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112号 SUMMER 目次を見る

CLINICAL REPORT

院内ネットワークと歯科医療

宮内 修平

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■目次

■1. はじめに

パーソナル・コンピュータの発達に伴い、あらゆる業界で急速にデジタル化が進んできた。
我々歯科の分野でも数年前にデジタルX線画像システム(院内LANによる)が実用化されて以来、徐々に臨床の場に普及しつつある。
既存のフィルム現像タイプに比較してX線照射量(被曝量)が少ない、撮影から画像化までの時間が短い、画像処理機能を使うことで診断がしやすい、患者に対する情報提供が確実である等々、多くのメリットのため、その価値が多いに評価されてきた。
今回は、歯科臨床の場でのデジタルX線画像システムの活用に関して臨床例を通して紹介したい。

■2. デジタルX線システムのための院内ネットワーク

院内におけるネットワーク(Local Area Network)によってサーバー(親機)とクライアント(子機)の関係ができあがる。
すなわち、受付でのコンピュータ(図1)によって患者さんの住所、氏名、保険証の事項等の登録を行うと、直ちにそのデータがサーバーに入力され、保存される。また、パノラマX線撮影(図2)あるいはデンタルX線撮影によって、その画像データがサーバー(図3)に取り込まれる。
さらに、口腔内写真の画像データやカルテ記載がどのクライアントからでも同様に入力することができる(図4)。そして各患者に通し番号(ID番号)を付与することによってカルテと画像データとに互換性ができる。すなわち、ある患者のID番号を入力することによって、その患者のカルテのデータや画像のデータを必要に応じてどの端末(図5)からでも瞬時にディスプレイ画面上に出すことができる(図6)。


  • 図1

  • 図2

  • 図3

  • 図4

  • 図5

  • 図6

■3. デジタルX線システムのメリット(フィルム現像タイプと比較して)

患者、歯科医師、スタッフの3者に分けてそれぞれに対するメリットについて考えてみたい。
患者側のメリットとしては、まずX線照射量(被曝量)が非常に少ないということである。具体的には、パノラマで約1/2(最新機種は1/4)、デンタルで約1/4の照射量でよい(従来E感度フィルム比)(図7)。さらに、X線画像や口腔内写真画像が見やすいため口腔内の状態を理解しやすいことである。
術者側のメリットとしては、撮影から画像化になるまでの時間が短いことである。そのため診療時間が非常に節約できる(図8)。また、画像を必要に応じて調整することによって患者に対して説明がし易いこと。これは適切なインフォームド・コンセントに繋がる訳で、患者と術者とが同じ目線でやりとりができる(図9)。すなわち、従来のような患者と先生の間の壁がなくなるということでもある。また、画像処理機能を使うことで術者側の診査・診断にとっても有利である。さらに、画像データの収納、検索が容易であることも大きな利点である。
スタッフのメリットとしては、現像操作がないため液の交換や現像機の掃除、フィルムの管理等の必要性がなく、他に時間を使うことができる。また、撮影部位に間違いさえなければ失敗はない。現像不用ということで廃液処理も不要なため環境汚染も軽減できる。

○デジタルとアナログの違いと臨床上の意義
情報量という点ではアナログの方が勝っているという話もあるが、臨床における通常の使用に際してはデジタルによる情報量でも十分であると思われる。一方、デジタルの場合はディスプレイ画面上で画像拡大や濃淡調整や白黒反転など種々の操作が可能であるために見やすく患者にも説明しやすい(図10)。
また、フィルムは経時的劣化は避けられないが、デジタルデータは不変であるし、簡単にコピーすることも可能である。


  • 図7

  • 図8

  • 図9

  • 図10

■4. 歯科治療におけるデジタルX線システムの関わり(症例とともに)

実際の臨床例について、院内ネットワークをどのように使っているか紹介させていただき、歯科治療におけるデジタルX線システムとの関わりを知っていただきたい。

<症例1>
40歳、男性、主訴は下顎右側臼歯部が最近冷たいものにしみるようになった。問診に続いてパノラマおよび局所のデンタルX線撮影を行った(図11)。
その結果、下顎右側第二大臼歯近心部に二次カリエスの存在を認めた。よく見えるように拡大した。さらには輪郭をより鮮明にするためシャープネスの効果をクリックした。これで患者にはカリエスの存在ならびにその範囲がよく理解できる(図11)。さらに線引きをクリックしてマウスによってカリエス範囲と新たな窩洞形成ラインを線で明示した(図1213)。
これで患者はカリエスの状態とその治療に関して十分に納得できるわけである。

<症例2>
29歳、女性、主訴は上顎左側臼歯部が最近しみるようになったとのこと。
パノラマおよびデンタルX線撮影によって上顎左側第二小臼歯にカリエスの存在を確認したため、さらに、口腔カメラ・ペンスコープにてその部位を撮影し、直ちにディスプレイ上に画像を明示し、患者に見せた(図14)。
次にカリエス部分のエナメル質を削除し(図15)、象牙質に及んでいる病変部をカリエス検知液で染め出しながら慎重に除去していった。途中の状態は必要に応じてぺンスコープで撮影し、そのつど患者に見てもらった(図16)。
カリエスが歯髄に及んでいたため抜髄することとなったが、患者は十分に納得の上治療が進められた。

<症例3>
63歳、女性、上顎右側臼歯部の頬側歯肉の腫脹を主訴として来院した。
X線画像から上顎右側第一小臼歯歯根周囲に大きな病巣を認めた(図1718)。
患者に説明した後、ポストコアとクラウンを撤去した。残存歯根面をペンスコープで撮影した。歯根が真二つに破折している状態が画像ではっきりと確認できた(図19)。
患者も確認の上、直ちに抜歯することに対しても十分に理解を示した。

<症例4>
51歳、女性、主訴はうまく食物が噛めないということであった(図20)。
パノラマX線撮影および診断用模型のための印象を行った。患者は上下顎ともに片側遊離端欠損で、上顎は左側欠損、下顎は右側欠損すなわちすれ違い咬合状態であった。
パノラマX線画像を見るや否や患者から咬合平面の乱れを指摘されるほど欠損部の対合歯の挺出が顕著である(図21)。ことに右側の場合、上顎臼歯と欠損部粘膜との間にはわずか1.5~2mm程度のクリアランスしかなく、このままでは補綴は困難である。
そこで、パノラマX線画像をもとに治療計画について話し合った。治療によって咬合平面を整えること、そのためには挺出歯を保存するか抜歯するかの選択肢があること、保存する場合は歯周外科(歯冠長延長術)が必要であること、それに付随するリスク等々の説明をした。
その際、将来的な咬合平面と思われる位置に画像上で線引きをすることで患者により良い理解を求めた(図22)。
その結果、上顎右側3歯、下顎左側1歯を抜歯することとした(図23)。抜歯後上顎には暫間の両側遊離端義歯を装着した。
その結果以前に比べてよく噛めるようになった。その状態でしばらく調整を行い、欠損部歯槽堤の安定を待って最終補綴を行った(図24)。

<症例5>
55歳、女性、主訴は下顎の左右側臼歯欠損部にインプラント希望(図25)。
初診時のパノラマX線画像上でインプラント植立状態を手書きし(図26)、さらにインプラントのツールによって実物に即した断面図を画像上に貼り付け、診断に利用するとともによりリアルに患者に説明した(図27)。
後に実際にインプラント植立後のパノラマX線画像(図28)と初診時のそれとを比較するため同一画面上にこれらを上下に配置し、事前に説明した通りインプラントが植立されたことを説明した(図29)。

<患者への説明用として活用>
前歯の審美的治療を希望して来られた患者に対し、過去に自分が行った同様の審美治療例の口腔内写真を検索の上呼び出してお見せし、説明することにより具体的な治療計画をビジュアルに患者に提示することができる。
そのように過去の治療例を項目別に分類して保存しておけば後で来られる患者に対して治療結果をビジュアルに想定することができ、カウンセリングとしてきわめて有効な手段となりうる(図3035)。


  • 図11

  • 図12

  • 図13

  • 図14

  • 図15

  • 図16

  • 図17

  • 図18

  • 図19

  • 図20

  • 図21

  • 図22

  • 図23

  • 図24

  • 図25

  • 図26

  • 図27

  • 図28

  • 図29

  • 図30

  • 図31

  • 図32

  • 図33

  • 図34

  • 図35

■5. デジタルX線システムの機能

本システムの種々の機能について、よく使う機能を簡単に紹介する。

・患者検索
患者No.で簡単に呼出すことはもちろん、患者一覧リストを名前順・登録順・最新画像撮影順に表示させて呼出すこともできる(図3637)。

・拡大機能
倍率拡大ボタンあるいはズームスライダを動かして、見たい部分の画像を決められた倍率で、あるいは任意の倍率に自由に拡大することができる(図3839)。

・濃淡・コントラスト調整機能
基本的には自動的に補正された画像が表示されるが、マウスでスライダ等を移動させることで明暗・コントラストが無断階にしかもリアルタイムに変更することができ、調整次第で軟組織等の状態も確認することもできる(図4041)。

・画像回転機能
回転ボタンをクリックすることで画像を右または左に90°あるいは180°回転できる。デンタル画像等で下顎・上顎・前歯等に応じて必要になる。
また、患者説明等のためパノラマの左右反転も可能である(図4243)。

・画像配置機能
口内法では歯式に合わせ10枚法や14枚法管理ができる。またパノラマ・セファロ等の種別管理や任意に画像を配置することもできる(図4445)。

・白黒反転機能
必要に応じて画像全体の白黒を反転することができる。患者理解を高められる場合がある(図4647)。

・エッジ強調機能
エッジ強調ボタンをクリックすれば画像の輪郭が強調され、境界のやや不明瞭な画像も輪郭がよりくっきりとシャープに見える(図4849)。

・長さ計測
任意の点を順に複数クリックし直線もしくは曲線を描画することでその線の長さを計測することができる。
校正機能も備えエンド治療やインプラント体埋入計画に有効である(図50)。

・線描記機能
長さ計測機能を利用し、画像上にフリーハンド感覚で線を描くことができる。患者説明にかかせない機能である(図51)。

・複数画像同時表示機能
同一画面上に複数の画像を同時表示する機能。これによって治療の過程を同時に見ることができる。たとえば、術前、術後を同一画面で見ることによってその変化を明確に比較できる(図5253)。

・画像印刷機能
デジタルシステムの場合、フィルムはないためそれに代わるものとしてプリンターによる画像の印刷が可能である。
他の医療機関への紹介時など通常はX線フィルムの貸し出し等が必要になるが、このシステムではプリンターによる印刷によってフィルムに劣らぬ画像を提供できる(図54)。

・インプラントテンプレート機能
一覧よりメーカー・タイプ・長さ等を選択すると画像上にインプラント体のテンプレートが表示される。
表示位置、角度が簡単に移動調整できるため術後シミュレーションができ、治療計画や患者説明に有効である(図55)。


  • 図36

  • 図37

  • 図38

  • 図39

  • 図40

  • 図41

  • 図42

  • 図43

  • 図44

  • 図45

  • 図46

  • 図47

  • 図48

  • 図49

  • 図50

  • 図51

  • 図52

  • 図53

  • 図54

  • 図55

■6. CCD方式とIP方式

X線撮影したものを画像にする上でCCDとIPの二つの方式がある。CCD方式は一般のデジカメと同様のしくみになっており、X線照射によってCCDセンサーがX線の量を感知し、直ちに電気的信号に変えてコンピュータに入力され、ディスプレイ上に画像を作る(図56)。
一方、IP方式はX線照射によって一旦感光板(イメージング・プレート)に像が感光される。そのプレートをスキャナーに読み込ませることによって電気信号に変換され(図57)、画像となってディスプレイ上に現れる。この両方式にはそれぞれに長所と短所があり、使用する側でどちらが有利かを考えて選択する。端的に言えば、CCD方式は撮影から画像化まで時間的に非常に速いのが長所であるが、デンタルの撮影ではセンサーが厚く、コードが付いたままなので従来のフィルム感覚での撮影がしづらいという短所がある(図58)。
一方、IP方式はデンタルの場合はプレートが従来のフィルムによく似ているので口腔内での設定もしやすく撮影しやすいのが長所であるが(図59)、スキャナーに読み込ませる必要があるのでやや時間がかかるという短所がある。それでもフィルムの現像に比べるとはるかに短時間で可能である。
パノラマの場合は、CCD方式はフィルムカセッテの代わりにCCDカセッテをセットする(図60)ことで撮影時は患者位置付けのみでX線照射が可能で、データも直接コンピュータに転送されるのでフィルムに比べ圧倒的な時間短縮を計ることができるが、パノラマ装置がそのものを交換しなければならない場合がある。
一方、IP方式は対応する読取機が必要なことと(図61)、あまり時間短縮は望めないが、断層撮影などの特殊な撮影でもデジタル化が可能である(図62)。


  • 図56

  • 図57

  • 図58

  • 図59

  • 図60

  • 図61

  • 図62

■7. X線以外の画像操作

このシステムでは、X線画像のほかに口腔内写真を取り込み、必要に応じてディスプレイ上に出して患者に説明することができる。
ペンスコープ(図63)をシステムに組み込むことにより、チェアーサイドで非常に簡単に直接患者の口腔内の状態をディスプレイ上でリアルタイムに見ながら必要に応じて画像を取り込むことができる。
したがって、患者はX線画像と口腔内写真画像と双方を見ることにより(図6465)口腔内の状態を把握しやすく、歯科医師や歯科衛生士による説明に対してもより理解しやすくなる(図66)。
デジタルカメラで撮影した写真もカードリーダー等を経由して簡単に取り込むことが可能であり、また、口腔内写真をスライドにして保存している場合でもスキャナー(図67)を使用することにより、そのデータをMOやCDにいったん取り込み、必要であればこのシステムに入力することにより、ペンスコープ同様カラー画像化ができる。
デンタルやパノラマだけでなくカラー画像も一元的に保存されるため、非常に簡単に管理することが可能である(図68)。


  • 図63

  • 図64

  • 図65

  • 図66

  • 図67

  • 図68

■むすび

主要なカメラ業界では、最近デジタルカメラの生産台数が従来型のフィルム用カメラの台数を上回ったと聞いている。それほど世の中ではデジタル化の波が急速に押し寄せてきているようであり、それに伴う周囲の変化もめまぐるしい。
歯科界も例外ではなく、徐々にではあるがデジタル化が進むことは間違いないであろう。
それは3年間院内LANシステムを使ってきた筆者が使い勝手の良さを実感し、さらに患者、スタッフともにこのシステムの価値を見いだしているからである。このシステムを使う楽しさを是非味わっていただきたいと思う。

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