DENTAL MAGAZINE デンタルマガジン

CLINICAL REPORT
金属アレルギー患者に対する私の歯科治療アプローチ -DMAメーター(歯科用金属溶出傾向測定装置)の有効活用-
森山 誠一

■目 次

■はじめに

アレルギーの分類には1963年にゲルとクームスが作用機構によってⅠ型からⅣ型に分類したものが幅広く用いられている(表1)。
現在、俗に過敏症やアレルギーと呼ばれているもののほとんどがⅠ型である。実際はこの4種類の反応が必ずしもお互いに独立しているわけではない。
また、症状が現れるスピードからⅠ~Ⅲ型を即時型アレルギー、Ⅳ型を遅延型アレルギーと呼んでいる。歯科材料が原因で発症する皮膚症状はこのⅣ型に分類される。
Ⅳ型アレルギーは漆、化粧品、金属製のアクセサリー、時計のベルトなどに触れた時に起きる「かぶれ」すなわち接触性皮膚炎である。口腔内で発症する金属アレルギーやツベルクリン反応もⅣ型アレルギーである。
歯科用金属によるアレルギーは1928年Fleish Shmanがアマルガムに含まれる水銀が原因の口内炎を報告して以来、広く知られるようになった。
わが国では、1960年に仲井がクロムとニッケルが原因の歯肉炎について報告した。その後、1972年に中山らにより水銀が原因となった扁平苔癬が報告された。
その他、歯科用金属が原因といわれているものには、湿疹、皮膚炎、舌炎、口唇炎、舌痛症などがある(表2)。
筆者は金属アレルギー患者の治療に際し、原因金属の特定にはパッチテストおよび図1に示す歯科用金属溶出傾向測定装置(DMAメーター/モリタ社製)を臨床応用し、その有効性を認めているので、今回紹介させていただく。

  • 表1 アレルギーの分類
    • Ⅰ型 アナフィラキシー型アレルギー
      (アレルギー性鼻炎、結膜炎、尋麻疹、アトピー性喘息など)
    • Ⅱ型 細胞障害型アレルギー
      (不適合輸血による障害、溶血性貧血、顆粒白血球減少症など)
    • Ⅲ型 免疫複合型アレルギー
      (血清病、糸球体腎炎など)
    • Ⅳ型 細胞性免疫型アレルギー
      (アレルギー性接触皮膚炎、ツベルクリン反応など)
  • 表2 歯科用金属アレルギーを疑う疾患の代表例
    • ●掌蹠膿疱症
      ●扁平苔癬
      ●湿疹
      ●皮膚炎
      ●舌炎
      ●口唇炎
      ●舌痛症
      ●歯肉炎
  • [写真] DMAメーター(歯科用金属溶出傾向測定装置/モリタ社製)
    図1 DMAメーター(歯科用金属溶出傾向測定装置/モリタ社製)

■金属アレルギーの治療法

歯科治療で使用されている金属は約20種類におよび、合金としてはインレー、クラウン、ブリッジ、デンチャー、バー、クラスプ等に、そして歯科用薬剤としてセメントや陶材の中にも使用されており、これらの合金や薬剤がまれにアレルゲンとなることがある。
金属アレルギーの臨床症状として口腔内では湿疹、扁平苔癬、舌痛症、粘膜ビラン等、遠隔部では掌蹠膿疱症がある。
表3に歯科用金属が原因と思われる症候群を、表4にはアレルギー症状を示す可能性のある金属と症状を示す。
アレルギー患者の治療の実際としては、まず問診から金属アレルギーの可能性を判断する。その後、インフォームドコンセントを行い、表5に示す順序で金属アレルギーの治療を進める。
パッチテストでは、どの金属に対してアレルギー反応を示すかを調べ、実際にその金属が口腔内の修復物に含まれているかを調べる必要がある。そのためには全ての金属修復物の一部を採取し、それぞれを蛍光X線分析装置を用いて元素分析する必要がある。
その結果、パッチテストで陽性を示す金属が口腔内で特定できたならば、その修復物を除去しレジン製のプロビジョナルレストレーションに変え、金属アレルギーの症状が改善するかを経過観察する。
経過良好であれば、その患者がアレルギー症状を示さない金属材料またはセラミックなどを用いて修復治療する必要がある。
しかし元素分析による診断は大学病院などとの連携が必要で、時間も要するといった問題もある。
口腔内のpHが食物によって変化することや、プラークや電解質溶液となる唾液が異種金属と接触することで、口腔内は金属がイオン化しやすい環境にある。
歯科用金属によるアレルギーはこの口腔内金属のイオン化に原因の発端があるともいわれており、それを特定できれば全ての口腔内金属の元素分析を行わずに原因金属を推定できることになる。
今回紹介する歯科用金属溶出傾向測定装置(DMAメーター/モリタ社製)は、いたって短時間にしかも簡便に溶出傾向の金属を特定でき、金属アレルギー患者の診断装置として非常に有効と考えられる。

  • 表3 歯科用金属が原因と思われる症候群
    • ●皮膚科等の専門医で長期間治療を継続しているが、難治の皮膚・粘膜疾患が継続している。
    • ●普段からアクセサリーや装身具等の金属製品にかぶれやすい。
    • ●金属を用いた歯科治療を行った後に皮膚・粘膜疾患が発症し、それが難治になっている。
  • 表4 アレルギー症状を示す可能性のある金属と症状
    • ●掌蹠膿疱症:金、パラジウム、ニッケル、水銀、プラチナ、亜鉛
    • ●皮膚炎湿疹:ニッケル、コバルト、クロム、水銀
    • ●紅   斑:ニッケル
    • ●汗症状湿疹:ニッケル、コバルト、クロム
  • 表5
    • 1 インフォームドコンセント
    • 2 パッチテスト
    • 3 口腔内金属の元素分析
    • 4 原因金属の除去(抗原除去療法)
    • 5 暫間修復処置
    • 6 経過観察
    • 7 原因金属以外の修復材料による修復治療
    • 8 メインテナンス

■臨床例

今回は歯科用金属が原因で掌蹠膿疱症を発症した患者の現病歴、そして歯科用金属溶出傾向測定装置の測定結果から原因金属を推定し、それを除去後に即時重合レジンを用いてプロビジョナルレストレーションを装着した。
さらに金属アレルギー症状(掌蹠膿疱症)の改善に有効といわれている漢方薬(小柴胡湯)を併用することで、初診時から早期の時点でアレルギーに対する治療を開始でき、経過良好な症例を経験したので報告する。

【症例】

患 者:昭和51年12月生 女性
主 訴:手足の湿疹と掻痒感
初 診:平成16年5月
現病歴:平成14年に、他歯科医院にて⑦6⑤Brを装着後、平成15年1月に右手掌に掻痒感と発赤、膿疱が発生し、また同年4月には左手にも同様の症状が発生した。5月に皮膚科にて掌蹠膿疱症と診断され、金属アレルギーが原因の可能性があるとの説明を受け、平成16年5月に当院を受診した。

【治療経過】

図2は初診時の下顎咬合面観を示す。視診において⑦6⑤Brはその色調から口腔内の他の金属と異なることが推測できる。
また図3に手掌足底に発症した掌蹠膿疱を示す。
掌蹠膿疱症の発症年齢は中年に多く、30歳から50歳にピークがあるが、本邦では男性に比べて、女性が1.5倍多いとの報告がある。掌蹠膿疱症の病因は扁桃、歯牙などの病巣感染による細菌アレルギー、歯科用金属による金属アレルギーまたはチオビン(ビタミンB群)欠乏症との報告例もある。
当該患者は検査の結果、頭頸部の病巣感染はなく、既往から金属アレルギーの可能性が高かった。
まず、口腔内の金属修復物に対してDMAメーターを用いて金属の溶出傾向を測定した(図4)。
その結果、平成14年に他歯科医院にて装着した⑦6⑤BrにおいてNi-CrがActive(活性)を示した。同様に、口腔内全ての金属に対して検査を行ったが、他はStable(安定)であった。
本来、治療はパッチテストおよびDMAメーターによる検査結果から原因金属を確定し、金属除去へと進むが、パッチテストが依頼可能な皮膚科は遠方のために、患者は皮膚科の受診が困難だった。
したがって今回の治療方針は、患者の了解のもとパッチテストは行わずに、DMAメーターにてActiveを示した金属を除去することとした。
⑦6⑤Brを除去後(図56)、プロビジョナルレストレーションを装着した。また、図7に示す漢方薬の小柴胡湯(1日・7.5gを1回2.5g×3回食間服用)も60日間処方し、経過観察した。
Br除去30日後には図8に示すように、新たな手足の膿庖の出現はなく発赤、掻痒感も著しく改善した。Brを除去した部位には患者の希望でエステニアC&Bにてメタルフリーブリッジを装着した(図9)。
現在は、掌蹠膿疱症の症状はほとんど消失し、経過良好である。

  • [写真] 初診時の下顎咬合面観
    図2 初診時の下顎咬合面観
  • [写真] 手掌足底に発症した掌蹠膿疱 左:手掌 右:足底
    図3 手掌足底に発症した掌蹠膿疱 左:手掌 右:足底
  • [写真] DMAメーターを用いて口腔内における金属の溶出傾向を測定
    図4 DMAメーターを用いて口腔内における金属の溶出傾向を測定した。その結果、⑦6⑤BrにおいてNi-CrがActive(活性)を示した。
  • [写真] 除去した⑦6⑤ Br
    図5 除去した⑦6⑤Br
  • [写真] Br除去後の口腔内
    図6 Br除去後の口腔内
  • [写真] 処方した漢方薬の小柴胡湯
    図7 処方した漢方薬の小柴胡湯(1日・7.5gを1回2.5g×3回食間服用)
  • [写真] 手足に新たな膿庖の出現はなく発赤、掻痒感も著しく改善した
    図8 手足に新たな膿庖の出現はなく発赤、掻痒感も著しく改善した。
  • [写真] Brを除去した部位にはエステニアC&Bにてメタルフリーブリッジを装着した
    図9 Brを除去した部位にはエステニアC&Bにてメタルフリーブリッジを装着した。

■まとめ

金属アレルギー患者に対する治療は、原因金属の除去療法が一般的に行われる。その手順はパッチテストを行い、金属アレルギーを示す金属を判定し、次に口腔内金属修復物の金属組成の分析を行い、原因金属修復物を確定してからそれの除去を行う。
しかし、この行程は複雑で何よりもある一定の期間を要するため、その間は金属アレルギーに対する治療を行うことはできない。
一方、金属によるアレルギーは金属のイオン化が原因であることを考慮すると、DMAメーターはその測定に適しており、これを活用すれば、患者への時間的、経済的な負担を軽減することも可能になるため、非常に有効な装置と考えられる。

参考文献
  • 1) 中村正明:歯科臨床とアレルギー. 日本歯科医学会誌, VOL.18, 1999
  • 2) 中山秀夫:アレルギーと歯の金属. 日本歯科医師会雑誌, VOL.40, 1987.
  • 3) 西村文夫:金を科学する. 日本歯科医師会雑誌, VOL.50, 1997.
  • 4) 井上 孝、秦 暢宏、斉藤純一、下野正基:インプラントと金属アレルギーの考察, 日本歯科評論, No689, 2000.
  • 5) 内山洋一、井上昌幸:歯科用金属材料とアレルギー疾患, ジーシー小冊, 1999.
  • 6) 小河原和世、科等美香子:漢方ライフ, ディアゴスティーニジャパン2004.