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111号 SPRING 目次を見る

CLINICAL REPORT

高いX線造影性を有する新規フロアブルコンポジット“クリアフィルフローFX”を用いた臨床

山田 敏元

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■目 次

■はじめに

近年、日本を始めとする先進国においては、歯科診療の内容が大きく変化しつつあります。すなわち、修復治療ではその対象となるう蝕や実質欠損が比較的初期のものあるいは小さなものとなっていますし、高齢者に対する義歯治療においても、固定式のブリッジやインプラントの希望が著しく増加しています。
特に一般の歯科臨床家にとって、最も使用頻度の高い修復材料は、米国はもちろんヨーロッパ諸国においても既にアマルガムから接着性のコンポジットレジンにシフトしています。
この様な接着性レジンのボンディングシステムやコンポジットレジンについて、過去20年以上にわたりクラレメディカル社を初めとする日本の歯科材料メーカー各社の最新の技術によって生み出されてきた各種の歯科材料製品が現在の世界の歯科臨床を支えているといって言い過ぎではないでしょう。
この様な状況の中で、現在日本の歯科臨床において修復対象となっている比較的初期のう蝕や歯頸部の楔状欠損を始めとする実質欠損の治療において、従来のシリンジやカンピュールで供給されていたコンポジットレジンのペーストでは充填に際して窩洞の幅が小さいためと、レジンペーストが比較的硬いため填入に困難さを感じており、そのため金属ニードルによるダイレクトアプリケーションシリンジにより供給される粘稠度の低いフロアブルコンポジットレジンが、10年前より内外各社から市販されるようになっていました。
本邦においても過去2、3年の間にこのダイレクトアプリケーションシリンジにより供給されたフロアブルコンポジットレジンにより比較的窩洞幅の小さなものを修復しようという機運が高まり、現在では従来のコンポジットレジンのペーストと同様広く臨床家に用いられるようになっています。
このたびクラレメディカル社によって開発、モリタ社から市販されることになったフロアブルコンポジットレジン“クリアフィルフローFX”は、アルミニウムの2倍以上という高いX線造影性を有し、修復対象となる窩洞が小さいため、従来のフロアブルコンポジットレジンでは造影性を有しているにもかかわらず、レントゲン写真上で明瞭に確認することが難しいような症例においても十分X線不透過性を発揮するように設計されています。
本報においては、最新のフロアブルレジン“クリアフィルフローFX”の臨床応用について、基礎的な知見を踏まえながら解説してみましょう。

  • [写真] クリアフィルフローFX
    クリアフィルフローFX

■1. クリアフィルフローFXの基礎的性能について

1)クリアフィルフローFXの組成

クリアフィルフローFXの組成は、レジン成分として、UDMA(ウレタンジメタクリレート)、TEGDMA(トリエチレングライコールジメタクリレート)などのジメタクリレート、フィラー成分として、バリウムガラス、シリカのマイクロフィラー、グラスアイオノマーフィラー、ランタノイドフッ化物が、その他触媒、顔料、安定剤を含有しており、フィラー重量含有率は65%である。
この硬化物をFE-SEM(フィールドエミッションSEM)観察した像を図12に示す。
図1は3,000倍像で、非常に細かい各種のフィラーが密に配合されていることが明らかとなった。
倍率をあげた図2の8,000倍では、1、2ミクロンの不定形フィラーの周りを非常に細かい比較的丸みを帯びた多くのフィラーが取り囲んでいた。
これらの電子顕微鏡像から、比較的高い機械的性能と、良好な研磨性が予想される。

  • [写真] クリアフィルフローFX硬化物のFE-SEM像(×3,000)
    図1 クリアフィルフローFX硬化物のFE-SEM像(×3,000)、非常に細かい各種のフィラーが密に配合されている。
  • [写真] クリアフィルフローFX硬化物のFE-SEM像(×8,000)
    図2 クリアフィルフローFX硬化物のFE-SEM像(×8,000)、1、2ミクロンの不定形フィラーの周りを非常に細かい比較的丸みを帯びた多くのフィラーが取り囲んでいる。
2)クリアフィルフローFXの機械的性能

クリアフィルフローFX硬化物の圧縮強さは、279MPaであり、これは前歯用のコンポジットレジンのそれに匹敵し十分な機械的性能を示している。
その他、曲げ強さは113MPa、曲げ弾性率は5.6GPaであり、これも前歯用のコンポジットレジンのそれに匹敵している。
ビッカース硬度は39.2Hvであり、フロアブルレジンといえども口腔内で十分に機能する機械的性能が与えられている。

3)クリアフィルフローFXのX線造影性

クリアフィルフローFXのX線造影性はアルミニウムの2倍以上といわれているため、実際に新鮮抜去歯に各種窩洞を形成し、対照として造影性があるといわれている製品も比較に用いて修復を行った。
これらの歯牙のレントゲン撮影を行い比較した(図35)。
図3は、犬歯に3級窩洞を形成し修復した。
左側の歯牙は1mm強の浅い窩洞、右側の歯牙は2mm弱の深い窩洞であり、いずれもその左側の窩洞がクリアフィルフローFXで、右側の窩洞が他社の製品によって修復されている。
図から明らかなように、クリアフィルフローFXは、3級窩洞では明瞭なX線造影性を示した。
図4は、下顎の前歯の歯頸部に深さ幅ともに0.5mm強の楔状欠損窩洞を形成した。
左の歯牙がクリアフィルフローFXによる修復、右の歯牙が他社の製品による修復であり、図に明らかなようにクリアフィルフローFXは、歯頸部窩洞においても明瞭なX線造影性を示した。
図5は、下顎大臼歯の咬合面の裂溝部に幅深さともに1mm強の1級窩洞を形成して修復したものである。
左の歯牙がクリアフィルフローFXによる修復、右の歯牙が他社の製品による修復である。
これまでの窩洞ほど明瞭ではないが、左側のクリアフィルフローFXによる修復の方が僅かに明瞭なX線造影性を示した。これは窩洞が殆どエナメル質の中にあったためであろう。

  • [写真] 犬歯に3級窩洞を形成し修復 左側の歯牙は1mm強の浅い窩洞、右側の歯牙は2mm弱の深い窩洞
    図3 犬歯に3級窩洞を形成し修復した。左側の歯牙は1mm強の浅い窩洞、右側の歯牙は2mm弱の深い窩洞であり、いずれもその左側の窩洞がクリアフィルフローFXで、右側の窩洞が他社の製品によって修復されている。クリアフィルフローFXは、他社のものに比べてより明瞭なX線造影性を示した。
  • [写真] 下顎前歯の歯頸部に深さ幅ともに0.5mm強の楔状欠損窩洞を形成 左の歯牙がクリアフィルフローFXによる修復、右の歯牙が他社の製品による修復
    図4 下顎前歯の歯頸部に深さ幅ともに0.5mm強の楔状欠損窩洞を形成した。左の歯牙がクリアフィルフローFXによる修復、右の歯牙が他社の製品による修復であり、明らかなようにクリアフィルフローFXは、歯頸部窩洞においても明瞭なX線造影性を示している。
  • [写真] 下顎大臼歯の咬合面の裂溝部に幅深さともに1mm強の1級窩洞を形成して修復 左の歯牙がクリアフィルフローFXによる修復、右の歯牙が他社の製品による修復
    図5 下顎大臼歯の咬合面の裂溝部に幅深さともに1mm強の1級窩洞を形成して修復した。左の歯牙がクリアフィルフローFXによる修復、右の歯牙が他社の製品による修復である。これまでの窩洞ほど明瞭ではないが、左側のクリアフィルフローFXによる修復の方が僅かに明瞭なX線造影性を示している。
4)クリアフィルフローFXのシェード構成について

クリアフィルフローFXのシェードは、A2、A3、A3.5、ホワイトの4種である。これらで殆ど全ての適応症例がカバーされる。

5)クリアフィルフローFXの適応症例

フロアブルコンポジットレジンはその開発目的のとおり粘稠度を比較的低く設定してあるため、幅や深さの小さな窩洞が適応となる。
1級の窩洞では、小窩裂溝で形成された窩洞の最終的な幅が最大2mmまで、2級窩洞では隣接面に終始する場合、3級窩洞では比較的小さなもので、口蓋側に大きく抜けていないのも、5級、歯頸部窩洞、根面窩洞でも比較的小さな窩洞が修復対象となる。
その他比較的大きな窩洞のライニングにも用いられる。

■2. クリアフィルフローFXの臨床応用について

クリアフィルフローFXを用い、クラレメディカル社のボンディングシステムであるクリアフィルメガボンドを併用した場合の上顎前歯、小臼歯の歯頸部の楔状欠損の症例の術式を図615に示す。
その他の症例を図16以降に示す。
いずれも簡便な手順で、なおかつ極めて容易に接着性コンポジット修復が行われ、審美的な結果に患者さんの満足度も大きかった。

  • [写真] 上顎左側切歯、犬歯、小臼歯の歯頸部の楔状欠損
    図6 上顎左側切歯、犬歯、小臼歯の歯頸部の楔状欠損。
  • [写真] 通法にしたがって、ダイヤモンドポイントにより表面を一層削除
    図7 通法にしたがって、ダイヤモンドポイントにより表面を一層削除。
  • [写真] クリアフィルメガボンドプライマーによる窩洞の面処理
    図8 クリアフィルメガボンドプライマーによる窩洞の面処理、20秒間放置する。次いで弱圧エアーにより溶媒を飛ばす。
  • [写真] クリアフィルメガボンドのボンド塗布、弱圧エアーにより薄く延ばす
    図9 クリアフィルメガボンドのボンド塗布、弱圧エアーにより薄く延ばす。
  • [写真] 光重合する(10秒間)
    図10 光重合する(10秒間)。
  • [写真] クリアフィルフローFXをダイレクトアプリケーションシリンジから直接充填する(シェード:A3.5)
    図11 クリアフィルフローFXをダイレクトアプリケーションシリンジから直接充填する(シェード:A3.5)。
  • [写真] 光硬化の後、スーパーファインのダイヤモンドポイントにより仕上げする(FO-40EF、マニー社)
    図12 光硬化の後、スーパーファインのダイヤモンドポイントにより仕上げする(FO-40EF、マニー社)。
  • [写真] ダイヤモンド研削粒子を含有するシリコンポイント、ダイヤグロス1933による粗研磨
    図13 ダイヤモンド研削粒子を含有するシリコンポイント、ダイヤグロス1933による粗研磨。
  • [写真] ダイヤモンド研削粒子を含有するシリコンポイント、ダイヤグロス19033による最終研磨
    図14 ダイヤモンド研削粒子を含有するシリコンポイント、ダイヤグロス19033による最終研磨。
  • [写真] 修復終了
    図15 修復終了。
  • [写真] 左上顎第一小臼歯の歯頸部のう蝕
    図16 左上顎第一小臼歯の歯頸部のう蝕。
  • [写真] 窩洞形成終了
    図17 窩洞形成終了。
  • [写真] 修復終了(シェード:A3)
    図18 修復終了(シェード:A3)。
  • [写真] 左上顎中切歯遠心の小さなう蝕(3級窩洞)
    図19 左上顎中切歯遠心の小さなう蝕(3級窩洞)。
  • [写真] 窩洞形成終了
    図20 窩洞形成終了。
  • [写真] 修復終了(シェード:A2)
    図21 修復終了(シェード:A2)。
  • [写真] 左上顎第一大臼歯口蓋根露出部のう蝕
    図22 左上顎第一大臼歯口蓋根露出部のう蝕。
  • [写真] クリアフィルフローFX(シェード:A3)によるライニング
    図23 クリアフィルフローFX(シェード:A3)によるライニング。
  • [写真] クリアフィルST(シェード:A3.5)の修復後仕上げ研磨したところ
    図24 クリアフィルST(シェード:A3.5)の修復後仕上げ研磨したところ。
  • [写真] 下顎前歯部切縁のう蝕
    図25 下顎前歯部切縁のう蝕。
  • [写真] 窩洞形成終了
    図26 窩洞形成終了。
  • [写真] 修復終了(シェード:A3)
    図27 修復終了(シェード:A3)。
  • [写真] 左上顎第一大臼歯咬合面のインレー脱落後のう蝕
    図28 左上顎第一大臼歯咬合面のインレー脱落後のう蝕。
  • [写真] 感染歯質除去後、クリアフィルフローFX(シェード:A3)によるライニング
    図29 感染歯質除去後、クリアフィルフローFX(シェード:A3)によるライニング。
  • [写真] クリアフィルAP-X(シェード:XL)による修復後仕上げ研磨したところ
    図30 クリアフィルAP-X(シェード:XL)による修復後仕上げ研磨したところ。

■まとめ

今回発売されたクリアフィルフローFXは高いX線造影性を有し、僅かであるが、配合されたフィラーからのフッ素徐放性をも有している。
色調適合性、研磨性も良好で、ダイレクトアプリケーションシリンジから直接窩洞に搬送、填入しやすく臨床操作性は非常に良好である。
う蝕、歯頸部の実質欠損も比較的初期のうちに修復しておくと、さらにそれ以上に進行を抑えることができる。
この様な非常に臨床操作性のよい、また審美的で簡便なシステムがさらに臨床の現場で多用され、国民の口腔健康の増進に役立つことを願い、稿を閉じます。

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