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116号 WINTER 目次を見る

CLINICAL REPORT

M.S.菌に着目した3DSを定期検査の患者さんに取り込んで

井田 亮/野邑 浩美

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■目 次

はじめに

私たちの診療所は滋賀県の東部にあり人口8万人弱の小さな街です。ここに開業して30年、当初より定期検査を導入しており、う蝕と歯周病の予防にはそれなりに力を注いできたつもりです。PMTCは1990年より始めて、唾液検査はデントカルト社のものを使い、1995年より実施していました。
しかし、一般医科においては血液検査などは数値によって表示されており、唾液検査も何か数字であらわされる方法はないかと思案していました。
2000年秋、某誌よりう蝕予防のIT革命、う蝕予防のための新しいシステム(花田信弘氏、安部井寿人氏)らの論文を参考にして、当時の国立感染研の花田・武内先生の指導を得て、2001年より唾液検査を数値で表示するBML社の検査を導入、M.S.菌に対する3DSを導入して現在に至っています。当院の定期検査の患者さんはほとんどすべてプラークコントロールノートや口腔内写真、また個人の歯の管理ノートがあり、それなりに歯科疾患の予防に対して今まである程度の知識は自分で持ち、私たちから見ても自分の健康は自分で守るという考えに向かっておられると思っています。その中で、一部の患者さんに3DSを導入して、その結果をまだ短い期間ですが追ってみましたので4人の例で報告します。

3DSの実際

・BMLによるリスク検査
まず当院での3DSの流れとしては、カリエスリスクが高いかどうかを調べるため、初めにリスク検査を行います。
2001年よりBML検査キットを使用していますが、それまで使用していたデントカルト社との大きな違いは菌数の値が数値で出るところです。
以前は結果を判定する際に歯科衛生士によって誤差が生じることもありましたが、BML検査は先ほども説明した通り、血液検査のように数値で結果が出るため、検査結果を説明するときにも患者さん本人も以前よりわかりやすいとのことです。
デンタルリンスなどの洗口液の使用を当日は控え、検査の2時間前よりブラッシング及び飲食は必ず控えるよう伝えてあります。
また、BML検査を速達で送ると、その結果はインターネットで送られてくるため、こちら側としても手軽にリスクを測定することができます。
リスクの判定としては、う蝕菌比率が0.2以上でM.S.菌が104~105(CFU/mL)以上の方を対象に「3DS」をすすめ、理解していただいた上で3DSを導入しています。

・プラークコントロール
3DSを行うためには、プラークコントロールがほぼ完璧にできていることが重要です。こちらでバイオフィルムを除去したとしても、家でのホームケアができていなければ、除菌は成功しません。
ですから、まずはプラークコントロールができていること、また、定期的にPMTCを受け、なおかつ甘味制限を行ってもカリエスができやすい等のリスクが高い患者さんに薬剤を使ったう蝕菌の除菌をすすめています。
実際、当院では1990年頃よりPMTCを導入していますが、ほとんどの患者さんが定期検診ごとに受けられており、3DSはその延長線上で行うものとして捉えられたため、3DSを導入することに対してはそんなに抵抗はありませんでした。

・ドラッグリテーナーの作製
3DSを行うにあたり、その中核となるマウスピース様の装置“ドラッグリテーナー”を作製します。一定の厚みの薬剤貯留スペースを有し、唾液による薬剤の作用濃度の低下を防ぐ目的があるため、印象採得の際に注意する点としては最後方の臼歯の遠心部より7mm後方までしっかり採ること、齦頬移行部まで確実に採ることが大切です。
保管方法としては、次回使用のために清潔に保つことが大切で、流水下にて薬剤を洗浄し、トレー専用のケースに乾燥した状態で保管します。注意事項として、トレーは熱に弱いため、お湯などで決して洗わないように伝えます。

・バイオフィルムの検出
う蝕の場合、バイオフィルムの主体は非水溶性グルカンで染色液に染まりにくいため見落としがちになります。
当院では、染色性の高いジェルタイプを使用しています。綿球での染色は、染色剤が唾液に希釈され必要な濃度が一定時間プラークに作用することが難しいため、染色されない部分が生じてしまいます。そこで、すべてのプラークを確実に検出する目的でドラッグリテーナーを用いたスーパー染色法(リテーナーの内面にジェルを注入し、それぞれ5分間はめる方法)を行うと良く染め出しされますが、染色剤でリテーナーが染まり、患者さんより苦情がでたため、当院では、簡易防湿を行ったうえで染色しています。トレーへの染色を目立たないように同色のシートでリテーナーを作成しても良いかと思います。

・バイオフィルムの物理的除去
さてバイオフィルムの物理的除去法には、ハンドクリーニング、PMTC、エアーアブリージョンなどがありますが、当院では患者さん自身に5分間ブラッシングを行ってもらったあとに、PMTCにてバイオフィルムを除去しています。
主に使用するものは、プロフィーカップ、プロフィーブラシは歯面に、ポイントブラシは咬合面の裂溝に、エバチップ、プロフィポイントは空隙に使用し、歯間ブラシ、デンタルフロスを使用してバイオフィルムを完璧に除去します。使用するペーストは、研磨剤の粒子の細かい物を使用しています。

・バイオフィルムの化学的除去
使用する薬剤は、0.2%クロルヘキシジンが入った「Plak Out」ゲルを使用します。味はスーッとした感じのもので苦味などはありません。
トレーの内面に入れて5分間作用させたのち、フッ化剤フロアーゲルを用いてPlak Out同様に行います。現在では0.05%塩酸クロルヘキシジンとフッ化ナトリウム含有のP・クリーンクリスタルジェルを用いることもあります。余剰な薬剤があれば、吸引するか、吐き出していただいています。
待ち時間の間は本や雑誌を読んでもらいリラックスして待ってもらいます。

・3DS期間中のホームケア
3DS期間中のホームケアとしては、3DS以前に使用していた歯ブラシからのミュータンス菌の再感染を防止するため、歯ブラシを新しくします。また、3DS直後は一時的にバイオフィルムフリーとなるため、できる限り砂糖の摂取は控えてもらいます。
ホームケアの流れとしては、通常のブラッシング後、ホームケア用ペースト(0.4%フッ化第1スズ含有)をリテーナー内面に入れ、3DSスタートより10日間、1日1回、5分間装着します。
夜に行うのが効果的ですが、患者さんそれぞれ生活スタイルがあるため、一番時間のとりやすい時間帯にしていただくよう伝えています。また、この間に当院で2回3DSを行います。
ホームケア用ペーストとして当院では、ジェルテクトやオレンジ味のP・クリーンクリスタルジェルを使用しています。
象牙質が露出している歯牙に対してホームケアを行うと、まれにリテーナーをはめている間のみジーンとしみるなどの疼痛を訴えられる患者さんがおられました。その際には象牙質のメカニズムを説明し、フッ化ナトリウム含有のペーストに変更するなどの対応をしています。

・リコール
10日間が終了したあと、4カ月後に再度リスク検査を行うまでの間は、菌の増殖を抑制するためには、フッ化第1スズ含有のジェルを継続使用することが大切であることを説明した上で、歯ブラシにホームケア用ペーストをつけて使用したり、リテーナーを使ってホームケアを行うなど、患者さん本人にまかせてリコールに入ります。
リコールで4カ月後にこられた患者さんには、再度BML検査を行い、リコール期間中のホームケアの仕方などを聞きとり、術前と術後の結果を比較して、再度3DSをするかどうかを検討して行っています。

  • 齦頬移行部まで印象採得する。
    図1 齦頬移行部まで印象採得する。
  • ドラッグリテーナーを用いて下顎をスーパー染色中。
    図2 ドラッグリテーナーを用いて下顎をスーパー染色中。
  • 染色、検出されたバイオフィルム。
    図3 染色、検出されたバイオフィルム。
    • 通法に従い、エバチップ、プロフィポイントで歯間部を清掃する。
      図4
    • 通法に従い、エバチップ、プロフィポイントで歯間部を清掃する。
      図5
    図4、5 通法に従い、エバチップ、プロフィポイントで歯間部を清掃する。
  • プロフィカップにて歯面を清掃する。
    図6 プロフィカップにて歯面を清掃する。
  • ポイントブラシにて咬合面の裂溝を清掃する。
    図7 ポイントブラシにて咬合面の裂溝を清掃する。
    • 歯間ブラシやデンタルフロスを用いて鼓形空隙、コンタクトポイント、隣接面のバイオフィルムを除去する。
      図8
    • 歯間ブラシやデンタルフロスを用いて鼓形空隙、コンタクトポイント、隣接面のバイオフィルムを除去する。
      図9
    図8、9 歯間ブラシやデンタルフロスを用いて鼓形空隙、コンタクトポイント、隣接面のバイオフィルムを除去する。
  • ガーゼひもを用いて最後臼歯遠心面を清掃する。
    図10 ガーゼひもを用いて最後臼歯遠心面を清掃する。
  • バイオフィルムを除去したところ。
    図11 バイオフィルムを除去したところ。
  • あらかじめドラッグリテーナーの内面に薬剤(PlakOut)を注入しておく。
    図12 あらかじめドラッグリテーナーの内面に薬剤(Plak Out)を注入しておく。
  • シリンジに入れておいた薬剤を咬合面やコンタクト部に注入する。
    図13 シリンジに入れておいた薬剤を咬合面やコンタクト部に注入する。
  • さらにデンタルフロス(歯間ブラシ)を用いてコンタクトポイント(鼓形空隙)に薬剤を送り込む。
    図14 さらにデンタルフロス(歯間ブラシ)を用いてコンタクトポイント(鼓形空隙)に薬剤を送り込む。
  • ドラッグリテーナーを装着したところ。
    図15 ドラッグリテーナーを装着したところ。
  • ドラッグリテーナー装着後、余剰な薬剤を吸引する。
    図16 ドラッグリテーナー装着後、余剰な薬剤を吸引する。
  • 薬剤にP・クリーンクリスタルジェルを使用することもある。
    図17 薬剤にP・クリーンクリスタルジェルを使用することもある。

症例1 Kさん(1958年生まれ、女性)
初診:1992年5月8日
主訴が治癒するまでプラークコントロールなども実施し、1992年12月より定期検査に入り、1994年の定期検査時からPMTCも実施。

飲食業を営まれており、営業時間も長いため不規則な生活をされていて、カリエスリスクも高く、1996年3月12日にはサリバテストをし、PMTCを定期的にされています。2001年11月12日にBML検査を実施したところ、う蝕菌比率は、5.0以上、M.S.菌29,400でした。結果を伝え、3DSを行うこととなり、12月4日、12月11日、12月18日と医院にて3回行い、リコールに入りました。4カ月後の2002年4月2日、再度BML検査を行ったところ、う蝕菌比率は、0.1未満、M.S.菌500以下となり、著しく下がりました。リコール中のホームケアについては、ジェルテクトを毎日2回ハブラシにつけて塗りこんで使用し、2週間に1回は3DSのホームケアを継続していただいたとのことで、ジェルテクトを使うのは、習慣になってしまったとおっしゃられました。その後もホームケアは継続され、半年ごとのPMTCで様子をみ、2003年5月12日、2004年2月20日とBML検査を行いましたが、う蝕菌比率は、0.1未満、0.1とリスクは抑えられたまま、現在に至っています。毎日、フッ化第1スズを使用されることによりスズが歯面に沈着し、着色しやすいため定期的なPMTCにてクリーニングし、2004年10月より毎日の塗り込みをP・クリーンクリスタルジェルに変更していただいています。





症例2 Tさん(1953年生まれ、男性)
初診:1985年6月10日
主訴の治療をし、プラークコントロールなどを実施して1985年に定期検査へ移行。

大阪まで毎日通勤されており、早朝に起床され、夜遅くに帰宅されます。そのため、冬などは、職場にてコーヒーを5~6杯(ノンシュガー)飲まれ、机のすみにおいてダラダラと飲むこともあるとのことでした。2001年7月21日にBML検査を行ったところ、う蝕菌比率は5.0以上、M.S.菌300,000以上とリスクも高く、3DSを実施することとなり、8月18日、8月25日、9月1日と3回3DSを行い、ホームケアは夜にされていました。リコール中でホームケアはリスクが高かったため、ブラッシングをしたあとにジェルテクトを歯ブラシにつけて1カ月間塗りこんでおられましたが、その後来院されるまでは、サボっておられたのことでした。4カ月後の2002年1月、結果は、表にある通り5.0以上から2.0へと変化し、再度3DSを1クール行うことになり、その後リコール中は毎日歯ブラシにつけてジェルテクトを使用され、来院されました。2002年8月までのう蝕菌比率は0.2へと変化し、その後フッ化ナトリウムのペーストを毎日使用され、2004年5月7日には0.1へとさらにう蝕菌比率が下がりました。そのまま継続して、フッ素入ペーストを毎日使用することとし、リコールに入っています。結果を説明するたびにう蝕菌比率もよくなり、患者さん本人も納得されながら今日に至っています。





症例3 Iさん(1924年生まれ、男性)
初診:1979年8月
1979年8月初診、治療終了後、1980年1月に定期検査へ移行。1996年1月よりPMTCを残存歯において実施。

農業を営まれており、現在81歳という高齢な方ですが、自分で車の運転もされ、血圧降下剤薬を服用されています。
歯周治療については定期的な検診によってほぼコントロールはできていたのですが、そのかわり76 67などに根面カリエスができ、今度はカリエスについてのコントロールも必要となり、2001年6月にサリバテストを実施しました。結果は唾液量についてはほどんど問題はなかったのですが、ミュータンス菌はリスクが3と一番高い結果が得られました。この方の口腔内は補綴物も多くまた、下顎は部分床義歯もいれられており、残存歯をできる限り現況のまま維持できることがこの患者さんには必要であると考え、高齢ではありますが、3DSを行うことになりました。
2001年6月29日、7月6日、7月18日と3DSと3回行い、家でのホームケア及びリコール中もこの方はジェルテクトを継続的に使用されていました。2001年11月30日のリコールにてミュータンスのみサリバテストを行いましたが、結果はリスク3で、再度、1クール3DSを行い、リコールと入りました。ホームケアとしては1日1回行われ、2002年1月にはBML検査を行い、う蝕菌比率0.1未満、M.S.菌数9,300とリスクが下がりました。2、3日に1回のペースでホームケアを行いましたが、2002年4月にはう蝕菌比率が0.9へと少し上昇し、1クール3DSを行いました。そこで1週間に1回ペーストでホームケアを行い、リコールへと入りましたが、この方は他の患者さんと比べ、ホームケアを真面目にされているにもかかわらず、う蝕菌比率が0.2%以下にならないため、花田先生に相談したところ、レジンはバイオフィルムが付着しやすいこと、部分床義歯へのアプローチはしているのか?ということなどいくつかの点が浮かび上がってきました。
当院では、義歯洗浄剤の使用については、過度な使用により味覚障害がでる可能性があるということで、洗浄剤についての使用はあまりすすめていませんでした。
花田先生より一度歯科用のもので洗浄剤を使用してもらったらどうかと言われ、ライオンのデントエラックを使用することにしました。使用する前とあとで結果を比較するため、使用する前にBML検査を行ったところ、う蝕菌比率0.4、L.B.菌300,000以上、M.S.菌8,100でした。毎日洗浄剤を使用してもらい約20日後検査を行うと、う蝕菌比率0.1、L.B.菌10,500、M.S.菌7,800という結果を得ることができました。このことより、やはり3DSを成功させるためには歯牙だけでなく、充塡物や補綴物などへのアプローチも必要であることがわかりました。
その後も義歯洗浄剤の継続的な使用をすすめ、2003年8月にはう蝕菌比率0.4となり、ホームケアを2週間に1回ペースだったのを1週間に1回ペースに変更し、根面のPMTCを行ったところ、約2カ月後の2003年9月末には、う蝕菌比率は0.1未満に下げることができました。その後も定期的なPMTCを行い、現在も76 67の根面カリエスの進行をとどめることができています。





症例4 Nさん(1955年生まれ、女性)
初診:2000年9月
主訴の 5と歯周病の治療をし、2001年4月PMTC実施後、定期検査へ移行。

定期検査時にBML検査を進めたところ、同意が得られたため2001年9月実施しました。結果はう蝕菌比率が5.0以上、M.S.菌243,000以上と高く、3DSを行うことになりました。
9月26日、10月2日、10月9日と3回行った後リコールに入り、再度BML検査を2001年1月に行ったところ、う蝕菌比率が5.0以上から0.7へ変化し、もう1クール3DSを行いました。リコール中のホームケアとしては1週間のみされていましたが、その後は、サボっていたとのことでした。
再度2002年8月のBML検査の結果は、う蝕菌比率が0.1未満へとなり、約1年を経て、ミュータンス菌の除菌が完了することができました。その後2003年8月の結果はう蝕菌比率0.4となり、再度3DSを1クール行い、2004年5月にはう蝕菌比率0.1未満で比率としては、上昇したり、下降したりと変化しています。
この方はホームケアを定期検診のまぎわについては真面目にされ、途中は何もしない、というくり返しですが、リコールには必ず来院されており、う蝕の発生もなく今日に至っています。





まとめ

今日、かかりつけ歯科医をめざして、定期検査の患者さんのう蝕コントロールを進める中で、その原因を生活習慣病の因子と感染症の因子に着目し、感染症の原因菌といわれるM.S.菌に対して3DSを実施しました。
その結果、いままでの概念のプラークコントロールや生活習慣の問題から一歩進めて、確実なPMTCと3DSが確かなう蝕予防を実現させる最も効果的な方法の一つであると確信するに至りました。


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