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TRENDS

フッ素系モノマーを採用した義歯床用裏装材「マックスフィット」について

早川 巖

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■目 次

■はじめに

近年の医学の発展、食生活の向上などにより平均寿命は長くなり、義歯使用患者が増加している。これに伴い、義歯使用年数も延びる傾向にある。このような高齢社会を迎え、適合性の良い義歯を提供することは高齢者のQOLを向上させる観点からますます重要となるであろう。
しかし、義歯使用患者の顎提は、加齢などによる歯槽骨の吸収により徐々に変化するので、義歯の適合が悪くなってくる。その結果、痛い、よく噛めない、喋りづらいなどの症状が生じることとなる。これらの症状を取り除くには適合の良い状態に戻すことが必須となる。
義歯の再適合を達成するためには、新しい義歯を作製することになるが、不適合が著しいものでなければ使用中の義歯をリライニングする方法が一般にはとられている。リライニングには直接法と間接法があるが、義歯を預かることなく簡便に適合の良い状態にできるという点から、直接法が広く用いられている。
この度、直接法リライニングのための義歯床用裏装材「マックスフィット」(図1)がクラレメディカル(株)から発売された。そこで、ここでは「マックスフィット」の優れた性質を中心に紹介する。

  • [写真] マックスフィット
    図1 マックスフィット

■フッ素系モノマーを採用した「マックスフィット」の開発

義歯床用裏装材の具備すべき条件としては、適合性、接着性、硬度、操作性などが優れていることが必須であるが、さらに「汚れにくい、刺激が少ない」という点についても考えなければならない。
マックスフィットはリキッドに配合する成分として撥水性を有するフッ素系モノマーに着目し、汚れにくく刺激の少ない義歯床用裏装材を目指して開発されたものである。
新規モノマーを採用すると同時に、パウダー、接着材にも改良を加えることにより、適合性、接着性、表面硬度、操作性という点でも優れた義歯床用裏装材となっている。
一方、基本術式は従来の硬質裏装材とほぼ同じである(図2)が、簡便化が図られている。このため、これまでリライニングを行ってきた臨床医はもとより初心者にとっても「マックスフィット」は馴染みやすい材料であると思われる。
操作の簡便化ということでは、最終硬化を口腔内でも温水中でも実施でき、しかも硬化促進剤が不要である点が挙げられる。
また、パウダー量を計量容器に指示された範囲に従い加減することで、ペースト性状を好みの軟らかさに簡単に調節することができる(図3)。

  • [図] 操作ステップ
    図2 操作ステップ
  • [図] パウダーの計量
    図3 パウダーの計量

■「マックスフィット」の特性

1. 患者に優しい裏装材

1)優れた耐汚染性(耐着色性、耐着臭性)
食物残渣や微生物などの義歯床汚染原因物質は、義歯床の表面だけでなく内部にまで侵入することが明らかにされている。
マックスフィットはフッ素系モノマーを採用することにより、汚染原因物質の浸透を最小限に抑え、優れた耐汚染性(耐着色性、耐着臭性)を達成することができた(図4)。
図5よりフッ素系モノマーを用いたマックスフィットは吸水性が従来製品に比べて低いことが分る。
吸水量が減少すれば、内部に浸透する汚染原因物質量も減り、耐着色性、耐着臭性が向上するものと考えられる(図6)。
耐着色性を確認するための試験として、カレーに含まれる主な色素であるターメリックの水溶液に各種裏装材を用いて作製した試験片を浸漬し、着色性を比較した。
その結果、マックスフィットは耐着色性が従来製品に比べて優れていることが示された(図7)。
また、口臭の原因物質の一つと考えられているメチルメルカプタンに対する着臭性についても各種裏装材と比較したところ、マックスフィットは耐着臭性にも優れていることが明らかとなった(図8)。
着色、着臭の大きさと吸水量との間に高い相関が認められることから、マックスフィットの優れた耐着色性、耐着臭性はフッ素系モノマーの添加によるものと考えられる。
2)低刺激性、低発熱性
直接法でリライニングを行う場合、口腔内への挿入時に感じる刺激や苦味は患者にとって苦痛の種である。
マックスフィットはフッ素系モノマーを採用したことにより、義歯床用裏装材特有の刺激や苦味を最小限に抑えることに成功した。
近年、低刺激性の材料が広く用いられているが、マックスフィットは従来製品よりもさらに刺激や苦味が少ない材料である。
また、マックスフィットは硬化時の発熱も少なく、発熱温度は高くても体温程度までである(図9)。そのため、口腔内で最終硬化させる時も発熱による不快感は非常に少ない。
これらの低刺激性、低発熱性というマックスフィットの特性は患者のリライニング時の苦痛を大幅に軽減できると思われる。

2. 適合性の良い裏装材

硬化後の裏装面の適合性の良否は義歯の維持力を大きく左右する。
山型模型を用いて裏装状態を模倣した適合試験では、従来製品と比較してマックスフィットは優れた適合性を示した(図10)。
最終硬化を口腔内で実施すれば、顎提に裏装面が接したままで重合されることになり、重合変形がより抑制されることとなる。

3. 操作性に優れた裏装材

1)優れた操作性
直接法によるリライニングにとってペーストが適切なタイミングで粘度を増し、硬化することは非常に重要である。特に印象時には、それに適した流動性を一定時間保つことが望まれる。
マックスフィットではパウダーとリキッドのなじみ方をコントロールすることにより、印象操作時に最適な粘度の上昇を示すように設計されている。
パウダーとリキッドの混和直後は粘度が低いので、気泡が入りにくい。しかし、義歯床への盛り上げ後は速やかに粘度が上昇し、その粘度を一定時間保つため、機能運動のための時間を十分に確保することができる。
その後、速やかに硬化するので、硬化促進剤を使用しなくとも十分な硬化を達成することができる。その硬度も従来製品と比べて十分なものである(図11)。
また、マックスフィットは硬化反応を視覚的に確認ができるという便利な特性を有している。パウダーとリキッドの混和直後は白っぽいピンク色をしているが、最終硬化が完了すると透明性の高いピンク色に変化する(図12)ので、最終硬化の終了を簡単に確認することができる。
硬化後は透明性の高いピンク色であるため、様々な義歯床の色調に合わせやすく、審美的にも優れている(図13)。
なお、硬化性に優れているため、形態修正時に切削くずのカーバイドバーへの絡みつきが少なく、切削感も良好である(図14)。
2)優れた接着性
マックスフィットはレジン床、金属床の両方に対して、既存製品と比べても遜色ない十分な接着性を有している(図15)。
一方で、接着材を用いて接着するように設計されているため、印象時に接着材を塗布していない部分に流れ出た余剰レジンは容易に除去することができる。
接着材を塗布した面は滑沢になるので、塗布部分を容易に確認することができるため、従来製品に多かった塗布部分を見失うということがなく扱いやすい(図16)。

  • [図] 優れた耐汚染性(耐着色性、耐着臭性)
    図4 優れた耐汚染性(耐着色性、耐着臭性)
  • 図6
    図6
  • [図] 吸水量
    図5 吸水量
  • [図] 着色量
    図7 着色量
  • [図] 着臭量
    図8 着臭量
  • [図] 硬化発熱温度
    図9 硬化発熱温度
  • [図] 適合性
    図10 適合性
  • [図] 硬度
    図11 硬度
  • [写真] 硬化反応を視覚的に確認することが可能図
    図12 硬化反応を視覚的に確認することが可能
  • [図] 義歯床に合わせやすい色調
    図13 義歯床に合わせやすい色調
  • [図] せん断接着試験 PMMA
    図15a せん断接着試験 PMMA
  • [図] せん断接着試験 貴金属(金銀パラジウム合金)
    図15b せん断接着試験 貴金属(金銀パラジウム合金)
  • [図] せん断接着試験 卑金属(コバルトクローム合金)
    図15c せん断接着試験 卑金属(コバルトクローム合金)
  • [写真] バーへの絡みつきがなく、良好な切削性
    図14 バーへの絡みつきがなく、良好な切削性
  • [写真] 接着材塗布部分の確認が容易(左側:塗布面)
    図16 接着材塗布部分の確認が容易(左側:塗布面)

■まとめ

新しい義歯床用裏装材「マックスフィット」の持つ性質を紹介してきた。特にフッ素系モノマーをリキッド成分として採用したことにより、汚れ易い、刺激や苦味があるという従来の義歯床用裏装材の欠点をかなり克服できたことは特筆すべきことである。しかも優れた操作性を有しているため、臨床医の方々にも扱いやすい材料であると確信している。
本稿が日々の診療におけるリライニングをさらに快適なものとし、患者のQOLを向上させる一助となれば幸いである。

参考文献
  • 1) 秋葉徳寿、柯 恩生、早川 巖、畑中憲司:フルオロカーボン鎖を導入した義歯床用裏装材.歯科材料・器械 Vol.21:323-327,2002.

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