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113号 WINTER 目次を見る

CLINICAL REPORT

オブチュラⅡによるスピーディ3D根管充填

石井 信之/寺中 敏夫

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目 次

はじめに

歯内療法の成功は根管内の無菌性獲得と緊密な三次元的封鎖によって導かれるが、これらを確実に実践することは容易ではない。しかしながら、歯内療法領域における最近の治療用器具の進歩は著しく、Ni-Ti ファイルによる根管拡大、超音波を応用した根管洗浄および種々の加熱根管充塡器具の開発は、迅速、確実な3D歯内療法実現の扉を開こうとしている。根管充塡は歯内療法の終末処置であるが、根管形成と根管洗浄の結果に左右される操作であり、根管の緊密な三次元的封鎖とチェアータイム短縮および治療予後成績の向上を兼ね備えた根管充塡法が理想とされる。本稿では、歯内療法の効率化と臨床成績の向上を実現したオブチュラⅡによる3D根管充塡について解説する。

  • オブチュラⅡの画像
    オブチュラⅡ
  • オブチュラⅡによる樋状根管と穿孔部の根管充塡の画像
    図1 オブチュラⅡによる樋状根管(左下7)と穿孔部(左下6)の根管充塡
    • a) 術前X線所見:左下6に分岐部病変と遠心根管近心壁に穿孔所見、左下6,7に根尖病変が認められる。
    • b) 根管充塡時X線所見:左下6の穿孔部に根管充塡、左下7の樋状根管に適切に根管充塡された。
    • c) 根管充塡6カ月経過X線所見:左下6の分岐部病変および左下6,7の根尖病変が消失した。

オブチュラⅡ

加熱ガッタパーチャ根管充塡の一方法であるオブチュラⅡは、複雑な根管系を緊密かつ迅速に塡塞できる優れた根管充塡法として1995年に日本で販売され、臨床で使用されている。特に、大臼歯樋状根( 図1 ) や内部吸収歯(図2)などに対しても十分に対応可能な根管充塡法として頻繁に使用されている。アメリカ歯内療法専門医では、System Bによるダウンパッキング(根尖部の根管充塡)とオブチュラⅡによるバックフィル(歯冠側方向への根管充塡)を推奨しているが、著者は、根管充塡操作簡素化のためにオブチュラⅡ 単独によるダウンパッキングとバックフィルの2回法による根管充塡を行っている。
オブチュラⅡシステムは、ガッタパーチャポイントをガンタイプの加熱器に装塡後、175~195℃に加熱融解し流動性を有したガッタパーチャをアプリケーターニードル(以後ニードル)先端から根管内に流し込み根管充塡する方法である。ニードル先端から流出するガッタパーチャは59℃以上に加熱2)されており、根管充塡することにより歯根表面温度は2.83℃上昇する3)ことが明らかにされているが、歯周組織に傷害を与える温度上昇ではない。根管充塡時のニードル先端位置は作業長から3~5mmの位置まで根管内に挿入する。ニードル先端の位置が5mm以内に到達できないと根管内にデッドスペースを生じアンダー根管充塡になる可能性が高い(図3)。融解されたガッタパーチャは冷却硬化により体積が収縮するため、根尖方向への加圧が体積収縮の償に重要である。根管充塡時には、根管充塡用シーラーの使用が必須であるが、加熱によりシーラーが変成するものは不適である。組織刺激性の少ない水酸化カルシウム系シーラーは、第一選択肢であるが、熱により硬化促進作用がありObtura Ⅱの根管充塡には不適である。著者は熱変性が無く、組織親和性を有するCanals Nを使用している。
根管充塡を行う際には、ニードル(3種類)とガッタパーチャ(2種類)を選択する(図4)。オブチュラⅡニードルは、20、23、25G(2004年発売開始)の3種類で、ニードル外径はおのおの0.88、0.66および0.51mmである。根管充塡時のニードル先端位置は作業長から3~5mmの位置まで根管内に挿入する必要があるため、根管形成には適切なテーパー付与が望ましい。また、根管長の長い歯および大きなフレアーが付与できない歯(上下顎犬歯、下顎前歯、上下顎大臼歯)には25Gニードルとガッタパーチャソフト(1999年発売開始)を選択する必要がある。ニードルの選択は、根管形成最終拡大号数が基本であるが、根管のフレアー形成量と根管長にも依存する。さらに、選択されたニードルにより温度設定を決定する必要がある(表1)。根管充塡を行う少なくとも15分前にメインスイッチをONにしてハンドピース内の加熱チャンバーを加熱し、根管充塡直前には、ガッタパーチャの流動性を確認するために試し出しを十分に行う必要がある。

  • 内部吸収歯に対するオブチュラⅡ根管充塡症例の画像
    図2 内部吸収歯に対するオブチュラⅡ根管充塡症例
    • a) 術前X線所見:左下3歯根歯冠側1/3に内部吸収所見が認められる。
    • b) リーマー試適X線所見。
    • c) 根管充塡直後X線所見:内部吸収部位にも緊密に充塡されている。
  • アンダー根管充塡をフレアー形成付与により再根管充塡を行った症例の画像
    図3 アンダー根管充塡をフレアー形成付与により再根管充塡を行った症例
    • a) 術前X線所見:近遠心的に狭窄した根尖形態を示す右上4。
    • b) リーマー試適X線所見:低位分岐2根管を示す。
    • c) 根管充塡直後X線所見:ニードル先端が作業長-5mmまで到達できずアンダー根管充塡。
    • d) 再根管充塡直後X線所見:フレアー形成付与により再根管充塡を行った。

根管形成と根尖到達度の相関関係

神奈川歯科大学付属病院に来院した患者93名208歯(325根管)の要根管治療症例に対してオブチュラⅡを用いて根管充塡を行った。対象症例は抜髄症例58歯、感染根管症例150歯の内訳で、すべての根管形成はRCプレップを併用したK-File、およびReamer-Tを用いたApical-Coronal standard preparationを行った。根管洗浄には超音波洗浄、H2O2およびNaClOの交互洗浄を併用し、根管内にCanals Nをシ-ラ-として使用後、オブチュラⅡを用いて根管充塡を行った。根管充塡後の根尖到達度はX線により、Under、Flush、Overに判定した。208歯325根管に対してObtura Ⅱを用いて根管充塡を行った結果、根尖到達度はUnder 10.8%、Flush 81.5%、Over 7.7%を示した(図51)。Over症例の65%は前歯、Under症例の63%は大臼歯を示し、さらに根尖部Apical Seatと根尖到達度の相関関係ではOver症例の70%は#60以上で、Under症例の65%が#50以下を示した1)

  • オブチュラⅡ根管充塡用ガッタパーチャポイントとアプリケーターニードル先端の画像
    図4 オブチュラⅡ根管充塡用ガッタパーチャポイントとアプリケーターニードル先端
  • 表1 アプリケーターニードルの選択基準
    アプリケーターニードルの選択基準の表
  • 根管形成拡大号数とオブチュラⅡ根管充塡の根尖到達度との関係の図
    図5 根管形成拡大号数とオブチュラⅡ根管充塡の根尖到達度との関係
  • 抜髄症例に対するオブチュラⅡ根管充塡12ケ月経過後の根尖歯周組織の変化の図
    図6 抜髄症例に対するオブチュラⅡ根管充塡12ケ月経過後の根尖歯周組織の変化
  • 感染根管症例に対するオブチュラⅡ根管充塡12ケ月経過後の根尖歯周組織の変化の図
    図7 感染根管症例に対するオブチュラⅡ根管充塡12ケ月経過後の根尖歯周組織の変化

根管充塡予後成績

オブチュラⅡは根尖孔から軟化ガッタ-パーチャを溢出しやすいことが危惧され過剰根管充塡の危険性が指摘されている。オブチュラⅡの根管充塡後の臨床成績をX線学的および臨床症状を記録することにより判定し、オブチュラⅡによる根管充塡を臨床的に評価した。根管充塡後の臨床成績は131症例236根管を抜髄症例39根管と感染根管症例197根管に分類して評価した結果、12ケ月後の臨床成績は抜髄症例ではUnderおよびFlush症例ともに100%予後良好を示し(図6)、感染根管症例ではUnder 92.6%、Flush 96.8%、Over92.9%が予後良好を示した(図71)。Obtura ⅡによるOver症例は全根管充塡症例の7.7%を示したが、12ケ月後の臨床成績では、Over症例の92.9%に病変の縮小および消失が認められ、予後良好であることが明らかになった(図891)
オブチュラⅡによる過剰根管充塡歯が予後良好に推移した理由は、根尖孔がガッタ-パーチャで完全に封鎖されていることに起因すると考えられる。すなわち、側方加圧根管充塡時における過剰根管充塡歯術後経過不良症例は、根尖歯周組織の持続的物理刺激に問題があると考えられていたが、著者らの研究結果から、根尖封鎖性の不良に原因があることを明確にした1)

グレートテーパーファイルとオブチュラⅡ

ニッケルチタンロータリーファイル(Ni-Tiファイル)は、彎曲根管の迅速拡大、使用ファイル本数の減少およびトルクコントロール機能を有するエンジンとの併用使用によりファイル破折の危険性を減少させたことにより急速に使用者が増加している。Ni-Tiファイルによる根管形成とオブチュラⅡによる根管充塡は迅速、簡単、確実な3D歯内療法を実践するために不可欠である。
EndoWaveは、根管長測定機能付き根管拡大装置デンタポートとの併用を行う上で最も適合したファイルとして、スイスFKG社と業務提携して2003年6月に日本で販売が開始されたリーマー型のNi-Ti Fileである。EndoWaveの基本ファイル(図10)は、アソートA(基本セット:08/35、06/30、06/25、06/20、02/15)とアソートB (狭窄根管:06/25、06/20、04/25、02/25、02/20)であるが、いずれも最終根管形成終了時に06テーパーが付与され(図11)、形成された根管内にNaClOによる効果的な根管洗浄が行えることが明らかにされている4)。EndoWaveによる根管形成後にオブチュラⅡによる根管充塡を行う際は、07以上のテーパー付与によって根管充塡操作がさらに良好になるため、最終根管形成にGT ロータリー08/30を使用することが推奨されている。著者は、07テーパーの根管形成が可能なNi-Tiファイルを使用してオブチュラⅡによる根管充塡後の根管充達度を検討した。対象症例は抜髄症例58歯、感染根管症例73歯で、すべての根管形成はNi-TiファイルによるCrown-Down preparationを行った。131歯261根管に対してNi-Tiファイルによる07テーパーの根管形成およびObtura Ⅱによる根管充塡を行った結果、根尖到達度はUnder 11.1%(10.8%; ハンドK Fileのみの拡大+Obtura Ⅱ)、Flush 83.9%(81.5%)、Over 5.0%(7.7%)を示した(図12)。本臨床成績から、グレートテーパーファイルによる根管形成はObtura Ⅱによる根管充塡に十分に対応可能であることが明らかにされた。

  • オーバー根管充塡症例の根尖歯周組織の変化の画像
    図8 オーバー根管充塡症例の根尖歯周組織の変化
    • a) 術前X線所見:慢性根尖性歯周炎と診断された右上2。
    • b) 根管充塡直後X線所見:根尖孔からガッタパーチャを溢出。
    • c) 根管充塡6ケ月経過X線所見:根尖部X線透過像の消失が確認された。
    • d) 術前X線所見:慢性根尖性歯周炎と診断された左下1。
    • e) 根管充塡直後X線所見:根尖孔からガッタパーチャを溢出。
    • f) 根管充塡6ケ月経過X線所見:根尖部X線透過像の縮小が確認された。
  • オーバー根管充塡症例の根尖歯周組織の変化の画像
    図9 オーバー根管充塡症例の根尖歯周組織の変化
    • a) 術前X線所見:慢性根尖性歯周炎と診断された右上1。
    • b) 根管充塡直後X線所見:根尖孔からガッタパーチャを溢出。
    • c) 根管充塡3ケ月経過X線所見:根尖部X線透過像に変化は認められない。
    • d) 根管充塡6ケ月経過X線所見:根尖部X線透過像の縮小が確認された。
    • e) 根管充塡12ケ月経過X線所見:根尖部X線透過像の消失が確認された。

おわりに

オブチュラⅡは、25Gニードルと流動性の高いガッタパーチャソフトの発売により適応症例が飛躍的に広がり、グレートテーパーNi-Tiファイルによるクラウンダウン根管形成症例にも十分に根管充塡が可能になった。さらに、過剰根管充塡歯においても根尖部封鎖性の良好により根尖歯周組織の炎症を治癒させることが可能な優れた根管充塡器具である。Ni-Tiファイルによる迅速な根管形成とオブチュラⅡによる迅速で緊密な3D根管充塡は歯内療法成功への最短コースを実現しつつある。

  • EndoWaveアソートAおよびアソートBの基本ファイルの画像
    図10 EndoWaveアソートAおよびアソートBの基本ファイル
  • EndoWave20/06で最終形成された6%テーパー根管形態とハンド#20および#40ファイル形成根管形態と比較図
    図11 EndoWave20/06で最終形成された6%テーパー根管形態とハンド#20および#40ファイル形成根管形態と比較
  • 07テーパー形成根管とハンドKファイル形成根管との根管充塡到達度の比較グラフ
    図12 07テーパー形成根管とハンドKファイル形成根管との根管充塡到達度を比較
参考文献
  • 1)Tani-Ishii N, Teranaka T. Clinical and radiographic evaluation of root-canal obturation with Obtura II. J Endodon 29,739-742, 2003.
  • 2)Goodman A, Schilder C, W Aldrich The thermomechanical properties of gutta-percha. A thermal profile of the warm gutta-percha packing procedure. Oral Surg 51, 544-551, 1981.
  • 3)Barkhordar RA, Goodis HE, Watanabe L, Koumdjian J. Evaluation of temperature rise on the outer surface of teeth during root canal obturation techniques. Quintessence international 21, 587, 1990.
  • 4)Lumley PJ, Cleaning efficacy of two apical preparation regimens following shaping with hand files of greater taper. Int. Endod. J. 33:262-65、2000.
  • 5)石井信之、寺中敏夫. ProTaper および Obtura IIによる根管充塡の臨床成績. 日本歯内療法学会雑誌第25回学術大会抄録集43、2004.

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