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108号 SPRING 目次を見る

CLINICAL REPORT

K7におけるThe LVI Golden Shimbashiを利用した補綴処置

高松 尚史

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■目 次

■はじめに

正常な咬合機能は、機能的咬合系を構成する筋肉・顎関節・歯列の3つの機能ユニットがお互いに協調してはじめて営まれるものである。そこで、咬合の診査には、機能的咬合系のそれぞれのユニットに対して、客観的に評価することが必要となる。
つまり、広範な補綴処置を行うにあたり、変化しやすい下顎位が、どのような状態にあるか見極め、神経筋の生理的・機能的活動を重視した咬合へと再構築する必要がある。
それには、従来の静的な診査に加えて、術前・術中・術後の顎口腔機能を客観的に評価することにより、予知性の高い診断と治療が可能であると思われる。
モリタより、2002年に新しく発売されたK7 Evaluation System(図1)は、従来のシステムを継承・発展させた最新の下顎運動解析診断機器である。
K6I当時より使用されていたスキャンはそのままに、ハンドリングを改良してある。しかし、その中のScan5 には、初めて日本に発表された新しい概念が導入されていた(図23)。

  • [写真] K7 Evaluation System
    図1 K7 Evaluation System。
  • [写真] Shimbashi値入力画面
    図2 Shimbashi値入力画面。Scan5を選択すると、Shimbashi値入力画面が示され、患者の現在のShimbashi値を入力する。
  • [写真] Scan5
    図3 Scan5。画面左側に咬頭嵌合位からのShimbashi値が表示される。

■The LVI Golden Shimbashi

審美歯科が華やかなアメリカで見直されてきているのが、咬合の重要性である。生理的な下顎運動が行える環境でこそ、理想の審美が獲得できるのである。
The LVI Golden Shimbashiは、“ Shimbashi Number” と“ Golden Proportion”の理論から、LVI(The Las Vegas Institute for Advanced Dental Studies)の講師たち(Dr. William G. Dickerson、Dr. James Garry、Dr. Robert Jankelson)により完成された。
LVIは、Neuromuscular dentistryとGolden Shimbashiの研究のためだけに、広大な施設の追加を行った。そして、その臨床での有効性は、2001年LVIで証明された。
Shimbashi Numberの概念は、1983年にDr. Henry Shimbashiによって発表された。Dr. Henry Shimbashiは、1959年にAlberta大学歯学部を卒業し、現在はEdmonton(Canada)で仕事をしている。1972年にMKGをDr. Bernard Jankelsonが発表した後、彼の講義を受け、ともに研究するようになる。その中で、以下の結果が発見された。
・人種、年齢、性別、宗教を問わない400人以上のTMD患者をマイオモニター、MKG、EMGなどを用いて診査した。
・ほとんどすべてのTMD患者が、咬頭嵌合位でOvercloseであるのを見つけた。
・下顎が生理的安静位にある位置は、いずれもほとんど同じであり、上顎中切歯の正常な歯肉頂上から下顎中切歯の正常な歯肉頂上までが平均19mmである(図4)。
LVIでは、臨床的に容易に使用できるように、Shimbashi Numberに加えて、審美的基準として広く用いられているGolden Proportionの導入を試みた。
つまり、咬合高径を変化させるにあたり、審美的に満足のいく形態がとれるように考慮するのである。
Neuromuscular dentistryに対する間違った批判に、咬合高径に関する審美的問題がある。
The LVI Golden Shimbashiの完成で、その側面が解消された。いわゆる形態と機能の融合である。
・まず、安定しやすい咬頭嵌合位での上顎中切歯のCEJから下顎中切歯のCEJの距離を基準にした。
・咬頭嵌合位での上下中切歯の歯牙の見え方を利用した(図5)。つまり、上顎中切歯の理想的な長さに、1.618を掛けることにより、Shimbashi値を導くことができる。しかし、加齢や非機能的習慣のため、多くの歯が摩耗し、短縮している。そこで、
・上顎中切歯の理想的な長さ/幅の比を利用した(図6)。理想的な長さ/幅比が、75~80%とされているため、中間値の77.5%を利用し、理想的な幅から、長さを求めた。
・さらに、このようにして求めた位置をMKG、EMGを使用し、生理的な下顎位にあることを確認した。
それにより、審美的に機能的に満足のいく咬合高径の基準が求めやすくなった。
図7が、LVIによる手順である。
日本人に関しては、解剖学的な歯牙の測定によると、上顎中切歯歯冠の長さ/幅比は、0.74である(図8)。
しかし、口腔内での真正面からの測定では、歯の重なりなどから、長さ/幅比はかわる。
また、臨床的には、The LVI Golden Shimbashiを設定するにあたり、補綴可能範囲により、残存歯との形態的統一性を持たせるために、必ずしも理想的形態がとれない場合もある。
いずれにしても、従来は、下顎の垂直的位置を決定するために、マイオモニター、MKG、EMGなどを使用し、顔貌・歯冠/歯根長比・患者の希望・補綴の範囲・残存歯の状態・矯正などを考慮して行う必要があったが、The LVI Golden Shimbashiは、より簡単に審美的・機能的な位置を決めるすばらしいガイドラインとなる。

  • [写真] 下顎安静位における上下中切歯歯肉辺縁の距離
    図4 下顎安静位における上下中切歯歯肉辺縁の距離は、19mmである。
  • [写真] 上下前歯の重なり具合のGolden Proportion
    図5 上下前歯の重なり具合のGolden Proportion。
  • [写真] 上顎中切歯のGolden Proportion
    図6 上顎中切歯のGolden Proportion。
  • The LVI Golden Shimbashiの求め方
    図7 The LVI Golden Shimbashiの求め方。
  • 日本人の歯の大きさ
    図8 日本人の歯の大きさ。

■臨床例

The LVI Golden Shimbashiを利用したいくつかの臨床例を述べてみたい。K7におけるThe LVI Golden Shimbashiを利用したScan5 の使用方法は図9の通りである。
1)30歳代の女性は、2、3カ月に1回頭痛があり(内科で偏頭痛の診断)、寒いと顎関節痛がある。右顎関節雑音、軽い開口障害があり、咬み切りにくい、右頸部の痛みなどの症状を持つ。全顎的な補綴治療を念頭に下顎位の確定を行う。
①上顎中切歯の理想的幅の決定を行う。
今回は、形成前の中切歯の幅、側切歯との比などを参考にし、8.0mmと決める。
中切歯、側切歯歯肉の高さの不揃いがあることを、念頭におく(図1012)。
②The LVI Golden Shimbashiの決定を行う。LVIGS=8.0×2.08722≒17mm
下顎前歯の切端の摩耗により、Shimbashi 値が小さくなることが考えられるが、上顎中切歯の歯冠長が長いことで相殺されるとみた。
③Scan5 で咬合採得を行うにあたり、患者の現在のShimbashi値の入力を行う。
事前に、模型や口腔内で、測定しておく。値は14.7mmである。
K7では、Shimbashi 値の入力画面で小数点以下が入力できない。そこで、画面上の咬頭嵌合位におけるShimbashi値と実際の差を念頭に置く。
今回は、15を入力する。
④画面上で、咬合採得する位置は、誤差0.3mmを考慮して17.3mm付近とする。
安静位空隙量として1.5mm開口させ、そこでリラクゼーションを続ける。
もちろん、事前にマイオモニターにより、45分以上、筋のリラクゼーションをはかる必要がある。
⑤目標とする画面上のShimbashi 値17.3mmの位置のマイオトラジェクトリー上で、咬合採得を行う(図13の■の位置)。
咬合採得を行った位置で審美的機能的に良好なProvisional Restorationを装着する。その際、咬合器上で作成した咬合を壊さないように口腔内へ移行する(図1417)。
現在、下顎位も目的の位置に改善し、最終補綴への準備中であるが、症状はほとんどなく、審美的、発音、咀嚼など良好である(図18)。
2)40代の女性であるが、全顎的な補綴を望まれた(図19)。The LVI Golden Shimbashiが導入されていない時期に最初の咬合採得を行っている。
初診時の模型を参考に、当時のShimbashi 値を入力したところ、結局、最適な下顎位で咬合採得しているのを確認できた(図20)。
咀嚼運動も左右顎関節の動きの違いがみられるが、自覚症状もなく経過しており(図2122)、筋機能活動を確認するScan11も十分な状態を示している(図23)。
最終補綴物装着後のScan5も良好である(図24)。また、上顎中切歯幅は8.3mm、Shimbashi 値は17.3mmである(図2528)。
3)他にも診断用Wax Upなど、The LVI Golden Shimbashiの応用範囲は広いように思われる(図2930)。

  • Scan5のThe LVI Golden Shimbashi設定手順
    図9 Scan5のThe LVI Golden Shimbashi設定手順。
  • [写真] 初診時正面観
    図10 初診時正面観。現在のShimbashi値は、14.7mmであった。下顎の左への偏位がみられる。
  • [写真] 初診時上顎咬合面観
    図11 初診時上顎咬合面観。
  • [写真] 初診時下顎咬合面観
    図12 初診時下顎咬合面観。左側補綴物が破損し、咬合が低位となっている。
  • [写真] Scan5のSagittal画面
    図13 Scan5のSagittal画面。咬頭嵌合位でのShimbashi値は、実際には14.7mmである。
  • [写真] Provisional Restoration装着時
    図14 Provisional Restoration装着時。下顎の左への偏位が、多少是正されている。前歯の審美的要素も満足いくものである。
  • [写真] 上顎咬合面観
    図15 上顎咬合面観。
  • [写真] 下顎咬合面観
    図16 下顎咬合面観。
  • [写真] Provisional Restoration作成ためのWax Up
    図17 Provisional Restoration作成ためのWax Up。口腔への忠実な再現が必要である。
  • 目的の下顎位へ改善されている
    図18 目的の下顎位へ改善されている。
  • [写真] 初診時正面観
    図19 初診時正面観。不良な補綴物が多い。
  • 初診時の模型より当時のShimbashi値を入力すると、理想の下顎位で咬合採得を行っている
    図20 初診時の模型より当時のShimbashi値を入力すると、理想の下顎位で咬合採得を行っている。
  • レーズンの術後右咀嚼パターン
    図21 レーズンの術後右咀嚼パターン。
  • レーズンの術後左咀嚼パターン
    図22 レーズンの術後左咀嚼パターン。
  • 術後筋機能活動
    図23 術後筋機能活動。
  • 下顎位の改善がなされている
    図24 下顎位の改善がなされている。
  • [写真] 最終補綴物正面観
    図25 最終補綴物正面観。
  • [写真] 上顎中切歯幅は8.3mmであり、審美的に良好な状態を獲得できている
    図26 上顎中切歯幅は8.3mmであり、審美的に良好な状態を獲得できている。
  • [写真] Shimbashi値は17.3mm
    図27 Shimbashi値は17.3mm。
  • [写真] 術前と術後側方面観
    図28 術前と術後側方面観。
  • [写真] 初診時正面観
    図29 初診時正面観。義歯の破損により、咬合の低下が著しい。
  • [写真] インプラント診断用兼サージカルステント用Wax Up
    図30 インプラント診断用兼サージカルステント用Wax Up。

■まとめ

1. 下顎の生理的安静位における上下中切歯歯肉辺縁間距離は、約19mmである。
2. The LVI Golden Shimbashiは、経験に頼りがちな咬合高径の決定において、機能的・審美的に優れたガイドラインである。
3. The LVI Golden Shimbashi=上顎中切歯の理想的幅÷0.775×1.618
つまり、咬頭嵌合位の上下中切歯CEJ間距離は、上顎中切歯幅の約2倍の距離が基準となる。
4. K7を利用する場合、残存歯牙などのいろいろの要素から、The LVI Golden Shimbashiを求めて、Scan5 における咬合採得の目標値にする。

参考文献
  • 1) 藤田恒太郎:歯の解剖学, 金原出版,1978.
  • 2) Henry Shimbashi:TRACING MOVEMENT OF THE MANDIBLE FROM CENTRIC OCCLUSION TO MYOCENTRIC,1983.
  • 3) William G. Dickerson:The LVI Golden Shimbashi A New Discovery Using The Golden Proportion.

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