DENTAL MAGAZINE デンタルマガジン

CLINICAL REPORT
顔面の審美情報 -ゼロホビー咬合器への伝達-
保母 須弥也/細山 愃/宮本 容正

■目 次

■はじめに

咬合器はヒトの顔の下半分の機能を機械的に再現したもので、患者の石膏模型を固着することにより特定の個人の顎関節と歯列の位置関係を表示することができる。この操作のために開発されたのがフェイスボウで、顎関節に対する上顎の位置関係を記録し、同じ関係で咬合器の開閉軸に対して上顎模型を取り付ける、ノギス様の装置と定義されている1)
上顎模型を固着するときは、咬合器のコンダイルの中心から下顎フレームまでの距離の1/2を患者の上顎中切歯の切縁から上方へ求めた点と、中心位における左右の下顎頭の回転中心、の3つの基準点を用いる。前者を前方基準点、後者を後方基準点と呼ぶ。
左右の後方基準点を結ぶ軸は中心位における下顎の開閉軸となり、トランスバース・ホリゾンタル・アキシスと呼ばれる。これを咬合器の開閉軸と一致させることにより、咬合器は患者と全く同じ開閉運動を営むようになる。このことのためにフェイスボウは有効で、運動学的な価値をもっている。
前方基準点と左右の後方基準点を含む平面を水平基準面と呼び、フェイスボウを用いることにより、この面は咬合器の上顎フレームと平行に設定される。矢状顆路傾斜度はこの面を0°としてキャリブレートされている。また左右の後方基準点の中点を通り水平基準面と直行する面を矢状面と呼び、水平顆路角はこれを0°として割り出されている2)
これらの面は運動学的見地から設定されるもので、患者の顔面のあり方とはまったく関係がない。つまりフェイスボウにより再現されるのは運動学的な基準であって、審美的な基準ではないということである。そのため補綴物の正中を咬合器のセンターに合せたり、咬合平面が上顎フレームと平行になるように配慮しても、患者の顔面と調和しないのは当然である。このことがよく理解されていないため、補綴臨床に混乱をまねいてきた。歯科医療に於いて審美性が重視されるにつれ、この問題は深刻になっている。

■フェイスボウの開発コンセプト

フェイスボウは1899年にアメリカのSnowにより開発されたが、初期のものには前方基準点を記録するリファレンス・ポインターが取り付けられていなかった。そのためSnowのフェイスボウは上顎歯列と咬合器の開閉軸との半径を記録することしかできなかった。リファレンス・ポインターを考案したのはWadsworthで、1919年にワッヅワース咬合器の部品としてT-アッタチメントと呼ぶ器具を開発した。これをスノーのフェイスボウに組み合わせることにより、咬合器上における上顎模型の上下的な位置を定めることが可能となった。
その後、1921年にHanauがハノー・モデルH咬合器を開発したさいに、その付属品として今日のフェイスボウの原型を完成したとされている。しかし同年にMcCollumがターミナル・ヒンジアキシスの理論を紹介したときに、彼の用いたキネマチック・フェイスボウは今日のフェイスボウと比べてまったく遜色ないことから、当時既にフェイスボウの基本的な形状は、歯科界に認識されていたものと思われる。
試行錯誤法により中心位における下顎頭の開閉軸を始めて実測したのはMcCollumである。これによりフェイスボウの精度が飛躍的に高められたのは良く知られた事実である。患者の開閉運動軸と咬合器の開閉軸を一致させることにより、咬合器上で垂直顎間距離を変えることができるようになり、また下顎を僅かに開口させた状態でバイトを採得することが可能となった。これにより早期接触に妨げられない下顎頭位(中心位)を再現できるようになった。これらはオーラル・リハビリテーションを実施するうえで基本的なコンセプトとなった。
1973年になってCerenza3)が下顎頭の最後退位はセントリックとして相応しくないことを指摘し、中心位の定義が下顎頭の関節窩内における上前方位に修正された。試行錯誤法によりターミナル・ヒンジアキシスを求めるには、計測中に下顎頭を常に最後退位へ押さえつけて、接面回転を発生させる必要がある。上前方位では下顎頭は関節窩内の中間的な位置におかれ、接面回転は発生しない。そのため純粋な回転運動は営まれず、開閉軸も出現しない。こうして中心位の定義が最後退位から前上方位へ変わることにより、開閉軸の定義があいまいになり、後方基準点に対する考え方も変わってしまった。
今日では後方基準点は解剖的平均値を用いた目側法によって求められ、簡便なイヤーボウが広く用いられている。これはスタイラスの後端が直接外耳道に挿入される形式のもので、軸眼窩平面上外耳道上縁から前方13mmの位置を自動的に開閉軸と定めるようになっている。その精度は±5mm程度と認識されている。McCollumのターミナル・ヒンジアキシスが1mm以内の誤差をターゲットとして計測されたのと比較すると、かなり精度が劣ることは否めない。
この点を配慮してセントリックバイトの採得時にリーフゲージを用い最小限の開口量で咬合を採得するとか、また咬合器上で垂直顎間距離を変遷しないといった注意事項が一般化している。ツインステージ法の開発により全歯列の補綴を前歯部と臼歯部に分割して実行できるようになったので、咬合を構築するときに常に歯列内の一部の歯牙の噛み合わせを残すことができるようになり、これをリファレンスとして咬合を構築することが可能になった。そのためセントリックに於ける開閉軸の再現精度に従来のような高いレベルが要求されなくなってきてる。

  • [写真] フェイスボウは顎関節に対する上顎の位置関係を記録し、同じ関係で咬合器に上顎模型を取り付けるノギス様の装置である
    図1 フェイスボウは顎関節に対する上顎の位置関係を記録し、同じ関係で咬合器に上顎模型を取り付けるノギス様の装置である。
  • [写真] ゼロホビー咬合器にフェイスボウを取り付けた状態
    図2 ゼロホビー咬合器にフェイスボウを取り付けた状態。
  • [写真] フェイスボウのセンター(中央部)が咬合器のセンターとなる
    図3 フェイスボウのセンター(中央部)が咬合器のセンターとなる。
  • [写真] フェイスボウにより記録されるのは患者の顔の幅の二等分線で、これは正中と異なる
    図4 フェイスボウにより記録されるのは患者の顔の幅の二等分線で、これは正中と異なるものである。
  • [写真] ヒトの頭部は正中から左右不均等に発育するため、咬合器のセンターと正中が一致することはまれである
    図5 ヒトの頭部は正中から左右不均等に発育するため、咬合器のセンターと正中が一致することはまれである。また咬合器の上顎フレームと瞳孔線が平行になることもほとんどない。
  • [写真] フェイスボウは運動学的立場から開発されているため、別に審美情報を記録するメカニズムが必要になり、機構が複雑になる
    図6 フェイスボウは運動学的立場から開発されているため、別に審美情報を記録するメカニズムが必要になり、機構が複雑になる。

■フェイスボウの問題点

有歯顎、無歯顎をとわずフェイスボウ・トランスファーは間接法で補綴物を作製する上で必須の操作で、これにより上顎歯列と顎関節の三次元的位置を咬合器上へ再現することができる。しかし、これによって顔面の審美情報が伝達されるわけではないことは前述した。最大の問題はフェイスボウに正中や瞳孔線のような審美情報を伝える機能が備わっていないことである。これは水平面内でトランスバース・ホリゾンタル・アキシスに対し顔面の正中が直交しておらず、また前頭面においてトランスバース・ホリゾンタル・アキシスと瞳孔線が平行でないことに起因する。
フェイスボウを咬合器へトランスファーするときに、左右のサイドアームの後端にあるイヤープラグを、コンダイラーシャフトに固定するが、これにより患者のトランスバース・ホリゾンタル・アキシスが伝達され、咬合器の開閉軸と患者の開閉軸が一致するようになる。このときイヤープラグをコンダイラーシャフトに固定するために左右のサイドアームをフェイスボウの中央部から等距離移動させるが、これによりフェイスボウのセンター(中央部)は咬合器のセンターへトランスファーされる。これはフェイスボウ・トランスファーの基本動作であり、左右のサイドアームの中点が自動的に咬合器のセンターになる。
しかし実際のヒトでは左右の後方基準点の中点が必ずしも正中となるとは限らない。ヒトの頭部は正中から左右等距離均等に発育するわけではなく、むしろ左右が不均等に発育する場合が多い。そのため左右のサイドアームの中点が正中に一致することは稀である。このような理由により咬合器のセンターが患者の正中を再現するとは限らないのである。咬合器の正中に合わせて製作した前歯補綴物を、口腔内に装着したときに患者の正中とずれるのはこのためである。以上から明らかなように、咬合器のセンターは患者の顔の幅の二等分線に過ぎず、正中とは異なるため、審美的なリファレンスとならないことを知っておく必要がある。
またリファレンス・ポインターにより咬合器上に再現されるのは水平基準面であり、これは瞳孔線のような審美的基準とはまったく関係のないものである。水平基準面は前方基準点と左右の後方基準点を結ぶ平面で、矢状顆路傾斜度を割り出す上で運動学的な必要性により設定されるものである。そのため水平基準面と瞳孔線やスマイルラインが一致することはありえない。前歯補綴物の切縁を咬合器の上顎フレームと平行にしても、患者の顔面と調和しないのはそのためである。
以上明らかなように、咬合器のセンターや水平基準面(上顎フレーム)を審美的な基準として用いることはできない。フェイスボウは運動学的な必要性によって生まれたものであり、この点を誤解したために過去100年間にわたって歯科界は咬合器の使い方を誤った。咬合器上で如何に努力しても、患者の顔面に調和する補綴物を製作することはできない、ということを良く知っておく必要がある。

■フェイス・アナライザーの必要性

この点を改善するためにはフェイスボウの設計を根本から考え直さなければならない。フェイスボウは運動学的立場から作られたものであるため、これとは別に審美情報を記録するメカニズムを付け加える必要がある。そのようなフェイスボウは紹介されているが、機構が複雑になったり、使用目的が不明瞭になったりして、広く普及するに到っていない。フェイス・アナライザーはその点を考慮して2005年に保母と宮本により開発されたものである。
フェイスボウの形状を特徴づけているのはサイドアームの存在であろう。顔弓という和訳名からもそのことが伺える。サイドアームはトランスバース・ホリゾンタル・アキシスを記録再現するために用いられるが、中心位の下顎頭位が最後退位から前上方位に変わることにより、その計測に求められる精度も±5mm程度に後退したことは前述した。トランスバース・ホリゾンタル・アキシスの精度が減じるということは、上顎三角の頂点(切歯点)が前後にぶれるということに他ならない。
トランスバース・ホリゾンタル・アキシスと三角形の頂点までの距離(半径)には個人差がほとんど認められず、その平均値は93.4±3.7mmで、最大値は100.0mm、最小値は87.2mmであった。以上から半径の計測値は93mmに集中していると判断した。イヤープラグを使って求めるトランスバース・ホリゾンタル・アキシスの精度が±5mmの範囲にあるということは、三角の頂点も同じ量だけぶれることを意味するわけで、半径の個人差は誤差の範疇に入ることになる。
したがってサイドアームを使って、わざわざ精度の劣る後方基準点を記録しなくても、日本人の場合は咬合器の開閉軸から93mmの位置に上顎模型を固着すれば、同一の精度のホリゾンタル・トランスバース・アキシスを再現できることになる。白人ではこの距離は100mmとなる4)。以上からフェイスボウのサイドアームは不用と考えた。
フェイスボウのもう一つの目的は水平基準面を設定することである。これがないと顆路や切歯指導板の矢状傾斜度をキャリブレートすることはできない。また咬合平面を決定することも難しくなる。水平基準面は前方基準点と左右の後方基準点によって定まるので、フェイス・アナライザーではフォックス・プレートをこれら3つの基準点を結ぶ面(アキシス平面)と平行に設定するか、あるいはカンペル平面と平行に位置づけることで水平基準面を設定することにした。
左右の瞳孔を結ぶ線は瞳孔線と呼ばれており、この線は左右の上顎中切歯の切縁と犬歯の尖頭を結ぶ面や上顎切歯の歯頸線の最下点を結ぶ線と平行になることが多い。そのため審美的な参考値として広く知られているが、実際の臨床において瞳孔線を咬合器に再現する方法は開発されていない。瞳孔線は水平基準面と無関係に存在し、また正中に対して直角になるということもない。そのため瞳孔線はその他の参考値とは独立に記録する必要がある。
以上、フェイス・アナライザーはトランスバース・ホリゾンタル・アキシスや水平基準面のような運動学的な情報とともに、正中や瞳孔線のような審美的な情報を記録再現することを目的として開発された。

  • [写真] フェイス・アナライザー
    図7 フェイス・アナライザー。
  • [写真] バイトフォークの付け根にある縦線を患者の正中に合わせる
    図8 バイトフォークの付け根にある縦線を患者の正中に合わせる。
  • [写真] 顆頭中心と切歯点までの距離は平均93.4mmでほとんど個人差がない
    図9 顆頭中心と切歯点までの距離は平均93.4mmでほとんど個人差がない。そのためサイドアームを使って後方基準点を計測することに意味が見出せなくなった。
  • [写真] フェイス・アナライザーの固定用ジグを顆頭から93mmの位置に固定する
    図10 フェイス・アナライザーの固定用ジグを顆頭から93mmの位置に固定する。
  • [写真] 垂直ロッドにエキステンション・ロッドを取り付けた状態
    図11 垂直ロッドにエキステンション・ロッドを取り付けた状態。
  • [写真] 垂直ロッドとフォックス・プレートの位置関係を示す
    図12 垂直ロッドとフォックス・プレートの位置関係を示す。フォックス・プレートはアキシス平面に合わせる。
  • [写真] エキステンション・ロッドを使わずにフォックス・プレートを直接取り付けた状態
    図13 エキステンション・ロッドを使わずにフォックス・プレートを直接取り付けた状態。

■フェイス・アナライザーの臨床応用

フェイス・アナライザーは、上顎歯列の圧痕を記録するバイトフォーク、水平基準面を記録するフォックス・プレート、正中を記録する正中ポール(咬合器に石膏模型を固着した後、インサイザル・ポールとなる)、瞳孔線を記録するアイレベラー、そしてこれらを咬合器へトランスファーすると同時にトランスバース・ホリゾンタル・アキシスを再現する固定用ジグから構成されている。フェイス・アナライザーの使用法を次に記すことにしよう。
最初に患者の上顎右中切歯の切縁から上方43mmの位置をマジックペンでマークし前方基準点を設定する。続いてホビーロケーターの後端にあるイヤープラグを外耳道に挿入し、その上縁を前方基準点に合せ、マジックペンで皮膚上にラインをひく。
続いて上顎歯列の圧痕を印記するために、バイトフォークの上面にバイトタッブを貼り付ける。温水に浸けてモデリング・コンパウンドを軟化させたら、バイトフォークを上顎歯列に圧接する。このときバイトオフォークの付け根の部分を中切歯の切縁と接触させるようにする。
この箇所の金属面には正中を意味する縦線が刻まれているので、これと患者の顔面の正中が一致するように注意してバイトフォークを位置づける。この操作を誤ると審美情報は正しく伝達されなくなるので注意を要する。バイトフォークの柄は前頭面と直角に、また正中からずれないように真っ直ぐ前方に突き出るのが望ましい。
バイトフォークの下面にコットンロールなどを挟み、下顎を閉じてしっかりと噛ませ固定する。続いてフォックス・プレートを垂直ロッドの上にネジ止めし、その上に正中ポールを垂直に固定する。垂直ロッドの前方にある自在クランプを緩め、フォックス・プレートの上面がカンペル平面と平行になるようにする。付属のエキステンション・ロッドを付けた場合は、マジックペンで描いたラインと平行になるように調節する。これによりフォックスプレートは水平基準面と平行に設定される。同時に正中ポールが前方と上面から見たときに患者の正中と一致し、側面では水平基準面に対して直角になるように調節し、自在クランプを固定する。
最後にポールに付いているアイレベラーの高さを調節して左右の瞳孔線に合わせる。その後にアイレベラーの傾斜を変え瞳孔線と平行になるように固定する。以上で上顎中切歯の切縁の位置、水平基準面、正中、瞳孔線の各情報が記録されることになる。各パーツを調節する操作は自在クランプ一つで行われるので、一たび取り扱い操作を習得すれば、作業の全過程を極めて短時間で終了することができる。フォックス・プレートを調節するときに助手の手助けがあると便利である。
フェイス・アナライザーを撤去するときは、最初にアイレベラーの付いている正中ポールを外し、次いでフォックス・プレートを分離する。全ての情報は垂直ロッドとバイトフォークに記録されているので、この部分の取り扱いには注意を要する。患者から撤去したフェイス・アナライザーを咬合器に固定するために、固定用ジグが用意されている。咬合器のインサイザルテーブルを外し、固定用ジグを取り付け、フェイス・アナライザーの垂直ロッドを固定する。
固定用ジグの側面には90~100mmの目盛りが付いている。ほとんどの患者では93mmに固定するとよい。特別に患者の顔の奥行きが深かったり、長頭の場合は93~100mmの範囲で調節するとよい。また未成年者の場合はジグを90~93mmの範囲で合わせることを勧める。93mmの位置に固定した場合は、上顎中切歯の切縁と左右の下顎頭中心までの距離は105mmとなる。
フェイス・アナライザーではトランスバース・ホリゾンタル・アキシスは解剖的平均値により定められることになるが、その精度は通常のイヤープラグを用いた場合と大差ないことは前述した。後方基準点と上顎中切歯切縁までの距離を個々に計測してジグの目盛りを調節する方法も考えられるが、後方基準点を解剖的平均値を使って設定する限り、その精度には自ずから限界があり、計測の意味がないといえよう。
バイトフォークの下面をキャスト・サポートで支えてたわみを防止したら、モデリング・コンパウンドの圧痕に上顎模型を適合させる。フェイス・アナライザーを取り付けた状態で咬合器の上顎フレームを閉じることはできないので、インサイザル・ポールを引き上げ、ポールの中央に刻まれているマーカーと上顎フレームの上面が一致したところで固定する。この状態で咬合器を閉じ、インサイザル・ポールの先端がバイトフォークの固定金具と接したところで、咬合器の上下顎フレームは平行になるように設計されている。この状態で練和した石膏で上顎模型を固着する。
なお、フェイス・アナライザーは全機種のホビー咬合器に装着可能であるが、ホビーシリーズの咬合器は従来型のフェイスボウを用いて上顎模型をマウントする、という発想のもとに開発されており、機種によりインサイザル・テーブル取り付け部のスペックが異なるので、専用の固定用ジグが必要である。
セントリック・バイトを使って下顎模型を固着した後、咬合器のインサイザル・ポールをフェイス・アナライザーの正中ポールと交換する。ポールの上下を逆にして咬合器に固定しても、イレベラーは正しく患者の瞳孔線を再現するので心配する必要はない。アイレベラーは上顎切歯の切縁や犬歯の尖頭の高さを決定する時に参考となる。また前歯部のフラップ手術のときの歯頸線の設定の参考となる。使用しない時は前方へ向けておくか、上方へずらせておけば技工作業の邪魔にならない。
このようにして咬合器へ伝達された審美情報は犬歯誘導路を変遷する場合に効果を発揮する。犬歯誘導が欠如している症例でツインステージ法のコンデションⅡで誘導面を付与する場合、上顎を修復するか下顎を修復するか迷うことがある。このような場合には左右の中切歯の切縁と犬歯の尖頭がアイレベラーの表面と向かい合う状況で判定する。
このとき犬歯の尖頭がレベラーの表面よりも浮き上がっている場合は、上顎犬歯の欠如部を修復して誘導面を付与する必要がある。逆に犬歯の尖頭がレベラーに対し下がっている場合は、上顎犬歯は機能的に誘導の条件を満たしているので、下顎の犬歯の尖頭を修復することを考えなければならない。

  • [写真] ゼロホビー咬合器
    図14 ゼロホビー咬合器。
  • [写真] フェイス・アナライザーと咬合器との関係を示す
    図15 フェイス・アナライザーと咬合器との関係を示す。
  • [写真]  上顎フレームを組み合わせた状態
    図16 上顎フレームを組み合わせた状態。
  • [写真] インサイザル・ポールはバイトフォークの固定金具に接触させる
    図17 インサイザル・ポールはバイトフォークの固定金具に接触させる。
  • [写真] アイレベラーを逆さにして咬合器に取り付けたところ
    図18 アイレベラーを逆さにして咬合器に取り付けたところ。アイレベラーの面は患者の左右の瞳孔を結んだ線と一致する。
  • [写真] 上顎の作業模型とアイレベラーの関係を示す
    図19 上顎の作業模型とアイレベラーの関係を示す。
  • [写真] ワックス・コーンの植立
    図20 ワックス・コーンの植立。左右の中切歯を接触させ、以後遠心にゆくにしたがい僅かに離開させて咬合球面を再現する。
  • [写真] 完成したワックスアップ
    図21 完成したワックスアップ。
  • [写真] 瞳孔線と正中を参考にする
    図22 瞳孔線と正中を参考にすることにより、審美補綴の精度を高めることができる。
  • [写真] 患者の術前のポートレート
    図23 患者の術前のポートレート。
  • [写真] プレパレーションを終了した上顎前歯部
    図24 プレパレーションを終了した上顎前歯部。
  • [写真] ホビーロケーターを用い後方基準点と前方基準点を求め水平基準面を設定する
    図25 ホビーロケーターを用い後方基準点と前方基準点を求め水平基準面を設定する。
  • [写真] 顔面とフェイス・アナライザーの位置関係を示す
    図26 顔面とフェイス・アナライザーの位置関係を示す。
  • [写真] フォックス・プレートをカンペル平面と平行にし、アイレベラーを左右の瞳孔線に合わせる
    図27 フォックス・プレートをカンペル平面と平行にし、アイレベラーを左右の瞳孔線に合わせる。エキステンション・ロッドを使った場合はフォックス・プレートはアキシス平面に合わせる。
  • [写真] ゼロホビー咬合器にバイトフォークの着いた垂直ロッドを固定した状態
    図28 ゼロホビー咬合器にバイトフォークの着いた垂直ロッドを固定した状態。
  • [写真] 修復物とアイレベラーの位置を示す
    図29 修復物とアイレベラーの位置を示す。
  • [写真] 装着した前歯補綴物と顔面の関係
    図30 装着した前歯補綴物と顔面の関係。
  • [写真] 術後の状態
    図31 術後の状態。
  • [写真] ゼロホビー咬合器にインストールされたツインステージ機構を利用することにより標準的な犬歯誘導路が作られる
    図32 ゼロホビー咬合器にインストールされたツインステージ機構を利用することにより標準的な犬歯誘導路が作られる。
  • [写真] 下顎犬歯補綴の症例
    図33 下顎犬歯補綴の症例。
  • [写真] 臼歯部に標準値の臼歯離開を発現させた状態で犬歯誘導の欠如が認められた
    図34 臼歯部に標準値の臼歯離開を発現させた状態で犬歯誘導の欠如が認められた。これを改善するために上顎を修復するか、下顎を修復するかをアイレベラーで判定した。上顎犬歯はアイレベラーに対し正常な関係にあるが、下顎犬歯はそうでないことが分かった。
  • [写真] 犬歯誘導の欠如は下顎犬歯に原因することが分かったので、ラミネート・ベニアを接着し犬歯誘導を改善した
    図35 犬歯誘導の欠如は下顎犬歯に原因することが分かったので、ラミネート・ベニアを接着し犬歯誘導を改善した。

■まとめ

フェイス・アナライザーは新時代の補綴のニーズにこたえるために、運動学的な情報と審美的な情報を咬合器上に再現することを意図して開発されたものである。従来のフェイスボウの機能の外に、正中線と瞳孔線を記録再現する能力を備えている。水平基準面を記録するフォックス・プレートと瞳孔線を記録するアイレベラーがそれぞれ独立に備えられているため、トランスバース・ホリゾンタル・アキシス、水平基準平面、正中、瞳孔線のそれぞれの3次元的な位置関係を明確に設定することができる。
咬合機能を配慮した審美歯科治療やインプラント補綴を行ううえで、咬合器上に運動学的な情報と審美的な情報を再現することは不可欠の条件となっている。そのような意味でフェイス・アナライザーは新時代の補綴のニーズにかなっているといえよう。
フェイス・アナライザーはゼロホビー咬合器の基本設計の段階で誕生した発想である。そのため前歯部用と臼歯部用の2種類の顆路と切歯路を組み合わせる、CAD/CAM的なコンセプトにより開発されたゼロホビー咬合器との相性は極めて良好と考えている。

参考文献
  • 1) 保母須弥也編:新編咬合学事典; 1998クインテッセンス出版、東京
  • 2) 保母須弥也、羽賀道夫、高山寿男:咬合学; 1995クインテッセンス出版、東京.
  • 3) Celenza F V:The theory and clinicalmanagement of centric positions: Centricrelation and centric relation occlusion Int JPerio Rest Dent 19846:63̃86.
  • 4) Gurel G:The science and art of porcelainlaminate veneers 2003 QuintessencePublishing Co. Berlin.