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108号 SPRING 目次を見る

TECHNICAL REPORT

歯冠用硬質レジン「エプリコード」を用いたジンジバルの臨床応用

大澤 孝

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■目 次

■はじめに

今やビジネスの現場では常識となりつつある口臭予防の観点からも、口腔内の清掃性を考慮して、少なくとも歯磨き用具が適正に使える歯冠形態(鼓形空隙やポンティック基底面など)を付与することが肝要である。
さて、最近の審美を追求した歯冠補綴物は目覚ましく進歩している。これらの補綴物は患者の期待に添うとともに、これから技工製作に従事するものにとって刺激にもなっている。そして、歯冠修復材料の進歩は今日の技工技術のレベルアップに繋がり、最終的に多くの患者に貢献していると思われる。かつて、歯冠補綴物の製作は形態や色調の再現に重点が置かれていたが、歯周組織との調和や清掃性も重視されてきた。高度な補綴が求められる臨床の場では、歯科技工士と歯科医師両者の綿密な連携がさらに重要になってきている。
本稿では、審美性と清掃性を考慮した前歯部硬質レジン前装冠の臨床例について紹介させていただく。いずれの症例も、「エプリコード」ジンジバルを積極的に応用している。

  • [写真] エプリコード
    エプリコード

■エプリコードの特徴

「エプリコード」のレジン築盛時の付形性は良好で、とくに切縁部の指状構造を形成するときに、複雑な形態が表現できる。
技工操作上の注意点として、複雑に形成された面へのレジン築盛で気泡を混入させないことである。この対策として、予め硬化したレジン面にリペアーリキッドを薄く塗布して、予備重合・硬化後のレジンと築盛ペーストとがなじむようにしておく。このリペアーリキッドを塗布する方法は一番目立つトランスペアレントやエフェクト、またはエナメル築盛に効果がある。「エプリコード」に限らず、レジン築盛時の気泡の混入はよくあるが、一回に盛り足したレジンを大きく広げると気泡が入る傾向にある。そのため、レジンの盛る量は築盛面に収まる外形程度とし、しかも、築盛レジンの辺縁部は硬化した下地のレジン面に移行的に圧接する。とにかく、予備重合時に気泡の原因になる隙間を作らないことも重要である。
「エプリコード」は低重合層が僅かで、従来のような余分な削合層が少なくて済む。これは築盛形態が見極められる効率的なレジン築盛が可能になる。また、近日発売予定の「エプリコード」ウエットタイプのエナメル及びトランスペアレントは、寒冷地(北海道)のような寒い作業環境などでのレジン築盛時に、レジンペーストが少し硬いといった状況に対応でき、しかも気泡が入りにくい特徴がある。

■エプリコードのジンジバルを用いた臨床応用

症例1. 錯覚による効果を狙った一技法

図1に示す症例(① ①)は正中離開が大きいため通常の中切歯形態が与えられない典型的なケースで、補綴処置でどこまで患者に審美上満足してもらえるかが問われた。この広い幅径に通常の大きさの歯を2本並べると、どうしても両隣接に間隙が生ずる。ワックスアップで色々な形態を付与・検討した結果、図2(唇側面観)図3(舌側面観)に示すように、中切歯と側切歯が双生歯のように重ねて並ぶ形態とした。
この形態付与法は、あたかも歯が2本存在するかのように見せかけることが狙いである。前装冠の歯頸部が癒着した形態は少し不自然で、もし患者が口を大きく開けると、それまでの術者の思わくがはずれてしまう心配がある。この不安を少しでも取払うために、意図的に歯肉色を歯頸部に設定した。
図4は予めワックスパターンの最終形態を採得したシリコーンコアを用いて、メタルフレーム前装部に21 12の歯頸ラインをポイントを使用して印を付け、歯冠部と歯肉色部の境界線を示している。
図5のように通法により、指定色のオペーク及びオペークモディファイヤーの塗布・重合を行う。このとき、「エプリコード」ジンジバルの築盛面はオペークモディファイヤーPを同時に塗布・重合する。正中の離開を避けるために、さらに左右不規則に傾斜排列した歯冠形態は苦肉の策で、その結果完成した硬質レジン前装冠を図6に示す。
他の形態付与もあろうかと思われるが、「エプリコード」ジンジバルを用いることによって錯覚効果が期待できる。
図79は支台歯2本に双生歯状の形態を付与した硬質レジン「エプリコード」前装冠の内側面観と、一見複雑な形態のように思われるが4歯分が一体化されて、清掃性も考慮して仕上げられた各部移行形態を示している。図10は硬質レジン前装冠の口腔内観である。

  • [写真] 作業用模型
    図1 作業用模型
  • [写真] ワックスパターン(唇側面)
    図2 ワックスパターン(唇側面)
  • [写真] ワックスパターン(舌側面)
    図3 ワックスパターン(舌側面)
  • [写真] メタルフレームと歯頸ラインの印記
    図4 メタルフレームと歯頸ラインの印記
  • [写真] オペークとオペークモディファイヤーPの塗布・重合
    図5 オペークとオペークモディファイヤーPの塗布・重合
  • [写真] 硬質レジン「エプリコード」前装冠の歯頸部一部にジンジバルを築盛
    図6 硬質レジン「エプリコード」前装冠の歯頸部一部にジンジバルを築盛
  • [写真] 前装冠の内面および基底面観
    図7 前装冠の内面および基底面観
  • [写真] 前装冠の唇側面観
    図8 前装冠の唇側面観
  • [写真] 前装冠の舌側面観
    図9 前装冠の舌側面観
  • [写真] 前装冠の口腔内観
    図10 前装冠の口腔内観
症例2. 前歯の歯頸ラインを揃える

図11は硬質レジン「エプリコード」前装ブリッジ(②1 ①2③)の左側犬歯()歯根部が、反対側の犬歯とその前後の歯と比べても長く、歯頸ラインから大きく外れている。
通常はこのまま歯根を露出させた形態にするが、左側犬歯()が目立って審美上好ましくない。そこで歯根相当部分に「エプリコード」シンジバルを築盛することで、同部位があたかも歯肉に埋まっているように見える。
このような症例は、もし歯肉が退縮して、支台歯左側犬歯()の歯根部が露出したとき、歯頸部に築盛した歯肉色のレジンが不自然に見えるといった不安も残るので、通常の口唇の位置では見えないことが条件である。また、図12に示す接着性ブリッジ(②1 ①)も同様に、ポンティック(1)が一歯だけ歯頸ラインからはみ出した歯根長形態になることを避けて、ポンティック基底部側に「エプリコード」ジンジバルを築盛して歯冠長を前後の歯牙に揃えた。

  • [写真] 前装ブリッジの左側犬歯の歯根部にジンジバルを築盛した例
    図11 前装ブリッジの左側犬歯の歯根部にジンジバルを築盛した例
  • [写真] 接着性ブリッジの症例
    図12 接着性ブリッジの症例
症例3. 清掃性を考慮した一体型ポンティック(その1)

図1316に示す口蓋裂の補綴、または抜歯後に歯槽骨が吸収されて顎堤の欠損が大きい場合、一般的な前歯部硬質レジン前装ブリッジのポンティック部の歯頸側に鼓形空隙を設けるなどの歯冠形態では、清掃面や審美面に問題が残ることが多い。
そこで図1416に示すように、硬質レジン「エプリコード」前装ブリッジ(③21 ①)のポンティック(21)を一体化することで、ポンティックの表面積と入り組んだ鼓形空隙の清掃箇所が減ると同時に、ポンティック周辺に食物残滓が溜りにくくなる。イラスト図Aは従来型と一体型の違いを示す。

  • [写真] 作業用模型
    図13 作業用模型
  • [写真] 前装ブリッジのメタルフレームと一体型ポンティック
    図14 前装ブリッジのメタルフレームと一体型ポンティック
  • [写真] 前装ブリッッジの舌側面観
    図15 前装ブリッッジの舌側面観
  • [写真] 前装ブリッジの唇側面観
    図16 前装ブリッジの唇側面観
  • [イラスト] 図A
    イラスト図A
症例4. 強度的に有利な一体型ポンティック(その2)

図1719は症例3と同様の考えで製作した、一体型ポンティックの硬質レジン「エプリコード」前装ブリッジ(③21 ①)の症例である。図17は硬質レジン前装ブリッジの作業用模型唇側面観を示す。同ブリッジのポンティック基底面観を図18に示し、このポンティックの鼓形空隙部に「エプリコード」ジンジバルを埋めて隙間を作らない形態とした。この一体型ポンティック形態はイラスト図B -イ(隣接面)・ロ(唇側面)に示すように、食物残滓が溜りやすい鼓形空隙が減ることで、自浄性も向上すると考えられる。また、ブリッジポンティックのメタルフレームが歯冠隣接部の狭窄がなく一定の幅が得られ、構造的に強固な前歯部ロングポンティックブリッジの製作にも有利である。この一体型ポンティックは「エプリコード」ジンジバルを併用することでより自然な歯冠形態に見え、審美的に満足できるものが製作できると考えられる。
図19は症例4の口腔内観を示す。

  • [写真] 前装ブリッジのポンンティックにジンジバルを築盛
    図17 前装ブリッジのポンンティックにジンジバルを築盛
  • [写真] ポンティックの基底面観とジンジバル
    図18 ポンティックの基底面観とジンジバル
  • [写真] 前装ブリッジの口腔内観と一体型ポンティック
    図19 前装ブリッジの口腔内観と一体型ポンティック
  • [イラスト] 図B
    イラスト図B
症例5. 前歯部硬質レジン前装冠を装着した口腔内の明度を上げる効果

症例1から4まで硬質レジン「エプリコード」前装冠の歯頸部に「エプリコード」ジンジバルP1・P2を用いて、審美・清掃・構造面などで効果が得られた。
図2021に示す症例は、ハイブリッドセラミックス「エステニア」の前装冠(⑦⑥③②① ①②③⑥)で、「エプリコード」と同様に清掃性・審美性を考慮して作製した。図20は前装冠連結部の歯頸側をマージンに向かって絞り込んだ通常の形態で口腔内に仮装着した状態を示す。次に、図21は前装冠連結部の鼓形空隙部に「エプリコード」ジンジバルを築盛した後の口腔内観を示す。実際に口腔内観を確認したところ、図21に示す前装冠の歯頸部付近が図20よりも明るく見られた。黒く影ができる鼓形空隙部分を埋めるように「エプリコード」ジンジバルを築盛することで、光の反射によって前装冠が明るく見えると考えられる。
引き続き、シェードスキャンシステム(モリタ社発売予定)などを使った客観的な明度測定によって、「エプリコード」ジンジバルの効果について確認する必要があると考えている。

  • [写真] ジンジバルなし前装冠の口腔内観
    図20 ジンジバルなし前装冠の口腔内観
  • [写真] ジンジバルを付与した前装冠の口腔内観
    図21 ジンジバルを付与した前装冠の口腔内観

■おわりに

最近の歯冠修復材料の進歩とともに、歯科技工の可能性が広がりつつあり、本稿で述べた「エプリコード」ジンジバルは物性的にも優れ、今後の審美修復材料の一つとして高度な補綴臨床で必要不可欠なものになると考えられる。
本稿で紹介した錯覚効果を期待する技法は、「エプリコード」ジンジバルを併用することで生きてくる。患者の満足度を上げる観点から、臨床現場で悩まれる術者にとって、この「エプリコード」ジンジバルはいつも強い味方になってくれることでしょう。最後に、本稿の執筆に際して写真提供などご協力いただきました北海道大学歯学部附属病院勤務の山路公造先生・飯田俊二先生・奥田耕一先生はじめ同病院のスタッフの方々に感謝申し上げます。

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