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CLINICAL REPORT

マウスガードを作ってみよう ―最新の知識と実践的な作り方―

竹内 正敏

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目 次

まえがき

近年スポーツ歯学の発展とともに、それを具現化する道具としてのマウスガードも大きな進歩を遂げました。しかしながら、その正しい知識となると一般の人達にはもちろんのこと、歯科スタッフの方々へもしっかり伝わっていないのが現状です。
また、その作り方についても技術的レベルが向上するに従い、一般臨床への普及という面からは遠ざかっていくように思えます。
そこで本稿では、カスタムメイドマウスガードについて、その最新の知見や情報をお知らせするとともに、作り方もより簡単で実践的な方法を紹介し、読者のお役に立ちたいと思います。

マウスガードの効用

マウスガードの効用としては、次の三つを挙げることができます。
(1)口腔外傷の防止作用
マウスガードの主効用と言うべきもので、次の機能により効果を発揮します。
まず一番目は、外力の衝撃分散吸収機能で、これはヘルメットと同様のシステムで働きます(図1)。
二番目は、鋭利な歯牙を無害化する機能です(図2)。これは刀の鞘の効果と考えてもらうと理解し易く、コンタクトプレイ時に自分の頬や舌などの咬傷を防ぐだけでなく、相手プレイヤーの頭や顔を傷つけるのを防げます。
三番目は、最近気付かれてきたことですが、受傷部位を保定する機能で、脱臼歯などをマウスガードで保持し、地面など口腔外に脱落するのを防ぎます(図3)。
(2)脳振盪の軽減作用
マウスガードが脳振盪を防止する作用については、次の二つのメカニズムがあるといわれています。
最も頻度が高いのが、横からの衝撃です。これにより、頭がムチ打ち状態になり脳振盪が発生する場合(図4)、マウスガードを噛むことにより首が固まりダメージを軽減する作用です。
次は、下の顎に衝撃が加わった場合、上下の顎の間に介在するマウスガードがそのショックを弱めて、脳のダメージを軽減する作用です。
(3)スポーツパフォーマンスへのプラス効果
まず挙げられるのが、マウスガードを装着したことによる安心感から、競技への集中力が向上する効果です(図5)。
次は、咬合機能が修復されることにより平衡感覚が改善することが挙げられます(図6)。
最後は、握力や背筋力が向上する効果が挙げられますが、これはマウスガードが噛みしめを容易にすることから等尺性筋力が発揮し易くなることによります(図7)。

薄いマウスガードの外傷防止効果は?

女子選手がマウスガードを使用する場合、厚いマウスガードでは上口唇が持ち上がり、審美面でよくないため薄いマウスガードを希望することが多くあります。
しかし、薄いマウスガードでは外傷防止機能が低下するのではないかという疑問が生じてきます。
そこで女子ラクロス選手を対象に、マウスガードの厚さの違いによる軽度口腔外傷の事故率を調査しました。
その結果を表1に示します。
この調査により、マウスガードの厚さが多少違っても事故率はあまり変わらないことが分かりました。これは、薄いマウスガードは性能は低下するが、装着違和感が少ないため装着時間が長くなる効果のためではないかと推測されました。
以上のことから、マウスガードの仕事量は次式のように表せそうです。
マウスガードの仕事量=マウスガードの性能×装着時間

  • 図1
    図1
  • 図2
    図2
  • 図3
    図3
  • 図4
    図4
  • 図5
    図5
  • 図6
    図6
  • 図7
    図7
  • 表1
    表1

フェイスガードで口腔外傷は防止できるか?

多くのスポーツ選手は、フェイスガードをしていると口のケガをしないと思っています。本当にそうでしょうか。実は、高性能フルフェイス型ヘルメットを使用しているにもかかわらず、モトクロス競技では口腔外傷がしばしば発生します(図8)。
受傷は図9のようなメカニズムによって起こります。これは空手の顔面防具(メンホー)などでも同じですので、よく憶えておいていただきたいと思います。

  • 図8
    図8
  • 図9
    図9

マウスガードが必要なスポーツ

競技の特性から相手を倒すことを目的とする格闘技系(図10)、相手との接触プレイがあるコンタクト系(図11)、相手と偶発的に接触する非コンタクト系(図12)の三つに分けることができます。
これらのスポーツのなかで装着義務化ルール(一部義務化も含む)のあるものをで囲んでおきます。

マウスガードは使い方が大切

良いマウスガードを作ることも大切ですが、作製後の指導・管理はそれと同じくらい重要です。
マウスガード作製後、まずしなければならないことは、選手の口腔内での咬合調整です。このとき、選手には競技中に使用するヘッドギア(ヘルメットやフェイスガード)を装着してもらい、プレイ中と同じ姿勢をとってもらい調整することが肝要です(図13)。
また、スポーツ現場では「マウスガードを噛みしめると力がでる」という神話(?)がしばしば聞かれます。そのため、プレイ中に不必要な噛みしめを行い、マウスガードの早期破損や競技能力の低下など、多くの弊害が出てきました。特に、“長くて強い噛みしめ”は身体を緊張硬化させ、血圧を上昇させます(図14)。
マウスガードを強く噛みしめることのマイナス作用はよく知っておかねばなりません。

マウスガードにドーピング的効果はない

スポーツ現場では、しばしばマウスガードとテンプレートが混同されることがあります。
テンプレートで注意したいのは、この装置が極端な噛み合わせの高さを持つことにより、生理的に異常な状態を作り出していることです。
このことからテンプレートは、スポーツにおけるドーピングエイド(不公正な装置)として認定される可能性があります。
これに対して、マウスガードはその厚さが生理的咬合高径(安静空隙)の範囲内にあります。そのため、マウスガードがスポーツパフォーマンスへ与える影響は、機能の回復や改善に属する性質のものです。
いわば、メガネやコンタクトレンズと同種のものであり、マウスガードはドーピング的効果を持つものではありません(図15)。

  • 図10
    図10
  • 図11
    図11
  • 図12
    図12
  • 図13
    図13
  • 図14
    図14
  • 図15
    図15

最新のテクニックを用いたマウスガードの実践的(簡単な)作り方

近年、カスタムメイドマウスガードの製法としては、加圧型熱成形器を用いたラミネートテクニック(シート積層法)が推奨されています。これは、吸引型熱成形器による従来の製法では、マウスガード前面部の厚さが薄くなる欠点があることによります。
しかしながら、この問題を新しい技法(模型移動圧接テクニック)を用いることによって克服できたので、ここに報告するとともに、併せて吸引成形器の性能を十分に発揮させる方法についても紹介したいと思います。

吸引熱成形の原理

吸引による熱成形は、図16に示しますように、模型中の空気が成形台下部から吸引され、シート内部の空間が陰圧になることにより圧接力が生み出されます。そのため石膏模型には空気が通るための通路(通気性)が必要となります。

模型の通気性に大切なのは

模型の通気性に大きな影響を与えるのは石膏混水比と模型の乾燥度です。
通気性は図17のように混水比が少なくなるとともに著しく低下します。石膏強度との兼ね合いから、できれば混水比0.30~0.35位の石膏が良いでしょう。
湿った模型は通気性がないため、必ず乾燥させてから使用します。

マウスガードのデザイン

標準的なデザインを図18に示します。
唇頬側辺縁は歯肉頬移行部から2mm以上歯頸部寄りに、小帯は大きく避けて外形線を設定します。後端は高校生以下では第一大臼歯遠心、成人では第二大臼歯中央とします。通常咬合面は、口腔内での咬合調整による軽度な印記にとどめます。
カラーは少なくとも2・3色、できれば5・6色欲しいところです。

マウスガード作製の手順

新技法(模型移動圧接テクニック)を用いた、吸引型熱成形器(EV-2)によるマウスガード作製の手順を次頁に示します。

おわりに

このようにして完成したマウスガードの写真を図1921に示します。
マウスガードを作ること自体はそう難しいものではありません。むしろ大変なのは、その後の調整・管理といえるかもしれません。これには、ある程度の経験が必要です。しかし、マウスガードは義歯とは異なり、どなたでも体験していただくことが可能です。一度ご自身のマウスガードを作られて、スポーツ歯科に挑戦していただきたいと思います。

  • 図16
    図16
  • 図17
    図17
  • 図18
    図18
  • 図19
    図19
  • 図20
    図20
  • 図21
    図21
参考文献・参考資料
  • 1) 前田芳信、安井利一、米畑有里編著:マウスガード製作マニュアル、クインテッセンス出版、東京、2001.
  • 2) 竹内正敏:マウスガードを使おう、砂書房、東京、2004.
  • 3) Baechle TR(石井直方総監修):ストレングストレーニング&コンディショニング、ブックハウスHD、東京、1999.

マウスガード作製の手順

  • 図22
    図22 印象採得
    アルジネート印象材による上顎印象を行います。最後臼歯まで印象します。
  • 図23
    図23 模型の作製
    石膏硬化後、模型のトリミングを行います。模型底面を平らにして、辺縁に鋭端を残さないようにします。表面の気泡は取り除き、穴は修復しておいてください。
  • 図24
    図24 シートの選択
    選手の希望色シート(ショイデンタル社:バイオプラストなど)を選択します。もしシート形状が円形であるならばクランプには上下に円形金枠を使用してください。
  • 図25
    図25 バキュームフォーマーEV2
  • 図26
    図26 成形台への模型のセット
    模型後端を手前に向け、切歯乳頭部がシート中央になるようにセットします。
  • 図27
    図27 シートの加熱
    タイマーを10分の所まで回した後、ヒーターをONにしてシートを加熱します。シートが15mm程垂れたところが成形のタイミングです。
  • 図28
    図28 模型上へのシートの降下
    スライディングレバーを操作し、模型上へシートを下ろします。このとき、模型が動かないよう丁寧に操作することが肝要です。
  • 図29
    図29 模型を前方へ移動
    テフロン製の調理用具などを用いて、シートの上から模型を前方にシートのたるみがなくなるまで10~15mm程前方へ移送します。
  • 図30
    図30 吸引成形
    吸引ポンプのスイッチをONにし、成形を行います。新技法を用いることにより、前面部厚さの保持率は75%(3mm)に向上します。
  • 図31
    図31 切り出し
    シートが完全に室温まで下がってから、金冠バサミなどを用いて切り出しを行います。カットは①、②、③のように行うと良いでしょう。
  • 図32
    図32 トリミング
    デザインした外形線に沿ってマウスガードのトリミングを行います。
  • 図33
    図33 研磨
    研磨はレジン用ビッグポイント(イエロー)を用い、軽い接触圧で少しずつ研磨していきます。仕上げはGPソルベントなどの溶剤を綿棒につけて表面を滑沢にします。

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