接触程度では歯髄に影響はないといわれているが、極力接触を避ける。あるいは長時間の接触を行わない。
  • ⑤可燃性薬品をそばに置かない。
  • ⑥本体アースを正しく接続する。

3. 電気メスの適応症
現在、歯科用電気メスは次のようなものに適応されています(図16~27)。
①歯肉切除(増殖性歯肉炎、歯間乳頭、智歯周囲の歯肉弁)
②歯肉形成
③膿瘍切開
④歯肉圧排
⑤歯冠長延長
⑥小帯整形術
⑦埋伏歯の露出
⑧止血

  • 高度の齲蝕写真
    図16 上顎右側中切歯、高度の齲蝕により歯冠崩壊が激しい。感染根管治療を行いたいが両隣接面より歯肉が増殖し、根管治療ができない。歯肉切除のため浸潤麻酔を施す。
  • 増殖歯肉を切除する様子
    図17 楕円形のチップを用いて近心側の増殖歯肉を切除。
  • 遠心側歯肉を切除する様子
    図18 同様にして遠心側歯肉を切除。
  • 切除直後の様子
    図19 切除直後の状態。
  • 開窓を行う様子
    図20 上顎両側中切歯の萌出遅延のため開窓を行う。
  • 浸潤麻酔を施す様子
    図21 手術野周囲に浸潤麻酔を施す。

4. 電気メスの禁忌症
歯科用電気メスは以下のものが禁忌症とされているので注意してください。

  • ①心臓ペ-スメ-カ-を入れている患者
    近年、日本人の食生活の欧米化により、日本人の心疾患が増加するとともに、心臓外科の発展により、心臓ペ-スメ-カ-を使用している患者が増えている。高周波電気メスはこの心臓ペースメーカーの機能を狂わす原因になるといわれているので、心臓ペースメーカーを使用している患者には絶対使用しないこと。医療従事者の中にも心臓ペースメーカーを使用している人がいるので注意が必要である。また、直接使用しないまでも、近くにこのような患者いるときは7m以上離れて使用すること。
  • ②耳下腺の処置
    耳下腺は顔面神経線維により取り囲まれているため、顔面神経麻痺が生じる危険がある。
  • ③潰瘍や悪性腫瘍の処置
  • ④炎症のある組織(膿瘍切開は除く)

■まとめ

以上、電気メスに関してその簡単な理論と臨床応用についてお話し致しました。
現在、電気メスと似たような目的を持つ機器として、歯科用レーザーが普及しつつあります。レーザー機器は多くの利点を持つとともに、非常に高価であること、また、発光ビームの種類によって、使用目的に制限を受けるなどの欠点も指摘されています。
しかし、電気メスは正しい知識と使用法を遵守すれば、安全で手軽に、しかも1台で汎用性のある機器として、今後も長く使用され続けるでしょう。

  • 左側切縁部の歯肉を切除する様子
    図22 左側切縁部の歯肉を切除。電気メス使用中は発煙するのでバキュームで煙を吸引しながら行う。バキュームの先端は非金属製のものを使用する。
  • 左側切縁部の歯肉を切除する様子
    図23 左側切縁部の歯肉切除
  • 両側歯肉切除直後の状態
    図24 両側歯肉切除直後の状態。
  • 歯肉増殖の様子
    図25 (ミラー像)上顎左側第一小臼歯の舌側咬頭から歯頸部にかけての歯冠破折により、歯肉増殖がみられる。
  • 増殖歯肉を切除する様子
    図26 浸潤麻酔下で増殖歯肉を切除。
  • 歯肉切除直後の状態
    図27 歯肉切除直後の状態。

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